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コラム

ジョブ・クラフティング:活力向上とストレスの軽減

コラム

変化の激しいビジネス環境では、従業員が自らの仕事を柔軟に作り替える力が、組織の競争力と持続性を左右します。こうした行動は「ジョブ・クラフティング」と呼ばれます。

ジョブ・クラフティングには複数の理論モデルがあり、第一に、タスク、関係、認知の側面から捉えるモデルがあります。第二に、行動カテゴリーで捉えるモデルがあります。そして第三に、近年注目されている接近―回避型モデルがあります。

本コラムではこれら三つのモデルを概説した上で、特に接近-回避型モデルの知見をもとに、組織がどのように従業員の主体的なジョブ・クラフティングを支援し、成果と働きがいを両立させる環境を構築できるのかを探っていきます。

タスク、関係、認知による測定

これまでの職務設計論は、企業や組織が「仕事の内容」や「進め方」をあらかじめ決定し、従業員はその枠組みに従って行動することを前提としてきました。いわば「組織が設計し、個人は遂行する」という役割分担が基本だったのです。

しかし近年の研究では、こうした固定的な枠組みを超え、従業員自身が主体的に仕事の範囲や進め方を見直し、新しい可能性を切り開いていくプロセスに注目が集まっています。最初に紹介する研究[1]もその一例であり、従業員が自ら仕事の「境界」を柔軟に変えていく姿に焦点を当てています。ここでいう境界とは、次の3つのようなものを指します。

  • タスク的境界(Task Boundaries):担当業務の範囲や量など、担当する仕事の範囲や種類
  • 関係的境界(Relational Boundaries):職場で関わる人や交流の質
  • 認知的境界(Cognitive Boundaries):仕事の意味や捉え方

こうした境界の調整は、従業員のアイデンティティや働きがいに影響し、ひいては組織の成果にも関わる可能性があります。この研究は、ジョブ・クラフティングの理論モデルを提示し、さまざまな職業の事例を通じてその具体像を描くことで、従業員を「受動的な職務遂行者」から「能動的な仕事の創り手」として位置づけ直す試みに挑戦しています。

調査は理論モデルの構築と、病院清掃員や看護師、エンジニア、料理人などの事例分析によって進められました。

結果として明らかになったのは、従業員が自らの裁量で境界を調整することにより、仕事の意味づけや職業的アイデンティティが変容するという点です。

例えば、病院清掃員が患者との交流やケアを仕事に組み込むことで、「部屋を清掃する人」から「治療に貢献する人」へと自己像が変わり、仕事への誇りややりがいが高まります。また、エンジニアがプロジェクトの成功やチーム連携のために追加業務を引き受けることも、自己認識や職場の人間関係を変える契機となります。

実践的含意として、組織は従業員に境界を柔軟に調整できる余地を持たせることが大事です。必ずしも「業務拡大」や「自主性の全面解放」を意味するのではなく、監督や規則の範囲内でも、タスクの順序変更や人間関係の築き方、仕事の捉え方の工夫といった小さな調整が可能です。こうした調整は、従業員のコントロール感や自己肯定感、他者とのつながりを高める効果が期待できます。

マネジメントへの応用としては、従業員が自らの仕事の意味や関係性を見直す機会を提供することが考えられます。例えば、業務設計の段階で「この仕事をどう工夫したいか」を話し合う場を設けたり、戦略目標を共有して各人がそれに沿った形で役割を調整できるようにすることです。

これにより、仕事の目的意識が組織と個人の双方で一致しやすくなり、主体的な貢献が促されます。また、監視やタスク依存度が高い職務では、小規模な裁量権の付与や業務間接部門での自由度確保が、クラフティングのきっかけになります。

「資源」と「要求」による測定

ジョブ・クラフティングの研究が進む一方で、その行動を正確に測定する方法はこれまで十分に整備されていませんでした。そうした背景を受けて、ジョブ・クラフティングを多面的にとらえられる、信頼性と妥当性のある測定尺度を開発した研究を紹介します[2]

この研究では、ジョブ・クラフティングを「仕事資源の拡大」「挑戦的要求の増加」「妨害的要求の減少」という3つの行動的側面に基づいて定義しました。さらに、これらをより具体化し、組織や職種を問わず使える質問項目を作成し、調査はオランダ国内の複数の組織で働く従業員を対象に行われました。

