2026年1月15日
「公を思う心」を測る:ボランティアから公務員まで
「公のために働く」と聞くと、どのようなイメージが浮かびますか。安定した職業、社会への貢献、地道な奉仕活動など、人によって思い描く姿は様々でしょう。民間企業が利益を追求するのとは異なり、公的機関や非営利組織で働く人々を動かす力は何なのでしょうか。その問いに答える鍵となる概念が「公共サービスモチベーション(Public Service Motivation;PSM)」です。これは社会に奉仕し、人々の暮らしを支えるという公共的な活動に特有の動機を指します。
しかし、この「やる気」や「志」といった内面的な感覚は目に見えません。個人の心の中にあるものを、どうすれば客観的に捉え、理解できるのでしょうか。本コラムでは、公共サービスモチベーションという「公を思う心」を測定するための尺度を作り上げ、その信頼性を確かめてきた研究の歩みを追いかけます。一つの抽象的な理念が、どのように検証可能な測定ツールへと形作られていったのか。そのツールが異なる人々や文化の中で、同じように機能するのか。人々の内なる動機を理解する奥深さとその測定が持つ可能性について考えます。
PSMは信頼性と妥当性ある多次元尺度で測定可能
人の内面にある「公共サービスモチベーション」という概念を学術的に探究するためには、客観的に測定するための信頼できる「ものさし」が必要です。この課題に取り組んだ初期の研究は、理論的な考察から出発しました[1]。公共サービスモチベーションは、公共政策の形成に関わりたいという「合理的」な動機、公共の利益に貢献したいという「規範的」な動機、他者への共感や思いやりといった「情動的」な動機の三つの源流から成り立つと考えられました。
この理論的背景を基に、研究者たちは具体的な質問項目を作成する作業に着手しました。関連文献を読み解き、六つの側面(政策形成への志向、公共利益へのコミットメント、公民としての義務、 社会的公正、思いやり、自己犠牲)を仮定し、それを測定するための質問文を考案していきました。開発の過程では、慎重な手続きが踏まれました。作成された質問項目の案は、公共経営を学ぶ大学院生の小集団に提示され、意見が反映されました。人は質問に答える際、無意識に「良い答え」を選んでしまうことがあります。この偏りを避けるため、抽象的な問い方ではなく「私」を主語にしたり、肯定的・否定的な質問を混ぜたりする工夫も凝らされました。
このような予備調査を複数回繰り返すことで質問項目は洗練されていき、アメリカの様々な公的機関で働く職員や学生など376名を対象に本格的な調査が実施されます。集められた回答データを分析し、想定していた「六つの側面」という構造がデータの中に存在するか検証されました。分析の結果、当初の六側面からなるモデルはデータにうまく適合しないことが分かりました。そこでモデルを修正する中で、「公共利益へのコミットメント」「公民としての義務」「社会的公正」という三つの側面への回答が、互いに非常に強い関連性を持つことが明らかになりました。これは回答した人々が、これら三つの概念を心の中であまり区別せず、一つのまとまった「公に対する規範的な意識」として捉えていることを意味しています。
この結果に基づき、これら三つの側面は一つの大きな次元に統合されました。この測定尺度は四つの次元(政策形成への志向、公共利益・公民義務、思いやり、自己犠牲)を測定する24個の質問項目から構成される形にまとまりました。この四次元構造のモデルはデータとの適合度が高く、また尺度全体と各次元で回答に一貫性がある(信頼性が高い)ことも確認できました。この研究は、公共サービスモチベーションという目に見えない概念を、信頼性と妥当性のある多次元尺度で測定可能だと実証しました。
PSM測定のための信頼性と妥当性の高い短縮版尺度を開発
先の研究で開発された24項目からなる測定尺度は、公共サービスモチベーション研究における成果でした。しかし、この尺度は実際の調査で用いるには項目数が多いという実用面での課題も抱えていました。大規模調査では回答者の負担を軽くするため、質問項目を絞り込むことが求められます。そこで、元の尺度の信頼性や妥当性を損なうことなく、より短いバージョンを作成できないかという問いが立てられました。
新しい研究は、三つの目的を持っていました[2]。第一に、元の尺度の構造が、別の新しい調査対象者からも同じように確認できるかを検証すること。第二に、統計分析の方法を、よりデータの性質に合った技術的に進んだ手法に更新すること。第三に、これらの検証を通じ、実用性の高い短縮版の尺度を開発することです。
短縮版を作成するにあたり、研究者たちは元の四次元構造ではなく三次元構造を基礎とすることを決定し、「自己犠牲」の次元を除外しました。この判断の背景には二つの理由がありました。一つは、元の研究で三次元と四次元のモデルに統計的な性能差がほとんど見られなかったこと。もう一つは、三次元の方が理論的な源流である三つの動機(合理的、規範的、情動的)と、よりすっきりと対応するという整合性の高さでした。
