2026年1月27日
時間と共に試される信頼:一過性でなく積み重ねる力
仕事の多くの部分はチームで行われます。メンバーは優秀で目標も明確なのに、なぜか物事が円滑に進まない。率直な意見交換がためらわれるぎこちない空気。その根底には、目に見えない「信頼」という要素が横たわっています。普段、信頼を感覚的なもの、あるいは道徳的な美徳として捉えることもあるかもしれません。しかし、近年の探求は、信頼がチームの成果を左右する機能的なメカニズムであることを解き明かしつつあります。それは、「仲の良さ」とは一線を画す、協働のための基盤です。
信頼は、どのようにして生まれ、育ち、具体的な成果へと結びついていくのでしょうか。それは、結成後わずか数週間で運命が決まる時間との競争なのか。それとも、対立や協力を繰り返しながら変動するものなのか。本コラムでは、チーム内の信頼が成果を生み出す過程を探求します。信頼が育つ「速度」、その「変動」、創造性との「つながり」、リーダーとの「関係性」。これらの断片を見ていくことで、チームワークの本質に迫ります。
チーム成果は初期の信頼を育む速度で決まる
チームのパフォーマンスは、メンバー間の信頼に左右されます。その信頼はいつ、どのように形成され、成果に結びつくのでしょうか。特に、顔を合わせる機会が限られる現代の働き方において、この問いは切実です。この疑問に答えるため、ある調査が行われました[1]。経営学を学ぶ大学院生たちを対象に、完全にオンライン上で完結するビジネスシミュレーションを実施したのです。
この調査では、平均年齢28歳、実務経験5年ほどの参加者146名が、ランダムに4人1組のチーム(最終分析対象は38チーム)を組まされ、8週間にわたり仮想のハイテク企業を経営しました。各メンバーには専門職が割り当てられ、毎週多数の意思決定を下します。コミュニケーションは、主にテキストベースのツールに限られていました。システムの設計上、メンバーは互いの専門的な働きに頼らざるを得ない、相互依存性の高い状況が意図的に作られていました。
調査では、信頼を二つの側面から測定しました。一つは「認知的信頼」で、相手の能力や責任感に対する合理的な評価に基づく信頼です。もう一つは「情緒的信頼」で、相手への配慮や思いやりといった感情的なつながりから生まれる信頼を指します。これらの信頼が、プロジェクトの初期(2週目)、中間(5週目)、終盤(8週目)でどう変化するかを追跡しました。チームの業績は、利益や株価など6つの指標を統合したスコアで客観的に評価されました。
分析から見えてきたのは、全期間を通じて、認知的信頼が情緒的信頼を一貫して上回っていたという事実です。これは、顔の見えないタスク中心の環境では、相手が専門家として信頼できるかどうかが、感情的なつながりより先行して問われることを物語っています。
そして、ここからが本題です。チームの最終的な業績を上位・下位グループに分けて比較したところ、示唆に富むパターンが浮かび上がりました。プロジェクト開始時点(2週目)では、両グループの信頼レベルに統計的な差は見られませんでした。スタートラインはほぼ同じだったのです。
違いが顕著になったのは、プロジェクトの中間時点(5週目)でした。業績上位のチームでは、初期から中間にかけて、認知的信頼と情緒的信頼の両方が上昇していました。一方、業績下位のチームでは、この期間に信頼が育つ様子が見られませんでした。成果を分けたのは、元々の信頼の高さではなく、プロジェクト開始後の数週間でいかに信頼関係を築けたか、その「立ち上げの速さ」にあったと言えます。
この結果から考察できるのは、高業績チームがプロジェクト序盤で、信頼を育む肯定的な循環を生み出すことに成功したということです。期限遵守や有益な情報共有といった行動が認知的信頼を高め、前向きなフィードバックが情緒的信頼を育みます。この二つの信頼が早期に高まることで協力体制が強固になり、高い成果へとつながったと考えられます。逆に、低業績チームでは、この初期の段階で信頼の成長サイクルに乗れなかったのかもしれません。
チームの信頼は一直線に育たず、循環し変動
チームの信頼は、一度築けば安泰というわけではありません。初期の立ち上がりが肝心ですが、その後の道のりも平坦ではありません。信頼は、生き物のように、時間とともに形を変え、時には後退することもあります。この動的な性質を理解するために、国境を越えて協働するグローバルな仮想チームを対象とした質的な調査が行われました[2]。
この調査では、世界16カ国から集まった57人の学生が参加する国際プロジェクトが舞台となりました。参加者は、過去に協働経験がなく、主にインターネット上のツールだけを頼りに共同作業に臨みます。調査方法は、プロジェクトの各段階で参加者にオンラインインタビューを行い、チーム内での経験や他者への信頼の変化を聞き取るというものです。
