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コラム

評価は「見る人」で決まる:知識や思考が着眼点を変える

コラム

私たちは日々、何かを「評価」しながら生きています。新しく公開された映画の感想を語り合うとき、レストランの口コミサイトに星をつけるとき、あるいは職場で同僚の仕事ぶりを目にするとき。私たちは、目の前の対象に対して自分なりの価値判断を下しています。しかし、不思議なことに、同じものを見ても、その評価は人によって異なることが珍しくありません。ある人が絶賛した映画を、別の人は「つまらなかった」と一蹴する。高評価のレビューが並ぶ商品が、自分には全く合わなかったという経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。

この評価の「ズレ」は、個人の好みの違いだけで説明できるのでしょうか。もしかすると、そこには、人が情報を処理する際の「心の働き」の違いが隠されているのかもしれません。評価する側が持っている知識の量や、物事をどれだけ深く考えようとするかという姿勢、いわば思考の「習熟度」や「深さ」が、何に目をつけ、何を判断の根拠とするかという「着眼点」を変えてしまっているのではないか。この問いは、私たちが他者や世界をどのように理解しているのかを考える上で、本質的な論点を含んでいます。

本コラムでは、人が何かを評価するときの「頭の中の働き」に光を当てていきます。いくつかの研究を手がかりに、評価する側の内面的な特性が、評価のプロセスにどのような変化をもたらすのかを解き明かしていきます。

初心者には内容とつながりを、上級者には操作性を

私たちが何かを評価するときの着眼点が、その対象に関する知識量によって変わることは、日常的にも感じられるかもしれません。例えば、あるテーマについて学び始めたばかりの人が書いた書評と、長年その分野を研究してきた専門家が書いた書評とでは、本のどこを切り取り、どう評価するかが異なるでしょう。この「見る人による評価の違い」を、多くの人が日常的に利用するウェブサイトという身近な題材を通して探った研究があります[1]

この研究は、ウェブサイトを閲覧した人が、その内容に説得されて態度を変えるプロセスを明らかにしようと試みたものです。特に、ウェブサイトに書かれている情報の「中身(論拠の質)」と、デザインや雰囲気といった「見た目(周辺的な手がかり)」が、人の心にどう働きかけるのか。閲覧者が元々持っている知識の量が、その働き方にどう関係するのかを検証しました。

実験では、カナダとアメリカに住む成人約400名が参加しました。参加者には、当時議論を呼んでいたパイプライン建設計画に関する実際の公式サイトを、最低でも15分間閲覧してもらいました。サイトを見る前と後で、その計画に対する意見や関心がどのように変化したかを測定しました。。

この実験で調べられたのは、ウェブサイト側の要素として、情報の「質」や「有用性」、デザインの要素としての「画像の魅力」「操作のしやすさ」、フォーラムなどで感じられる「人の気配」や「コミュニティとの一体感」などです。これらが、参加者の心にどのような変化をもたらしたのかを分析しました。

分析の結果、基本的な関係として、ウェブサイトを閲覧することでその問題への「関心が高まる」と、最終的にその問題に対する「態度も変化しやすい」という流れが確認されました。では、何がその「関心の高まり」を生み出すのでしょうか。結果は、情報の「質」そのもの、サイトの「操作のしやすさ」、「コミュニティとの一体感」が、関心を高める上で大きな働きを持つことを示しました。

ここからが本題です。この結果は、参加者が元々持っていた知識の量によって、その様相を変えたのです。

知識が少ない、いわばそのテーマの「初心者」といえる人たちの集団では、関心を高める主な要因は、書かれている「情報の質」と「コミュニティとの一体感」でした。初めて触れる情報が自分にとってどれだけ分かりやすく、有益であるか。同じテーマに関心を持つ他の人々の存在を感じられるか。初心者は、こうした点から強い刺激を受け、そのテーマに引き込まれていく様子がうかがえます。

一方で、元々ある程度の知識を持っている「上級者」といえる人たちの集団では、関心を高める要因が異なっていました。もちろん「情報の質」も依然として評価の対象ではありましたが、それに加えて「サイトの操作性(ナビゲーションの分かりやすさ)」や「人の気配(ソーシャルプレゼンス)」が、関心を左右するようになっていました。

上級者にとって、情報は単に受け取るものではなく、自ら取捨選択し、既存の知識と結びつける対象です。そのため、自分の知りたい情報に素早くたどり着けるか、といった効率性が評価の軸に加わります。誰がその情報を発信しているのかという信頼性の手がかりも、判断材料として用いられるようになります。

この一連の結果が物語るのは、評価の対象が同じウェブサイトであっても、評価する側の習熟度によって、評価のポイントが異なるということです。初心者は、その世界の全体像を把握しようと、情報の中身そのものや、他者とのつながりという安心感を求めます。それに対して上級者は、すでに持っている知識の地図を片手に、情報の信頼性を確かめたり、効率よく情報を探索したりするための「道具」としての使いやすさを評価の基準に据えるようになります。

