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コラム

「お役所仕事」をどう見るか:動機が左右する認識

コラム

どのような動機で、現在の仕事を選んだか。この問いへの答えは、人によって様々でしょう。安定した環境を求めること、社会に貢献したいという願い、専門性を活かしたいという思いなど、働く動機は多岐にわたります。

特に公の組織で働く人々の動機を探る上で、「公共のために貢献したい」「社会をより良くしたい」といった思いに光を当てる考え方があります。これは「公共サービスモチベーション(Public Service Motivation;PSM)」と呼ばれ、研究の対象となってきました。金銭的な報酬や地位といった外的な見返りのためではなく、仕事そのものに意義を見出し、社会に奉仕すること自体に喜びを感じることを指します。

このような動機は、個人の心の中だけに留まるものなのでしょうか。あるいは、組織の中で何らかの形で現れ、日々の業務や組織のあり方と関わっているのでしょうか。

本コラムでは、公共サービスモチベーションが組織の中でどのように発現し、どのような事柄と結びついているのかを、いくつかの実証的な研究を手がかりに探求します。この動機が、組織への愛着や仕事の効率、市民との関わり方にどう関連しているのか。一つひとつの研究結果を読み解くことで、この動機が持つ力を浮かび上がらせていきたいと思います。

PSMを持つ公務員は、民間より内在的報酬を重視する

人が仕事に求めるものは一人ひとり異なります。高い給与を望む人もいれば、昇進して責任ある立場に就きたいと考える人もいるでしょう。これらは外から与えられる報酬です。その一方で、仕事そのものから得られる達成感や、自分の仕事が誰かの役に立っているという実感、要するに内側から生まれる報酬を大切にする人もいます。

公務員と民間企業で働く人々とでは、こうした仕事に求める価値観に違いはあるのでしょうか。この疑問を、データを用いて検証した分析があります[1]。この分析では、アメリカの国民を対象に長年続けられている社会調査のデータが用いられました。調査に参加した人々は、仕事において「高収入」「短い労働時間」「雇用の安定」「昇進の機会」「重要で達成感のある仕事」といった項目について、どれをどのくらい重んじているかを回答します。

このデータを分析し、公務員と民間従業員の回答を比較しました。ただし、単純に比較するだけでは、年齢や学歴といった個人の背景にある違いが結果を歪める可能性があります。そこで、そうした要因の影響を取り除き、純粋な所属組織の違いを見ました。

その結果、いくつかの特徴が浮かび上がってきました。公務員は民間企業の従業員に比べて、「高収入」や「短い労働時間」をあまり求めない姿が見られました。これは、公務員は金銭的な報酬へのこだわりが比較的少ないという、一般的なイメージと合致するものでした。

その一方で、少し異なる側面も見えてきました。公務員は、民間従業員よりも「雇用の安定」を求める度合いが強かったのです。これもまた、公務員という職業の安定したイメージを裏付ける結果と言えるでしょう。

この分析で肝心な点は、「重要で達成感のある仕事」という、内側から生まれる報酬に対する評価です。統計的な調整を行った後でも、公務員は民間従業員よりも、この項目を高く評価していることがわかりました。このことは、公務員が外的な報酬以上に、仕事そのものの意義や、そこから得られるやりがいといった内的な満足感を求める人が多いことを示しています。

もちろん、この結果をもって、すべての公務員がそうだと言うことはできません。しかし、全体的な姿として、公の組織に身を置く人々は、民間組織の人々とは少し異なる価値観の物差しを持っているのかもしれないということがうかがえます。

PSMを持つ公務員は奉仕を重視し、組織コミットメントも高い

先ほどは、公務員が仕事の内側にある報酬、とりわけ「やりがい」や「達成感」を求める姿が浮かび上がりました。その内なる動機は、より具体的にどのような価値観として現れるのでしょうか。その価値観は、自らが所属する組織への思いと、どのように結びついているのでしょうか。ここでは、公務員の持つ「奉仕」への思いと、組織への愛着や貢献意欲を意味する「組織コミットメント」との関係性を探った、複数のデータに基づく分析を見ていきます[2]

この分析は、三つの異なる大規模なデータセットを用い、多角的に問いを検証している点に特徴があります。第一に、アメリカの国民意識調査の、20年以上にわたる長期的なデータです。これを用いることで、公務員と民間従業員の価値観の違いが、一過性のものではなく、時代を超えて安定して存在するのかどうかを確かめることができます。

第二に、電気・電子系の技術者という、同じ専門職に絞った調査データです。職種という条件を揃えることで、見えてくる違いが、純粋に公的部門と民間部門という所属の違いに起因するものなのかを、より厳密に確認しようとしました。

第三に、数万人規模のアメリカ連邦政府の職員を対象とした意識調査のデータです。このデータを用いて、職員の「サービス志向」、すなわち奉仕への思いが、組織コミットメントと実際に関連しているのかを統計的に分析しました。

