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コラム

知と技の協奏:ハイブリッド・インテリジェンスの可能性

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AI技術の進化が加速するなか、多くの企業では業務効率化や判断支援を目的とした導入が進んでいます。しかし、現実のビジネス環境は、常に不確実性や多様な価値観、文脈依存の複雑さに満ちており、単独の技術的判断では対処しきれない場面が少なくありません。

たとえば戦略策定やイノベーション創出、顧客対応といった創造的なタスクでは、AIの定量的な処理能力だけでなく、人間の直感や経験、共感力が求められます。こうした状況の中で、AIと人間の協働によって意思決定の質を高めようとする動きが注目を集めています。

このような背景から関心が高まっているのが、「ハイブリッド・インテリジェンス(Hybrid Intelligence)」という概念です。本コラムでは、このハイブリッド・インテリジェンスという新たな知のかたちについて、近年発表された複数の学術研究をもとに掘り下げていきます。

具体的には、人間とAIの相互補完による知能拡張、判断の自動化における協働の実態、集合知との融合による集団意思決定の革新という観点で解説します。そして、スタートアップ評価やマネジメント設計における応用事例など、多角的な視点からその可能性を探っていきます。

単なる技術トレンドではなく、経営や組織運営に本質的な変化をもたらし得る知見として、ハイブリッド・インテリジェンスがどのように実務へとつながるのかを考察していきます。

複雑な意思決定に有効なハイブリッド・インテリジェンス

「ハイブリッド・インテリジェンス」とは、AIの得意とする分析的知性と、人間の持つ直感的・文脈的知性を組み合わせ、相互補完的に知的作業を行うというアプローチです。従来の「AIが人間を支援する」「人間がAIを訓練する」といった一方向的な関係ではなく、双方が学び合い、進化し合う双方向的な関係性が特徴です。

たとえば、AIが生成した分析に対して人間が解釈を加え、さらにそのフィードバックをAIが学習する、といった協働プロセスがこれにあたります。マーケティング施策の立案において、AIが膨大な消費者データから行動パターンを分類し、その結果をたたき台に、人間が社会的トレンドや文化的背景を踏まえたより説得力のある戦略を再学習させる、といったケースが考えられます。

最初に紹介する研究は、ドイツ・カッセル大学とスイス・ザンクトガレン大学の研究チームが実施したもので、人工知能(AI)と人間の知能を組み合わせたハイブリッド・インテリジェンスの可能性を明らかにすることを目的としています[1]。調査は理論的枠組みと既存研究の統合に基づき、AIが実社会のビジネス課題にどのように活用できるか、特に人間とAIの協働による意思決定の高度化に焦点を当てています。

研究によって明らかになったのは、AIと人間の知能は得意とする領域が異なり、相互補完的であるという点です。例えば、AIは大量のデータを処理して一貫性のある予測を行うことに優れている一方で、人間は柔軟性や直感、共感力といった非定型な状況での判断に長けています。

研究では、AIは得意な分析力を、そして人間は直感や状況を読む力を発揮することで、より正確で柔軟な判断ができるとされています。ハイブリッド・インテリジェンスは、人間がAIを助けたりAIが人間を支えるだけでなく、お互いに学び合いながら進化していく関係に特長があります。

つまり、AIが人間から学び、人間もAIのアウトプットから新たな知見を得るという双方向性が特徴です。たとえば囲碁AIAlphaGo」は人間の打ち手を学びながら、逆にプロ棋士に新たな打ち方を示し、人間の知能を拡張する役割も果たしました。

この知見は、ビジネスパーソンにとっても示唆に富んでいます。戦略的意思決定やイノベーション創出といった高度な課題では、人間の経験や直感だけでは限界があります。一方でAIも、現実の曖昧さや価値観の判断には対応しきれません。そこで、意思決定のプロセスを人間とAIで分担し、人間が仮説を立てAIがその妥当性を検証するような協働が、有効に機能すると考えられます。

マネジメントにおいても、この考え方は応用が期待されます。たとえば、組織内の専門家による意思決定をAIが支援し、再現性と透明性のある判断を可能にすることは、ガバナンス強化や属人性の排除につながります。また、AIが学習したパターンを活用して新人教育を行うことで、暗黙知の継承が促進され、組織知の底上げが期待されます。