分析の結果、行動は「構造的資源を増やす」「社会的資源を増やす」「挑戦的要求を増やす」「妨害的要求を減らす」という4タイプに分類されました。

  • 構造的資源を増やす:スキルや裁量、学習機会など、仕事の枠組みに関わる資源を増やす行動。
  • 社会的資源を増やす:同僚や上司からの支援やフィードバックといった人間関係上の資源を増やす行動。
  • 挑戦的要求を増やす:成長や能力向上につながる難易度の高い課題や新たな役割を積極的に取り入れる行動。
  • 妨害的要求を減らす:ストレスや業務負荷の原因となる要素や妨げを減らす行動。

研究の結果、構造的資源や社会的資源を増やす行動は、従業員の活力や意欲の向上に強く結びつくことが明らかになりました。また、妨害的要求を減らす行動は、ストレス軽減や健康維持に有効であることが確認されました。

この尺度を活用すれば、組織は従業員がどのように自分の仕事を作り替えているのかを見える化できます。これにより、主体的に資源を増やし、挑戦的な課題に取り組む風土づくりや、不要な負荷を減らす施策の検討がしやすくなります。

たとえば、会社は従業員向けに業務改善提案制度を導入し、従業員自身でスキル向上や裁量を与える機会を提供したり、上司との定期的な対話で社会的資本(人々の信頼関係やネットワーク、互恵的な規範など、社会やコミュニティにおける協力や連携を促進する無形の資源のこと)を強化することは効果的です。

マネジメント面では、挑戦的行動や資源拡大の取り組みを人事評価に反映させることや、職務設計を柔軟にすることが、従業員の主体性を高める一助となります。また、この尺度を用いた定期測定は、組織全体の健康度や変化への適応力を把握するうえで有用です。

二つの測定アプローチの相違点

二つの研究で紹介したように、ジョブ・クラフティングの測定には大きく二つのアプローチ(タスク、関係、認知による測定と行動カテゴリーによる測定)があり、それぞれ視点や項目の性質、活用場面に特徴があります。そうした違いをよく理解するために、既存文献を整理して、ジョブ・クラフティングの定義や特徴、測定方法、影響要因と成果を体系的にまとめたレビュー論文を概説します[3]。レビュー論文とは、既存の研究成果を整理・分析し、全体像や今後の課題を示す論文です。

第一のアプローチは、タスク、関係、認知の三つの側面から仕事を捉えるモデルです。このモデルは「仕事の境界をどこで変えるか」という視点を重視し、従業員が業務範囲を広げたり人間関係を見直したり、仕事の意味を再解釈したりする行動を測定します。

測定項目には主観的な認知や職務観の変化も含まれるため、心理的・意味的な側面を把握しやすいのが特徴です。たとえば、「日々の業務を顧客価値創造の一部として捉えるようになった」といった認識の変化も評価できます。このため、キャリア開発や職務満足度の向上といった、働きがいに焦点を当てた調査や面談の場面で有用です。

第二のアプローチは、構造的資源、社会的資源、挑戦的要求、妨害的要求という四つの行動カテゴリーで構成されるモデルです。こちらは「仕事における資源や負荷をどう変えるか」という視点に基づき、スキルや裁量の拡大、上司・同僚からの支援の強化、成長を促す課題の増加、ストレス要因の削減など、具体的かつ行動ベースの項目を測定します。

また、このアプローチは数値化しやすく、組織全体での比較や経時的な変化の追跡に適しています。不要な会議を減らす、フィードバック機会を増やすといった施策効果も測定可能であり、人事施策の評価や組織サーベイなど、定期的なマネジメント活動に活用しやすい点が特徴です。

このように、前者は質的な境界の変化を通じて働きがいを深掘りするのに適し、後者は資源や負荷の量的変化を通じて行動や成果を可視化するのに適しています。組織がどのような目的でジョブ・クラフティングを測定したいのかに応じて、使い分けや組み合わせが有用となるでしょう。

そして、アプローチの違いはあれど、ジョブ・クラフティングの共通する先行要因が、先行研究の整理から明らかになりました。積極性の高い性格や内発的動機づけなどの個人要因、職務自律性や上司の支援などの環境要因が重要であることが示されています。

逆に、ジョブ・クラフティングによって生じる結果としては、仕事の意味づけの向上、職業的アイデンティティの確立、ウェルビーイング(心身の健康や幸福感)の向上が確認されています。例えば、業務の枠を広げて新しいスキルを身につけることは、自己成長とやりがいを高めますし、人間関係の質を改善することは、協力的な職場文化を促します。

