ビジネスリサーチラボ

open
読み込み中

コラム

短い会話が信頼を高める:初期信頼から成果へ

コラム

私たちは日々、新しい誰かと出会い、共に何かを成し遂げようとします。近年、働き方が多様化し、プロジェクトごとにチームが組まれたり、一度も顔を合わせたことのない人とオンラインで協働したりする機会が出てきています。このような状況で、私たちの前に立ちはだかるのが、「信頼」という、目には見えないけれど不可欠な要素です。

「信頼」と聞くと、長い年月をかけて育まれる人間的なつながりを思い浮かべるかもしれません。しかし、ビジネスの現場では、そのような時間的な猶予がない場合もあります。私たちは、相手の性格や実績を十分に知らないまま、協力関係をスタートさせなければならないのです。

会ったこともない人を、どうやって信じれば良いのでしょうか。不確かな情報しかない中で、相手に仕事を任せ、協力し合うという決断は、どのように可能になるのでしょうか。この問いは、現代の組織で働く人々にとって、避けては通れないものです。

本コラムでは、こうした「初期信頼」がどのように生まれ、その後の関係性や成果にどう結びついていくのかを、研究知見を紐解きながら探求します。チームが結成された直後の、ほんのわずかな期間のやり取りが、私たちの想像以上に大きな意味を持つこと。第一印象や最初の行動が、その後のチームの運命を方向づけていく、そのプロセスを見ていきましょう。

仮想チームの信頼は、最初の行動の質で決まる

現代の組織では、地理的に離れたメンバーが情報通信技術を駆使して協働する「仮想チーム」が活用されています。時差や文化の違いを乗り越えて協力する彼ら彼女らにとって、信頼の構築は大きな課題です。対面での雑談といった、私たちが普段、関係性を深めるために使っている手段が、そこには存在しないからです。完全に仮想的な環境で、信頼はどのようにして生まれるのでしょうか。

この問いに向き合った一つの研究があります[1]。世界中の大学院生が、異なる国に住むメンバー同士で仮想チームを組み、6週間にわたってオンライン上でのみ協力して、一つのウェブサイトを開発するという課題に取り組みました。研究者たちは、この期間中に交わされたすべてのメールを収集し、プロジェクトの途中と終了後にチーム内の信頼度を測定しました。

電子メールの記録とアンケート結果を分析したところ、信頼度の変化にはいくつかの特徴的なパターンが見られ、そのパターンごとにコミュニケーションのあり方が異なっていました。

例えば、一貫して高い信頼を維持したチームは、プロジェクトの冒頭で活発な自己紹介を行っていました。仕事以外の個人的な情報を交換し、人間的なつながりを築こうとしていたのです。タスクが始まると、互いの貢献に対して具体的で心のこもったフィードバックを行い、問題にも冷静に対処していました。

一方、最初は社交的な雰囲気だったにもかかわらず、時間とともに信頼が低下したチームは、序盤のやり取りから実際のタスク遂行へとスムーズに移行することに失敗していました。誰が何をすべきかが曖昧なまま時間が過ぎたり、一人のメンバーが強引に事を進めようとして他のメンバーの意欲を削いだりする問題が見られました。

これらの分析から浮かび上がってきたのは、仮想チームの信頼が、時間をかけた対人関係の深化によって生まれるものではないということです。むしろ、チーム結成後のごく初期の「行動」を通じて、迅速に形成される性質のものでした。

プロジェクトへの熱意を言葉で伝えること、指示を待たずに自らアイデアを出すこと、他のメンバーからの連絡には迅速かつ実質的な内容で応答すること。こうした一つひとつの行動が、信頼の有無を分けていたのです。特に印象的だったのは、チームが始まってから最初の数回の電子メールのやり取りで生まれたパターンが、その後の6週間全体の活動に持続的な影響を及ぼしていた点です。

このことは、私たちが「信頼」を、既存の関係性から持ち込むのではなく、新しいチームができた瞬間のコミュニケーションを通じて、ゼロから「創造」している可能性を示唆しています。

初期に作られた信頼は後々の判断にも影響する

先ほどは、ごく初期の行動がチーム全体の信頼度を左右する様を見ました。一度形成された第一印象が、後々まで尾を引くことを物語っています。なぜ最初の印象は、これほど根強く残り続けるのでしょうか。ここでは、信頼が私たちの心の中でどのように形作られ、初期の判断がその後の評価にどう作用し続けるのか、そのメカニズムを探ります。

信頼の形成プロセスを、二つの段階に分けて考えた研究があります[2]