インタビューから明らかになったのは、信頼の形成が一直線のプロセスではない、周期的なモデルを描くということでした。研究者たちは、このプロセスを五つのステージに分けて説明しています。
第1ステージは「第一印象」(1〜2週目)。自己紹介などを通じて、互いの最初のイメージが作られます。この時点で、楽観的にチームを信じようとする「高信頼」の人と、懐疑的な「無信頼」の人に分かれます。
第2ステージは「同意と不同意」(3〜4週目)。タスクの進め方をめぐる議論が始まると、意見の対立が生まれます。ここで建設的な合意形成ができるかが、信頼の分かれ道となります。
第3ステージは「文化の創造」(5〜6週目)。対立を乗り越え、チーム独自のルールやスタイルが定着してくる時期です。「高信頼」のメンバーがチームの協調的な雰囲気を作ることで、懐疑的だったメンバーも安心感を抱き、信頼が高まっていきます。
第4ステージは「仕事の遂行」(7〜8週目)。最終成果物に向けた作業が佳境に入ると、メンバー間の貢献度の差から再び対立が生じ、一部のメンバーの信頼が低下することがありました。
最終ステージは「締めくくり」(9〜10週目)。プロジェクトが完成し、チームは解散します。高い信頼を維持できたメンバーは満足感を得る一方、対立を経験したメンバーの信頼レベルは、その解決の仕方によって異なりました。
この周期的なモデルは、信頼が固定的なものではなく、プロジェクトの進行とともに試され、再構築されるものであることを教えてくれます。
この調査では、メンバーの行動様式も分析されました。人間関係の構築を優先する「関係指向」のメンバーと、タスク達成を第一に考える「タスク指向」のメンバーがいることがわかりました。興味深いことに、最初から高い信頼を示したメンバーの多くは「関係指向」であり、初期の活発なコミュニケーションを通じて素早く信頼を形成していました。一方で、同じく高い信頼を示したメンバーの中には「タスク指向」の人もおり、そうした人々は、効率化という実用的な目的のために、意識的に相手を信じることを選択していました。
このことは、信頼に至る道筋が一つではないことを示唆しています。
能力への信頼が自発的対話を経て創造性を育む
チーム内の信頼が、単に作業を円滑に進めるだけでなく、新しいアイデアを生み出す「創造性」にまで結びつくのは、どのような仕組みによるのでしょうか。この問いを解き明かすため、台湾の看護学生を対象とした調査研究が行われました[3]。
この調査の舞台は、看護学生と工業デザインを学ぶ学生が混成チームを組み、実際の医療現場で使われる新しい製品を開発するという、専門分野を横断した授業です。参加した学生たちは、数カ月にわたり、専門知識の異なる仲間と協力しながら、一つの目標に向かって作業を進めます。
調査では、チームメンバーが互いの能力や専門性に対して抱く「認知的信頼」を測定しました。そして、チーム内での相互作用の様子を、「建設的論争」「援助行動」「自発的コミュニケーション(非公式な対話)」の三つの側面から評価しました。最終的に、チームが生み出した成果物の創造性を評価し、これらの要素の関係性を分析しました。
分析の結果、チームの創造性を生み出すための道筋が見えてきました。それは、「メンバーの能力への信頼」が、「自発的コミュニケーション」を促し、それが「チームの創造性」につながるという経路です。
この連鎖を詳しく見てみましょう。チームのメンバーが「この仲間は、それぞれの専門分野でしっかりとした知識と技術を持っている」と互いに信じている状態がスタート地点です。このような能力への信頼があると、メンバーは心理的な安心感を得て、形式ばらない自由な対話を交わしやすくなります。これが「自発的コミュニケーション」です。授業の合間の雑談や、何気ないメッセージのやり取りの中で、まだ固まっていない思考の断片を、気兼ねなく口にできるようになります。
このような非公式で偶発的な対話は、創造性の源泉となります。計画された会議での議論も大切ですが、予期せぬアイデアの組み合わせや新しい視点の発見は、しばしばこうしたリラックスしたコミュニケーションから生まれます。分析では、自発的コミュニケーションが、能力への信頼と創造性とを結びつける媒介要因となっていることが確認されました。
この調査では、もう一つ重要な点が明らかになりました。それは、「課題コンフリクト」、すなわち課題に関する意見の対立が、このプロセスに与える影響です。分析によると、チーム内で課題に関する対立が少ない状況であるほど、「能力への信頼」が「自発的コミュニケーション」を通じて「創造性」へとつながる効果が、より強まることがわかりました。意見の対立が激しいと、たとえ互いの能力を認めていても、自由な対話が生まれにくくなり、創造性の芽が摘まれてしまう可能性があるのです。
