2026年1月14日
足りないからこそ生まれるもの:雑然の中の創造性
計画通りに物事が進むことは、現代のビジネスシーンにおいて稀なことかもしれません。緻密に練り上げた事業計画も、市場の急変や予期せぬトラブルの前では、時に無力です。潤沢な資金や理想的な人材、完璧な設備が常に揃っているわけでもありません。私たちは、多かれ少なかれ、何かが足りない「制約」の中で仕事に取り組んでいます。このような状況で、私たちはどうすれば道を切り拓いていけるのでしょうか。
その一つの答えのヒントとなるのが、「ブリコラージュ」という考え方です。これは、「ありあわせの道具や材料で、その場にあるものを何とかやりくりして新しいものを作り出す」といった意味合いを持ちます。計画に基づいて設計図通りに作るのではなく、手元にあるものを創造的に組み合わせ、目の前の課題を解決していくプロセスです。
一見すると、その場しのぎで、場当たり的な行動のように思えるかもしれません。しかし、近年の経営学の研究は、このブリコラージュという行動様式が、事業の存続や革新、競争優位の構築に至るまで、深く関わっていることを明らかにしつつあります。計画や理論だけでは乗り越えられない壁に直面したとき、この「やりくり」の知恵が、事業を成功へと導く可能性があるのです。本コラムでは、ブリコラージュが事業にどのような価値をもたらすのかを、学術的な知見を紐解きながら探求していきます。
ブリコラージュは低収益でも長寿命を支える行動様式
事業を立ち上げる起業家と聞くと、どのような人物像を思い浮かべるでしょうか。ある人は革新的な技術で世界を変えようとする野心家を、またある人は伝統的な職人技を黙々と守り続ける求道者をイメージするかもしれません。起業家の行動は一様ではなく、その多様なあり方を理解することは、事業の成功の形を考える上で出発点となります。
アメリカ中西部で行われた研究は、この多様性を捉えるために、丁寧な手法をとりました[1]。研究者たちは、9ヶ月間にわたり、9つの異なる業種で事業を営む23名の起業家を追跡しました。合計で80回を超えるインタビューと70回以上の現場訪問を重ね、一人あたり平均して五時間の時間を費やして、その行動と思考を記録していきました。このデータから、起業家の行動様式を五つの類型に分類しました。
一つ目は、自らの芸術的なビジョンを何よりも優先する「アート」型です。例えば、ライブハウスの経営者は、たとえ売れ筋でなくとも、選曲から映像、空間の雰囲気までを完全に自らの美学で統一することにこだわります。
二つ目は、長年培われてきた仕事の作法と品質に忠実な「クラフト」型です。伝統的な製法でワインを造る醸造家や、古くからの技法を守る装飾鉄工職人などがこれにあたり、作業場は常に手入れが行き届いています。
三つ目は、効率と最適化を徹底的に追求する「エンジニアリング」型です。氷菓子の製造業者は、生産プロセスを科学的に分析して無駄をなくし、工場の規模を拡大させていきます。作業空間は整理整頓されています。
四つ目は、市場の隙間を見つけて素早く利益を上げる「ブローカレッジ」型です。差し押さえ物件や廃金属を安く仕入れて高く売るなど、情報の非対称性を利用して利ざやを稼ぐことに長けています。
五つ目は、本コラムの主題である「ブリコラージュ」型です。このタイプの起業家の仕事場は、しばしば雑然としています。オートバイの修理工は、廃車から取り外した古い部品やスクラップの山の中から、必要なものを見つけ出して故障したバイクを直します。「動けばよい」が判断基準であり、手元にあるものを何とか組み合わせて問題を解決するのです。
研究者たちは、これらの五つの行動様式が、事業の成果とどのように結びつくのかを分析しました。その結果、金銭的な業績、すなわち収益性の高さという点では、「エンジニアリング」型と「ブローカレッジ」型が優れていることが分かりました。市場の変化に素早く対応し、効率化や情報戦で利益を最大化するスタイルが、高い収益に結びついていたのです。
一方で、「ブリコラージュ」型の金銭的業績は、総じて低い水準にありました。しかし、別の尺度、すなわち事業の「存続年数」に目を向けると、異なる側面が見えてきます。驚くことではありませんが、高い収益を上げていることが、必ずしも事業が長く続くことを保証するわけではありません。そして、ブリコラージュ型の事業は、収益は少なくとも、長く存続する事例が少なくなかったのです。
この結果から考察できるのは、ブリコラージュという行動様式が持つ独自の強みです。手元にあるもので間に合わせるという姿勢は、外部からの借入への依存度を低くし、事業運営にかかる固定費を抑えることにつながります。高価な新品の設備を導入するのではなく、中古品を修理して使ったり、既存のものを転用したりすることで、資金的な弾力性を保つことができます。これによって、売上が伸び悩む苦しい時期を乗り越え、事業を細く長く継続させることが可能になるのかもしれません。
発明と発展への情熱がブリコラージュを促し生存を高める
ブリコラージュが事業の長期存続を支える一つの様式であることは分かりましたが、それでは、何が起業家をそのような行動へと駆り立てるのでしょうか。手元にある限られた資源で粘り強く工夫を続ける、その原動力はどこにあるのでしょう。この問いに答える手がかりは、起業家の内面、特に「情熱」という感情にあるのかもしれません。
