ビジネスリサーチラボ

open
読み込み中

コラム

職場の問題行動、原因は「個人の性格」だけなのか:研究が解き明かす、行動が生まれるメカニズム

コラム

職場において、私たちは時として、望ましくない行動に遭遇することがあります。約束の時間に間に合わない、決められた手順を守らない、あるいは同僚に対して心ない言葉を投げかける。こうした行動は、一つひとつは些細なことに見えるかもしれません。しかし、積み重なることで組織全体の生産性を下げ、人間関係を損ない、健全な職場環境を蝕んでいくことがあります。これらの行動を総称して「非生産的職務行動」と呼ぶことができます。

こうした行動は、どうして起こるのでしょうか。ある特定の個人の「性格が悪い」からなのでしょうか。それとも、職場環境に何か問題があるのでしょうか。多くの人は、その両方が関係しているだろうと直感的に考えるかもしれません。

しかし、個人の内面的な特性と、職場という環境的な要因は、具体的にどのように絡み合い、私たちの行動として現れるのでしょうか。個人の持つ心のブレーキは、どのような状況で効き、あるいは効かなくなってしまうのでしょう。そして、職場における「公正さ」の欠如は、人の心にどのような波紋を広げ、行動を駆り立てるのでしょうか。

本コラムでは、これらの問いに対して、いくつかの学術的な知見を道しるべとしながら掘り下げていきます。個人の内面で働く力と、職場環境が織りなす力学を解きほぐすことで、非生産的職務行動という現象の背後にあるメカニズムを理解することを目指します。特定の誰かを責めるのではなく、その行動が生まれる構造に目を向けることで、私たちは職場における人間行動について深い洞察を得ることができるはずです。

自己統制という内なるブレーキ

職場で見られる様々な非生産的職務行動、例えば盗難、意図的な仕事の遅延、同僚への攻撃的な態度などは、一見するとそれぞれ全く異なる性質を持つように思えます。しかし、これらの多様な行動を一つの大きな枠組みで捉え、その根底に共通する要因を探ろうとする試みがあります。この視点に立つと、個々の行動の背後にある、より本質的な人間の心の働きが見えてくるかもしれません。

ドイツの製造業と小売業で働く人々を対象に行われた調査は、この点に関して示唆に富む結果を明らかにしました[1]。この調査では、参加者に匿名の質問紙に回答してもらう形で、過去一年間にどのような非生産的職務行動をどのくらいの頻度で行ったかを尋ねました。同時に、個人の性格特性や、職場環境に関する認識も測定しています。

ここで特に光が当てられたのが、「自己統制」という個人の内面的な特性です。自己統制とは、目先の欲求や衝動を抑え、長期的な視点に立って自分の行動を律する能力を指します。この調査のユニークな点は、自己統制を、仕事とは直接関係のない日常的な行動の積み重ねから測定したことです。これによって、個人の行動様式としての自己統制の力が評価されました。

分析の結果、数多く測定された個人の特性や職場環境の要因の中で、この自己統制の力が、非生産的職務行動の発生を予測する上で、特に強い関連性を持つことがわかりました。スリルを求める性格、不公正な扱いを受けているという感覚、仕事上のストレスといった他の要因も、単独で見れば非生産的職務行動と関連がありました。

しかし、分析に自己統制の要素を加えると、これらの要因が持つ独自の説明力はほとんど見られなくなりました。これは、多くの非生産的職務行動の根底には、「衝動を抑え、長期的な不利益を避けられるかどうか」という、自己統制の個人差が関わっていることを物語っています。

ただし、自己統制の働きは、常に一定というわけではありません。その力の発揮の仕方は、置かれた状況によって変化します。この調査では、二つの興味深い相互作用が確認されました。

一つは、「機会」との関係です。職場における監視の目が緩やかであったり、問題行動に対する罰則が不明確であったりする環境、要するに非生産的職務行動を実行しやすい「機会」がある状況では、自己統制の力が低い人ほど、行動に走りやすいという関係が強まりました。自己統制という内的なブレーキが弱い人は、外的なブレーキである監視や規範が緩むと、より逸脱しやすくなるのです。

もう一つは、「きっかけ」との関係です。仕事で不公正な扱いを受けたり、強いフラストレーションを感じたりといった、問題行動の引き金となりうる「きっかけ」が存在する場合、その影響は自己統制の力が低い人に特に顕著に現れました。自己統制の力が高い人は、たとえ不満な出来事があっても、それを非生産的な行動に結びつけることは少ないのに対し、自己統制の力が低い人は、そうしたきっかけに直接的に反応してしまう傾向が見られました。

このように、個人の内面に備わった自己統制というブレーキが、非生産的職務行動を抑制する上で中心的な働きを担っていることが見えてきました。しかし、そのブレーキの効き具合は、監視の緩さといった「機会」や、不満な出来事という「きっかけ」によって左右されるという構造も同時に明らかになったのです。個人の特性だけで行動のすべてを説明することはできず、状況との相互作用の中で理解する必要があることがわかります。

