2026年1月21日
沈黙が壊し、言葉が育てる:遠隔チームの信頼構築
私たちの働き方は、近年大きく変化しました。かつては同じ空間を共有し、何気ない会話や表情から互いの状況を察することができましたが、今では画面越しのやり取りが当たり前です。物理的な距離は、コミュニケーションのあり方を見直す必要性を生んでいます。特に、チームで成果を上げる上で欠かせない「信頼」を、どう築けば良いのでしょうか。
信頼は目に見えないため、その正体をつかむのは難しいものです。しかし、それは個人の感覚だけに左右される曖昧なものではありません。信頼がどのような対話を通じて育まれ、損なわれるのか。地道な観察と分析を重ねた研究は、信頼が日々の小さなコミュニケーションの積み重ねで育まれることを教えてくれます。
本コラムでは、信頼とコミュニケーションの関係を探求した研究を手がかりに、仕事の現場で信頼が生まれるメカニズムを掘り下げていきます。画面越しの同僚や、新しいプロジェクトのメンバーとの間につながりを育むヒントが見つかるかもしれません。
仮置きの信頼は、予測可能で肯定的な対話で育つ
国境や時差を越え、主にテキストのやり取りだけで協働するチームがあります。対面で得られる表情や声のトーンといった手がかりが乏しいため、信頼関係を築くのは困難に思えるかもしれません。しかし、こうした環境だからこそ、信頼がどう生まれ、維持されるのかを観察できます。ある研究では、複数のグローバル・バーチャル・チームを対象に、その通信記録を分析し、信頼の高いチームと低いチームの行動の違いを調べました[1]。
この種のチームでは、開始当初、メンバーは互いをほとんど知りません。それでも多くの場合、ある程度の信頼が「仮置き」されることから共同作業が始まります。これは、肩書きや所属組織、プロジェクトの目的といった外的な情報に基づき、「ひとまず信頼してみよう」という状態です。この初期の信頼は「迅速な信頼(swift trust)」と呼ばれますが、脆く、わずかなコミュニケーションの齟齬で簡単に崩れる性質を持っていました。
分析を進めると、信頼が順調に育ったチームには、共通のコミュニケーションパターンが見られました。一つは、迅速で予測可能な応答です。返信が早く、遅れる場合は説明するといった行動が自然に行われていました。いつ誰が応答するのかという期待が裏切られないことで、相手への誠実な印象が醸成されていきました。
メッセージの内容も異なりました。信頼の高いチームでは、結論だけでなく、その主張の根拠や検討した代替案、意思決定の理由などが丁寧に説明されていました。判断のプロセスを透明にすることで、相手は一方的に結論を押し付けられたと感じず、共に考えているという実感を持てます。
肯定的な感情を示す短い言葉の存在も確認されました。対面なら微笑みや頷きで伝わる感謝や称賛を、テキスト上で意識的に表現していたのです。「ありがとうございます」「良い分析ですね」といった一文が、メッセージ全体のトーンを和らげ、関係性を良好に保っていました。
誰がいつまでに何をするのかという約束が、きちんと果たされているかを確認できる工夫も見られました。タスクの割り当てや期限を繰り返し確認し、完了時には成果物と共に報告する流れが可視化されていました。約束が着実に守られる経験の積み重ねが、信頼を強固なものにしていきました。
一方で、信頼関係が早期に崩壊したチームでは、正反対の行動が観察されました。最も顕著だったのは、応答の遅延と沈黙です。返信がない状態が続くと、メンバーは無視されているのではと疑念を抱き始めます。テキストだけの対話では、沈黙が悪意の表れとして解釈されやすいのです。
強い断定的な口調や、文化背景を考慮しない直接的すぎる否定、皮肉も信頼を損なう要因でした。加えて、合意なしに独断で作業を進め、事後的に成果物だけを提示する行動は、協力している感覚を覆してしまいます。
この研究から見えてくるのは、バーチャルな環境の信頼が、個人の性格や相性で決まるのではなく、日々の小さな行動の積み重ねによって形成されるという姿です。初期の脆い「仮置きの信頼」は、その後の予測可能で透明性が高く、肯定的な対話が継続することで、本物の信頼へと育っていきます。
オンラインの信頼は、否定的な発言の減少で育つ
先ほどは、予測可能で肯定的なやり取りが信頼を育むことを見ました。そもそもオンラインでの対話は、対面と比べて信頼を築きにくいのでしょうか。ある研究では、学生たちを複数のチームに分け、コミュニケーション手段(対面かチャットか)を様々に組み合わせ、信頼関係が時間とともにどう変化するかを実験的に調べました[2]。
この実験の背景には、二つの対立する考え方がありました。一つは、オンラインでは非言語的な手がかりが抜け落ちるため、配慮が欠け信頼が生まれにくいという見方。もう一つは、時間はかかっても、人はメディアを問わず関係を築こうと努力するため、最終的には対面と遜色ない信頼を築けるという見方です。