一つは、相手に関する具体的な情報をほとんど持たない段階で素早く形成される「スウィフト・トラスト」。これは、相手の所属組織や役職、あるいは自分との共通点といった断片的な手がかりから、「おそらく信頼できるだろう」と推測するプロセスです。もう一つは、相手と実際に関わる中で、その行動に関する知識が蓄積されて築かれる「知識ベースの信頼」。こちらは、相手の能力、言動の誠実さ、チームへの善意といった点を吟味した上で形成される、より合理的な信頼といえます。

二つの信頼がどう移り変わるのかを検証するため、シナリオ実験が行われました。

大学生の参加者は、架空のチームプロジェクトに関するシナリオを読みます。第一段階では、登場人物の学年や専攻といったごく基本的なプロフィールだけが提示され、参加者はこの情報だけを頼りに最初の信頼度(スウィフト・トラスト)を評価します。続く第二段階で、登場人物たちのプロジェクト上のやり取り(会議の議事録など)を読み、彼ら彼女らの具体的な行動に関する知識を得ます。最後の第三段階で、これらの行動情報を踏まえて、再び各登場人物への信頼度(知識ベースの信頼)を評価しました。

分析の結果、信頼形成の二段階プロセスが確認できました。プロジェクトの初期段階、すなわち登場人物の行動を知る前は、参加者自身の「人を信頼しやすいかどうか」という個人的な素質などが、信頼の度合いを左右していました。しかし、登場人物たちの具体的な行動が記された記録を読むと、信頼の判断基準は様変わりしました。この知識ベースの段階では、登場人物の「能力」「誠実性」「善意」に対する認識が信頼度を決定づける要因となり、初期段階で判断の根拠となっていた個人の素質などの作用はほとんど見られなくなったのです。

この結果は、私たちが具体的な行動に関する情報を手に入れると、それまでの曖昧な推測よりも、個人に焦点を当てた、より確かな評価を優先することを示しています。

しかし、この研究の興味深い発見は、ここからでした。分析をさらに進めると、初期のスウィフト・トラストの段階で形成された「この人を信頼しよう」という意志は、その後の知識ベースの段階における信頼の意志にも、統計的に有意な正の作用を及ぼしていたことが明らかになったのです。たとえその根拠の作用は消え去ったとしても、最初に抱いた印象は、まるで「アンカー」のように心に残り、その後の行動情報を解釈する際のフィルターとして働き続けていたということです。

このことは、信頼形成の複雑な一面を物語っています。私たちは、新しい情報を得れば合理的に判断を更新しているつもりでも、実際には、根拠が不確かだったはずの第一印象が、後々の評価にも根強く残り続け、私たちの判断を方向づけています。

信頼を行動で規範に変え、成果へとつなげる

チーム結成直後の行動が信頼の方向性を決定づけ、その初期信頼が後々の判断にも作用し続けることを見てきました。しかし、「このチームならうまくやれそうだ」という漠然とした期待感だけでは十分ではありません。信頼の「芽」を、チーム全体の「規範」という確固たるものに変え、最終的に目に見える成果へとつなげるには、ある種の「行動」が不可欠です。ここでは、信頼が成果へと結実するまでの橋渡しとなるプロセスを解き明かします。

仮想チームの信頼がどうパフォーマンスにつながるのかを解明するため、ある研究者たちは68のグローバル仮想チームを対象とした、8週間にわたる調査を行いました[3]。この研究は、信頼、行動、成果を異なるタイミングで複数回測定しました。

学生たちは41組で、オンライン上での協働だけでビジネスプランを作成する課題に取り組みました。研究者たちは、まず2週目に「初期の信頼」を、中盤の5週目に「規範的行動」を測定しました。この「規範的行動」とは、チームの目標やスケジュールを設定する活動と、チームや個人の進捗状況を確認し合う活動を指します。終了後の8週目に、「後期の信頼」と最終的な「チームパフォーマンス」(提出の適時性とプランの質)を測定しました。

分析の結果、ストーリーが浮かび上がってきました。2週目時点での「初期の信頼」の高さは、それ自体が直接、最終的なチームパフォーマンスを向上させることには結びついていませんでした。初期のポジティブな期待感だけでは、プロジェクトを成功に導くには不十分でした。

