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コラム

意欲だけでは足りない?:成果を左右する組織との相性

コラム

「人々のために働きたい」「社会に貢献したい」。こうした思いを抱いて仕事に就く人がいます。特に、公的な領域で働く人々の中には、金銭的な報酬や地位の向上だけでなく、公共の利益に奉仕すること自体に強い動機を見出す人々がいます。このような動機は「公共サービスモチベーション(Public Service Motivation;PSM)」と呼ばれ、働く上での原動力になると考えられてきました。

この公共サービスへの熱意は、そのまま仕事の成果に直結するのでしょうか。直感的には、意欲の高い人ほど良い仕事をしそうに思えます。しかし、現実はもう少し複雑なようです。これまでの調査を見ていくと、この動機と個人の業績との間の結びつきは、必ずしも単純明快ではありません。ある調査では両者の間に関係が見られた一方で、別の調査でははっきりとした関係が見出されないこともあります。

この一貫性のなさは、何を物語るのでしょうか。公共サービスへの熱意は、まっすぐ個人の成果へと向かうのではなく、何か別の要素を介して、いわば「寄り道」をしながら成果へとつながるのかもしれません。本コラムでは、この「間接的」な道筋に光を当てた分析を通じ、公共サービスモチベーションが個人の働きに作用していく過程を紐解きます。

PSMは個人と組織の適合を高め、職務業績を向上

公共サービスへの強い意欲が仕事の成果につながるという見方は広くありますが、実証研究の結果は一貫していません。この状況に対し、ある分析は新たな視点を導入します[1]。個人の意欲だけでなく、その個人と所属組織との相性、すなわち「個人-組織適合」が鍵を握るという考え方です。

個人-組織適合とは、個人の価値観や目標が、組織の文化や価値観とどの程度一致しているかを指します。この適合には、個人と組織が似た特性を持つことで生まれる「補充的適合」と、互いに足りない部分を補い合うことで生まれる「相補的適合」の二つの側面があります。この分析では、公共サービスモチベーションは、直接的に職務業績を高めるのではなく、個人と組織の適合度合いを高め、その高まった適合度合いが職務業績を向上させる、という二段階のプロセスを想定しました。

この仮説を確かめるために、アメリカの三つの異なる公共組織で働く205人の職員を対象に調査が行われました。参加者の職種は医師や警察官、ソーシャルワーカー、事務職員など多岐にわたっていました。

調査では、質問票を用いて三つの中心的な要素が測定されました。一つ目は公共サービスモチベーションで、公共政策への関心や他者への思いやりなど四つの側面から測定する、確立された尺度を用いています。二つ目は個人-組織適合で、「自分の価値観と組織の価値観はよく似ている」といった項目を通じて、本人が組織にどれだけ適合していると感じるかを尋ねました。三つ目は職務業績で、直近の人事評価で上司から受けた評価を自己申告する形で測定されました。

年齢や性別、公的部門での経験年数といった他の要因もあわせて記録され、分析の際に考慮されました。

集められたデータを分析した結果、公共サービスモチベーションが高い人ほど、自身が組織に適合していると感じる度合いも高いことが分かりました。次に、組織との適合度合いが高いと自己評価した人ほど、上司からの職務評価も高いと報告していました。そして肝心な点として、統計モデルに個人-組織適合という要素を加えたところ、それまで見られていた公共サービスモチベーションと職務業績の直接的な結びつきが、統計的には意味のないものになりました。

この結果から、公務員の成果を直接予測するのは意欲そのものではなく、個人と組織の「適合性」だと考えられます。従業員が組織の価値観に合っていると感じるほど、パフォーマンスは高まります。だからといって公共サービスモチベーションが無用なわけではありません。それは、個人が組織への適合性を感じるための土台となるからです。公共サービスへの熱意は、適合性を高めることを通じて間接的に職務の成果に貢献すると解釈できます。

PSMは価値観の一致を介して職務満足度を高める

先ほどは、「個人と組織の適合」がモチベーションと業績の橋渡しをすることを見ました。この視点を一歩進め、ここでは「価値観の一致」という内面的な側面に焦点を当てます。公共サービスへの意欲が高い人は、なぜ仕事の満足感も高いのか。ここでも、両者の関係に中間的な要素が介在する可能性が探られています。

そもそも、「公共サービスへの意欲が高い人は、公共組織で働くことに満足するはずだ」という前提は、常に成り立つとは限りません。公共組織と一口に言っても、その理念や方針は多種多様です。ある人が抱く「公共への奉仕」の理想像と、所属する組織が掲げる「公共サービス」の具体的なあり方が、必ずしも一致するとは限らないのです。

