ビジネスリサーチラボ

open
読み込み中

コラム

組織はジャズのように変わる:即興が生む日常の革新

コラム

組織の「変革」と聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。経営陣が練り上げた計画のもと、トップダウンで実行される一大イベントとして語られることもあるでしょう。新しい制度の導入や大規模な組織再編。そこには明確な始まりと終わりがあり、変革は「起こす」ものとして捉えられがちです。しかし、私たちが日々働く現場で起きている変化の実態は、本当にそのような予定調和の物語なのでしょうか。

変化は、もっと静かに、絶え間なく、現場のささやかな工夫の積み重ねから生まれているのかもしれません。楽譜のない音楽のように、その場で状況を読み、手持ちの資源を組み合わせ、仲間と呼吸を合わせながら、新しいやり方を生み出していく。本コラムでは、こうした「即興」という視点を通して、組織の変革と学習のダイナミクスを捉え直してみたいと思います。計画通りには進まない現実の中で、人々がどのように創造性を発揮し、組織を内側から変えていくのか。その過程を、具体的な事例や芸術のアナロジーから探っていきます。

組織変革は現場における不断の即興から生じる

組織が変わる瞬間は、計画されたイベントの中にあるとは限りません。日々の業務の中で、現場の人々が目の前の課題に対応するために行う、無数の小さな工夫や調整の連続から、大きな変化が立ち現れることがあります。このことを描き出した、あるソフトウェア企業での調査があります[1]

調査の舞台は、約50名の顧客サポート部門です。仕事は高度な専門知識が求められ、調査開始前は、担当者が各自で案件を抱え、紙のメモを頼りに仕事を進めるのが通例でした。案件の進捗や過去の事例はほとんど共有されず、管理職も仕事のプロセスを把握できない状態でした。

この状況を変えるため、企業は「ITSS」と呼ばれる新しい情報技術システムを導入します。目的は、すべての問い合わせを電子的に記録し、対応の進捗を文書化し、過去の事例を誰もが検索・再利用できるようにすることでした。システムの導入後、2年間にわたって現場を追跡したところ、計画にはなかった5つの連鎖的な変容が観察されました。

第一に、記録と文書化が定着しました。担当者は過去の事例を検索でき、問題解決の時間を短縮できるようになりました。同時に、自分の記録が他者に読まれ、再利用されるという意識が芽生え、分かりやすさや検索しやすさを意識した文書化の規範が自然と形成されていきました。仕事ぶりが可視化されることで、表現を整えるといった一種の印象管理も生まれます。

第二に、仕事の分担が変わりました。全員の進捗が見えるようになると、従来の一人で抱え込むスタイルから、経験の浅い担当者が初期対応し、難しい案件は熟練者に引き継ぐという分業体制が自然発生的に生まれました。これを円滑に進めるため、管理職は案件を適切に再配分する「仲介者」という新しい立場を設け、評価制度もその貢献度を反映するよう更新されていきました。

第三に、協働の仕方が受動的なものから能動的なものへと変わりました。「助けを求められてから動く」のではなく、「他者の案件を覗きに行き、自分に手助けできることを見つけて助言する」という自発的な協力が広がりました。もちろん、むやみに介入しない、記録やメールで助言する、といったオンライン上での礼儀作法も同時に発達しました。

第四に、システムの利用が海外拠点や他部門にも広がると、組織の境界を越えた知識の共有と連携が促されました。ある拠点の工夫が、システムを通じて他の拠点でも参照され、新たな標準として取り入れられていく。現場の小さな即興が組織全体へと波及していきました。

第五の変容は、知識の管理に関するものです。システムに価値ある知識が蓄積されるにつれ、誰がどの情報にアクセスできるべきかという権限の管理や、知識をどう整理・共有するかといった、より高度な運用のルールが実践の中から整備されていきました。

これら五つの変容は、どれも最初から計画されたものではありませんでした。新しい技術を前にした現場の担当者たちが、日々の仕事の中で試行錯誤し、やりやすい方法を即興的に見つけ出し、それが周囲に広まり定着していく。その繰り返しの結果として、仕事の進め方や人々の関係性、組織の仕組みが姿を変えていったのです。

ジャズの即興に倣い、エラーや逸脱から革新を学ぶ

組織の中で生まれる即興的な工夫や学習のメカニズムは、ジャズバンドの演奏に多くの類似点を見出すことができます。ジャズの即興演奏は、天賦の才による気まぐれな音の紡ぎではなく、長年の訓練と仲間との緊密なコミュニケーションに裏打ちされた、高度に知的な活動です。ジャズバンドがどのように一貫性を保ちながら革新的な音楽を生み出すのかを分析した研究は、組織が学び続けるためのヒントを提示してくれます[2]

ジャズの世界では、即興演奏は「訓練された想像力」の産物とされます。演奏家は、音楽理論などの基本ルールを無意識に使いこなせるまで習得し、その上で過去の名演を模倣して膨大な音楽的語彙を蓄積します。学習が進むと、単なる模倣から脱し、蓄えた語彙を応用・変形させることで、自分自身の新しい音楽表現を生み出すようになります。