初期の信頼は何の役に立っていたのでしょうか。その答えは「規範的行動」との関係にありました。初期の信頼が高かったチームほど、プロジェクトの中盤において、目標設定や進捗確認といった「規範的行動」を活発に行っていました。そして、この「規範的行動」が、後期の信頼を高める推進力となっていました。さらに、この行動によって高められた「後期の信頼」が、最終的にチームパフォーマンスを有意に向上させていました。まとめると、「初期の信頼規範的行動後期の信頼チームパフォーマンス」という連鎖が示されたのです。

この結果が物語るのは、初期信頼が持つ価値です。それ自体が直接的に成果を生み出す魔法の杖なのではなく、チームが具体的なルール作りや進捗管理といった、時には骨の折れる作業にきちんと着手するための「起爆剤」や「潤滑油」として機能するということです。漠然とした「信頼感」を、具体的な「行動規範」へと転換するプロセスを通じて、信頼は検証され、より強固なものへと鍛え上げられます。そして、そのようにして育まれた確かな信頼が、チームを成功へと導きます。

短い会話で、相手を信頼すべきかの判断精度が上がる

これまで、チーム始動後の信頼のダイナミックな変化を追ってきました。しかし、そのすべての物語が始まる大前提として、「誰を、いつ信頼すべきか」という私たち一人ひとりが行う最初の判断が存在します。この判断は、残念ながら常に正しいとは限りません。どうすれば私たちはより正確に、相手が信頼に値するかどうかを見極めることができるのでしょうか。ここでは、信頼の「量」ではなく「質」、すなわち信頼判断の「正確性」という問題に焦点を当てます。

この「信頼の正確性」という問いに取り組んだ一連の研究があります[4]。研究者たちは、過去のやり取りがない状態で迅速に信頼を判断する際に、何がその判断の精度を高めるのかを、三つの実験を通じて検証しました。

最初の実験では、参加者がペアの相手と2分間会話するグループと、一切接触しないグループに分けられ、相手の信頼性を見抜く意思決定ゲームを行いました。結果は明確で、たった2分間会話しただけのグループは、信頼判断の正確性が有意に高かったのです。そのメカニズムを調べたところ、会話が、相手の立場に立って物事を想像する「他者中心の視点取得」を促し、この心の働きが判断の正確性を高めていることが示されました。

二つ目の実験では、この「他者中心の視点取得」を実験的に操作しました。意思決定ゲームの前に、相手の視点に立って短いエッセイを書くよう指示されたグループは、そうでないグループよりも、信頼の判断が有意に正確でした。これは、「他者中心の視点取得」が、信頼の正確性を高める上で原因としての働きを持つことを裏付けています。

最後の実験が核心に迫ります。どのような種類の接触が最も効果的かを特定するため、参加者を「接触なし」「相手の顔写真を見るだけ(視覚的接触のみ)」「顔の見えない音声通話で5分間会話する(言語的接触のみ)」「対面で5分間会話する(両方)」の四つの条件に割り当てました。

結果、信頼の正確性を大幅に高めたのは、「言語的接触」でした。音声通話のグループと対面のグループは、他のグループに比べて判断の正確性が際立って向上しました。音声通話と対面の間に正確性の差は見られず、相手の姿を見るという視覚情報を加えても、声を聞き、言葉を交わすことから得られる効果以上のものはありませんでした。

この一連の研究が教えてくれるのは、相手を信頼すべきかどうかをより賢明に判断するための鍵が、相手の「言葉」を聞き、そして交わすことにあるということです。言葉のやり取りは、私たちが相手の立場や考え方を想像する「他者中心の視点取得」を自然に引き起こします。この心の働きを通じて、私たちは自身の思い込みから距離を置き、より慎重で多角的な状況分析を行うことができるようになり、判断の精度が向上するのです。

脚注

[1] Jarvenpaa, S. L., and Leidner, D. E. (1999). Communication and trust in global virtual teams. Organization Science, 10(6), 791-815.

[2] Robert, L. P., Jr., Dennis, A. R., and Hung, Y. C. (2009). Individual swift trust and knowledge-based trust in face-to-face and virtual team members. Journal of Management Information Systems, 26(2), 241-279.

[3] Crisp, C. B., and Jarvenpaa, S. L. (2013). Swift Trust in Global Virtual Teams: Trusting Beliefs and Normative Actions. Journal of Personnel Psychology, 12(1), 45-56.

[4] Schilke, O., and Huang, L. (2018). Worthy of swift trust? How brief interpersonal contact affects trust accuracy. Journal of Applied Psychology, 103(11), 1181-1197.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

#伊達洋駆

アーカイブ

社内研修(統計分析・組織サーベイ等)
の相談も受け付けています