実務的な含意として、組織はジョブ・クラフティングを促進する制度や環境づくりを行うことで、従業員の主体性や適応力を高めることができます。たとえば、裁量権を広げる人事制度、異なる部門との交流機会、ストレス要因を見直す職務再設計などが有効です。測定ツールを用いれば、各従業員が仕事を創意工夫する傾向を可視化し、成長支援や健康維持の施策に反映できます。

マネジメントへの応用としては、評価制度に挑戦的な取り組みや資源活用の工夫を含めることや、職務設計を柔軟にして多様な働き方を許容することが挙げられます。また、定期的なジョブ・クラフティングの測定は、組織の活力や変化への耐性を把握するうえで有用です。変化が激しいビジネス環境において、こうしたボトムアップの職務再構築は、組織と従業員双方の成長を支える重要な基盤となるでしょう。

接近型、回避型の第三のジョブ・クラフティング

既存の研究では、資源や負荷の増減に着目した定量モデルと、具体的行動事例をもとにした定性モデルが併存してきましたが、これらを統合し、「接近型」と「回避型」という行動意図の違いで捉え直した研究があります[4]。調査は、米国の複数業種に勤務する従業員を対象に実施されました。

研究では、「自分の役割をどう工夫するか(役割調整)」と「仕事に必要な資源をどう調達するか(資源調整)」という2つの次元に注目しています。これらの2次元に基づいて2×2のマトリクス構造(四象限)を設定することにより、ジョブ・クラフティングの特徴に関する「接近型」と「回避型」を表現したのです。

分析の結果、「接近型」は新たな機会や挑戦、資源を積極的に増やす行動でした。役割調整の次元としては、業務範囲の拡大や新たな責任の引き受け、資源調整の次元では、学習機会や人脈の拡大が該当しました。

一方、「回避型」は不要な負荷や障害を減らす行動で、役割調整の次元では不必要なタスクの削減、資源調整の次元ではストレス源の排除や時間的余裕の確保が含まれました。さらに、接近型は仕事への活力や成長実感と強く関連し、回避型はストレス低減や健康維持と関連することが明らかになりました。

実践的な含意として、この役割・資源のマトリクスを活用すると、組織は従業員がどの方向で仕事を調整しているかを可視化できます。例えば、接近型の資源拡大が少ない場合はスキル開発の機会を増やし、回避型の役割調整が弱い場合は業務棚卸しを行うことで負荷を減らす、といった支援が可能です。

マネジメントへの応用としては、人事評価やキャリア面談で、接近型と回避型の両側面に目を向けることが有用です。挑戦的な役割拡大だけでなく、負荷を減らすための環境改善も正当に評価することで、多様な仕事における創意工夫の行動が促進されます。

また、組織全体でこのモデルを共有することで、従業員同士が互いの仕事における創意工夫を理解・支援しやすくなります。変化の激しい環境下では、成長志向と健康維持の両立を図るためにも、この二軸モデルが効果的な指針となるでしょう。

接近型と回避型の尺度開発による可視化

接近型と回避型のアプローチについても尺度開発が行われました。「アプローチ・アボイダンス・ジョブ・クラフティング尺度(AAJC尺度)」を開発・検証した研究を紹介します[5]。対象はドイツ国内の幅広い職種の従業員で、調査や面接を通じ、信頼性・妥当性を検証しました。

結果として、接近型クラフティングはポジティブ感情、ワーク・エンゲイジメント、自己評価によるパフォーマンスと正の相関(一方が増えれば、もう一方も増える関係)が確認され、個人の主体性とも強く関連していました。

一方、回避型クラフティングは、ポジティブ感情やワーク・エンゲイジメント、パフォーマンスと負の相関(一方が増えれば、もう一方は減る関係)がみられ、主体性との関連はほぼありませんでした。両者は相互にほとんど関連がなく、同一の上位概念として扱うよりも独立した二軸で理解するほうが適切であることが示されました。

この知見は実務にも有用です。まず、従業員が自身の仕事をどの方向に改変しているかを可視化することで、望ましい成果につながる方向性を認識しやすくなります。接近型が多い職場では、挑戦や資源拡大を促す施策がさらに効果を発揮する可能性があります。

逆に、回避型が多い場合は、その背景に過剰負荷や不十分な資源といった構造的課題が潜んでいる可能性があり、改善によって接近型への転換を促せるかもしれません。また、AAJC尺度は従業員研修や1on1面談などでの自己診断ツールとして活用でき、個々の強みや改善点に基づいた働き方のデザインが可能となります。

マネジメントにおいては、単に「自由に仕事を変えてよい」と奨励するだけでなく、その改変が接近型か回避型かを意識することが重要です。回避型の背景には、燃え尽きの兆候や心理的負担の増大がある場合もあり、早期発見によって離職やパフォーマンス低下を防げる可能性があります。