このようなジャズの即興演奏には、組織学習を考える上で参考になる、いくつかの特徴的な実践が見られます。

一つ目は、自らの習慣を意図的に中断させる姿勢です。ジャズ演奏家は、弾き慣れたパターンに安住したい誘惑と常に戦っています。そこで、あえて得意なパターンを封印するなど自らを未知の状況に追い込み、創造性を刺激します。伝説的なトランペット奏者マイルス・デイヴィスは、バンドメンバーにリハーサルなしでいきなり本番の録音を始めさせることで、安易な習慣に頼ることを許しませんでした。この意図的に作られた混乱状態が、驚異的な創造性を生んだのです。

二つ目は、エラーを学習の源として受け入れる文化です。即興演奏に間違いはつきものですが、ジャズバンドはそれを失敗として処理しません。むしろ音楽的な機会として捉え、創造的に取り込んでいきます。あるコンサートで、ピアニストが明らかに間違った和音を弾いた際、リーダーのデイヴィスは、その不協和音を無視せず、即座に拾い上げてメロディを発展させるきっかけとしました。挑戦的な試みから生じたエラーを学習の機会として評価する姿勢が、人々の挑戦を促します。

三つ目は、最大限の自由を許容する、最小限の構造を持つことです。ジャズの即興演奏は一見無秩序ですが、実際には曲のコード進行といった、シンプルで共有された構造の上で成り立っています。この最低限のルールがあるからこそ、演奏家は安心して自由にアイデアを表現できます。組織においても、企業の理念やビジョンがこの構造にあたり、従業員の自律的な判断と創造性を可能にします。

四つ目に、演奏が本質的にメンバー間の対話であるという点です。各々が互いの音を聴き、次を予測し、自分の演奏を柔軟に適合させていく、高度な共感的能力が欠かせません。このような動的な同期は、静的な組織図ではなく、メンバー間の相互作用の中から秩序が生まれる柔軟な組織のあり方を示します。

五つ目の特徴は、行動が先にあり、その意味は後から見出されるという点です。演奏家は計画を立ててから音を出すわけではありません。まず音を出し、自分が今弾いた音を振り返りながら、それに意味を与え、次の展開を構築します。計画通りに進まない現実の中で、人々は手元の資源を使って即興的に行動し、後からその行動に意味を見出しているのです。

六つ目に、「たむろする」ことの価値です。ジャズの技能は、教則本を読むだけでは身につきません。セッションに参加したり、仲間と語り合ったりする非公式な交流の中で、言葉にできない暗黙知や価値観が共有されます。組織における学習もまた、非公式な「実践共同体」への参加を通じて行われることを物語っています。

最後に、ソリストと伴奏者の役割が交代することです。ジャズバンドでは、メンバーが順番に主役となり、他者はそれを支える伴奏に徹します。優れた伴奏は、ソリストの創造性を引き出します。個人の業績だけでなく、他者の活躍を支える行動を評価する組織文化のあり方を示唆しています。

ジャズの即興のように、曖昧な構造が創造の源となる

組織の「構造」と聞けば、私たちは階層や部門が線で結ばれた組織図を思い浮かべます。しかし、変化の速い現代において、このような固定的で明確な構造は、かえって組織の柔軟性を奪い、現実の仕事の流れを捉えきれなくなりつつあります。

伝統的な構造概念が有効性を失った後に残されるのは、いわば「空虚な空間」です。この空間は、ある人々には不安の源となり、他の人々には何か新しいものを生み出す自由な領域として感じられます。この「空虚な空間」を創造の源泉として捉え直すために、ここでも即興ジャズのメタファーが有効な視点を提供してくれます[3]

ジャズは、一般的に「構造がない」音楽と見なされがちですが、実際には演奏家は構造を巧みに利用しています。彼ら彼女らは構造を、厳格に守るべきルールとしてではなく、創造的な逸脱を促すための参照点として扱います。

ジャズの演奏は、「ヘッド」と呼ばれる、曲の骨格を示す部分的な楽譜に基づいて行われます。ヘッドはコード進行や基本的なメロディといった最小限の情報を提供するだけで、多くの部分が空白です。演奏家たちは、このヘッドを共通の出発点としながら、即興演奏を繰り広げます。

興味深いことに、即興演奏の間、ヘッドそのものは演奏されません。しかし、それは演奏家たちの頭の中では鳴り響いており、内的な基準点として機能し続けます。構造は、明示的に表現されるのではなく、演奏されない「不在」の状態においてこそ、その力を発揮するのです。

このジャズのメタファーを通して、組織構造を三つの新しい側面、「曖昧さ」「感情」「時間性」から描き直すことができます。

第一に、「曖昧な構造」です。組織論では、曖昧さは排除すべき問題点として扱われてきました。しかし、ジャズの視点から見れば、曖昧さは即興的な行動や創造性を引き出す好機となり得ます。例えば、経営陣が意図的に曖昧なビジョンを示すことで、開発チームは多様な解釈をしながらも、一つの目標に向かって団結できます。これはジャズのヘッドのように機能し、多様なアイデアを生み出す土台となります。

