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組織はなぜ「正しい」と認められるのか:正統性の三つの顔

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私たちの周りには無数の組織が存在します。ある企業には絶大な信頼を寄せ、その製品を迷わず手に取る一方で、別の組織にはどこか漠然とした不信感を抱き、距離を置いてしまう。この差は、サービスの質や価格だけでは説明がつきません。その背後には、組織が社会から受け入れられている度合い、すなわち「正統性」という、目には見えないながらも強力な力が働いています。

正統性とは具体的に何を指すのでしょうか。それは、組織のあり方や活動が、社会全体の価値観や暗黙のルールに照らして「望ましく、相応しい」と広く認められている状態のことです。法律を遵守しているといった形式的な正しさだけでは、正統性は得られません。もっと深く、人々の心の中にある「こうあるべきだ」という倫理観や、「それが社会の一員として当然だ」という認識に根差した、いわば社会的な「存在許可証」とも言えるでしょう。

この無形のお墨付きは力を持ちます。優れた人材を惹きつけ、顧客のロイヤリティを高め、活動に必要な資金調達を容易にする一方、これがなければ組織は社会からの厳しい視線にさらされ、存続そのものが危うくなります。

しかし、この曖昧にも思える「正しさ」の本質とは何なのでしょうか。一体誰が、どのような基準で、ある組織は「正しく」、別の組織はそうではないと判断しているのでしょう。そして重要な問いは、組織はこの得がたい資産をいかにして手に入れ、育み、そして万が一失ってしまった時に、どうすれば取り戻すことができるのか、という点です。

本コラムでは、これらの問いの答えを探ります。組織の「正統性」という概念の核心に迫った学術的知見を道しるべとしながら、組織と社会が織りなす複雑な関係を見ていきましょう。

正統性は三つに分類でき、戦略的に管理することが可能

組織が社会から「正しい」と認められる状態、すなわち「正統性」は、漠然としたものではなく、その性質によっていくつかの種類に分けて考えられます[1]

第一に、最も直感的に理解しやすいのが「実利的正統性」です。これは、組織の活動が、それを見ている人々自身の直接的な利益にかなうかどうかというプラグマティックな観点からの評価です。例えば、ある企業が提供する製品やサービスが、顧客にとって価格以上の価値をもたらす場合、その企業は実利的な正統性を得ます。

しかし、その範囲は直接的な取引に限りません。組織の意思決定プロセスに地域住民や利用者の声が反映される仕組みがある場合、人々は「自分たちの意見が尊重され、将来的に利益がもたらされるだろう」と期待し、正統性を認めます。「自分たちにとって今、あるいは将来的に得になる存在だ」と認識されることで築かれる信頼関係です。

第二に、より高い次元の評価として「道徳的正統性」があります。これは、目先の利益になるかどうかとは別に、組織の目的、活動内容、その手続きが、社会の価値観や倫理観に照らして「善いことだ」と評価されることから生まれます。例えば、環境保護をミッションに掲げる非営利団体や、出自に関わらず全ての人に公正な採用機会を提供する企業は、この種の正統性が高いと言えるでしょう。

その評価は、組織の構造が社会規範に合っているか(構造的正当性)、活動のプロセスが透明で公正か(手続き的正当性)、生み出される結果が社会全体にとって価値あるものか(結果的正当性)といった、多角的な視点からなされます。専門家や第三者機関による認証や監査は、この道徳的な正しさを裏付ける役割を果たします。

第三に、最も強力なのが「認知的正統性」です。これは、組織の存在や活動様式が、もはや議論の余地なく「当たり前」のものとして社会に受け入れられている状態を指します。その正しさが意識的に問われることすらない、いわば空気のような正統性です。例えば、私たちは「学校」や「病院」という組織形態の是非を日常的に問うことはありません。それらは社会の風景に完全に溶け込んでおり、その存在が自明視されています。

新しいテクノロジー企業が「ITスタートアップ」という既存の分かりやすいカテゴリーに自身を位置づけることで、投資家や社会から迅速に理解を得ようとするのも、この認知的正統性(の入口である「分かりやすさ」)を獲得しようとする試みです。存在が自明と見なされることで、組織は安定した活動基盤を得るのです。

