ビジネスリサーチラボ

open
読み込み中

コラム

物語を紡ぎ、未来を拓く:センスギビングが組織のアイデンティティを築く

コラム

なぜ、ある組織は大きな変化の荒波を乗りこなし、より強く成長していく一方で、別の組織は混乱の中で漂流してしまうのでしょうか。その分水嶺は、優れた戦略や潤沢な資金力だけでは説明できません。他にも鍵を握るのは、組織に属する一人ひとりが、目の前で起きている出来事を「自分ごと」として捉え、納得して行動できるかどうか。そして、その納得感を生み出す上で欠かせないのが、リーダーや管理職による「意味」をめぐる働きかけです。

私たちは、予期せぬ出来事や曖昧な状況に直面したとき、無意識のうちに「これは一体どういうことだろう?」と自問し、自分なりに筋の通った解釈を見出そうとします。このプロセスは「センスメイキング」と呼ばれます。しかし、組織が一体となって動くためには、個人の解釈がバラバラではいけません。そこで重要になるのが、他者の解釈に働きかけ、共有された「もっともらしい物語」を紡ぎ出す「センスギビング」という営みです。

本コラムでは、企業の合併、社会貢献、グローバル化といった現代の組織が避けて通れないテーマを切り口に、このセンスギビングが持つ力を探ります。組織のアイデンティティはどのように築かれ、持続的な成長はいかに可能になるのか。いくつかの事例を通して、組織の中で日々繰り広げられる「意味」をめぐるプロセスを検討します。

センスギビングは感情を正転させ統合を支える

組織が経験する変化の中でも、企業の合併・買収は、そこで働く人々にとって大きな出来事と言えるでしょう。昨日まで別の会社だった組織が一つになる。仕事のやり方、文化、人間関係、そして自らのキャリアに至るまで、様々なものが不確かになることを意味します。このような大きな混乱と不安の中で、人々をまとめ、新しい組織としての一歩を踏み出すために、現場の管理職はどのような営みをしているのでしょうか。その答えの鍵は、人々の「感情」への働きかけにあります。

この問いに光を当てる調査があります[1]。大手化学企業が同業他社を買収した後、二つの組織が一つになっていくプロセスを、約5年という長い期間にわたって追いかけたものです。調査チームは、オランダにある拠点に長期間滞在し、会議の様子や休憩中の会話などを観察しました。それに加えて、多くの中間管理職や従業員に話を聞き、社内の公式文書を分析することで、現場で起きていたことを描き出しました。

その記録から見えてきたのは、統合プロセスが時間と共にその様相を変え、その時々で管理職のセンスギビングのあり方も変化していく姿でした。

統合が発表されてから最初の1年ほどは、混乱の極みでした。新しい組織の構造も、自らの役職も、仕事の手順も、何もかもがはっきりしません。従業員だけでなく、中間管理職自身も「自分たちはこれから何者になるのか」という問いを抱え、感情は上下に揺れ動きました。ある管理職は、その状態を「感情のローラーコースター」と表現しています。

この時期、管理職たちは自ら率先して、組織の境界を越えて情報を探し求めました。部下たちにも「分からなければ質問しよう」と呼びかけ、新しい組織の姿を皆で手探りしていく雰囲気を作り出しました。問いかけと対話を通じて、曖昧な状況に共に意味を見出そうとするセンスギビングの一つの形でした。

続く段階では、統合が本格的に動き出したことによる問題が噴出します。情報システムがうまく連携しない、仕事の量が急激に増える、処遇の公平感が揺らぐ。現場には、やり場のない不満や苛立ちが充満し始めました。ここで中間管理職の振る舞いが変化します。彼ら彼女らは、こうした否定的な感情がチーム全体に広がり、業務の遂行を妨げることを理解していました。

そこで、部下たちの前では自らの不安や不満を見せないように努め、感情を抑えて事実を整理し、必要な情報だけを伝えるようになります。チームの動揺を最小限に食い止め、日々の業務を回し続けるためのセンスギビングでした。

