2026年1月7日
ウェルビーイングの5要素:職場で活かすPERMAモデル
職場における従業員のウェルビーイングが注目されるようになって久しくなりました。かつては、企業の成功は主に経済的指標や成果主義によって語られていましたが、今日では、従業員一人ひとりの心理的な充実や内発的なモチベーションが、組織全体の持続的成長を左右する重要な要因と認識されつつあります。特に、リモートワークの拡大や働き方の多様化が進むなかで、物理的な環境だけでなく、心の状態が業務への没頭や協働意欲にどのように影響しているかを捉える視点が、ますます求められるようになっています。
こうした流れの中で、近年注目を集めているのが「PERMAモデル」と呼ばれる心理学的フレームワークです。これは、Positive Emotion(ポジティブ感情)、Engagement(エンゲージメント)、Relationships(良好な人間関係)、Meaning(意味)、Accomplishment(達成)の5つの要素から人間のウェルビーイングを構成するという理論であり、ポジティブ心理学の代表的なアプローチとして位置づけられています。
本コラムでは、このPERMAモデルが職場においてどのように応用されているのか、また実際にどのような効果が認められているのかを、複数の研究成果をもとに探っていきます。PERMAモデルに基づく評価ツールの活用や、性格的強みとの関係、さらには社会的支援やストレスとの関連まで、多角的な視点からウェルビーイングの構成要素を検証することで、単なる理論にとどまらない実践的示唆を導き出していきます。ウェルビーイングを軸とした職場づくりのヒントを得たい方にとって、本コラムが一助となれば幸いです。
職場のウェルビーイングを高める5つの要素
職場において、従業員の幸福や満足度を高めることは生産性や定着率の向上と密接に関わっています。最初に紹介する研究は、ウェルビーイングの心理的構成要素に注目し、それがどのように仕事においても応用可能かを明らかにしています。
この研究では、アメリカ国内の多様な職業・年齢層を対象に、オンライン調査およびインタビューを通じて、「主観的ウェルビーイング(自分で感じる幸せや満足感)」に影響を与える因子を体系的に整理しました[1]。調査の中で焦点を当てたのが、ポジティブ心理学の視点から提唱されている「PERMAモデル」と呼ばれる枠組みです。
- Positive Emotion(ポジティブ感情):喜び、感謝、希望などの心地よい感情を経験すること。
- Engagement(エンゲージメント):自分の強みを活かし、活動に深く没頭して時間を忘れるような状態になること。
- Relationships(良好な人間関係):支え合い、信頼し合える他者との前向きで有意義なつながりを持つこと。
- Meaning(意味)自分の存在や行動が、より大きな目的や価値に結びついていると感じること。
- Accomplishment(達成):目標を成し遂げ、能力を発揮して達成感や有能感を得ること。
その一例としての本研究ではPERMAの5要素が高い水準で満たされている人は、職場においても高い仕事満足度と持続的なパフォーマンスを示す傾向にあることがわかりました。特に「Meaning(意味)」と「Accomplishment(達成)」の項目は、日常業務への動機付けや組織へのコミットメントと強く関連していました。たとえば、自らの仕事が社会やチームに貢献しているという実感がある人は、困難な状況でも前向きに取り組む姿勢を持ちやすくなるようです。
この知見は、マネジメントにとっても重要な含意を持ちます。従業員のモチベーションを単なる報酬や評価制度だけで高めるのではなく、「どのようにすれば一人ひとりが自らの仕事に意味を見いだせるか」を考えることが、長期的な成果につながる可能性があります。たとえば、目標設定の場面で、数値目標に加えて「なぜこの業務が重要なのか」「この成果が誰にどう貢献するのか」といった背景情報を共有することは、仕事の意味を伝えるうえで効果的です。
総じて、この研究は「幸福な職場づくり」において、感情や人間関係といった曖昧に見える側面を、具体的な構成要素として捉え、マネジメントの対象とする視点を提供しています。目に見えにくい感情や動機を可視化し、組織として育てていくという取り組みは、持続可能な成長の一助となることが期待されます。ビジネスの現場においても、PERMAモデルを軸とした対話や仕組みづくりは、従業員の自発的な行動や創造性を引き出すうえで、有用な手がかりとなるでしょう。
「PERMAプロファイラー」の可能性と活用法
次に、個人の主観的ウェルビーイングを測定するツール「PERMAプロファイラー」について紹介します。この研究は、アメリカやオーストラリアを含む多国籍の個人31,966人を対象にオンライン調査を実施し、ウェルビーイングを構成する要素を5つのPERMAに分けて評価するツールを確立したものです[2]。
この研究の成果は、ウェルビーイングを一元的ではなく多次元的に捉えるアプローチの有効性を実証した点にあります。各PERMA要素のスコアを可視化できるようになり、どの領域が満たされ、どの領域に改善の余地があるかが明確になります。