実験では、学生たちが3人1組のチームとなり、3週間にわたって株式投資の意思決定課題に取り組みました。この課題は、メンバー全員が同じ銘柄に投資すれば追加利益が得られる一方、個人がチームを裏切ることも可能で、その裏切りは他者にわからないように設計されていました。互いを信頼して協力するか、個人の利益を追求するかが問われる状況でした。
チームは、全3回のミーティングをすべて対面で行うグループ、すべてチャットで行うグループ、途中で手段を切り替えるグループに分けられ、信頼度や協力行動の変化が測定されました。
結果は示唆に富むものでした。最初のセッションでは、予想通り対面チームの方が信頼レベルは高かったものの、3週間後の最終セッションでは、両者の差はほとんどなくなりました。チャットのみで始まったチームの信頼度は、時間をかけて着実に上昇し、最終的に対面チームのレベルに追いついたのです。これは、時間をかければオンラインでも対面と同等の信頼を築ける可能性を示唆しています。
そのプロセスで何が起きていたのでしょうか。研究者たちが対話記録を分析したところ、当初予測していた自己紹介や雑談といった社会的な情報の交換量と、信頼の高まりとの間に関連は見出せませんでした。
関連が見られたのは、意外にも否定的な発言でした。「炎上(フレーミング)」と呼ばれる、からかいや敵対的なコメント、攻撃的な言葉遣いが、信頼レベルと強く結びついていたのです。実験初期、チャットで始まったチームは対面チームに比べ、こうした否定的な発言が明らかに多く観察されました。匿名性が高く相手の反応が見えにくい環境が、攻撃的なコミュニケーションを引き起こしていたと考えられます。
しかし、時間が経つにつれて、チャットチーム内での否定的な発言は著しく減少していきました。この減少と歩調を合わせるように、チームの信頼レベルは上昇しました。オンラインでの信頼醸成の鍵は、肯定的なメッセージを「増やす」こと以上に、否定的な攻撃的メッセージを「減らす」ことにありました。メンバーは、初期の無遠慮なやり取りを経て、次第にオンライン上での適切な振る舞いを学び、互いを尊重する規範を形成していったと解釈できます。
非言語的な手がかりが少ない環境は、確かに初期には無用な衝突を生みやすいかもしれません。しかし、人々は時間をかけてその環境に適応し、互いに傷つけ合わない作法を身につけます。その否定的な行動が減っていく過程が、相手への配慮と尊重の証となり、信頼関係を育む基盤となります。
信頼を媒介して対話が成果に結びつく
予測可能な応答や否定的な発言の抑制が、信頼の醸成につながることが明らかになりました。そのように築かれた信頼は、チームの成果にどのようにつながるのでしょうか。コミュニケーションが直接パフォーマンス向上に結びつくのか、それとも「信頼」が介在するのでしょうか。
ある研究では、グローバルな仮想チームを対象に、コミュニケーション、信頼、個人のパフォーマンス評価の関係性を、社会ネットワーク分析を用いて探求しました[3]。この手法は、個人の属性より、メンバー間の「関係性の構造」に光を当てるものです。
研究者たちは、コミュニケーションと信頼が成果に結びつく仕組みについて三つのモデルを想定し、検証しました。①両者が独立して成果に作用する「加法モデル」、②信頼が高いほど対話が成果につながりやすくなる「相互作用モデル」、③対話がまず信頼を高め、その信頼が成果を向上させる「媒介モデル」です。
研究対象は、アメリカと北欧の学生で構成された仮想チームです。分析にあたり、各メンバーはチーム内の他の全員について、コミュニケーションの頻度と信頼度を評価しました。個人のパフォーマンスも、日々の貢献を最もよく知る同僚からの評価によって測定されました。
データを分析した結果、三つのモデルのうち、「媒介モデル」が最も強く支持されました。これは、コミュニケーションが個人のパフォーマンス評価に直接結びついていたわけではなかったことを意味します。分析で明らかになったのは二段階のプロセスです。まず、頻繁なコミュニケーションが、他者からの「信頼」を高めます。その得られた信頼が、パフォーマンス評価の向上につながっていました。
この結果が示唆するのは、仮想チームにおけるコミュニケーションの価値は、それ自体が直接成果を生むというより、信頼という不可欠な関係資本を築くための手段であるということです。いくら多く発言しても、その対話が相手からの信頼獲得につながらなければ、高い評価には結びつきにくいのです。信頼は、コミュニケーションという行動と、パフォーマンスという結果とを結びつける架橋のような存在だと言えます。