例えば、強い奉仕の動機を持つがゆえに、組織の方針に疑問を抱き、内部から問題を提起する人もいるかもしれません。また、人々の役に立ちたいという純粋な気持ちで職に就いたものの、日々の業務が自らの信条と乖離していると感じ、不満を募らせるケースも考えられます。

このようなミスマッチの可能性を考慮すると、公共サービスモチベーションが職務満足度につながる過程には、「価値観の一致」というフィルターがかかっているのではないか、という仮説が浮かび上がります。公共サービスへの意欲が高い個人は、自らの価値観と組織の価値観が一致していると感じやすく、その価値観の一致という感覚が職務への満足感を生み出す、というプロセスです。

この仮説を検証するため、アメリカ北東部の二つの州にある七つの公共組織で働く管理職および専門職の職員206名を対象に、質問票調査が実施されました[2]

調査では、先行する研究で信頼性が確かめられている尺度を用いて、各要素が測定されました。公共サービスモチベーションについては、公共の利益への貢献や自己犠牲といった利他的な動機を反映する五つの項目が使用されました。価値観の一致は、自分自身の価値観と組織の価値観がどの程度似ていると感じるかを尋ねる四つの項目で、職務満足度は、仕事全般に対する満足度を測る三つの項目で測定されました。

分析の結果、仮説は強く支持されることになりました。公共サービスモチベーションから価値観の一致へ、そして価値観の一致から職務満足度へと至る二つの経路は、いずれも統計的に意味のある正の関係にあることが確認されたのです。その一方で、価値観の一致を分析モデルに組み込むと、公共サービスモチベーションから職務満足度への直接的な経路は、統計的に有意ではなくなりました。

この発見は、意欲が職務満足度を高めるメカニズムを解像度高く描き出します。その効果は、従業員が組織との「価値観の一致」を実感することでもたらされる間接的なものです。これは、過去の研究結果のばらつきを説明する一助となります。個人の素質である意欲だけでは満足感は保証されず、それが組織の価値観と共鳴し、社会貢献への手応えに変わるとき、深い満足感へと昇華されるのでしょう。

PSMと職務業績の関係には、一貫した証拠が見られない

これまでは、モチベーションが「組織との適合」や「価値観の一致」を介して成果につながる可能性を見てきました。しかし、研究の世界は常に整然とはしていません。ここでは、モチベーションと職務業績の直接的な関係を大規模データで検証し、一貫した証拠を見出せなかった分析を取り上げます[3]。これは、前の二つの研究が解こうとした「謎」の存在を改めて浮き彫りにします。

分析の舞台となったのは、アメリカの連邦政府です。当時、連邦政府は、民間部門に比べて給与水準が伸び悩み、公務の威信も高いとは言えない状況で、職員の動機づけに課題を抱えていました。

こうした中で、金銭的ではない「公共サービスへの意欲」が、優秀な人材を惹きつけ、その働きを支える鍵になるのではないか、という期待が高まっていました。この期待の根底にあるのは、「公共サービスモチベーションが高い職員は、職務において優れた成果を上げるはずだ」という仮説です。この分析は、この仮説が実際に成り立つのかどうかを、現実のデータで確かめようとしました。

調査には、二つの異なる時期に行われた、数万人規模の連邦職員を対象とした大規模調査のデータが用いられました。これほど大規模なデータを用いることで、一部の組織に限られない、より一般的な関係性を見出すことが目指されました。この分析の難しい点は、二つの中心的な要素、すなわち「公共サービスモチベーション」と「職務業績」をどのように測定するかにありました。

職務業績は、二つの異なる指標で捉えられました。一つは、職員の「等級」です。等級は、その仕事の複雑さや責任の大きさを反映しており、長期的に見れば、優れた成果を上げた人がより高い等級へと昇進していくと考えられるため、長期的な業績の代理指標と見なされました。もう一つは、上司による「業績評価」で、こちらは現在の仕事ぶりを直接的に評価するものです。

公共サービスモチベーションの測定方法は、二つのデータセットで異なっていました。一方の調査では、「他者への奉仕」を自身の最も大事な価値観の一つとして挙げたかどうか、という一つの質問で測定されました。もう一方の調査では、より包括的な、思いやりや自己犠牲などに関する六つの質問項目が用いられました。

これらのデータを用いて、統計的な分析が行われましたが、結果は測定方法によって大きく異なり、一貫性はありませんでした。業績評価に焦点を当てると、六つの質問項目でモチベーションを測定したデータでは、モチベーションが高い人ほど「優秀」という最高評価を受ける確率が高いという、仮説を支持する結果が出ました。しかし、「他者への奉仕」という単一の価値観で測定したもう一方のデータでは、両者の間に何の関係も見出されませんでした。