最後の段階、今度は従業員の側から、新しいやり方への抵抗がはっきりと現れるようになります。これに対して中間管理職は、再びアプローチを変えました。日々の短いミーティングや一対一の対話の場を設け、部下たちの不満や不安の声を正面から受け止めました。その上で、この統合がもたらす長期的な利点や、個人の成長の機会、達成可能な身近な目標を辛抱強く語り続けました。前向きな言葉遣いや明るい表情、身振り手振りも交えながら、否定的な感情を「やってみよう」という前向きな関与へと転換させようと試みたのです。

この一連のプロセスから浮かび上がってくるのは、センスギビングがただ情報を伝える行為ではないということです。それは、人々の感情を理解し、その流れを読み、ある時は受け流し、ある時は流れの向きを変える繊細な働きかけです。特に、不満や不安といった否定的な感情は、組織にとって単純な障害物ではありません。それは、どこに問題があるのかを知らせるサインであり、それを乗り越えようとする時に、組織を前に進めるエネルギー源にもなり得ます。

中間管理職は、状況に応じて自らの感情の出し入れを調整し、チームの感情を編み直すことで、変化の波を乗りこなし、組織の統合を支えていました。

センスギビングは利益と社会価値を統合して持続性を生む

組織が直面する課題は、内部の統合だけにとどまりません。現代の企業は、社会の一員として、株主のための利益追求と、より良い社会の実現に貢献するという社会的価値の創出、この二つの要請に同時に応えることを期待されています。しかし、この二つは、日々のビジネスの現場では、しばしば対立するものとして現れます。例えば、環境に配慮した素材を使えばコストが上がり、利益を圧迫するかもしれません。あるいは、途上国の生産者を支援する取引は、効率性だけを考えれば最善の選択ではないかもしれません。

このような「あちらを立てればこちらが立たぬ」という状況で、企業はどのように持続可能な道筋を見つけ出していくのでしょうか。ここでもまた、現場を預かる中間管理職によるセンスギビングが重要な働きをします。

利益の論理と社会価値の論理。この二つの異なる価値観の狭間で、中間管理職がどのように組織を導いていくのか。そのプロセスを理論的に描き出した研究があります[2]。それによると、この困難な課題を乗り越えるプロセスは、中間管理職自身が、二つの価値観の「緊張」を自覚するところから始まります。企業の目標として利益を追い求める職務上の立場と、社会の一員としてより良い世界を願う個人としての価値観。その両方を自分の中にもっているからこそ、この矛盾に敏感に気づくことができるのです。

緊張を自覚すると、次に行うのは、その正体を理解しようとする「センスメイキング」の段階です。ここには、不安や戸惑いといった感情と、冷静な思考の両方が関わります。利益を代弁する部署の声、社会価値を訴える人々の声、立場の異なる多様な情報を意図的に集めます。そして、相反する感情を自分の中に抱えながらも、それらをすぐに白黒つけることはしません。二つの要求をいったん切り離してそれぞれの理屈を吟味し、その上で、両者を結びつけ、同時に満たすような新しいやり方はないかと思考を巡らせます。

自らの中で両立への道筋、つまり「もっともらしい物語」が見えてくると、それを組織の内外に伝え、人々を巻き込んでいく「センスギビング」の段階に移ります。この働きかけは、二つの側面から行われます。一つは「言葉」による働きかけです。経理部門にはコスト削減の文脈で、社会貢献部門には理念の実現という文脈で、というように、相手の関心や価値観に合わせて語り口を使い分けます。

あるいは、一つの取り組みが、長期的には企業の評判を高めて利益につながり、同時に社会の問題解決にも貢献する、というように、二つの価値を統合する一つの物語として語ることもあります。

もう一つは「仕組み」による働きかけです。新しい役割分担を決めたり、評価の基準を見直したり、外部のパートナーとの協力体制を再設計したりすることで、利益と社会価値の両立が、個人の頑張りだけに依存するのではなく、組織の構造として支えられるようにします。

このように、センスギビングは、対立する価値観の間に橋を架ける営みです。中間管理職は、利益と社会価値という異なる世界の「言葉」を翻訳し、それらが共存できる新しい意味の世界を構築します。矛盾や対立は、避けるべき問題なのではなく、それを原動力として、組織をより強靭で持続可能な存在へと変貌させるための好機となり得ます。