分析から得られた結果は、一貫していました。長期的な国民意識調査のデータからは、公務員が民間従業員に比べて、「社会に役立つこと」や「他者を助けること」といった奉仕的な価値を高く評価する姿が、20年以上の長きにわたって変わらずに観察されました。この価値観の違いは、社会の変化の中でも揺るがない特徴であるようです。

同じ技術者という職種で比較しても、やはり公務員として働く人々のほうが、奉仕に関連する項目を高く評価していました。仕事内容が同じであっても、公の組織に身を置くことで奉仕的な価値観が育まれるのか、あるいはもともとそうした価値観を持つ人が公の組織を選ぶのか、いずれにせよ所属組織による違いは見られました。

連邦政府職員のデータを分析したところ、奉仕への思い、すなわちサービス志向が強い職員ほど、組織へのコミットメントが高いという、はっきりとした関係が見いだされました。この分析では、勤続年数や役職といった他の要因も考慮に入れられていましたが、それでもなお、サービス志向と組織コミットメントの結びつきは揺るぎませんでした。

これらの結果から見えてくるのは、公務員が抱く奉仕への思いは、個人の心持ちに留まるものではないということです。それは、長期間にわたって確認できる、公務員という集団の安定した特性であり、なおかつ、自らが所属する組織への愛着や働きがい、貢献したいという意欲の源泉となっている可能性があります。

PSMの公共利益への献身は組織効率性と正に関連する

奉仕への思いが組織への愛着や貢献意欲につながっても、それが必ずしも仕事の効率性に結びつくとは限りません。むしろ、理念や理想ばかりが先走り、日々の業務の遂行が滞ってしまうという懸念も考えられます。「公共の利益に尽くしたい」という動機は、組織の「効率性」という、より実務的な側面と、どのように関わっているのでしょうか。

この問いを探るために、スイス連邦政府の職員、1万人以上を対象に行われた意識調査の分析があります[3]。この調査の目的は、職員の公共サービスモチベーションや職務に対する満足度、上司のリーダーシップのあり方といった要因が、組織のパフォーマンス、特に「内部効率」にどう結びつくのかを明らかにすることでした。

調査では、職員の公共サービスモチベーションが測定されました。ここでは、それを「公共の利益へのコミットメント」と「政策そのものへの関心」という二つの側面から捉えています。あわせて、職務満足度や組織への愛着、上司の行動、組織の目標が個人の業務レベルまでどれだけ明確に共有されているかといった点も尋ねられました。

一方で、成果の指標となる「内部効率」は、職員自身が自分の組織について、コスト削減や業務プロセスの簡素化、意思決定の迅速さがどの程度実現できていると感じるか、という主観的な評価によって測定されました。

多くの要因を同時に分析した結果、組織の内部効率と最も強く結びついていたのは、「目標志向性」、すなわち組織全体の目標から個人の目標までが一貫して設定され、管理・共有されている度合いであることが分かりました。これは、組織の仕組みとして、目標が明確であることが、効率的な業務運営の基盤となることを示しています。

それでは、個人の動機である公共サービスモチベーションはどうだったのでしょうか。分析の結果、二つの側面のうち、「公共の利益へのコミットメント」は、組織の内部効率と正の関連があることがわかりました。公共の利益に尽くしたいという規範的な思いが強い職員ほど、自分の組織は効率的に運営されていると認識していたのです。それに対して、「政策そのものへの関心」は、効率性とはほとんど関連が見られませんでした。

このことから、公共のために貢献したいという強い使命感は、非効率な業務を許容せず、組織の運営をより良くしようという意識につながる可能性があると解釈できます。抽象的に政策に関心があるというだけでは、日々の業務の効率化には結びつきにくいのかもしれません。社会全体への貢献という価値への献身が、手続きの改善や迅速な意思決定を求める姿勢と親和性を持つことがうかがえます。

PSMの思いやりは誠実な感情労働を促し、偽る演技を減らす

これまでは組織内部の動機を見てきましたが、公務員の仕事の多くは、市民と直接顔を合わせ、対話する対人サービスです。たとえ組織が効率的に運営されていても、市民一人ひとりへの対応が冷たく、機械的であっては、公共サービスの本来の目的は果たせません。そこでここでは、公共サービスモチベーションが、市民と接する際の「感情の表現」にどう関わっているのかを深掘りしていきます。

仕事において、組織から期待される感情を表現するために、自らの感情を管理することを「感情労働」と呼びます。この感情労働には、大きく分けて二つの種類があります。一つは「表層的演技」で、心の中では違うことを感じていても、表情や態度といった表面的な部分だけを取り繕うことです。もう一つは「深層的演技」で、相手の立場を理解しようと努めるなどして、自分自身の内面的な感情そのものを変え、心から求められる感情を感じて振る舞うことです。

ある研究は、公共サービスモチベーションが、この二種類の感情労働のどちらにつながりやすいのかを検証しました[4]。この研究では、アメリカのフロリダ州で公共管理者向けの研修に参加していた、市民と直接接する業務に従事する州・地方政府の職員が調査対象となりました。

