2026年1月6日
その場しのぎを超えて:成長を左右するブリコラージュの論理
手元にあるもので何とかする。私たちは日常生活の中で、ごく自然にこうした工夫をしています。壊れた家具をありあわせの道具で直したり、冷蔵庫の残り物で新しい料理を考え出したりするなど。この「その場にあるものを創意工夫で活用し、新しい何かを生み出す」営みは、「ブリコラージュ」と呼ばれています。
普段は意識にのぼらないこの行為が、実は企業や組織が新しい価値を創り出す上で、奥深い意味を持っています。特に、資金や人材、設備といった資源が限られている状況では、ブリコラージュの力が、組織の運命を左右することもあります。しかし、それは単純な「節約術」や「応急処置」なのでしょうか。あるいは、そこには成長と革新につながる、もっと体系的な論理が隠されているのでしょうか。
本コラムでは、ブリコラージュが資源とどのように関わり、組織の成長や適応性にどのような道筋をたどるのか、いくつかの研究を手がかりに、その複雑な世界を探求していきます。ありあわせのもので間に合わせるという知恵が、いかに事業を形作り、社会的な価値を創造する原動力となり得るのか、そのメカニズムを検討していきましょう。
ブリコラージュは無から有を生むが成長は使い方次第
限られた資源の中から新しい価値を創り出す営み、ブリコラージュ。それは、不足を補うためのその場しのぎではありません。資源というものの見方を変え、新しい可能性の扉を開く行為だと言えます。資源とは客観的に存在するものではなく、その「使い方」や「組み合わせ方」によって意味を持つという考え方がその根底にあります。
ブリコラージュの実践は、三つの要素から成り立っていると整理されています。一つ目は「手元にあるもので間に合わせる」という姿勢です。これは、行動する前から完璧な計画や資源を求めるのではなく、まず試してみるという行動への傾倒を指します。社会の常識や業界の慣行が暗黙のうちに定めている「限界」を、あえて試すことで、本当にそれが限界なのかを確かめる態度が含まれています。
二つ目は「資源の再結合」です。本来の目的とは異なる使い方で、手元にある物理的なモノ、人の知識や技術、社会的な制度といった様々な要素を寄せ集め、新しいサービスや製品を立ち上げること。三つ目は「手元にある、あるいは安価に入手できる資源の活用」です。多くの人が価値がないと見なすような廃材や中古品、既存の人間関係といった「ありあわせ」のものを積極的に動員するのです。
こうした実践が、実際のビジネスの現場でどのように展開されるのかを明らかにするため、ある調査が行われました[1]。その調査では、資源の制約が日常的である小規模な企業が対象とされました。衰退した炭鉱地域に拠点を置く独立系企業を中心に、長期間にわたる現場での観察や、経営者・従業員への聞き取りが実施されました。この調査から、ブリコラージュの具体的な姿が浮かび上がってきました。
例えば、ある電子機器の修理業者は、手持ちの変圧器や測定器、自身の溶接技術を組み合わせて、炭鉱で使われる高圧ケーブルの診断装置を自作し、販売しました。あるオートバイの修理工は、メーカーが定めた標準的な手順や専用の工具にこだわらず、廃品置き場から拾ってきた部品や即席の道具を使って、顧客が抱える固有の問題に柔軟に対応していました。これらは、業界の「当たり前」から意図的に距離を置くことで、独自のサービスを生み出した事例です。
しかし、この調査で判明したのは、ブリコラージュが常に企業の成長につながるわけではないということでした。ブリコラージュの実践の仕方によって、企業の成長の軌道が大きく二つに分かれることが見出されたのです。
一つは「並列ブリコラージュ」と呼ばれるパターンです。このタイプの企業では、多種多様なブリコラージュの案件が常に同時並行で進んでいます。工場には中古の大型機械から細かな部品まで、いつか使うかもしれない「宝の山」がうず高く積まれています。経営者は電気工事から配管、大工仕事までこなす多能工であり、顧客でもあり仕入れ先でもある友人が従業員として働くといった、公私の境界が曖昧な人間関係が網の目のように張り巡らされています。
このような環境は、「何とかしてやり遂げる」という文化を育み、ブリコラージュを実践すること自体が組織の誇りとなります。しかし、その一方で、一つひとつの非定型的な案件に対応するために多くの時間と労力が費やされ、事業の標準化や効率化が進みません。結果、組織は日々の対応に追われ、成長が停滞してしまいます。
もう一つは「選択的ブリコラージュ」と呼ばれるパターンです。こちらのタイプの企業は、ブリコラージュを事業の立ち上げや転換期、あるいは新しい可能性を探る特定の局面に「選択的」に活用します。