フィンランドで実施された調査は、起業家の情熱と、事業の生存との関係性を探ることを目的としました[2]。この調査では、過去に政府の創業助成金を受けた起業家を対象に、オンラインアンケートを行いました。質問項目は、事業が現在も継続しているかという「生存」の確認に加えて、起業家自身の内面を探るものが含まれていました。
この研究の独創的な点は、「起業家の情熱」を一つの塊として捉えるのではなく、三つの異なる側面から測定したことです。一つ目は、新しい製品やサービスを生み出すこと自体に向けられる「発明への情熱」。二つ目は、会社を設立し、創業者であるという自己認識に向けられる「創業への情熱」。三つ目は、事業を成長させ、発展させていくプロセスに向けられる「事業発展への情熱」です。あわせて、手元にある資源を創造的に組み合わせて課題を解決する「ブリコラージュ行動」の度合いも測定しました。
これらのデータを分析した結果、明らかになったのは、三種類の情熱のいずれもが、事業の生存確率を直接的に高めるわけではなかったという事実です。情熱を持っているというだけでは、事業が生き残りやすくなるわけではないということです。
しかし、分析をさらに進めると、ブリコラージュという行動が、この関係を解き明かす鍵であることが分かってきました。ブリコラージュを頻繁に行っている起業家ほど、事業の生存確率が高いという直接的な関係が確認されたのです。そして、ここからが本質的な部分ですが、「発明への情熱」と「事業発展への情熱」が強い起業家ほど、ブリコラージュ行動をより多くとるという関連も明らかになりました。
これらの結果を統合すると、一つのプロセスが浮かび上がります。新しいものを生み出したい、事業を前に進めたいという強い情熱が、起業家を「手元にあるもので何とかしよう」というブリコラージュ行動へと駆り立てます。そして、その具体的な行動が事業の生存確率を高める、という間接的な経路です。情熱は、ブリコラージュという行動を媒介として、初めて事業の存続という成果に結びつくのでしょう。なお、「創業への情熱」については、ブリコラージュ行動との間に有意な関連は見られませんでした。
この研究は、ブリコラージュの背後にある心理的なメカニズムの一端を解き明かしています。資源が限られている創業初期において、その制約を乗り越える力は、合理的な計算から生まれるだけではありません。新しい価値を創造したい、この事業を何としても育て上げたいという、起業家の自己と深く結びついたポジティブな感情が、創造的な工夫と粘り強さを引き出し、資金の枯渇といった厳しい現実を乗り越えるための行動へと転換されます。ブリコラージュとは、情熱が形になった実践知であると捉えることもできます。
探索志向は機会認識とブリコラージュでイノベーションを促す
起業家の情熱がブリコラージュを介して事業の生存を支えることを見てきました。しかし、ブリコラージュの価値は、生き残るための守りの手段にとどまるものではありません。それは、事業を成長させ、新たな価値を生み出す「イノベーション」の源泉ともなり得ます。企業の戦略的な方向性と、現場の実践であるブリコラージュが結びつくとき、どのような化学反応が起きるのでしょうか。
この問いを探求するために、中国の山東省と陝西省に拠点を置く企業を対象とした調査が行われました[3]。研究者たちは、企業の経営者に直接対面して聞き取りを行い、その戦略的な「志向」と具体的な「行動」、成果としての「ビジネスモデル・イノベーション」との関係を調べました。
この研究で中心的な概念となったのが、「探索志向」です。これは、既存の事業領域や知識に安住するのではなく、新しい市場や技術、代替案を探し求め、リスクを恐れずに実験を試みようとする企業の戦略的な姿勢を指します。一般的に、このような姿勢はイノベーションにとって不可欠だと考えられています。
研究者たちが立てた仮説の核心は、この「探索志向」という姿勢が、それ自体で直接イノベーションを生み出すわけではなく、二つの具体的な「行動」を媒介として成果に結びつくのではないかというものでした。その二つの行動とは、「機会認識」と「アントレプレナー的ブリコラージュ」です。
機会認識とは、顧客のニーズの変化や新しい技術の登場、規制の変更といった環境の変化の中に、事業のチャンスを見出す行為を指します。そしてブリコラージュは、これまで見てきたように、手元にある資源を創造的に再結合し、新たな目的のために活用する行為です。
分析の結果は、この仮説を裏付けるものでした。「探索志向」が強い企業ほど、「ビジネスモデル・イノベーション」を達成している度合いが高いという関係が確認されました。しかし、その関係の多くは、二つの媒介行動によって説明されることが分かったのです。
具体的には、「探索志向」が強い企業は、市場や技術の変化から新たな機会を見つけ出す「機会認識」の能力が高く、同時に、手元にある資源を工夫して使いこなす「ブリコラージュ」を頻繁に行っていました。そして、この「機会認識」と「ブリコラージュ」という二つの行動が、それぞれ独立して「ビジネスモデル・イノベーション」の達成度を高めていました。
この一連の連鎖から、イノベーションが生まれるプロセスを解像度高く理解することができます。
企業が「新しいことに挑戦しよう」という探索志向を掲げるだけでは、それは掛け声に終わってしまいます。その志向が、まず現場のアンテナを鋭敏にし、環境の変化から「ここにチャンスがあるかもしれない」という機会の芽を見つけ出す行動を促します。次いで、その見出した機会を形にするために、「手元にあるこの技術と、あの部署で使われなくなった設備を組み合わせれば、何か新しい価値を提供できるのではないか」といったブリコラージュの実践が行われます。