CSRは企業アイデンティティを築くセンスギビングである

利益と社会価値の統合という課題は、企業の社会的責任、すなわちCSR活動のあり方と結びついています。CSRは、地域社会への寄付や環境保護活動といった形で、多くの企業によって行われています。しかし、これらの活動は、ただの慈善事業なのでしょうか。それとも、企業の存続と成長にとって、もっと深い意味を持つものなのでしょうか。

ここでは視点を変えて、CSR活動が、企業が自らのアイデンティティ、すなわち「我々は何者であり、社会の中でどのような存在でありたいのか」を社会に伝え、形作っていく、戦略的なセンスギビングのプロセスであることを探っていきます。

西アフリカのガーナで進められている、大規模な海底油田の開発プロジェクト。このプロジェクトに関わる欧米のエネルギー企業は、地域社会に対して様々なCSR活動を展開しています。ある研究は、この現場に分け入り、企業の担当者、地域住民、行政関係者、国際機関の職員など、多様な立場の人々にインタビューを行い、CSRをめぐるそれぞれの「語り」を集めました[3]。そこから見えてきたのは、CSRが企業のセンスギビングのための装置として機能している実態でした。

第一に、企業はCSRを通じて、自らのアイデンティティを構築していました。「私たちは、単に利益を追求する石油会社ではない。地域社会と共に歩む、責任ある企業市民なのだ」。企業は、学校の建設や医療設備の寄贈といった活動を喧伝し、政府要人からの称賛を得ることで、この「善き企業」というイメージを社会に広めていきます。

興味深いことに、ある時期から企業は「CSR」という言葉を使うのをやめ、「社会的投資」という言葉に言い換え始めました。これは、無償の奉仕というイメージから距離をとり、地域社会の能力開発に貢献することで、長期的に企業の事業環境を安定させるという、より戦略的な意図を伝えようとするセンスギビングの表れでした。

第二に、CSRは、企業がその地域で事業を行うことへの「社会的許し」を得るための、正統性獲得のプロセスでもありました。目に見える形での貢献は、地域社会の認知を得る上で分かりやすい方法です。しかし、その一方で、地域住民の間からは「企業の支援は、一部の有力者だけを利するものではないか」「実際にどれだけのお金が、何に使われているのか不透明だ」といった声も上がっていました。

このような疑念や対立を乗り越えるために、企業は行政や国際機関とパートナーシップを結び、「公的なお墨付き」を得ることで、自らの活動の正当性を補強しようとします。これは、多様な関係者を巻き込みながら、「我々の活動は、公正で理にかなっている」という物語を社会に浸透させていくセンスギビングです。

第三に、企業はCSRを通じて、地域社会にとって何が「問題」で、誰が「対話すべき相手」なのかという、現実の枠組みを定義していました。企業は、地域住民との対話の場として説明会などを開催します。しかし、実際には、議題の設定、参加者の選定、会議の進行などを企業側が主導することで、議論は自社にとって都合の良い範囲に収斂していくことが少なくありません。

例えば、企業が優先分野として「保健衛生」を掲げると、行政も自らの計画をそれに合わせるようになります。これは、企業がセンスギビングによって、地域社会の関心のあり方を方向づけ、自らのアイデンティティと合致する形で関与のあり方を創り出していくプロセスと言えるのです。

この事例が示すのは、CSRが決して一方的な善行ではないという事実です。それは、企業と社会の間で、「企業のあり方」や「社会の課題」をめぐる意味の交渉が繰り広げられる相互作用の場です。センスギビングを通じて、企業は自らが何者であるかを社会に語りかけ、同時に、自らが活動しやすいように社会の側にも働きかけていく。組織のアイデンティティは、このような社会との対話の中で、築かれていくものです。

非営利のセンスギビングは成果と専門性で資源獲得を導く

これまで営利企業におけるセンスギビングの姿を見てきましたが、この営みは、社会課題の解決を目的とする非営利組織(NPO)にとっても、その存続を左右するほどに意味を持ちます。NPOの多くは、活動の恩恵を受ける人々と、活動を支える資金を提供する人々が一致しません。例えば、子ども食堂の運営資金を寄付する人は、必ずしもその食堂を利用するわけではありません。