例えば、ある事業者は、荒廃した土地を再生させる初期段階では、廃材の再利用や住民の労働参加といったブリコラージュを多用しましたが、事業が軌道に乗ると、新品の部材を使い、契約も厳格化するなど、標準的なやり方へと移行させていきました。ある農家は、廃坑から出るメタンガスを発電に利用し、その廃熱をトマトの水耕栽培や魚の養殖に使うという連鎖的なブリコラージュを展開しましたが、その領域を農業とエネルギーに絞り込み、取引は市場の標準的な形式で行いました。
このように、ブリコラージュを特定の局面や領域に限定して用い、適切なタイミングで再び事業の「限界」を定め直し、標準化へと舵を切る企業は、市場を拡大し、成長していくことができました。
このことから、ブリコラージュは無から有を生み出す力であると同時に、その使い方を間違えれば成長を妨げる両刃の剣でもあるという姿が描き出されます。ブリコラージュという実践が企業の成長を決定づけるのではなく、それをいつ、どのように使い、いつそこから離れるかという、いわば「使いこなしの知恵」が、持続的な成長の鍵を握っています。
ブリコラージュは成長を強め適応性は空隙で揺らぐ
ブリコラージュの実践方法が組織の内部で成長の軌道を分ける一方で、組織を取り巻く外部環境、特に社会のルールや制度がどの程度整っているかという条件も、ブリコラージュの成果に関わってきます。特に、制度がまだ発展途上にある新興経済においては、この関係性がよりはっきりと現れます。
この点を検証するために、中国の複数の都市にある起業家支援施設に入居する、創業から9年未満の新しい企業、約350社を対象とした調査が実施されました[2]。創業者たちに質問票への回答を求め、ブリコラージュをどの程度実践しているか、過去3年間の売上や市場シェアの伸びといった「成長」と、環境の変化に合わせて事業を調整する「適応性」がどの程度あるかを自己評価してもらいました。
同時に、事業を行う上で、一般的な商慣習が欠けていたり、ルールが不明確であったり、あるいは法律の執行が弱かったりといった「制度的空隙」をどの程度感じているかについても尋ねています。
分析の結果、ブリコラージュの実践度が高い企業ほど、「成長」と「適応性」の両方が高いという関係が確認されました。手元にある資源を組み替えて対応するブリコラージュが、新しい事業機会を創出して成長を後押しし、同時に、環境の変化に素早く対応する能力を高めていることがうかがえます。
しかし、ここに「制度的空隙」の大きさが加わると、様相は変わってきます。制度的空隙の大きさが、ブリコラージュと二つの成果との関係を、それぞれ異なる方向に変化させていました。
まず、ブリコラージュと「成長」の関係です。制度的空隙が大きい、すなわちルールが未整備な環境であるほど、ブリコラージュが成長に結びつく度合いはより強まっていました。これは、制度が整った市場では当たり前の、標準的な資源を市場価格で調達するという方法が機能しにくい環境であるがゆえに、手元の資源を組み合わせて事業の隙間を埋めるブリコラージュの価値が相対的に高まるからだと考えられます。誰もが同じように資源を手に入れられない状況では、ありあわせのもので道を切り拓く能力が、他社に対する推進力となるのです。
一方で、ブリコラージュと「適応性」の関係は逆の姿を見せました。制度的空隙が大きい環境であるほど、ブリコラージュが適応性を高める度合いは、むしろ弱まっていました。適応性とは、環境の変化を察知し、それに応じて自らの資源を再構成し、行動を変えるという学習のプロセスです。このプロセスがうまく機能するためには、環境からある程度安定した信号を受け取れることが前提となります。
ところが、制度的空隙が大きく、政策や規制が頻繁に、予測不能に変わるような環境では、せっかくブリコラージュを通じて試行錯誤し、学びを得たとしても、その学びが突然の制度変更によって無に帰してしまう可能性があります。不安定な環境が、ブリコラージュによる学習の効果を相殺してしまい、適応性を高める力が弱まってしまうというメカニズムが推測されます。
この調査結果は、ブリコラージュという実践が、置かれた制度的な文脈によってその効能を変えることを示唆しています。ルールが未整備で混沌としている環境は、ブリコラージュを実践する企業にとって、成長の機会を拡大させる追い風となる側面と、安定した学習を妨げ適応性を揺るがせる逆風となる側面の両方を持っているのです。したがって、企業が自らの能力を発揮するためには、ブリコラージュという内的な実践だけでなく、自らが置かれた外部環境の特性を見極めることが求められます。
