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コラム

職場の駆け引きを読み解く:組織政治の三次元モデル

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会社という組織で働く中で、私たちは日々の業務をこなす能力だけでなく、周囲との関係を円滑に保つための「立ち回り」や「処世術」といったものを意識することがあります。誰しも一度は、実力だけでは乗り越えられない壁や、人間関係の力学が物事の行方を左右する場面に遭遇した経験があるかもしれません。このような組織内での駆け引きや根回し、力関係をめぐる個人の振る舞いは、しばしば「組織政治」という言葉で語られます。

「政治」と聞くと、どこかネガティブで、避けるべきものという印象を抱く人もいるかもしれません。派閥争いや足の引っ張り合いといったイメージが先行しがちです。しかし、組織に属する一人ひとりの視点に立てば、それは自らのキャリアを守り、目標を達成するための現実的な戦略であるのかもしれません。あるいは、組織をより良い方向に動かすための非公式な手段として機能している側面もあるかもしれません。

本コラムでは、そうした組織における個人の政治的な振る舞いに焦点を当てます。いくつかの研究を手がかりに、一個人がとる行動が、その人のキャリアや満足度にどのような形で結びついていくのかを多角的に掘り下げていきます。どのような振る舞いが成功につながりやすいのか、そもそも組織内での政治行動にはどのような種類があるのか、人々が「この職場は政治的だ」と感じる時、そこでは何が起きているのでしょうか。複雑で時に不可解に見える組織内の人間模様を、少し違った角度から眺めるための、一つの視点を提供できれば幸いです。

キャリアの政治では上司への取り入りが成功しやすい

組織で働く個人がキャリアにおける成功をつかむためには、専門的なスキルや知識、仕事への情熱が不可欠であると、一般的に考えられています。しかし、それだけで全ての物事が決まるわけではないことも、多くの人が経験的に知っているのではないでしょうか。とりわけ、評価や昇進の決定権を握る上司との関係は、キャリアの行方を左右する要素となり得ます。ここでは、上司に対する振る舞いが個人の成功にどのように関わっているのかを、ある実証研究を通して見ていきます[1]

これまでキャリアの成功要因を探る研究の多くは、個人の学歴や職務経験といった人的資本、あるいは勤勉さといった動機づけの側面に光を当ててきました。しかし、組織内での非公式な働きかけ、すなわち政治的な振る舞いがキャリア全体にどのような結果をもたらすかについては、直接的な検証が十分に行われてきませんでした。この点に着目し、個人の「影響戦術」がキャリアの成功とどう結びつくのかを正面から調査した研究があります。

この研究では、組織内での個人の影響戦術を、大きく二つの種類に分けて考えています。一つは「上司焦点戦術」と呼ばれるもので、これは上司の機嫌をとったり、意見に同意したりすることで、相手からの好意を引き出そうとする「取り入り」の行動です。もう一つは「仕事焦点戦術」で、自らの業績を周囲に知らせたり、成功の功績が自分にあることをアピールしたりする「自己宣伝」の行動です。

これらの行動がなぜ異なる結果を生む可能性があるのか、その背景には心理的な仕組みが想定されています。取り入り行動は、人間関係における「好意の返報性」に基づいています。相手から好かれれば、自分も相手を好きになりやすく、その結果として肯定的な評価につながりやすいという考え方です。一方で、自己宣伝は、自身の有能さをアピールする試みですが、そのやり方によっては、周囲から脅威と見なされたり、協調性がないと判断されたりして、かえって反感を買い、好感度を下げてしまう危険性も伴います。

この仮説を検証するために、研究者たちは二つの大学の卒業生、合計で873名を対象としたアンケート調査を実施しました。調査対象者の平均年齢は約35歳で、様々な業界や職種で働く人々が含まれています。調査では、彼ら彼女らが職場でどの程度「取り入り」行動や「自己宣伝」行動を行っているかを尋ねました。同時に、キャリアの成功についても測定しました。

ここで興味深いのは、成功を二つの側面から捉えている点です。一つは給与額や昇進回数といった客観的な指標で測られる「外在的成功」、もう一つは仕事や人生に対する満足度といった主観的な感覚である「内在的成功」です。分析にあたっては、学歴、性別、労働時間、勤続年数といった、キャリアに結びつきうる他の多くの要因を統計的にコントロールし、影響戦術の働きを純粋に評価しようと試みています。