さらに、ハイブリッド・インテリジェンスを導入する際には、「信頼の設計」も欠かせません。過度にAIに依存せず、人間の関与を前提とした意思決定設計を行うことで、業務の安全性や説明責任が担保されます。ユーザーインターフェースとユーザー体験の設計や、AIの判断根拠が理解できる仕組みづくりも重要です。

このように、ハイブリッド・インテリジェンスは、AI導入を進める企業にとって、単なる効率化にとどまらず、創造性と判断力を補完し合う「新しい知のかたち」として、有用な概念です。今後は、部門横断での活用や、学習を通じて進化する人材育成・ナレッジマネジメントといった領域への展開も期待されます。

人間とAIの相互補完による知能拡張

前章で見たような実務的な応用の視点に加えて、本章では人間とAIの知的特性の違いやその協調のあり方を探っていきます。次に紹介する研究は、アメリカ・ノースカロライナ大学とノルウェー・BI経営大学の研究者らによって行われ、ハイブリッド・インテリジェンスの概念を探究しています。

この研究では理論的考察を中心に、AIと人間の知的特性の違いを比較した上で、両者がいかに協調的に機能するかを論じています[2]。調査の結果、AIは特定のタスクにおける高精度な処理や分析に長けており、人間は直感的・創造的な判断やあいまいな文脈への対応が得意であることが明らかとなりました。

言い換えるならば、人間は、経験に基づいた暗黙知(言語化が困難な知識)を駆使して意思決定を行うことに優れ、一方でAIは膨大なデータからの規則性抽出や高速な処理に優れているのです。これらの特性は競合するものではなく、むしろ補完関係にあります。

さらにこの研究では、この相互補完関係を基盤に、前章の研究よりも踏み込んで「相互強化(Mutual Augmentation)」という考え方が提示されました。具体的には、AIは人間の知的能力を拡張するツールとして機能し、人間もまたAIの学習や意思決定過程に貢献する役割を果たすというものです。

たとえば、AIによる予測モデルは意思決定を支援する一方、専門家はその結果を精査し、文脈を読み解いて最終的な判断に反映させます。これはニュースアプリなどで、AIがユーザーの嗜好に合わせた記事を選定し、編集者がその内容を社会的影響や倫理的観点から調整するような例にも表れています。

このようなハイブリッド・インテリジェンスの考え方は、実務にも多くの含意を持ちます。特に、判断が複雑で一意に定まらないビジネス領域においては、人間とAIがチームとして協働する仕組みが有用です。AIに計算やパターン認識を任せる一方で、人間が目標の調整や利害関係者との折衝を担うといった役割分担は、意思決定の質とスピードの双方を向上させる可能性があります。

マネジメントへの応用としては、意思決定支援システムにおける人間とAIのインターフェース設計が鍵となります。たとえば、意思決定の根拠をわかりやすく可視化するダッシュボードや、ユーザーがAIの判断基準にアクセスできる仕組みは、信頼性の向上に寄与します。また、AIの出力に対してフィードバックを与える仕組みを整備することで、AIシステム自体も継続的に学習し、より有効な支援が可能となります。

さらに、企業のナレッジマネジメントにおいても、ハイブリッド・インテリジェンスは有効に機能します。AIが膨大な社内文書やデータを整理・検索しやすい形に構造化することで、従業員は必要な情報にアクセスでき、人間はその情報を基に新しい発想や戦略的意思決定を行うことができます。こうした役割分担は、知識の「蓄積」と「活用」を循環させ、組織全体の学習能力を高める仕組みにつながります。

判断の自動化をめぐる協働の可能性

こうした理論的枠組みや実務的示唆を踏まえ、次に紹介する研究では、実際に組織の現場で、AIの活用に対するビジネスパーソンの認識を調査した研究を紹介します。具体的には、人間とAIの役割分担や判断の委譲がどのように捉えられているのかに焦点を当てています。

この研究は、AIによる意思決定の自動化に対する意思決定者の認識と、実務上でどのような対応がとられているのかを明らかにすることを目的としています[3]。オランダ・デルフト工科大学の研究チームによって実施されたものです。調査は、様々な業界の実務家22名に対するインタビューを用いて行われ、AIの導入における人間の役割、判断の委譲範囲、そしてハイブリッド・インテリジェンスの実態について深掘りされています。

調査の結果、意思決定の完全自動化は現実には限定的であり、多くの組織ではAIを補助的に活用しながら人間の判断を組み合わせる形で意思決定が行われているという知見が得られました。