ブリコラージュは資源の乏しさと豊かさの両極で活性化
ブリコラージュは、これまで見てきたように、資源が乏しい状況で力を発揮する営みとして理解されています。しかし、その活動は資源が足りない時にだけ見られる現象なのでしょうか。この問いを探求したのが、世界42カ国、202件のテクノロジーを活用した社会的企業(ソーシャル・ベンチャー)を対象とした調査です[3]。この調査では、組織が資源を動員する方法を、二つのタイプに分けて分析しました。
一つは「最適化」です。これは、達成したい目的が明確で、そのために必要な資源の品質や供給元もはっきりしている場合に、市場から標準的で質の高い資源を調達し、効率的に事業を組み立てるアプローチを指します。例えば、最新の機器を購入したり、専門的なスキルを持つ人材を雇用したりするのがこれにあたります。
もう一つが「ブリコラージュ」です。こちらは、手元にあるもの、あるいは他者から低く評価されている資源や使われずに眠っている資源、廃棄されそうな資源などを再結合させて目的を達成するアプローチです。
この調査の興味深い点は、組織が置かれた二つの異なる「資源の豊かさ」の次元に着目したことです。一つは、その組織が活動する国の経済的・社会的な豊かさ、つまり「環境の資源豊富性」です。もう一つは、組織自体の規模や歴史、収入といった「組織の顕著性」、言い換えれば組織内部の資源の豊かさです。
分析の結果、資源の豊かさと二つのアプローチの採用との間には、明確な関係が見出されました。「最適化」アプローチは、予想通り、環境が豊かであるほど、そして組織の顕著性が高いほど、採用されやすくなっていました。資源が豊富にあれば、供給者間の競争も働き、標準的な資源を計画通りに調達しやすくなるため、これは直観的にも理解しやすい結果です。
一方、「ブリコラージュ」アプローチは、異なるパターンを示しました。環境の資源豊富性との関係も、組織の顕著性との関係も、U字型の曲線を描いたのです。
これは、ブリコラージュが、資源が極端に乏しい状況と、極端に豊かな状況の「両極」で活発になることを意味します。資源が非常に乏しい国や、設立されたばかりで無名な組織では、「必要に迫られたブリコラージュ」が実践されます。生き残るために、文字通りありとあらゆるものを活用せざるを得ない状況です。
ところが、資源が非常に豊かな国や、長年の活動で社会的な評価を確立し、規模も大きくなった組織においても、再びブリコラージュが活発になります。ただし、その性質は異なります。これは、新しいアイデアの創出を目的とした「観念的ブリコラージュ」と呼べるものです。豊かな環境では、質の高い中古設備や専門家によるボランティア(プロボノ)といった寄付を得やすくなります。また、規模の大きな組織には、日々の業務には直接使われていない余剰の資源(スラック)が存在します。
こうした質の高い「ありあわせ」の資源を創造的に組み合わせることで、新しい事業の試みや、組織の再活性化が図られるのです。
このU字の関係は、ブリコラージュが単に資源の欠乏に対する反応ではないことを明らかにします。それは、資源の制約を乗り越えるための生存戦略であると同時に、資源の余裕を創造的な探求へと転換する戦略でもあります。そして、最適化とブリコラージュの関係も、状況によって変わります。資源が乏しい局面では、両者は代替的な関係にあります。最適化ができないからブリコラージュを選ぶ、という構図です。
しかし、資源が極めて豊かな局面では、両者は補完的な関係に近づきます。基幹となる事業は最適化アプローチで安定的に運営しつつ、新規領域の探索は観念的ブリコラージュで行うといった両立が可能になります。
ブリコラージュは資源の乏しさを越えて社会的価値を生む
ブリコラージュという概念は、商業的な企業だけでなく、社会的な課題の解決を目指す社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)の活動を理解する上でも、光を当ててくれます。社会的企業は、収益性を確保しながら社会的な目標を追求するという二重の課題を抱え、多くの場合、資源が極めて限られた環境で活動しています。彼ら彼女らがどのように資源の乏しさを乗り越え、社会的価値を創造しているのか。その核心に「ソーシャル・ブリコラージュ」という考え方があります。
このソーシャル・ブリコラージュの姿を明らかにするため、英国各地で活動する8つの社会的企業を対象とした質的な調査が行われました[4]。地域再生や就労訓練、中古パソコンの再利用など、多様な分野で活動する組織の経営者や関係者へのインタビューや現場観察を通じて、彼ら彼女らの実践の奥にある論理が探られました。