分析の結果、仮説を支持する内容が確認されました。上司の意見に賛同したり、上司を褒めたりする「上司焦点戦術」、すなわち「取り入り」行動は、給与や昇進といった外在的成功、そして仕事や人生の満足度という内在的成功の両方と、プラスの関係にあることが分かりました。これとは対照的に、自身の業績をアピールする「仕事焦点戦術」、すなわち「自己宣伝」行動は、外在的成功と内在的成功の両方に対して、マイナスの関係にありました。

この結果が意味するところを考えてみましょう。組織における評価や昇進といった意思決定の場面では、客観的な業績だけでなく、決定権者である上司の主観的な感情、要するに部下に対する「好感度」が、無視できない形で判断に織り込まれている可能性がうかがえます。取り入り行動は、この好感度を直接的に高めることで、キャリアにとって有利な結果を引き出しているのかもしれません。

一方で、自己をアピールする行動は、たとえそれが事実に基づいていたとしても、過度に行うと周囲との調和を乱す存在と見なされ、結果として自身の評価を下げてしまうという、意図せざる結果を招くことがあるようです。このことは、組織内での成功が、単なる業務遂行能力だけでなく、対人関係を構築するスキルにも支えられている現実を浮き彫りにしています。

個人の政治行動は、内外・垂直・正当性という3次元で整理できる

先ほどは、上司への「取り入り」や「自己宣伝」といった特定の行動が、個人のキャリアに異なる結末をもたらす可能性を見てきました。しかし、これらは組織の中で観察される無数の政治的振る舞いの一例に過ぎません。同僚との駆け引き、派閥の形成、意図的な業務の妨害、あるいは組織の不正を外部に告発する行為まで、その種類は多岐にわたります。こうした混沌として見える様々な行動を、私たちはどのように理解し、整理すればよいのでしょうか。

ここでは、個人の政治行動を分類するための、いわば「地図」や「ものさし」となるような枠組みを紹介します[2]

そもそも、何をもって「政治的行動」と呼ぶのでしょうか。ある研究では、個人の政治的行動を「組織における役割の一部として要求されているわけではないが、組織内での有利・不利の配分に影響を与える、あるいは与えようとする活動」と定義しています。これは、公式な職務として定められた日常業務とは一線を画す、個人の裁量で行われる自発的な働きかけを指します。この定義に基づき、多種多様な行動を整理するために、三つの次元が提案されました。

第一の次元は「内的ー外的」という区別です。これは、政治的行動が組織の内部資源のみを利用して行われるか、それとも組織の境界を越えて外部の力を借りようとするか、という軸です。例えば、組織内の同僚と協力関係を築いたり、根回しをしたりするのは「内的行動」です。

これに対し、組織内の問題を解決するために規制当局に訴え出たり、メディアに情報をリークしたりするのは、外部の機関や人物を巻き込む「外的行動」に分類されます。一般的に、組織内で力の弱い立場にある個人は、内部の手段だけでは目的を達成しにくいと感じた際に、外部の力に頼るという選択をしやすいと考えられます。

第二の次元は「垂直ー水平」です。これは、行動が組織の階層構造の中で誰に向けられているかを示す軸です。自身の直属の上司や部下、あるいはさらにその上の役員など、階層的に異なるレベルの相手に対して行われる行動が「垂直的行動」です。上司に不平を申し立てる、指示系統を無視して上層部に直訴するといった行為がこれにあたります。一方、職務上の地位が同等である同僚に対して行われるのが「水平的行動」で、同僚同士で派閥を形成したり、互いに恩恵を交換したりする行為が含まれます。

第三の次元は「正当ー非正当」です。これは、その行動が、組織の中で暗黙のうちに認められている「ゲームのルール」の範囲内で行われるか、それともそのルールから逸脱しているかという軸です。公式なルールではありませんが、組織のメンバーの間で「よくあることだ」「あの程度なら許容範囲だ」と広く受け入れられている非公式な行動は「正当な行動」と見なされます。例えば、派閥を作ることや、有力な上司の後ろ盾を求めるといった行為です。