この研究ではもう一つ発見がありました。信頼されていないメンバーがコミュニケーションを増やすと、かえってパフォーマンス評価が低くなる傾向が見られました。これは、その発言がチームの目的に貢献しない「意味のないおしゃべり」と見なされ、否定的に捉えられる可能性を示しています。コミュニケーションは万能薬ではなく、土台となる信頼関係の有無によって、その意味合いが大きく変わってしまうのです。
信頼は対話と行動への意欲を経て成果になる
信頼が、コミュニケーションと成果を結びつける架橋であることが見えてきました。時間が限られ、迅速な対応が求められる緊急事態では、このプロセスはどう機能するのでしょうか。災害対応など、予期せぬ課題に対処するために即席で編成される「迅速応答仮想チーム」は、まさにそのような極限状況に置かれます。
この問いを探るため、ある研究では、迅速応答仮想チームにおける信頼の働きを実験で調べました[4]。研究者たちが注目したのは、「センスメイキング」というプロセスです。これは、予期せぬ混乱した状況に直面した際に、それがどのような状況かを理解し、意味づけを行おうとする活動を指します。
この研究においては、センスメイキングを三つの側面に分けて捉えました。チームの共通理解を形成する「認知的プロセス」、情報共有や議論を行う「言語的プロセス」、行動意欲や計画への貢献を指す「能動的プロセス」です。
実験では、初対面の参加者たちが4人1組で、海での遭難シミュレーション課題に挑みました。船のアイテムを重要度順にランク付けする課題で、途中で残り時間が大幅に短縮され、時間的プレッシャーが加えられました。研究者たちは、初期の「迅速な信頼」が、これら三つのセンスメイキング・プロセスと、最終的なチームのパフォーマンスにどう結びつくのかを検証しました。
分析の結果、初期の信頼は、センスメイキングの三つの側面すべてに強い正の関係があることが確認されました。初期段階で互いを信頼できると、メンバーは状況の共通理解を深め(認知的)、オープンに議論し(言語的)、チームのために貢献しようと決意する(能動的)よう促されることがわかったのです。
しかし、最終的なチームのパフォーマンスに直接結びついていたのは、言語的プロセス(対話)と能動的プロセス(行動への意欲)の二つだけでした。メンバーが頭の中で共通の理解を持つこと自体は、パフォーマンスを直接高めることにはつながりませんでした。
この結果は、強い時間的プレッシャー下におけるチームワークの本質を浮き彫りにします。そのような状況で成果を出すには、限られた時間でいかに効率的に情報を交換し議論するか、固まった方針に全員がコミットし、一貫した行動を取れるかがパフォーマンスを左右するのです。
この研究が描くメカニズムはこうです。即席チームの成功は、初期の迅速な信頼にかかっています。その信頼が、チーム内に活発な対話と、目標に向けた行動への強い意欲を生み出します。最終的に、この二つの動力が組み合わさることで、チームは困難な課題を乗り越え、成果を出せるのです。信頼は、チームを「対話」と「行動」へと突き動かす原動力となります。
脚注
[1] Jarvenpaa, S. L., Knoll, K., and Leidner, D. E. (1998). Is anybody out there? Antecedents of trust in global virtual teams. Journal of Management Information Systems, 14(4), 29-64.
[2] Wilson, J. M., Straus, S. G., and McEvily, B. (2006). All in due time: The development of trust in computer-mediated and face-to-face teams. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 99, 16-33.
[3] Sarker, S., Ahuja, M., Sarker, S., and Hove-Kirkeby, S. (2011). The role of communication and trust in global virtual teams: A social network perspective. Journal of Management Information Systems, 28(1), 273-310.
[4] Yu, X., Shen, Y., and Khazanchi, D. (2021). Swift trust and sensemaking in fast response virtual teams. Journal of Computer Information Systems, 62(7), 1-16.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