こうして、「公共政策への魅力」「公共の利益/市民的義務へのコミットメント」「共感」の三次元を測定する10項目の短縮版尺度が提案されました。項目の選定は、元の研究での統計的性能の高さや意味の分かりやすさなどを基準に行われ、専門家の検討も経て慎重に進められました。この短縮版尺度の妥当性を検証するため、全米の州レベルの保健・福祉機関で働く管理職者たちが調査対象となりました。これは先の研究とは異なる、比較的均質な公務員の集団です。性質の異なる集団で同じ結果が得られれば、尺度がより一般的に使えることの証拠となります。
分析の結果、提案された10項目の短縮版尺度は、データ構造をよく説明できることが確認されました。モデルの適合度は高く、元の24項目尺度と比較しても同等かそれ以上でした。また、尺度の信頼性も全体として良好でした。次元間の関連性を詳しく見ると、「公共政策への魅力」と「共感」の二つの次元の間に、統計的に意味のある関連が見られないという発見もありました。これは政策プロセスへの意欲と他者への共感が、同じ枠組みにありながらも互いに独立した側面である可能性を示唆しています。いくつかの項目には改善の余地も分かりましたが、短縮版尺度全体の有効性を揺るがすものではありませんでした。
PSM尺度は模範的ボランティアでも妥当
これまでの研究は、公務員や公共分野を志す学生を対象として、公共サービスモチベーションを測定する尺度の検証を行ってきました。しかし、「公のために尽くす」という精神は、職業として公務に就く人々だけのものではありません。自発的に地域社会や他者のために時間と労力を捧げるボランティア活動にも、その純粋な形が見出せるかもしれません。これまでに開発された尺度は、献身的な活動を行う人々の動機をも、正しく捉えることができるのでしょうか。この問いに答えるため、ある研究では特異な集団を対象とした検証が行われました[3]。
この研究が対象としたのは、「模範的なボランティア」と呼ぶべき人々です。具体的には、アメリカでボランティア活動における功績を称えられ、大統領の名で授与されるような権威ある賞を受賞した経験を持つ人々です。調査に協力した人々は、年間平均で251時間ものボランティア活動に従事しており、これは一般のボランティアの平均時間を大幅に上回るものです。このような公共奉仕の精神を体現する人々を分析対象とすることで、尺度が極めて高いレベルの動機を測定する際にも有効に機能するかを試しました。
研究では、既存尺度の中から「自己犠牲」「共感」「公共の利益へのコミットメント」という三つの次元を測定する12の項目が用いられました。前の研究では除外された「自己犠牲」の次元が、ここでは再び検証の対象に含まれている点が特徴的です。模範的なボランティアは、この自己犠牲の精神が特に強いと想定されるため、この次元の測定は必要と判断されました。
分析の結果、この三次元からなるモデルは、模範的ボランティアの回答データをよく説明できることが分かりました。モデルの適合度は高い値を示し、尺度の構造的な妥当性が裏付けられます。測定の信頼性も高い水準にあることが確認されました。先行研究では測定の安定性に課題が見られることもあった「自己犠牲」の次元が、この模範的ボランティアの集団では、安定して測定できたことは注目に値します。
一方で、これまでの研究と同様に、「共感」の次元については、いくつかの課題も残りました。この結果について、研究者たちはサンプルの特性が関係しているのではないかと考察しています。先行研究の対象であった専門職は、業務を遂行するために自身の感情を制御する必要があるかもしれません。それに対して、今回の対象である模範的ボランティアは、そもそも強い共感の念に動かされて活動している人々です。そのため、共感という概念がより明確に、そして一貫性をもって測定された可能性があります。測定の安定性は質問項目の品質だけでなく、測定される人々の特性によっても変わり得ます。
PSMの国際尺度は4次元構造を持つが、文化で意味が異なる
公共サービスモチベーションという概念は、アメリカで生まれ、その測定尺度は主に国内データを基に開発されてきました。しかし、社会に貢献したいという思いは、国や文化を超えて存在する感情なのでしょうか。この問いを探究すべく、公共サービスモチベーションの研究は世界中へと広がっていきました。ところが、アメリカで開発された尺度をそのまま他の国で翻訳して使ってみると、必ずしもうまくいかないケースが散見されるようになりました。国によっては、想定された次元構造が確認できなかったりしたのです。
こうした問題は、本当に国による動機の内容の「文化的な違い」を反映しているのでしょうか。それとも、測定尺度自体が特定の文化的な文脈に依存する「測定の問題」なのでしょうか。この問いに答えるため、12カ国の研究者が協力する大規模な国際共同研究が立ち上げられました[4]。その目的は、特定の国に偏らない、国際的に通用する測定尺度を体系的に開発し、その上で、この尺度が異なる国や文化の間で同じ意味を持つのかを検証することでした。