分析の結果、マネジメント実務において示唆に富む結果が多く確認されました。特にMeaning(意味)とAccomplishment(達成感)が高い人は、全体的なウェルビーイングや健康状態との正の相関(一方が増えれば、もう一方も増える関係)が強く、ネガティブ感情や孤独感とは反比例する傾向にありました。
これにより、個人が自分の生活や仕事に価値や意義を見出すことが、心理的にも身体的にも良好な状態につながることが示唆されます。たとえば、Meaning(意味)の領域を強化するには、業務に対する目的意識や社会的貢献の実感を高めるコミュニケーションが効果的です。
さらに、Relationships(関係性)においては、同僚との信頼関係や上司からの支援の有無が大きく影響します。また、Engagement(エンゲージメント)に関しては、個人が自発的に集中しやすい業務配分や、得意分野を活かせるプロジェクトの設計が有効です。
この研究の意義は、単なる満足度調査では捉えきれない、人間の内面的な充実を把握し、組織としてウェルビーイングのある働き方を設計するための具体的な指標を提示した点にあります。PERMAの5要素を多面的に評価し、それぞれの要素を職場にどう反映させるかを考えることは、個々の従業員の働きがいを高めるだけでなく、組織全体の持続的成長にも寄与する可能性があります。
「PERMAプロファイラー」のような測定ツールを活用することで、職場のウェルビーイングを見える化し、戦略的に育てていく取り組みがより現実的なものとなるでしょう。
社会的支援がウェルビーイングに与える影響
次に、社会的支援に着目した研究を紹介します。この研究は、PERMAモデルにおける各要素と、個人の主観的ウェルビーイングや生活満足度との関連性を明らかにすることを目的としています[3]。この研究では、イギリス在住の成人231名を対象に、オンライン調査を実施し、PERMAの5要素に加えて、社会的支援やストレス、身体的健康との関係を包括的に分析しました。
調査の結果、社会的支援と学業成績がウェルビーイング全体に対して有意な正の関連を示しました。また、社会的支援の有無がPERMAのスコアに強い影響を与えており、周囲とのつながりが豊かな人ほど、ポジティブな感情や達成感を感じやすくなることが示されています。
一方で、ストレスが高い人はPERMAの全体スコアが低いという結果も示されました。つまり、ストレスは心理的ウェルビーイングにおける阻害要因としての側面を持つこと明らかになりました。
これらの知見は、職場環境における人材マネジメントに応用可能です。たとえば、仕事の「Accomplishment(達成感)」を高めるには、従業員一人ひとりが社会的価値を実感できるようにする取り組みが有効です。具体的には、成果が組織や顧客に与えた影響を共有する仕組みをつくることが考えられます。
さらに、調査から得られた「社会的支援」の重要性に着目すれば、チーム内の信頼関係や心理的安全性を高める施策がウェルビーイングの向上につながる可能性があります。たとえば、雑談を含めた非公式な交流の場を設けたり、メンバー同士で感謝や労いを言語化する文化を育むことは、組織内の人間関係の質を高めるうえで有用です。また、ストレスの管理についても、業務量の調整や相談しやすい職場づくりなど、多面的な支援体制が求められます。
組織の持続的成長のためには、従業員の内面的な充実度を高める支援が、今後ますます重要になるでしょう。PERMAの各要素を職場に反映し、日々のマネジメント活動に活かすことが、結果としてより健全で活力のある組織文化の醸成につながると考えられます。
ウェルビーイングの構成要素としてのPERMAモデル
これまで紹介してきた研究では、PERMAモデルをウェルビーイングに作用する主要な5つの影響指標と位置付けていました。この章ではPERMAモデルを個人のウェルビーイングの構成要素として位置づけた研究を紹介します[4]。
なお、PERMAモデルにおける上記の2つの捉え方は、研究上でも議論が分かれています。しかし、構成要素として捉え方を参考にすることは、ウェルビーイングという抽象度の高い概念を、より具体的に確認できるという利点があります。
この研究では、517名の成人を対象に、「PERMAプロファイラー」の質問紙を用いて調査が行われました。加えて、人生満足度尺度や主観的ウェルビーイング、ネガティブ感情などの測定指標を組み合わせて、主観的ウェルビーイングとの関係も分析されています。
調査の結果、PERMA全体のスコアと主観的ウェルビーイングとの間に非常に高い正の相関が認められました。これは、PERMAモデルがウェルビーイングの「別の種類」ではなく、ウェルビーイングの構成要素として妥当であることを示しています。
加えて、PERMAの各要素間にも中程度から高い正の相関があり、たとえば「Meaning(意味)」を見出している人は、「Accomplishment(達成感)」や「Relationships(良好な人間関係)」も感じている可能性が高いことが示唆されました。
これらの知見は、ビジネスの現場でも応用可能です。たとえば、「Positive Emotion(ポジティブ感情)」を高めるには、成功体験の共有や称賛文化の醸成が効果的です。たとえば、感謝を伝える「グラティチュード・ビジット(感謝している相手に手紙を書いて直接読んで伝えることで、ポジティブな感情や人間関係を深める心理的介入)」や、「今日よかったことを三つ書く」などの実践は、ポジティブ感情や関係性を強化する具体的な手段となります。