これらの正統性は、単一の「世論」によって一律に判断されるわけではありません。顧客、政府、専門家コミュニティ、地域社会、従業員といった多様な人々(観衆)が、それぞれの立場から異なる種類の正統性を評価します。そのため、組織はどの観衆からの、どの種類の「正しさ」を優先的に確保するのかを戦略的に選択する必要があります。

また、組織のライフサイクル、つまり創業期の「獲得」、安定期の「維持」、危機に陥った際の「修復」という各段階においても、求められるマネジメントは異なります。新しい組織は、社会に理解され、受け入れられることが重要です。安定期には、日々の活動を定型化し、利害関係者との対話を仕組み化することで正統性を維持します。信頼を損なう事態が発生した際には、迅速な説明責任を果たし、再発防止のための構造的な改革を行うことで、失われた正統性の修復を図ることになります。

病院の正統性は多次元で、時代により生存への重要性が変動

先ほどは、組織の正統性が複数の側面を持つことを見ました。この多面的な性質は、現実の組織が厳しい環境で生き残る上で意味を持ちます。社会の仕組みが大きく変化する時代には、組織がどの側面の「正しさ」を磨くべきかが、その運命を左右することさえあります。この点を明らかにするため、病院という組織を長期にわたって追跡した調査があります[2]

この調査は、1945年から1990年にかけてアメリカのサンフランシスコ湾岸地域にある143の病院を対象としました。45年間の存続、あるいは閉鎖や合併に至る軌跡がデータ化されています。分析の核心は、病院の正統性を二つの次元、すなわち診療の質に関わる「技術的正統性」と、組織の管理運営に関わる「経営的正統性」に分けて捉えた点にあります。

この45年間は、アメリカの医療制度が変化した時代でもありました。研究ではこの期間を三つに区分しています。第一期(194565年)は「専門職支配の時代」、第二期(196682年)は政府の関与が拡大した時代、第三期(198390年)は「市場競争の時代」です。

調査では、専門機関からの認証の有無など7つの指標を基に、技術的および経営的正統性のスコアを算出しました。これらのスコアが各時代において病院の存続確率にどう結びついたのかを分析しました。

その結果、明確なパターンが浮かび上がりました。「技術的正統性」は、特に第二期、連邦政府の関与が強まった時代において、病院の存続を後押ししていました。政府が医療費の大きな出どころとなり、公的資金配分を受けるための「お墨付き」として、質の高さが問われるようになったからだと考えられます。

一方、「経営的正統性」は、全ての期間で病院の存続に貢献していましたが、その価値が最も高まったのは、第三期の市場競争の時代でした。他の病院との連携や保険会社との契約が事業の成否を分ける中で、しっかりとした管理運営体制が、信頼できるパートナーとして選ばれる条件となったのでしょう。

この調査から分かることは、組織が生き残るために必要な「正しさ」は一つではないということです。どの「正しさ」が価値を持つかは、その組織を取り巻く社会の制度によって変動します。社会が専門性を評価する時代には技術的な卓越性が、効率性を評価する時代には経営的な健全性が、それぞれ組織の生命線となり得ます。

同型化は正統性を高めるが、評判には必ずしもつながらない

「社会のルールを守っていて安心だ」という評価と、「サービスが他社より優れている」という評価。どちらもポジティブですが、その性質は異なります。前者は社会的な期待に応えているという「正統性」に、後者は他との比較における優位性、すなわち「評判」に関わるものです。この二つは関連しているように見えますが、その成り立ちの論理は同じではありません。

この「正統性」と「評判」の違いを検証した、米国の商業銀行を対象とする調査があります[3]。この調査では二つの概念を、「正統性=社会の一員としての資格を問う評価」「評判=他者との比較に基づく相対的な評価」と整理しました。正統性は「合格・不合格」に近く、評判は点数で序列がつくような性質を持っています。

この違いを明らかにするため、調査では「同型化」という概念を鍵として用いました。同型化とは、組織が業界の多数派と同じような戦略や慣行を採用すること、要するに「横並び」になることです。この同型化や「財務パフォーマンス(業績)」が、正統性と評判にそれぞれどのように結びつくかを分析しました。