それに対して、組織の存続そのものを脅かしかねないような、あるいは倫理的に問題があると見なされる過激な行動は「非正当な行動」とされます。脅迫やサボタージュなどがその例でしょう。組織への忠誠心が高い人は正当な行動を選びやすく、逆に組織から疎外されていると感じている人は、失うものが少ないため非正当な行動に踏み切りやすいと予測されます。

これら三つの次元を組み合わせることで、個人の政治行動を立体的に捉えることが可能になります。例えば、上司への直接の不平申し立ては「正当・内的・垂直」な行動、同僚との派閥形成は「正当・内的・水平」な行動、メディアへの告発は「非正当・外的・垂直」な行動、というように分類できます。この枠組みは、私たちが職場で目にする様々な個人の振る舞いが、どのような性質を持っているのかを理解するための、一つの視点を提供してくれます。

防衛的な政治行動は、組織政治の知覚がもたらす悪影響を強める

皆さんは、自分の職場の雰囲気について、「ここでは本音では話せない」「何かと駆け引きや根回しが必要で、気を遣う」と感じた経験はないでしょうか。このように、個人が「この職場は政治的だ」と感じる度合いは「組織政治の知覚」と呼ばれます。ルールの運用が不透明であったり、評価の基準が曖昧であったり、資源の配分が一部の有力者の意向で決まっているように感じられたりすると、従業員はこの「政治の知覚」を強く抱くようになります。このような知覚は、働く人々の心理や行動にどのような結末をもたらすのでしょうか。

従来の研究では、「職場が政治的だ」という知覚が、従業員の仕事に対する満足度を下げ、ストレスを高め、最終的には離職へとつながる、という一連の流れが示されてきました。しかし、このプロセスにおいて、従業員が実際にとる「政治的行動」がどのような働きをしているのかは、必ずしも明確ではありませんでした。この点に光を当てるため、「政治の知覚」と「政治的行動」、仕事への満足度などの心理的なアウトカムとの関係を包括的に検証した研究があります[3]

この研究は、多様な職種で働く260名のフルタイム従業員を対象に、質問紙調査を行いました。調査では、彼ら彼女らがどの程度自分の職場を政治的だと感じているか(政治の知覚)を測定するとともに、彼ら彼女らが実際にどのような政治的行動をとっているかを尋ねました。

この研究で焦点が当てられたのは、責任を回避しようとしたり、自分の身を守るために意に沿わない相手に表面的に同調したり、意図的に情報を抱え込んだりするといった、「反応的・防衛的」な政治行動です。これらの知覚や行動が、仕事の満足度、仕事に関する不安、離職を考える度合いとどう関連しているのかが分析されました。

分析から得られた発見の中で印象的なのは、防衛的な政治行動が果たしていた役割です。分析の結果、「職場が政治的だ」と強く感じている人の中でも、責任回避や保身といった防衛的な行動を頻繁にとっている人ほど、仕事への満足度が低く、仕事への不安や会社を辞めたいという気持ちが高まることが明らかになりました。これは、防衛的な政治行動が、政治の知覚がもたらすネガティブな心理的帰結を、さらに「増幅」させる働きをしていたことを意味します。

そもそも何が従業員に「職場は政治的だ」と感じさせているのか、その源泉についても分析が行われました。その結果、個人の性格特性や、組織全体の構造的な要因よりも、日々の「仕事・職務環境」に関連する要因群、例えば、仕事の役割の曖昧さ、手続きの一貫性の欠如、資源配分の見通しの不透明さなどが、政治の知覚を最も強く規定していることが確認されました。

これらの結果は、組織内で繰り広げられる「負のスパイラル」の存在を浮かび上がらせます。不透明で不公正だと感じられる職場環境は、従業員の間に「この場所は政治的だ」という不信感を醸成します。

この不信感は、従業員を自己防衛的な行動へと駆り立てます。責任を回避し、情報を隠し、本音を言わずにやり過ごす。そうした行動は、短期的には自分自身を守るための合理的な選択かもしれません。しかし、長期的には、周囲からの信頼を失い、同僚との協力関係を蝕み、職場での孤立感を深めていきます。その孤立感が、さらなる仕事への不満や不安を生み出し、職場を去りたいという気持ちを強めていくのです。