等級レベルに焦点を当てると、事態はより複雑になりました。六つの質問項目で測定したデータでは、モチベーションと等級の間に明確な結びつきは見られませんでした。驚くことに、「他者への奉仕」を重視したデータでは、むしろその価値観を持つ人の方が、同等の条件の他の職員よりもわずかに低い等級に留まるという、仮説とは逆の結果が得られました。

この分析から得られた唯一、一貫していた知見は、モチベーションの度合いとは無関係に、「良い仕事をすれば昇進や昇給につながる」と信じている職員ほど、実際に高い業績を上げているという点でした。

この分析が明らかにしたのは、モチベーションと業績の直接的な結びつきが、測定方法次第で揺らぐ捉えどころのないものだという事実です。これは意欲の価値を否定するのではなく、「意欲が高いから成果も高い」という単純な図式では説明できない、別の要因の存在を示唆します。この「一貫性のなさ」という課題が、組織適合性や価値観の一致といった間接的な道筋を探る研究の必要性を裏付けています。

PSMよりミッション魅力度が変革型リーダーシップの効果を高める

これまで個人の動機と組織の関係性を見てきましたが、そこには欠かせない登場人物がいます。日々の業務を導く「リーダー」です。ここでは、リーダーの振る舞いが部下の動機やパフォーマンスにどう作用するのかを探った分析を紹介します[4]。ここでも、モチベーションの働き方は一筋縄ではいきません。

この分析で焦点が当てられたのは、「変革型リーダーシップ」というスタイルです。これは、明確なビジョンを掲げ、部下一人ひとりに配慮し、知的な刺激を与えることで、部下の意欲と能力を引き出すリーダーシップのあり方です。このようなリーダーシップは、部下のパフォーマンスを高めると一般に考えられています。その効果は、どのような部下に対して、より強く発揮されるのでしょうか。

ここで二つの可能性が考えられました。一つは、もともと公共サービスへの意欲が高い部下ほど、変革型リーダーのビジョンに共鳴し、一層やる気を引き出されるのではないかという考えです。もう一つは、公共サービスへの一般的な意欲というよりも、今自分が所属している「組織の使命」に強い魅力を感じている部下(これを「ミッション魅力度」と呼びます)ほど、リーダーの効果が高まるのではないかという考えです。

公共サービスモチベーションが公共全般への奉仕精神であるのに対し、ミッション魅力度は、特定の組織が掲げる使命への個人的な思い入れの強さを指します。

この問いを明らかにするため、アメリカの連邦、州、地方政府で働く778人の職員を対象に、ウェブ調査が実施されました。調査では、上司のリーダーシップがどの程度変革型であるか、本人の公共サービスモチベーションの高さ、現在の組織のミッションに対する魅力度の三つが測定されました。個人のパフォーマンスについては、恣意性を減らす工夫として、州が定める実際の評価区分(「傑出」「優秀」など)の中から、自分が受けた評価を回答してもらう形式が取られました。

結果、変革型リーダーシップが部下の業績評価を高めるという関係が確認されました。公共サービスモチベーションが高いことも、同様に高い評価と結びついていました。しかし、本題である相互作用に目を向けると、異なる姿が見えてきました。リーダーシップの効果が、公共サービスモチベーションが高い部下において特に強まる、という証拠は見つからなかったのです。リーダーの働きかけは、相手の公共サービスへの一般的な意欲の高さには、それほど左右されないようでした。

一方で、ミッション魅力度との間には、相互作用が見られました。組織の使命に強く惹かれている部下ほど、変革型リーダーシップのパフォーマンス向上効果が増幅されていたのです。この結果は、リーダーシップの効果を最大化する鍵が、公共への奉仕精神よりも、その精神が組織の具体的な「使命」へ向けられる度合いにあることを指し示します。個人の内なる動機とリーダーの働きかけを結びつけ、化学反応を起こす触媒が、組織ミッションへの共感です。リーダーのビジョンが部下の心に「自分事」として響くとき、その力は最大限に発揮されるのでしょう。

脚注

[1] Bright, L. (2007). Does person-organization fit mediate the relationship between public service motivation and the job performance of public employees? Review of Public Personnel Administration, 27(4), 361-379.

[2] Wright, B. E., and Pandey, S. K. (2008). Public service motivation and the assumption of person?organization fit: Testing the mediating effect of value congruence. Administration & Society, 40(5), 502-521.

[3] Alonso, P., and Lewis, G. B. (2001). Public service motivation and job performance: Evidence from the federal sector. The American Review of Public Administration, 31(4), 363-380.

[4] Caillier, J. G. (2014). Toward a better understanding of the relationship between transformational leadership, public service motivation, mission valence, and employee performance: A preliminary study. Public Personnel Management, 43(2), 218-239.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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