特に、倫理的判断や曖昧な状況の解釈を含む場面では、人間の関与が不可欠とされており、AIはあくまで分析的・事務的な処理を担う立場にあることが示されています。このような補完関係は、単なる機械による自動化ではなく、人間とAIが協働するハイブリッド・インテリジェンスの重要性を示しています。

実務で特に重要なのは、AIを導入するときに「どの業務をAIに任せ、どの判断を人間が行うか」を決める際、その最適な分け方が状況や業務の背景によって大きく変わるという点です。

たとえば、契約の初期スクリーニングや財務報告のチェックといったルーティン作業はAIによる処理が有効である一方、顧客との関係性構築やイレギュラーな事象への対応では、人間の柔軟な判断が求められます。また、AIの導入によって「人間が判断すべきこと」がより可視化され、業務設計や職務分担の見直しにもつながるという声も多く聞かれました。

マネジメントの観点からは、AI導入における「判断権限の設計」が経営における優先課題の一つになります。意思決定プロセスを部分的にAIに委ねる場合でも、最終的な判断責任を誰が負うのか、どのように判断が導かれたかを説明できる体制を整備することが信頼性の確保に直結します。

また、業務プロセスにおいて人間とAIがどのように「対話」できるか、すなわちAIの出力がどのように人間の理解や判断を補助するかを設計することが、導入の成否を左右します。

この研究は、ハイブリッド・インテリジェンスを単なる技術の話にとどめず、組織の判断構造や責任分担に関わる課題として捉えています。人間とAIの協働によって、業務の質と速度を両立させると同時に、判断の透明性や説明可能性を高めるための工夫が、今後のマネジメント実務においてますます大事になると考えられます。

導入するか否かではなく、「どのように協働するか」という視点が問われる時代において、本研究の知見は多くの示唆を含んでいると言えるでしょう。

集合知とAIが融合する意思決定の新潮流

個人レベルでの人間とAIの役割分担に関する議論を踏まえ、次に紹介する研究では、その視点を拡張しました。特に、複数人による集合知とAIをどのように組み合わせられるかに焦点を当てています。

AIと人間の集合知を統合したハイブリッド・インテリジェンスの概念を整理し、その枠組みを構築することを目的とした研究があります[4]。この研究は、スイスのザンクトガレン大学を中心とした研究チームにより行われたもので、先行文献のレビューと概念構築型の理論的アプローチに基づき、複数人による意思決定とAI技術がどのように協働し得るかについて検討されています。

この研究によって明らかになったのは、ハイブリッド・インテリジェンスの実践において、人間個人とAIの協働だけでなく、「人間の集団」とAIの協働がより高次な意思決定を可能にするという点です。人間の集団が持つ多様な視点や直感的判断力と、AIの分析的処理能力が組み合わさることで、従来の集団意思決定よりも精度・スピード・適応力のすべてを高めることができると指摘されています。

とりわけ重要なのは、AIが単に情報を提供するツールではなく、集団の思考プロセスそのものに影響を与える存在として捉えられている点です。例えば、AIが意見の偏りを検知してバランスを促したり、多数意見に埋もれがちな少数派の視点を可視化するような機能が想定されています。これにより、意思決定の民主性や包括性が強化される可能性があると論じられています。

この知見には、実務における示唆が数多く含まれています。チームでの意思決定場面において、AIが参加メンバーの発言傾向を分析し、会議中にリアルタイムで可視化することで、発言の偏りを是正したり、対話を活性化させる仕掛けが有用です。

マネジメントへの応用としては、AIを「第三の参加者」として意思決定プロセスに組み込む設計が挙げられます。たとえば、意思決定に関与するステークホルダーが多い場合、AIを用いてそれぞれの関心や立場を構造化し、論点の整理や対話の設計に活用することが効果的です。また、ファシリテーターの支援ツールとしてAIを導入し、対話の停滞や過度な同調を検出・修正する仕組みも期待できます。

この研究は、AIを人間の代替と見るのではなく、人間同士の協働をよりよく支える媒介として位置づけています。特に多様性のあるチームや非定型的な課題に対して、コレクティブ・ハイブリッド・インテリジェンスの枠組みは、知識創造と意思決定の新たな可能性を開くものとして注目されます。AIと集合知の融合が、組織の持続的な適応力と創造力を高める支援になるかもしれません。

スタートアップ評価における協働知能の有効性

このように、チームや組織における集合知とAIの協働によって、新たな意思決定の可能性が開かれつつあります。次に紹介する研究では、その枠組みをスタートアップ評価という具体的かつ実践的な領域に適用し、その有効性を検証しています。