行動の裏にある「心の対処」という側面

組織にとって望ましくない非生産的職務行動は、単純に「悪いこと」として片付けられるべきものなのでしょうか。行動を起こした本人に焦点を当てたとき、その行動が何らかの機能、例えばストレスを和らげるための「心の防衛反応」として働いている可能性はないのでしょうか。一見すると非生産的な行動が、実は個人にとっての「対処」としての一面を持つかもしれないという視点は、この問題をより深く理解する上で大切です。

この可能性を探るために、アメリカの多様な業種で働く人々を対象としたオンライン調査が行われました[2]。この調査では、従業員が職場でどれだけ公正に扱われていると感じているか(報酬の公平さや、意思決定プロセスの透明性など)、そして、その結果としてどれほどの「情緒的な消耗感」を抱えているかが測定されました。情緒的な消耗感とは、仕事を通じて精神的に疲れ果て、意欲を失ってしまった状態を指します。

これらと並行して、「生産逸脱」(わざとゆっくり仕事をする、手順を無視するなど)や「離脱」(理由なく遅刻する、必要以上に長い休憩をとるなど)といった非生産的職務行動の頻度も調べられました。

分析から確認されたのは、職場で公正な扱いを受けていないと感じる人ほど、情緒的な消耗感が高いという関係です。これは直感的にも理解しやすい結果でしょう。しかし、この調査の真骨頂はここからです。生産逸脱や離脱といった行動を頻繁に行っている人々に限ってみると、「公正さが低いほど、情緒的消耗感が高まる」という結びつきが、著しく弱まることがわかったのです。言い換えれば、これらの非生産的職務行動が、不公正な職場環境がもたらす精神的なダメージを和らげる、一種の緩衝材のような働きをしていたのです。

このメカニズムはどのように解釈できるでしょうか。「離脱」行動について考えてみます。長い休憩を取ったり、職場から早く立ち去ったりすることは、ストレスの原因となっている状況から物理的、心理的に距離を置くことにつながります。これによって、一時的にでも精神的な緊張を解き、感情的な均衡を取り戻すことができるのかもしれません。これは、ストレスの多い状況に直面したときに、その場から離れて冷静さを取り戻そうとする、ごく自然な感情調整のプロセスと見なすことができます。

続いて、「生産逸脱」行動です。特に、自分の働きに見合った報酬が得られていない(分配的な公正さが低い)と感じている場合、意図的に仕事のペースを落としたり、努力を差し控えたりすることは、本人にとって「帳尻を合わせる」行為として意味を持つ可能性があります。不当に搾取されているという感覚に対して、自らの投入する資源(労力)を減らすことで、心のバランスシートを均衡させようとする試みと解釈できるかもしれません。不公正さから生じる無力感や憤りが軽減され、情緒的な消耗が抑えられるというわけです。

この調査は、非生産的職務行動が、組織への害という側面だけでなく、個人のストレス対処という側面も持ち合わせていることを実証的に示しました。行動の引き金として「不公正さ」があり、それによって生じた心の消耗を、本人は非生産的な行動によって和らげようとしている、という構図です。

公正さが和らげる性格のリスク

個人の性格が、非生産的職務行動に結びつくことがあるのは事実です。しかし、採用の段階ですべての性格特性を見抜くことは困難ですし、一度組織の一員となった従業員の性格を後から変えることは容易ではありません。この現実的な制約を踏まえたとき、私たちはどのような視点を持つべきでしょうか。一つの答えは、個人の性格を変えようとするのではなく、性格が行動へと結びつくプロセスに介入すること、要するに、職場環境を整えることで、性格的なリスクが顕在化するのを和らげるというアプローチです。

このアプローチの有効性を検証するために、タイの様々な組織で働く1600人以上の従業員を対象とした調査が実施されました[3]。この調査では、個人の主要な性格特性であるビッグファイブ(誠実性、協調性、外向性、神経症傾向、開放性)と自尊感情が測定されました。これと同時に、職場で経験する「組織的公正」の度合いも尋ねています。

組織的公正は三つの側面に分けて捉えられました。一つは、給与や評価といった結果の公平さである「分配的公正」。二つ目は、意思決定プロセスの公平さである「手続き的公正」。三つ目は、上司や同僚から敬意をもって丁寧に扱われているかという対人関係の質を問う「相互作用的公正」です。これらの要因が、最終的に非生産的職務行動にどう結びつくのかが分析されました。

まず、基本的な関係として、性格特性が非生産的職務行動を予測する力を持つことが改めて確認されました。特に、「誠実性」や「協調性」が低い人、そして「自尊感情」が低い人ほど、非生産的職務行動をとりやすいという関係が見られました。これは、これまでの知見とも一致する結果です。

しかし、この調査の核心は、組織的公正がこれらの関係性をどのように変化させるかを検証した点にあります。分析の結果、分配的公正と相互作用的公正の両方が、性格特性と非生産的職務行動の結びつきを弱める「緩衝材」として機能することが明らかになったのです。たとえ性格的に非生産的職務行動のリスクが高い人であっても、公正だと感じられる職場環境にいれば、その行動が抑制されるという構図です。