その結果、社会的企業のブリコラージュは、これまで見てきた三つの核となる要素、すなわち「手元にあるもので間に合わせる」「限界に縛られない」「即興」を共通して持っていることが確認されました。例えば、企業から無償で提供された中古パソコンを修理して低所得者層に提供する事業は、廃棄される資産を再利用する「間に合わせ」の実践です。また、公的な助成金が打ち切られた際に、使われていなかった教会を買い取って改装し、その賃料収入で事業の持続性を確保するというのは、資金調達の「限界」を乗り越える試みです。
調査はそれだけでは終わりません。社会的企業の活動を観察する中で、商業的なブリコラージュには見られない、三つの固有の要素が浮かび上がってきました。
一つ目は「社会的価値の創出」への強い意識です。彼ら彼女らの活動は、何のために資源を組み合わせるのかという目的が明確です。例えば、地域住民の雇用機会を増やす、若者のスキルを高める、地域の安全を守るといった社会的成果を出すことが優先され、その目的を達成するために、資源の組み合わせ方が柔軟かつ大胆に決定されます。この確固たる目的意識が、ブリコラージュの方向性を定め、駆動します。
二つ目は「ステークホルダーの参加」です。社会的企業は、地域の住民、顧客、行政、地元の企業といった多様な利害関係者を、ただのサービスの受け手や支援者としてではなく、事業の運営や意思決定に積極的に巻き込みます。ある地域では、風力発電所を建設するために、地元の農家と何年もかけて対話を重ね、信頼関係を築いて、最終的に共同事業者へと変えていきました。このように、関係者を「参加者」として組織の内部に取り込むことで、資源へのアクセスを広げ、事業の正統性を高めています。
三つ目は「説得」という行為です。これは、自分たちの活動が社会にとっていかに有益であるかを言葉にして語り、行政やメディア、地域社会の関心を惹きつけ、自分たちの目的に向かって周囲を動かしていく営みです。メディアへの露出を通じて好意的な世論を形成したり、競合する可能性のあった他の組織を巻き込んで共同で事業申請を行ったりすることで、資源を持つ人々を味方につけ、自らにとって有利な環境を交渉を通じて作り替えていきます。
これら六つの要素、すなわち「間に合わせ」「限界不服従」「即興」というブリコラージュの基本動作と、「社会的価値創出」「ステークホルダー参加」「説得」という社会的な次元が相互に絡み合うことで、ソーシャル・ブリコラージュは機能します。それは、目の前の資源をやりくりする技術であると同時に、目的を掲げ、人々を巻き込み、社会に働きかけることで資源を生み出していく、一つの統合されたプロセスです。
脚注
[1] Baker, T., and Nelson, R. E. (2005). Creating something from nothing: Resource construction through entrepreneurial bricolage. Administrative Science Quarterly, 50(3), 329-366.
[2] Yu, X., Li, Y., Su, Z., Tao, Y., Nguyen, B., and Xia, F. (2020). Entrepreneurial bricolage and its effects on new venture growth and adaptiveness in an emerging economy. Asia Pacific Journal of Management, 37, 1141-1163.
[3] Desa, G., and Basu, S. (2013). Optimization or bricolage? Overcoming resource constraints in global social entrepreneurship. Strategic Entrepreneurship Journal, 7(1), 26-49.
[4] Di Domenico, M., Haugh, H., and Tracey, P. (2010). Social bricolage: Theorizing social value creation in social enterprises. Entrepreneurship Theory and Practice, 34(4), 681-703.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