リーダーとの関係性の質が信頼と成果を左右する
チームメンバー間の信頼がどのように形成され、機能するかを見てきました。しかし、チームには通常、方向性を定め、メンバーを導くリーダーが存在します。リーダーとメンバーの関係は、チーム内の信頼、ひいては成果にどう関わっているのでしょうか。この点を明らかにするため、軍という一時的なチーム編成が頻繁に行われる環境で調査が実施されました[4]。
この調査には、ノルウェーとスウェーデンの士官候補生や将校、合計591名が参加しました。彼ら彼女らに、過去に参加した一時的な軍事グループでの経験を思い出してもらい、その時のリーダーになぜ即座に信頼できたか、あるいはできなかったかについて、自由記述で回答を求めました。寄せられた1100以上の具体的なエピソードを分析し、信頼の構築あるいは阻害につながる要因が洗い出されました。
質的分析から浮かび上がってきたのは、リーダーへの信頼を左右する要因が、大きく二つのカテゴリーに分類できることです。
一つは「個人関連特性」です。これは、リーダー自身の能力や資質に関するもので、「専門知識の深さ」「軍務経験の豊富さ」「精神的な安定性」といった要素が含まれます。リーダーがプロフェッショナルであり、冷静な人物であると認識されることが、信頼の基盤となることがわかります。
もう一つは「関係性関連特性」です。こちらは、リーダーとメンバーとの相互作用の質に関わる要素で、「部下の意見に耳を傾ける姿勢」「メンバーの参加を促す働きかけ」「共感や支援を示すこと」などが挙げられました。リーダーが一方的に指示を出すのではなく、メンバーと対話し、一人ひとりを尊重する姿勢が、信頼を育む上で欠かせないことが見て取れます。
これらの要因とチームのパフォーマンス評価との関連を分析したところ、ある傾向が見出されました。チームの成果とより強く結びついていたのは、「関係性関連特性」の方だったのです。リーダー個人の能力も成果と関連していましたが、それ以上に、メンバーとの良好な関係を築く能力の方が、チーム全体のパフォーマンスに一貫して強く結びついていました。
さらに、信頼を損なう否定的なエピソードの原因は、「個人関連特性」の欠如よりも、「関係性関連特性」の乏しさに起因するものが多く報告されていました。このことは、リーダーがたとえ有能であっても、メンバーの話を聞かないなど高圧的な態度をとると、信頼はいとも簡単に崩れ去ることを物語っています。
この調査が示すのは、一時的なチームにおいて迅速に信頼を築き、成果を上げるために、リーダーに求められるのは卓越した専門能力だけではないということです。それ以上に、メンバーと真摯に向き合い、対話し、一人ひとりの力を引き出す関係性を構築する能力が、チームの成功の鍵を握っていると言えます。
脚注
[1] Kanawattanachai, P., and Yoo, Y. (2002). Dynamic nature of trust in virtual teams. Sprouts: Working Papers on Information Systems, 2(10), 42-58.
[2] Zakaria, N., and Mohd Yusof, S. A. (2020). Crossing cultural boundaries using the Internet: Toward building a model of swift trust formation in global virtual teams. Journal of International Management, 26(1), 100654.
[3] Liu, H. Y. (2022). Investigating the pathways between swift trust and team creativity among nursing student teams in Taiwan: A moderated mediation model. BMC Nursing, 21, 344.
[4] Hyllengren, P., Larsson, G., Fors, M., Sjoberg, M., Eid, J., and Olsen, O. K. (2011). Swift trust in leaders in temporary military groups. Team Performance Management: An International Journal, 17(7/8), 354-368.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