管理職は組織政治を必要悪とみなし、キャリアや変革に活用している

これまでの議論では、個人の政治行動を、主にキャリア形成のための戦略や、好ましくない職場環境への反応といった側面から見てきました。しかし、組織の意思決定を担い、チームを率いる管理職の視点に立つと、この「政治」という現象はどのように映るのでしょうか。それは単に避けるべき厄介事なのか、それとも目標を達成し、組織を動かすための現実的な道具として捉えられているのでしょうか。イギリスの管理職を対象に行われたある調査から、その実態に迫ってみましょう[4]

この研究は、公的機関や民間企業など、100を超える多様な組織に所属する250名以上の管理職を対象としたアンケート調査に基づいています。調査の目的は、管理職が日々の業務の中で組織政治をどのように経験し、それをどう認識しているのかを明らかにすることでした。この調査がユニークなのは、研究者があらかじめ用意した定義を押し付けるのではなく、管理職自身の言葉や解釈を通して、彼ら彼女らの主観的な世界を理解しようとするアプローチをとっている点です。

調査結果から見えてきたのは、管理職たちが組織政治を、日常的で避けられない現象として捉えている姿でした。「私の組織は比較的政治から自由である」という意見に同意した管理職は、わずか12%に過ぎませんでした。それどころか、93%もの管理職が「成功したいなら、ほとんどのマネジャーは少なくとも時々政治をプレイしなければならない」と考えており、政治的な立ち回りを職務の自然な一部として認識していることがうかがえます。

倫理観についても興味深い結果が得られています。政治的行動を明確に「非倫理的である」と見なしていたのは、全体の12%という少数派でした。多くの管理職にとって、政治は善悪で割り切れるものではなく、状況に応じて必要となる「必要悪」のようなものとして受け入れられていました。中には、「あなたが私の背中を刺すなら、私もあなたの背中を刺す」といった、冷徹なまでの互恵主義に基づき、目的のためには手段を厭わないという姿勢を示す回答も見られました。

重要なのは、政治が単なるネガティブな現象としてではなく、組織を動かすための実用的なツールとして認識されていた点です。例えば、回答者の多くが「政治は有用な変化イニシアチブを開始し推進するために使用できる」と答え、また、「政治的戦術は変化への抵抗に対処するのに効果的である」と回答しています。これは、公式なルートだけでは進まない改革やプロジェクトを、非公式な根回しや有力者の支持を取り付けるといった政治的戦術によって推進している実態を反映していると考えられます。

同様に、個人のキャリアアップや、自部門への予算や人員といった資源配分を有利に進める上でも、政治的スキルは不可欠なものだと広く認識されていました。

もちろん、全ての政治的戦術が同等に見なされているわけではありません。「有用な人脈を築く」「キープレーヤーを味方につける」といった戦術はごく一般的に用いられている一方で、「偽の噂を流して他者をおとしめる」といった、より破壊的な戦術は比較的稀であることが示されました。

これらの結果を総合すると、管理職にとって組織政治とは、理想論だけでは乗り切れない組織の現実に対処するためのプラグマティックなスキルセットとして位置づけられていることが分かります。公式なルールやプロセス、合理的な議論だけでは動かせない物事を、非公式な交渉や人間関係の力学といった政治的アプローチで補い、組織の目標達成や自己のキャリア形成につなげているのです。

脚注

[1] Judge, T. A., and Bretz, R. D., Jr. (1994). Political influence behavior and career success. Journal of Management, 20(1), 43-65.

[2] Farrell, D., and Petersen, J. C. (1982). Patterns of Political Behavior in Organizations. Academy of Management Review, 7(3), 403-412.

[3] Valle, M., and Perrewe, P. L. (2000). Do politics perceptions relate to political behaviors? Tests of an implicit assumption and expanded model. Human Relations, 53(3), 359-386.

[4] Buchanan, D. A. (2008). You stab my back, I’ll stab yours: Management experience and perceptions of organization political behaviour. British Journal of Management, 19(1), 49-64.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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