一方で、接近型を後押しする環境づくりは、組織全体の活性化にもつながるでしょう。たとえば新しいスキル習得の機会や部門横断プロジェクトへの参加などが挙げられます。

この研究は、ジョブ・クラフティングをより精緻に把握し、個人と組織の双方にとって意味ある変化を促すための実践的な枠組みを提供しています。接近と回避の両面を測定し、その違いを理解したうえで適切な施策を設計することは、持続的な人材活用と職場の健全性を高めるために有用です。

回避型クラフティングの負の影響を和らげる条件

前章では、接近型と回避型のクラフティングが個人や組織に与える異なる影響について見てきました。では、両者を同時に行った場合には、どのような効果が生まれるのでしょうか。負担を減らす回避型と資源や挑戦を増やす接近型を同時に行う場合にどのような効果があるのかについて検証した研究があります[6]

対象はギリシャの多様な業種の87名で、調査を実施しました。測定には既存のジョブ・クラフティング尺度を用い、接近型は「構造的資源の増加」「社会的資源の増加」「挑戦的要求の増加」、回避型は「妨害的要求の減少」として評価しました。成果指標は、同僚や過去との比較による業務パフォーマンス、そして雇用可能性(将来の職務適応意欲)です。

分析の結果、回避型クラフティングは単独ではパフォーマンスや雇用可能性と負の関連を持つ傾向がある一方、特定の接近型戦略と組み合わせることでその影響が緩和または逆転することが明らかになりました。

具体的には、妨害的要求の減少が、社会的資源の増加が高い場合には他者比較パフォーマンスを、構造的資源の増加が高い場合には過去比較パフォーマンスを向上させていました。また、挑戦的要求の増加が低い場合には回避型が雇用可能性を下げていましたが、高い場合にはその関係は消えていました。

この知見は、職場でのパフォーマンス向上や人材の持続的活躍を考える上で有用です。特に、回避型行動は必ずしも否定的ではなく、同時に資源や挑戦を増やす行動と組み合わせることで、むしろ効率的な業務遂行や柔軟な適応力につながる可能性があります。

マネジメントの場面では、従業員が負荷を軽減しようとする行動を単に消極的とみなすのではなく、その背景にある業務環境やリソース状況を理解し、適切な接近型の行動を促す支援が効果的です。例えば、顧客対応の負担を減らす施策と並行して、同僚との知識共有機会や新規プロジェクト参画の場を提供することは、回避型の負の側面を相殺し、成果につなげられるでしょう。

さらに、従業員の行動は状況や時期に応じて変化することが示唆されました。このため、定期的なモニタリングと柔軟な業務設計が望ましく、接近型と回避型のバランスを取る仕組みが組織全体のパフォーマンス維持に役立ちます。従業員にとっては、自らの仕事調整行動を意識的にデザインし、状況に応じた戦略の組み合わせを行うことが、長期的なキャリアの安定と成長につながるでしょう。

階層構造で捉えるジョブ・クラフティング

ここまでみてきたように、ジョブ・クラフティングの研究は多様な定義や分類が併存しています。理論や測定方法が複数あることで、知見が断片化し、実務や後続研究への応用が難しい状況にありました。また、上述した仕事の境界変更に着目するアプローチと、仕事資源や要求の調整に焦点を当てるアプローチも、それぞれ独立して発展してきた経緯がありますが、両者の関係性は十分に整理されていませんでした。

本コラムの最後に、こうした背景を受けて既存のジョブ・クラフティング研究を体系的に統合し、その概念を階層的な構造として整理した研究を紹介します[7]。この研究は、異なる理論モデル間の位置づけを明確にし、研究成果の比較可能性を高めるとともに、組織が目的に応じたレベルでジョブ・クラフティングを促進・測定できる基盤を提供しようとしています。

研究では、まずジョブ・クラフティングの概念を3つの階層で整理しました。

  • 1階層:ジョブ・クラフティングの志向性、すなわちクラフティングが接近志向か回避志向かを区別する。
  • 2階層:ジョブ・クラフティングの形式を区別し、具体的には行動的か認知的かを判別する。
  • 3階層:クラフティングが変化させようとする対象に基づく内容を区別し、とりわけ仕事の資源か仕事の要求かを明確にする。

結果として、異なる理論モデルが実は補完的であり、上位の共通概念から下位の具体行動まで連続的に整理できることが明らかになりました。この整理により、従業員の行動を測定・分析する際、抽象度の異なる複数レベルで理解することが可能となります。