こうした介入が個々のPERMA要素をターゲットにしていることから、単に「もっと幸せになろう」と漠然と呼びかけるよりも、戦略的で実効性の高い支援が可能になります。
この研究は、PERMAモデルが単なる理論にとどまらず、ウェルビーイングの測定と育成を支える実践的なフレームワークであることを示しています。組織においても、PERMAの各要素を「働きがい」の指標として捉えることで、従業員の内発的な意欲と組織成果の両立を目指す取り組みが、より現実的なものとなるでしょう。ウェルビーイングを高めるための「要素」に着目する視点は、個人にも組織にも有用な出発点となり得ます。
性格的強みとウェルビーイングの密接な関係
ウェルビーイングを高めるうえで、どのような個人の特性が寄与するのかを明らかにすることは、個人の成長支援や組織の人材開発にとって重要な視点となります。ここで紹介する研究は、「PERMAモデル」で示される5つのウェルビーイング要素と、「性格的強み(Character Strengths)」との関連を分析したものです[5]。
性格的強みとは、個人が持つ比較的安定した思考傾向や感情反応、行動パターンなど(心理的資質)のなかでも、特に長所や強みに相当する特徴を指します。具体的には、誠実さや感謝、創造性、希望などが該当します。
この研究では、オーストリアの成人619名を対象にオンライン調査を実施し、PERMAプロファイラーとVIA(Values in Action)性格的強み尺度を用いて、両者の関係性を定量的に評価しています。調査の結果、これらの強みのうち「熱意」「希望」「感謝」「好奇心」「愛情」などが、PERMAの全要素と有意に正の相関を示しました。中でも「希望」は、すべてのPERMA要素との関連が最も強く、未来に対する前向きな期待が、日常の充実感に大きな影響を与えることが示唆されました。
この結果は、実務においても多くの示唆を与えてくれます。たとえば、人材育成やチームビルディングの文脈で、メンバーそれぞれの性格的強みに目を向けることは、ウェルビーイングやエンゲージメントの向上に寄与し得ます。自分自身が「強み」と感じられる資質を仕事で発揮できているという実感は、モチベーションの源泉となり、没頭や達成感にもつながりやすいと言えるでしょう。また、同僚や部下の強みを認識し合うことで、職場内の関係性にも良い影響が及ぶ可能性があります。
この観点からマネジメントに応用できるアプローチとして、「アクティブ・コンストラクティブ・レスポンディング(Active Constructive Responding)」という方法もあります。これは、相手の良いニュースや成功体験に対して、積極的かつ共感的に反応するコミュニケーション手法であり、チーム内の信頼関係や人間関係の質を高めるうえで効果的です。たとえば、同僚が成果を報告した際に、「それはすごいですね、どうやって実現できたのですか?」と関心を示しながら反応することで、相手の感情を肯定的に増幅できます。
総じて、この研究は、性格的強みが単なる個人特性にとどまらず、ウェルビーイングを構成するPERMA要素と有機的に結びついていることを明らかにしました。ビジネスにおいても、従業員の「強み」を把握し、活かす視点を持つことが、持続可能なパフォーマンスと職場のウェルビーイングを育む基盤となると考えられます。ウェルビーイングは抽象的に見えるかもしれませんが、測定と支援の工夫により、実践的に高めることができます。
PERMAモデルの汎用性と限界の整理
最後に紹介する研究は、過去の実証研究を網羅的にレビューし、PERMAモデルの妥当性・限界・応用可能性について整理したものです[6]。この研究では、2011年から2022年にかけて発表された51本の査読付き論文を対象とし、それらに含まれる定量的・定性的データをもとに、PERMAの5要素がどのように測定され、どのような成果と関連しているかを包括的に分析しました。
分析の結果、仕事の文脈では、達成感やエンゲージメントが高い人ほど、ストレス耐性や職務満足度が高くなる傾向が確認されました。その有効性とともに限界も指摘しています。
主な限界は、第一に、PERMAの5要素だけでは、人間のウェルビーイングの全体像を十分に捉えきれない可能性です。例えば、健康(Physical Health)やマインドフルネス、レジリエンスといった重要な要因が明示的に含まれていません。第二に、要素間の高い相関が「測定上の重複」を示している可能性があり、構造的独立性に疑問が残ります。さらに、文化や文脈によって要素の重要度や表れ方が異なるため、普遍的モデルとしての適用には限界があります。
これらの知見を踏まえ、PERMAの枠組みにとどまらず、新たな要素を取り入れてウェルビーイングをより広くとらえる必要があると提案しています。具体的には、身体的健康、マインドセット、環境、経済的安定性といった外的要因にも目を向けることで、実生活に即した包括的なサポートが実現可能になるとしています。