研究チームは、理論的な枠組みを再構築し、国際的な文脈でも通用するように、従来の四つの次元の定義をより普遍的なものへと洗練させました。例えば、「政策形成への関心」は、より広い「公共的な活動への参加」へと拡張されました。この新たな枠組みに基づき、多国籍の研究者チームが協力して、特定の文化や価値観に依存した表現を避けた質問項目を開発しました。こうして開発された質問票を用い、12カ国の地方自治体職員、合計2868名からデータが収集されました。
分析の中心は「測定不変性」の検証です。これは、ある測定尺度が、異なる集団に対して、同じものを同じように測れているかを統計的に検証する手続きです。検証は段階的に行われ、同じ因子構造が全ての国で成り立つか、各項目と次元の関連性の強さが国を越えて等しいか、などを調べます。
分析の結果、重要な発見がありました。精緻化された16項目からなる四次元の構造は、調査対象となった12カ国すべてにおいて、基本的に成立することが確認されました。これは、公共サービスモチベーションが四つの側面から構成されるという基本的な考え方が、文化を超えてある程度の普遍性を持つことを示します。
しかし、より厳密な検証に進むと、事態は複雑になりました。各質問項目がそれぞれの次元に対して持つ意味の「重み」が、国によって異なっていることが分かりました。要するに「測定不変性」は完全には成立しませんでした。たとえ文化的に近いとされる英語圏3カ国に限定して分析しても、この問題は解消されませんでした。
この結果が意味するのは、公共サービスモチベーションという概念の「大枠」は国際的に共通していても、その「具体的な意味合い」は文化によって異なるということです。例えば「社会の善のために犠牲を払う準備がある」という項目が、個人主義的な文化と集団主義的な文化とで、全く同じ重みを持つとは限らないのです。
したがって、この尺度を用いて単純に国ごとの平均点を比較し、「A国はB国よりも公共サービスへの動機が高い」と結論づけることには慎重でなければなりません。観察された点数の差が、真の動機の差か、測定の仕方のズレに起因するものなのか、区別がつかないからです。この研究は、国際的に利用可能な測定尺度を開発した一方で、文化というフィルターを通して物事を測定する難しさと、一国の知見を他国に適用する際の注意深さを求める洞察を与えてくれました。
脚注
[1] Perry, J. L. (1996). Measuring public service motivation: An assessment of construct reliability and validity. Journal of Public Administration Research and Theory, 6(1), 5-22.
[2] Coursey, D. H., and Pandey, S. K. (2007). Public service motivation measurement: Testing an abridged version of Perry’s proposed scale. Administration & Society, 39(5), 547-568.
[3] Coursey, D. H., Perry, J. L., Brudney, J. L., and Littlepage, L. (2008). Psychometric verification of Perry’s public service motivation instrument: Results for volunteer exemplars. *Review of Public Personnel Administration, 28*(1), 79-90.
[4] Kim, S., Vandenabeele, W., Wright, B. E., Andersen, L. B., Cerase, F. P., Christensen, R. K., Desmarais, C., Koumenta, M., Leisink, P., Liu, B., Palidauskaite, J., Pedersen, L. H., Perry, J. L., Ritz, A., Taylor, J., and De Vivo, P. (2013). Investigating the structure and meaning of public service motivation across populations: Developing an international instrument and addressing issues of measurement invariance. Journal of Public Administration Research and Theory, 23(1), 79-102.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