分析にあたり、銀行の正統性は、監督当局による資本の健全性評価で測定されました。当局の基準を満たしていれば「正統性が高い」と見なされます。一方、評判は、メディアでの報道の論調を分析することなどで測定されました。

結果は、正統性と評判が異なる論理で動いていることを示しました。「同型化」、つまり業界標準に倣うことは、銀行の正統性を一貫して向上させていました。しかし、評判への結びつきは複雑でした。評判が低い銀行にとっては、標準に合わせることが評判回復の一助となりましたが、既に高い評判を得ている銀行の場合、過度に横並びになることは評判を損なうことにもつながりました。

次に、「財務パフォーマンス」です。業績が良いことは、評判を一貫して高める要因でした。しかし、正統性との関係は異なりました。業績が悪い状態から改善することは正統性を高めましたが、一度健全性の基準をクリアすると、それ以上の業績向上は、正統性をさらに高めませんでした。

このように、「正統性」と「評判」は、同じ要因に反応するとしても、その仕方が異なります。業界の多数派に合わせる「同型化」が、社会的な受容を得るための有効な手段であることが浮かび上がりました。

業界標準に似た戦略は、銀行の規制・社会的正統性を高める

先ほど、組織が業界の「当たり前」に倣う「同型化」が、「正統性」を高める一方で、「評判」には必ずしもつながらないという、二つの概念の異なる動きが見えました。ここでは、「同型化が正統性を高める」という関係に焦点を当てて行われた探求の道のりをたどります。組織が周囲と同じように振る舞うことが、なぜ、そして誰から「正しい」という評価を得ることにつながるのでしょうか。

この問いに答えるべく、再び米国の商業銀行を対象とした調査が行われました[4]。銀行は、政府の厳しい規制と社会からの信頼が不可欠なため、このテーマを検証するには格好の舞台です。調査の目的は、「組織の戦略が同型的であればあるほど、その正統性は高まるのか」という命題を、実証データで確かめることでした。

そのために、調査では正統性を二つの異なる源泉、すなわち「規制当局」と「一般社会」から測定しました。規制当局からの正統性は、当局の財務資本評価や行政措置の有無で測定されます。一般社会からの正統性は、地元の新聞記事が各銀行の活動を支持しているか、疑問を呈しているかで測定されました。

分析の鍵となる「同型化」は、各銀行の戦略が業界全体の平均とどれだけ似ているかで測定されました。具体的には、11項目にわたる資産配分の戦略データを使い、個々の銀行が業界の平均的な戦略からどれだけ離れているかを計算しました。

分析では、銀行の年齢、規模、業績といった他の要素の影響を取り除いた上で、「戦略の同型性」が二つの正統性とどう関連しているかが検証されました。

その結果は、仮説を裏付けました。銀行の戦略が業界平均に近いほど、規制当局による評価は一貫して高く、行政措置を受ける可能性も有意に低かったのです。同様に、同型性の高い銀行ほど、メディアからも好意的に報じられるという関連が確認されました。この関係は、銀行の年齢や規模、業績を考慮しても揺らぐことはありませんでした。

この結果が示すのは、組織が業界の「常識」から逸脱しないことが、それ自体、外部の評価者に対して「この組織は理解可能で、受け入れられる存在だ」という信号を送るということです。こうした背景から、横並びであることが「正しさ」の証として機能すると考えられます。

脚注

[1] Suchman, M. C. (1995). Managing legitimacy: Strategic and institutional approaches. Academy of Management Review, 20(3), 571-610.

[2] Ruef, M., and Scott, W. R. (1998). A multidimensional model of organizational legitimacy: Hospital survival in changing institutional environments. Administrative Science Quarterly, 43(4), 877-904.

[3] Deephouse, D. L., and Carter, S. M. (2005). An examination of differences between organizational legitimacy and organizational reputation. Journal of Management Studies, 42(2), 329-360.

[4] Deephouse, D. L. (1996). Does isomorphism legitimate? Academy of Management Journal, 39(4), 1024-1039.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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