実践的な含意として、この階層構造を活用することで、組織は目的に応じたレベルでジョブ・クラフティングを把握できます。戦略レベルでは「従業員がどの境界を変えているか」を確認し、施策レベルでは「具体的にどの行動を促すか」を検討するといった使い分けが有用です。また、異なる測定尺度を併用する際にも、位置づけを明確にできるため、データ解釈の一貫性が高まります。

マネジメントへの応用としては、人事制度や研修設計の段階で、この階層構造を基盤とすることが考えられます。例えば、評価制度では上位レベルの行動意図を重視し、日常的なフィードバックでは下位レベルの具体行動に焦点を当てる、といった運用が効果的です。

また、組織変革の局面では、抽象的な理念だけでなく、それを実現する具体的なクラフティング行動を提示することで、従業員が行動に移しやすくなります。こうした多層的な視点は、急速に変化する環境の中で、従業員の主体性と組織の適応力を同時に高める基盤となるでしょう。

おわりに

本コラムを通じて見てきたように、ジョブ・クラフティングは、従業員が自らの裁量で仕事の境界や資源、要求を調整し、成果や働きがいを高める重要なプロセスです。タスク・関係・認知のモデルや、構造的資源・社会的資源・挑戦的要求・妨害的要求のモデルは、それぞれ異なる角度から行動を可視化しますが、接近-回避モデルは行動の方向性に着目し、成果との関連をより明確に示します。

特に接近型の行動は、職務特性をポジティブに変化させ、意欲やパフォーマンスの向上につながることが確認されています。一方で回避型の行動も、適切な資源拡大や挑戦の機会と組み合わせることで、負荷軽減と成果向上の両立が可能です。

マネジメントの実務においては、従業員に「自由に変えてよい」と任せるだけでなく、その改変がどの方向に向かっているのかを可視化し、必要に応じて資源や機会を補完することが有用です。

例えば、接近型の資源拡大を後押しするスキル研修やプロジェクト参加機会、回避型の役割調整を支える業務プロセス改善などが考えられます。また、ジョブ・クラフティングの測定ツールを活用すれば、組織全体の傾向や課題を把握し、戦略的に介入することが可能になります。

変化の激しい環境下で持続的な成果を生み出すためには、従業員一人ひとりが仕事を主体的に設計し直す力を持つことが重要です。組織がその行動を理解し、適切に支援することで、働きがいと成果を同時に高める職場文化を醸成できるでしょう。

脚注

[1] Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of management review, 26(2), 179-201.

[2] Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2012). Development and validation of the job crafting scale. Journal of vocational behavior, 80(1), 173-186.

[3] Peng, C. (2018). A literature review of job crafting and its related researches. Journal of Human Resource and Sustainability Studies, 6(1), 1-7.

[4] Bruning, P. F., & Campion, M. A. (2018). A role–resource approach–avoidance model of job crafting: A multimethod integration and extension of job crafting theory. Academy of Management Journal, 61(2), 499-522.

[5] Lopper, E., Horstmann, K. T., & Hoppe, A. (2020). The approach-avoidance job crafting scale: development and validation of a new measurement. In Academy of Management Proceedings (Vol. 2020, No. 1, p. 18656). Briarcliff Manor, NY 10510: Academy of Management.

[6] Petrou, P., & Xanthopoulou, D. (2021). Interactive effects of approach and avoidance job crafting in explaining weekly variations in work performance and employability. Applied psychology, 70(3), 1345-1359.

[7] Zhang, F., & Parker, S. K. (2019). Reorienting job crafting research: A hierarchical structure of job crafting concepts and integrative review. Journal of organizational behavior, 40(2), 126-146.


執筆者

樋口 知比呂 株式会社ビジネスリサーチラボ コンサルティングフェロー
早稲田大学政治経済学部卒業、カリフォルニア州立大学MBA修了、UCLA HR Certificate取得、立命館大学大学院博士課程修了。博士(人間科学)。国家資格キャリアコンサルタント。ビジネスの第一線で30年間、組織と人に関する実務経験、専門知識で、経営理論を実践してきた人事のプロフェッショナル。通信会社で人事担当者としての経験を積み、その後、コンサルティングファームで人事コンサルタントやシニアマネージャーを務め、さらに銀行で人事部長などの役職を歴任した後、現在はFWD生命にて執行役員兼CHROを務める。ビジネスと学術研究をつなぐ架け橋となることを目指し、実践で役立つアプローチを探求している。

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