調査では、公共サービスモチベーションを、より細かく三つの次元に分けて測定しました。一つ目は、公共政策の形成プロセスに関わることへの関心を示す「政策決定への魅力」。二つ目は、社会全体の利益に貢献することを自らの義務と捉える「公共の利益へのコミットメント」。三つ目は、他者、特に困難な状況にある人々への共感や配慮を意味する「思いやり」です。これらの動機の次元が、普段の業務で「表層的演技」と「深層的演技」をどの程度行っているかと、どのように関連するのかが分析されました。

分析の結果、公共サービスモチベーションの次元によって、感情労働への関わり方が異なることがわかりました。最もはっきりとした関係が見られたのは、「思いやり」の次元です。「思いやり」の動機が強い職員ほど、心からの感情で接しようとする「深層的演技」を多く行い、うわべだけの感情を装う「表層的演技」をしないということが確認されたのです。

対照的に、「政策決定への魅力」が強い職員は、「表層的演技」を行うことが比較的多いという結果でした。これは、政策プロセスで自らの目的を達成するための戦略として、内心とは異なる感情を表現することがある、という可能性を示唆しています。そして、「公共の利益へのコミットメント」は、どちらの感情労働とも明確な関連は見られませんでした。

この研究は、公共サービスモチベーションの中身が一つではないことを明らかにしました。とりわけ、他者への共感や配慮を源泉とする「思いやり」という情動的な動機は、市民に対して誠実な感情で向き合い、質の高いサービスを提供しようとする姿勢の根幹にあるようです。社会全体といった大きな対象への献身だけでは、目の前にいる個人への真摯な対応に、必ずしも直結するとは限らないのかもしれません。

PSMが高い管理職ほど、お役所仕事が少ないと認識する

市民への誠実な対応には、「思いやり」の心が欠かせませんが、そうした職員の善意や努力を阻む壁として、しばしば「お役所仕事」という言葉が使われます。煩雑な手続き、融通の利かないルール、過剰な書類仕事。こうしたものは、職員のやる気を削ぎ、本来の目的から目を逸らさせてしまうのではないかと懸念されます。ここでは、公共サービスモチベーションと、この「お役所仕事」に対する認識との間に、どのような関係があるのかを探っていきます。

この関係性を探るために、アメリカの州政府で保健・福祉サービスに携わる管理職を対象とした、全国規模のアンケート調査のデータが分析されました[5]。調査では、管理職たちの公共サービスモチベーションのレベルが測定されました。ここでは、動機を「公共政策決定への魅力」「市民的義務」「思いやり」という三つの側面から捉えています。同時に、自分たちが働く組織に「お役所仕事」がどのくらいあると感じるか、その認識の度合いも尋ねられました。

分析の結果、一貫した関係が見いだされました。それは、公共サービスモチベーションが高い管理職ほど、組織内のお役所仕事が少ないと認識しているというものです。この関係は、組織の規模や構造といった他の要因を考慮に入れても、変わることはありませんでした。

公共サービスモチベーションの三つの次元のうち、どれがこの認識と特に関連が深いのかを調べたところ、「公共政策決定への魅力」が最も強く、安定した結びつきを持っていました。公共政策の形成プロセスに関心が高い管理職ほど、組織のルールや手続きを「お役所仕事」とは感じにくいということです。一方で、「思いやり」の次元は、お役所仕事の認識とはほとんど関連がありませんでした。

この結果は、「お役所仕事」というものが、単にルールや手続きの量が客観的に決まるのではなく、それを受け取る側の主観的な解釈や「準拠の枠組み」に左右されるという解釈ができます。公共サービスモチベーションが高い管理職、特に政策形成への関心が高い人々は、組織のルールを、単なる邪魔な障害物としてではなく、公平性や説明責任を担保し、多様な利害を調整するために必要な手続きの一部として、より肯定的に捉えている可能性があります。

政策が作られるまでの複雑なプロセスを理解しているからこそ、その結果として生まれる手続きの煩雑さにも、一定の理解を示せるのかもしれません。このことは、公共サービスモチベーションが、組織の困難な側面に直面した際に、それを乗り越えるための内的な強さや、物事を前向きに解釈する視点につながる可能性を示しています。

脚注

[1] Houston, D. J. (2000). Public service motivation: A multivariate test. Journal of Public Administration Research and Theory, 10(4), 713-727.

[2] Crewson, P. E. (1997). Public-service motivation: Building empirical evidence of incidence and effect. Journal of Public Administration Research and Theory, 7(4), 499-518.

[3] Ritz, A. (2009). Public service motivation and organizational performance in Swiss Federal Government. International Review of Administrative Sciences, 75(1), 53-78.

[4] Hsieh, C.-W., Yang, K., & Fu, K.-J. (2012). Motivational bases and emotional labor: Assessing the impact of public service motivation. Public Administration Review, 72(2), 241-251.

[5] Scott, P. G., and Pandey, S. K. (2005). Red tape and public service motivation: Findings from a national survey of managers in state health and human services agencies. Review of Public Personnel Administration, 25(2), 155-180.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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