この「志向」から「認識」、そして「実践」へと至る一連の流れが組み合わさって、ビジネスモデルの革新という成果がもたらされます。
ブリコラージュが分散学習を束ね競争優位を生む
これまで、個々の起業家や企業のレベルでブリコラージュがもたらす価値を見てきました。それでは、視点をさらに引き上げ、一つの産業全体が形作られていくような、より大きなスケールのプロセスにおいて、ブリコラージュはどのような働きをするのでしょうか。技術革新の歴史を紐解くと、ブリコラージュが国全体の競争優位を築く上で、中心的な機能を果たした事例を見出すことができます。
風力発電タービン産業の発展史を、デンマークとアメリカ合衆国で比較分析した研究は、このダイナミズムを描き出しています[4]。1980年代から2000年にかけて、デンマークの企業が世界の風力発電市場で圧倒的なシェアを獲得するに至った一方で、技術先進国であったはずのアメリカは伸び悩みました。この対照的な結果の背景には、技術開発に対するアプローチの違いがありました。
アメリカがとったのは、「ブレイクスルー」を目指すアプローチでした。航空宇宙工学などの最先端理論を応用し、軽量で高効率なタービンを一気に開発することで、市場を席巻しようとしました。理想的な設計図を描き、大きな飛躍を狙う戦略です。
しかし、このアプローチはいくつかの困難に直面しました。設計と生産の現場が分離しており、現場で発生した故障や問題が設計にフィードバックされにくい構造になっていました。また、政府の補助金政策が急に始まって急に終わるなど、断続的であったため、技術がじっくりと成熟していくための時間が与えられませんでした。研究機関も、現場のニーズとは少し離れた理想的な高性能機の研究に傾斜し、多様な関係者間での知識の共有や学習の連鎖が生まれにくかったのです。
それに対してデンマークがとったのは、「ブリコラージュ」的なアプローチでした。その出発点は、理論的に洗練されたものではなく、むしろ素朴で、重く、低速で、しかし頑丈な設計でした。大工や機械工といった現場の職人たちが、身近な材料や技術をやりくりしながら試作品を作り、実際に稼働させて問題が出れば、その都度改良を加えていくというプロセスを繰り返しました。スケールアップも小刻みで、一つの段階で得られた知見を、次の設計に確実に反映させていきました。
このデンマークの強みは、一つの組織の力というよりも、社会全体に張り巡らされた学習のネットワークにありました。設計者や生産者だけでなく、タービンを実際に購入して運用する農家などのユーザー、性能を客観的に評価する試験機関、安定した成長を支える政府の政策。これら多様な主体が、それぞれの立場で関与し、相互に学び合っていました。
例えば、ユーザーである風車所有者の協会が、安全性向上のために二重ブレーキの設置をメーカーに要求したり、各モデルの信頼性に関するデータを公開して健全な競争を促したりしました。試験機関は、現場で起きている問題に寄り添いながら、メーカーやユーザーと対話を重ねて試験基準を作り上げていきました。
このように、デンマークでは、社会の様々な場所に「分散」していた知見や経験が、ブリコラージュ的な試行錯誤のプロセスを通じて、自然と「束ねられて」いきました。設計現場での学び、使用現場での学び、評価機関での学びが結節し、一つの大きな知識のうねりを生み出したのです。それは、一人の天才による発明ではなく、多くの人々の地道な「やりくり」の積み重ねが生んだ、集合的な成果でした。
脚注
[1] Stinchfield, B. T., Nelson, R. E., and Wood, M. S. (2013). Learning From Levi-Strauss’ Legacy: Art, Craft, Engineering, Bricolage, and Brokerage in Entrepreneurship. Entrepreneurship Theory and Practice, 37, 889-921.
[2] Stenholm, P., and Renko, M. (2016). Passionate bricoleurs and new venture survival. Journal of Business Venturing, 31(5), 595-611.
[3] Guo, H., Su, Z., and Ahlstrom, D. (2016). Business model innovation: The effects of exploratory orientation, opportunity recognition, and entrepreneurial bricolage in an emerging economy. Asia Pacific Journal of Management, 33(2), 533-549.
[4] Garud, R., and Karnoe, P. (2003). Bricolage versus breakthrough: Distributed and embedded agency in technology entrepreneurship. Research Policy, 32, 277-300.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