このような構造を持つNPOにとって、自らの活動が社会にとっていかに価値あるものなのかを、寄付者や助成財団といった外部の資金提供者に伝え、理解と共感を得ることは、まさに死活問題です。ここでは、NPOが資源を獲得するために、どのようなセンスギビングの戦略を用いているのかを見ていきましょう。

この問いを解き明かすために、ある調査が行われました[4]。アメリカにある数多くのNPOが、寄付者向けの情報開示ウェブサイト上で、自らの組織や活動についてどのように説明しているかを分析したものです。調査チームは、それらの自己記述データと、各組織の財務データを突き合わせることで、どのような「語り方」が、どのような種類の収入(個人からの寄付、政府からの助成金、事業収入など)に結びついているのかを明らかにしました。

その分析の結果、NPOが用いるセンスギビングの戦略は、大きく三つのタイプに分けられることがわかりました。

一つ目は、「プロフェッショナリズム」を強調する戦略です。これは、組織の運営がいかに専門的で、規律正しく行われているかをアピールする語り口です。例えば、公認会計士による監査を受けていることや、詳細な年次報告書を作成していることなどを前面に出し、組織の信頼性や透明性の高さを伝えます。

二つ目は、「アウトカム」を重視する戦略です。これは、活動の「結果」として、社会にどのような良い変化を生み出したのかを、具体的な証拠と共に示すことに力点を置きます。例えば、「私たちの教育プログラムに参加した子どもの読解力が、1年間で平均15%向上しました」というように、活動の成果を数値や指標で可視化します。

三つ目は、「象徴」に訴える戦略です。これは、活動の規模感や活発さを伝えることで、組織の存在感をアピールするものです。支援した人の延べ人数、開催したイベントの回数、活動に参加したボランティアの数など、活動の「量」を示す指標がこれにあたります。

これらの戦略と収入源との関係を分析したところ、はっきりとした関連性が見出されました。まず、「プロフェッショナリズム」と「アウトカム」を強調する語りは、個人からの寄付や政府からの助成金を獲得する上で、有効に機能していました。この事実は、今日の資金提供者が、NPOの理念や情熱に共感するだけでなく、その組織が信頼に足る運営体制をもち、かつ測定可能な成果を生み出しているかどうかを審査していることを示唆しています。

一方で、「象徴」戦略、要するに活動量をアピールするだけでは、特定の収入を増やすことには結びつきにくいという結果でした。多くのNPOが同様のアピールをする中で、活動の多さを示すだけでは、他団体との差別化を図り、資金提供者の心を動かす決定打にはなりにくいようです。

この調査結果は、センスギビングにおける戦略の必要性を浮き彫りにします。誰に対して、何を、どのような言葉と証拠で伝えるのか。特に、NPOのように外部からの評価や信頼にその存立を依存する組織にとって、センスギビングは、情熱を語るだけの行為ではありません。自らのアイデンティティを、専門性や成果といった言葉で裏付け、社会からの信頼を勝ち取っていくための、周到な知性の営みでもあるのです。

脚注

[1] Kroon, D. P., and Reif, H. (2023). The role of emotions in middle managers’ sensemaking and sensegiving practices during post-merger integration. Group & Organization Management, 48(3), 790-832.

[2] Sharma, G., and Good, D. (2013). The work of middle managers: Sensemaking and sensegiving for creating positive social change. The Journal of Applied Behavioral Science, 49(1), 95-122.

[3] Andrews, N. (2021). Manifestations of corporate social responsibility as sensemaking and sensegiving in a hydrocarbon industry. Business and Society Review, 1-24.

[4] Levine Daniel, J., and Eckerd, A. (2019). Organizational sensegiving: Indicators and nonprofit signaling. Nonprofit Management and Leadership, 30(2), 213-231.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

#伊達洋駆

アーカイブ

社内研修(統計分析・組織サーベイ等)
の相談も受け付けています