総じて、PERMAモデルは個人と組織のウェルビーイングを可視化するうえで有効な枠組みでありながら、常に文脈に応じた応用と改善が求められる「進化するツール」として活用されることが望ましいといえます。ウェルビーイングの構成要素を理解し、それぞれに働きかける組織的取り組みは、エンゲージメントや生産性の向上といったビジネス上の成果にもつながる可能性があります。
おわりに
これまで見てきたように、PERMAモデルは職場におけるウェルビーイングを構成する多面的な要素を明確に示し、それぞれが仕事へのモチベーションや人間関係、成果意識と深く関わっていることが数々の実証研究から明らかになっています。
とりわけ「Meaning(意味)」や「Accomplishment(達成感)」といった要素は、従業員が自らの役割に納得し、前向きに業務へ取り組む上で大きな支えとなることが示唆されました。また、「Relationships(良好な人間関係)」や「社会的支援」の重要性も浮き彫りとなり、職場内の信頼とつながりが心理的安全性を支える土台になる、と理解できます。
これらの知見を踏まえると、マネジメントとしては、従業員のパフォーマンスだけでなく、「どのような状態で働いているか」に注目することが有用です。数値目標の達成度のみならず、個人のポジティブ感情や仕事への没頭度合い、周囲との関係性に対する満足度といった側面を定期的に確認する仕組みを整えることで、早期の支援や職場環境の改善につながりやすくなります。
また、PERMAの各要素は相互に関係しているため、いずれか一つの要素への働きかけが、PERMAの他の要素にも好影響を及ぼす可能性があります。たとえば、「感謝を伝え合う文化」を醸成することで、人間関係の質が高まり、そこからポジティブ感情や意味の実感にもつながっていくといった連鎖が期待されます。このように、PERMAモデルは職場におけるウェルビーイングを育む「構造図」として活用することができます。
組織の成長は、戦略や制度だけで決まるものではありません。そこには、人の「心の状態」が密接に関わっています。従業員のウェルビーイングを意識し育む姿勢が、持続的な成長への第一歩です。PERMAモデルを通じて、働く人と組織の両方にとって意味ある変化が生まれることが期待されます。
脚注
[1] Seligman, M. E. (2011). Flourish: A visionary new understanding of happiness and well-being. Simon and Schuster.
[2] Butler, J., & Kern, M. L. (2016). The PERMA-Profiler: A brief multidimensional measure of flourishing. International journal of wellbeing, 6(3).
[3] Al-Hendawi, M., Alodat, A., Al-Zoubi, S., & Bulut, S. (2024). A PERMA model approach to well-being: a psychometric properties study. BMC psychology, 12(1), 414.
[4] Seligman, M. (2018). PERMA and the building blocks of well-being. The journal of positive psychology, 13(4), 333-335.
[5] Wagner, L., Gander, F., Proyer, R. T., & Ruch, W. (2020). Character strengths and PERMA: Investigating the relationships of character strengths with a multidimensional framework of well-being. Applied Research in Quality of Life, 15(2), 307-328.
[6] Cabrera, V., & Donaldson, S. I. (2024). PERMA to PERMA+ 4 building blocks of well-being: A systematic review of the empirical literature. The Journal of Positive Psychology, 19(3), 510-529.
執筆者
樋口 知比呂 株式会社ビジネスリサーチラボ コンサルティングフェロー
早稲田大学政治経済学部卒業、カリフォルニア州立大学MBA修了、UCLA HR Certificate取得、立命館大学大学院博士課程修了。博士(人間科学)。国家資格キャリアコンサルタント。ビジネスの第一線で30年間、組織と人に関する実務経験、専門知識で、経営理論を実践してきた人事のプロフェッショナル。通信会社で人事担当者としての経験を積み、その後、コンサルティングファームで人事コンサルタントやシニアマネージャーを務め、さらに銀行で人事部長などの役職を歴任した後、現在はFWD生命にて執行役員兼CHROを務める。ビジネスと学術研究をつなぐ架け橋となることを目指し、実践で役立つアプローチを探求している。