AIと人間の専門家が協働するハイブリッド・インテリジェンスによって、アーリーステージのスタートアップの成功可能性をどの程度予測できるかを検証した研究を紹介します[5]

この研究は、スイスのザンクトガレン大学と複数の欧州機関の協働により実施されたものです。対象はヨーロッパで設立されたスタートアップ1,000社以上で、AIによる自動でのスコアリングとベンチャーキャピタル(VC)や起業家による人間の判断を組み合わせる方法が採用されました。

調査の結果、AIのみ、または人間の専門家のみの予測よりも、両者を統合したハイブリッド・インテリジェンスのアプローチの方が、スタートアップの将来の成長可能性をより正確に予測できることが示されました。理由は、AIの強みであるデータに基づく一貫性と人間の強みである状況に応じた柔軟な判断が相互補完的に働いたためです。

AIは特に財務データや市場構造の定量的評価に優れており、一方で人間の専門家は創業チームの能力や戦略の妥当性、事業アイデアの独自性といった定性的な要素を考慮する能力に長けています。この相補性が、予測精度を高める鍵となっています。

実務面では、この結果は投資判断や事業評価の初期段階における意思決定プロセスを高度化する手段として有用です。たとえば、AIが数百件の応募案件を定量的にフィルタリングし、その中から選ばれた有望案件について人間の専門家が深掘り評価を行うようなプロセス設計は、効率と質を両立する方法として期待できます。また、AIが提案する評価結果に対し、専門家がコメントやスコアを付けて再学習を促すような相互強化的な運用も想定されています。

マネジメントの観点からは、意思決定におけるバイアスの緩和と透明性の向上が重要な意義を持ちます。たとえば、人間の判断にありがちな「第一印象の影響」や「先入観による過小評価」を、AIが客観的データをもとに補正する機能が期待されます。反対に、AIが見落としがちな革新的な要素や非定型的な成功の兆しを、人間が拾い上げ補足することで、有望な選択肢や相手を逃すリスクを低減できます。

さらに、意思決定過程においてAIと人間の協働を可視化し、その役割分担や根拠を共有することは、組織内の納得感や説明責任にも寄与します。人材育成の観点では、若手の審査担当者がAIの評価基準を理解することで、より構造的な判断能力を身につける機会にもなります。

この研究は、ハイブリッド・インテリジェンスは、未来を「正解として当てる」ことではなく、「多様な可能性を見出す」力を磨く手段として活用できる可能性を示しています。予測精度を競うのではなく、判断の質と合意形成のプロセスをより良くするツールとしての位置づけが、有効であると考えられます。

ハイブリッド・インテリジェンスの分類と設計視点

最後に紹介する研究では、これまでの知見を統合し、ハイブリッド・インテリジェンスをより体系的に設計するための理論的枠組みが提示されています。ハイブリッド・インテリジェンスの概念を整理し、分類することを目的として、理論的枠組みに基づいた概念分析を行ったものです[6]

この研究では、AIと人間が知的タスクをどのように分担し、協働しているかを分類・定義することで、今後の設計や活用に資する体系的理解を提供しようとしています。具体的には、既存の文献と実例をもとに、ハイブリッド・インテリジェンスを機能別に整理し、4つの主要なカテゴリに分類しています。

調査の結果、ハイブリッド・インテリジェンスは「目的」「能力」「相互作用の方法」「学習と適応」の4つの観点から構造化できることが明らかになりました。

  • 目的の観点:AIが人間を補助する、人間がAIを訓練する、AIと人間が相互に学習する
  • 能力の観点:AIがデータ処理やパターン認識を担う、人間が創造性や倫理的判断を担う、支援型または協働型で相互作用する
  • 相互作用の方法の観点:AIが裏方で静かに支援する、対話型でユーザーと協働する
  • 学習と適応の観点:人間とAIが継続的に進化する

このような整理は、AIの導入や設計を検討する現場にとって実践的な手がかりとなります。たとえば、AIが何を補助するのかを明確にすることで、技術選定や導入範囲の判断がしやすくなります。

マネジメントへの応用としては、組織内でハイブリッド・インテリジェンスを実装する際の役割設計に本研究の分類は有効です。たとえば、ルーティン業務の支援にAIを導入する場合は、業務の効率化のために(「目的」の観点)、AIはデータ処理を行い、人間は意思決定に専念するという分担(「能力」の観点)が適しています。