この緩衝効果は、特に「相互作用的公正」において最も強く現れました。上司から丁寧な説明を受けたり、同僚から尊重されていると感じたりする経験は、個人の性格的な弱さが問題行動へと直結するのを防ぐ上で、とりわけ大きな力を持つようです。日々のコミュニケーションにおける人間的な配慮が、組織の健全性を保つ上で基盤となることを、この結果は物語っています。報酬や昇進といった「分配的公正」も、幅広い性格特性に対して緩衝効果を持っており、処遇の公平性を担保することの価値を裏付けています。

一方で、この調査では「手続き的公正」、つまりルールやプロセスの公平さそのものには、非生産的職務行動を直接的に減らす効果も、性格との関連を弱める緩衝効果も見られませんでした。このことから、少なくともこの調査に参加した人々にとっては、ルールがどうなっているかということ自体よりも、その結果として自分が何を得たのか、そして人としてどのように扱われたのかという点が、日々の行動を決める上でより切実な問題であったのかもしれません。

性格、満足度、行動の標的

非生産的職務行動と一括りに言っても、その矛先は様々です。同僚の陰口を言う、顧客に失礼な態度をとるといった「対人」に向けられる行動もあれば、会社の備品を勝手に持ち帰る、意図的に仕事を怠けるといった「組織」に向けられる行動もあります。個人の性格特性は、これら異なる標的に向けられた行動と、それぞれどのように結びついているのでしょうか。その心のメカニズムを解き明かすことは、人間行動の複雑さを理解する上で有用です。

この問いに答えるため、アメリカの大手ファストフードチェーンで働く従業員を対象とした調査が行われました[4]。この調査の特徴は、従業員本人による自己評価だけでなく、彼ら彼女らの直属の上司にも、部下の非生産的職務行動について評価を求めた点です。これによって、一つの視点に偏らない、多角的なデータが得られました。調査では、個人の性格特性、仕事に対する満足度、そして「対人向け」と「組織向け」の二種類の非生産的職務行動が測定されました。

分析の結果、性格が行動に結びつくプロセスは、単純な一直線ではないことがわかりました。そこには、性格が「仕事への満足度」という感情的なフィルターを通して行動に結びつく「間接的なルート」と、性格が直接的に行動に結びつく「直接的なルート」の両方が存在する、という構造が浮かび上がってきたのです。これを「部分媒介モデル」と呼びます。

このモデルを詳しく見ていくと、性格特性ごとに、行動への結びつき方が異なることが判明しました。「協調性」は、その名の通り、他者との関係性を円滑に保とうとする特性です。協調性の低い人は、他者への配慮が欠けがちになるため、主に対人向けの非生産的職務行動(同僚への嫌がらせなど)に直接的に結びつきやすいという、非常に分かりやすい関係が見られました。

それだけではありません。協調性の高い人は、職場での人間関係が良好であるためか、仕事への満足度も高くなる傾向があります。そして、高められた満足度は、組織向けの非生産的職務行動を減らす方向にも働きました。協調性は、対人行動には直接的に、組織行動には満足度を介して間接的に、という二つの異なる経路で非生産的行動を抑制していたのです。

一方、「誠実性」は、ルールを守り、責任感を持って物事に取り組む特性です。誠実性の低い人は、規範を軽視したり、努力を怠ったりしがちです。そのため、主に組織向けの非生産的職務行動(規則違反や仕事の手抜きなど)に直接的に結びつくという、こちらも明確な関係が確認されました。興味深いことに、誠実性と対人向けの行動との間には、強い直接的な結びつきは見られませんでした。

このように、協調性は対人関係の問題に、誠実性は組織のルールやタスク遂行の問題に、それぞれ特異的に関わっていることが明らかになりました。性格特性と非生産的職務行動の関係は、標的によって異なる「得意分野」があるのです。

また、自己評価と上司評価を比較することで、別の側面も見えてきました。上司は、部下が同僚と口論しているといった対人向けの行動は比較的観察しやすい一方で、こっそりと長い休憩を取っているような組織向けの行動は気づきにくいものです。そのため、上司の評価に基づいた分析では、組織向けの行動と性格との関連は、自己評価に基づく分析よりも弱く算出されました。これは、非生産的職務行動の種類によって「見えやすさ」が異なることを示しており、この問題を捉える際の多角的な視点の必要性を教えてくれます。

脚注

[1] Marcus, B., and Schuler, H. (2004). Antecedents of counterproductive behavior at work: A general perspective. Journal of Applied Psychology, 89(4), 647-660.

[2] Krischer, M. M., Penney, L. M., and Hunter, E. M. (2010). Can counterproductive work behaviors be productive? CWB as emotion-focused coping. Journal of Occupational Health Psychology, 15(2), 154-166.

[3] Chang, K., and Smithikrai, C. (2010). Counterproductive behaviour at work: An investigation into reduction strategies. The International Journal of Human Resource Management, 21(8), 1272-1288.

[4] Mount, M. K., Ilies, R., and Johnson, E. (2006). Relationship of personality traits and counterproductive work behaviors: The mediating effects of job satisfaction. Personnel Psychology, 59(3), 591-622.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

#伊達洋駆

アーカイブ

社内研修(統計分析・組織サーベイ等)
の相談も受け付けています