第二に、「感情的な構造」です。伝統的な組織論は合理性を重んじるあまり、感情の側面を見過ごしてきました。しかし、ジャズにおける「グルーヴ」や「フィール」は、言葉を介さずに演奏家たちの一体感を生み出します。同様に、組織においても、好き嫌いや信頼感といった感情的なコミュニケーションが、実質的な人間関係を形成し、協働作業を方向づけることがあります。共に活動する中で育まれる親密さが、チームの協調を可能にする基盤となるのです。

第三に、「時間的な構造」です。ジャズの演奏では、ヘッドが曲の始まりと終わりを繋ぎ、過去の名演のフレーズを引用することで、過去の記憶が現在の演奏に呼び込まれます。組織もまた、社内で語り継がれる物語などを通じて、過去の成功体験や価値観を現在に呼び起こします。この組織の記憶は、現在のメンバーの行動を方向づけ、未来への期待を形作ります。組織の時間は、過去・現在・未来が織りなすダイナミックなプロセスとして存在しているのです。

このように、即興ジャズというメタファーは、組織構造を、静的で分析的な対象としてではなく、感覚的で身体的な経験として捉え直すことを促します。構造とは、厳格に規定されたものを守ることだけでなく、規定されていない「空虚な空間」で何が表現できるかを探求するための出発点です。

組織変革の即興は、計画と創発、漸進と断続をつなぐ

組織変革を巡る議論は、これまで二つの大きな対立軸の間で揺れ動いてきました。一つは、変化はゆっくり進む「漸進的」なものか、一気に起こる「断続的」なものか。もう一つは、変化は計画的に進められる「意図的」なものか、現場から自然発生的に生まれる「創発的」なものかという対立です。

しかし、「組織的即興」という概念は、これらの対立する見方を統合する架け橋となる可能性を秘めています。即興とは、その場で構想と実行が結びつく行為であり、計画と創発、蓄積と飛躍が交差する点に位置します。このことを実証的に明らかにした、ある国際的な研究開発プロジェクトの事例研究があります[4]

この調査の対象は、ポルトガル、メキシコ、中国の企業が参加する、金型産業のコンソーシアムです。異なる国や文化、新しい技術という制約の多い環境下で、多国籍チームが新製品開発に取り組みました。このような複雑な状況では、完璧な計画を立てて実行することは不可能です。プロジェクトの進行中、チームは数多くの予期せぬ事態に直面し、その都度、即興的な対応を迫られました。

このプロジェクトの過程を分析した結果、前述の二つの対立軸が、即興を介して統合されている様子が浮かび上がりました。

初めに、「断続」と「漸進」の統合です。プロジェクトでは、日々の局所的な試行錯誤の蓄積(漸進)が、ある特定のイベントをきっかけに、一挙に新しい規範や手順へと結晶化する(断続)という場面が繰り返し観察されました。例えば、大臣が視察に訪れた際のデモンストレーションの最中に、それまでの小さな実験から得られた知見を踏まえつつ、包括的な作業の進め方が初めてその場で確立されました。この新しい規範の成立という「断続」は、それ以前の地道な学習の積み重ねという「漸進」があったからこそ可能になったのです。

続いて、「意図」と「創発」の統合です。ここには二つの方向性がありました。一つは、意図的に創発を誘発する「意図的創発」です。例えば、新しい技術標準を作るという目的(意図)のために実験セッションを設けたところ、その中での即興的なやり取りから、ある重要な機能が偶然発見され(創発)、それが後の標準化の核となりました。

もう一つの方向性は、創発が意図へと昇格する「創発的意図」です。ビデオ会議で通信が混乱した際、あるメンバーが冗談で発言の終わりに「オーバー」と言ったところ、これが非常に便利だと分かり、以降、チームの公式な通信ルール(意図)として定着しました。偶発的に生まれた工夫(創発)が、その後の計画的な運用へと取り込まれていったのです。

この事例は、即興というミクロな実践を通じて、計画と創発、蓄積と飛躍は対立するものではなく、相互に作用し合いながら変化を生み出す、いわばパートナーのような関係にあることを明らかにしました。計画が創発を呼び込むための舞台となり、創発が次の計画の素材となる。この循環的なプロセスこそが、複雑な組織変化の現実の姿なのかもしれません。

脚注

[1] Orlikowski, W. J. (1996). Improvising organizational transformation over time: A situated change perspective. Information Systems Research, 7(1), 63-92.

[2] Barrett, F. J. (1998). Coda-Creativity and improvisation in jazz and organizations: Implications for organizational learning. Organization Science, 9(5), 605-622.

[3] Hatch, M. J. (1999). Exploring the empty spaces of organizing: How improvisational jazz helps redescribe organizational structure. Organization Studies, 20(1), 75-100.

[4] Pina e Cunha, M., and Vieira da Cunha, J. (2003). Organizational improvisation and change: Two syntheses and a filled gap. Journal of Organizational Change Management, 16(2), 169-185.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

#伊達洋駆

アーカイブ

社内研修(統計分析・組織サーベイ等)
の相談も受け付けています