反対に、アイデア創出や戦略立案などの場面では(「目的」の観点)、AIとの対話を通じて発想を広げるような共同探求型の活用方法(「能力」の観点)が効果的です。

また、本研究で提示された「学習と適応」という観点は、人材育成の設計にも示唆を与えます。人間がAIの挙動を理解し、逆にAIも人間の判断基準を学ぶ仕組みを構築することで、共進化的な成長が期待できます。これは単なる自動化ではなく、「人とAIがともに進化する職場環境」の構築につながります。

この研究は、ハイブリッド・インテリジェンスの全体像を構造的に把握するための土台を提供しており、AIとの協働をより効果的に設計し活用していくための視点として、有用性の高い内容となっています。組織にとっては、AI導入の「なぜ」と「どうやって」に応える羅針盤となる可能性があります。

おわりに

本コラムを通じて見てきたように、ハイブリッド・インテリジェンスは、単なる技術導入の枠を超えた、知的生産と意思決定の新たな枠組みとして注目されています。AIは高精度かつ高速な処理に優れる一方で、文脈判断や価値観の調整といった領域では人間の役割が不可欠です。このような相補的関係を生かすことで、複雑性の高いビジネス環境においても、柔軟かつ再現性のある意思決定が実現しやすくなります。

さらに、ハイブリッド・インテリジェンスの実践には、単なる機能的な役割分担だけでなく、「学び合い」の設計が重要になります。AIが人間の行動や評価を取り込みながら進化する一方で、人間もAIの出力を通じて新たな洞察や判断基準を獲得していくという双方向の関係性は、従来の自動化や支援を超えた価値をもたらします。たとえば、若手人材がAIの判断ロジックに触れることで、構造的思考や分析力を養う機会にもなり得るでしょう。

マネジメントにおいては、判断権限や責任の設計、インターフェースの設計、ナレッジの構造化と継承といった複数の観点から、ハイブリッド・インテリジェンスをどう組織に根づかせるかが問われます。信頼の設計と同時に、人間の創造性や共感力を引き出す土壌づくりも求められるでしょう。

これからの時代、AIは代替手段ではなく、思考のパートナーとして位置づけられていきます。人とAIが共に進化する仕組みをどう築くか。その問いに向き合うことこそが、持続的で創造的な組織づくりの鍵となるのではないでしょうか。 

脚注

[1] Dellermann, D., Ebel, P., Söllner, M., & Leimeister, J. M. (2019). Hybrid intelligence. Business & Information Systems Engineering, 61(5), 637-643.

[2] Jarrahi, M. H., Lutz, C., & Newlands, G. (2022). Artificial intelligence, human intelligence and hybrid intelligence based on mutual augmentation. Big Data & Society, 9(2), 20539517221142824.

[3] Van Der Aalst, W. M. (2021). Hybrid Intelligence: to automate or not to automate, that is the question. International Journal of Information Systems and Project Management, 9(2), 5-20.

[4] Moradi, M., Moradi, M., Bayat, F., & Nadjaran Toosi, A. (2019). Collective hybrid intelligence: towards a conceptual framework. International Journal of Crowd Science, 3(2), 198-220.

[5] Dellermann, D., Lipusch, N., Ebel, P., Popp, K. M., & Leimeister, J. M. (2021). Finding the unicorn: Predicting early stage startup success through a hybrid intelligence method. arXiv preprint arXiv:2105.03360.

[6] Pescetelli, N. (2021). A brief taxonomy of hybrid intelligence. Forecasting, 3(3), 633-643.


執筆者

樋口 知比呂 株式会社ビジネスリサーチラボ コンサルティングフェロー
早稲田大学政治経済学部卒業、カリフォルニア州立大学MBA修了、UCLA HR Certificate取得、立命館大学大学院博士課程修了。博士(人間科学)。国家資格キャリアコンサルタント。ビジネスの第一線で30年間、組織と人に関する実務経験、専門知識で、経営理論を実践してきた人事のプロフェッショナル。通信会社で人事担当者としての経験を積み、その後、コンサルティングファームで人事コンサルタントやシニアマネージャーを務め、さらに銀行で人事部長などの役職を歴任した後、現在はFWD生命にて執行役員兼CHROを務める。ビジネスと学術研究をつなぐ架け橋となることを目指し、実践で役立つアプローチを探求している。

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