気分や協力姿勢は、思考の深さで意味を変える

先ほどは、ウェブサイトという対象を見る人の「知識量」が、評価のポイントを変化させる様子を見てきました。知識という蓄積された経験が、着眼点を変えるのです。それでは、評価する瞬間の「思考の深さ」は、評価にどのような変化をもたらすのでしょうか。深くじっくり考えるときと、直感的に素早く判断するときとでは、同じ情報でもその意味合いは変わってくるのでしょうか。この問いを探るために、今度は会計監査という、高度な専門性が求められる判断の場面に目を向けてみましょう。

ある研究が、これまで会計監査の分野で個別に行われてきた多様な研究成果を、「精緻化見込みモデル」という一つの大きな理論的枠組みを用いて整理し直す、という試みを行いました[2]。このモデルは、人が情報に接したとき、それをどれだけ深く吟味しようとするか(思考の量、精緻化)によって、説得されるプロセスが二つに分かれると考えます。

一つは、動機づけが高く、情報を処理する能力もある場合に、提示された情報を論理的にじっくりと吟味する「中心ルート」。もう一つは、動機や能力が低い場合に、情報の深い中身ではなく、発信者の肩書や見た目といった、分かりやすい手がかりに頼って判断する「周辺ルート」です。

この研究は、過去に発表された膨大な数の研究論文の中から、「監査対象の企業(クライアント)の協力姿勢」や「監査人自身の気分」が判断にどう関わるかを調べたものを集め、それぞれの研究が行われた状況を分析しました。その状況が監査人にとって、物事を「じっくり考える」状況だったのか、それとも「直感的に判断する」状況だったのかを、このモデルに沿って再分類しました。

「クライアントの協力姿勢」に関する研究群をこの枠組みで整理すると、興味深いパターンが見えてきました。

監査人があまり深く考えていない、いわば「直感的な判断」が優位な状況では、クライアントが監査に協力的な態度を示すと、監査人はそれを「この人たちは信頼できる」という単純な手がかりとして捉え、結果的にクライアントに対して甘い、譲歩的な判断を下しやすくなることが分かりました。協力的な態度は、思考を省略するための便利なサインとして機能していたのです。

ところが、監査人が専門家として強い動機づけを持ち、与えられた情報を深く吟味する「じっくり考える」状況では、話が複雑になります。このとき、クライアントの協力的な態度は、もはや単純なサインではありません。それは判断を下すための一つの「論拠」として、他の情報と合わせて冷静に評価されます。しかし、ここでもう一つの要素が絡んできます。それが「過去からの協力関係」です。

もしクライアントが、現時点だけでなく、過去からずっと協力的であったという情報があると、監査人の心の中には「この良好な関係を維持したい」という、本来の監査目的とは別の動機が芽生えることがあります。この動機が、思考の方向性を微妙に歪め、判断にバイアスを生じさせてしまう可能性が指摘されました。

「監査人自身の気分」に関する研究群を見てみましょう。これもまた、思考の深さによってその働き方が異なっていました。

監査人の動機が弱く、「直感的な判断」に頼りがちな状況では、監査人自身の気分が良いと、「特に問題はないだろう」という楽観的な判断に直結し、クライアントに有利な判断を下しやすくなることが示されました。良い気分という内的な状態が、そのまま判断の方向性を決める周辺的な手がかりとして作用するのです。

しかし、監査人が強い責任感を持ち、能力も高い「じっくり考える」状況では、気分の働きは一変します。このとき、気分は判断の方向性を決めるのではなく、思考の内容そのものに色合いをつけます。例えば、「クライアントと良好な関係を保ちたい」という目標を持っている監査人が、何らかの理由で悪い気分(ネガティブな気分)でいたとします。

直感的には、悪い気分だから判断も厳しくなりそうですが、結果は逆になることがあります。悪い気分が、「何か見落としがあってはいけない」という慎重さを喚起し、より綿密な検討を促す結果、かえってクライアントに対して厳しい、否定的な判断が下されることがあるというのです。

熟慮する人は見た目に惑わされず能力を評価する

監査という専門的な場面で、評価する側の「思考の深さ」が、協力姿勢や気分といった状況的な手がかりの意味合いを変えてしまうことを見てきました。もっと直接的で、強力な手がかりである「見た目の魅力」についてはどうでしょうか。採用という、人の将来を左右するかもしれない評価の場面で、評価する側の「考えることを好む」という個人的な特性が、応募者の外見の良さという情報にどう立ち向かうのか。この点を掘り下げた研究があります[3]

サービス業などの採用現場では、「見た目が良い応募者ほど採用されやすい」という現象が古くから指摘されてきました。この研究は、「見た目の有利さ」がどのような心の仕組みによって生じるのかを、これまでも見てきた「精緻化見込みモデル」を用いて解き明かそうとしました。評価する側が元々持っている「考えることが好き」という性格的な特性(専門的には「認知欲求」と呼ばれます)が、この見た目による有利な判断をどの程度抑えることができるのかを検証しました。

この研究では、食品・飲料サービス業界で採用経験が4年以上ある採用担当者、134名が実験に参加しました。参加者には、架空の応募者の履歴書を評価してもらいました。履歴書は、書かれている職務経歴などから判断される「能力」が「高い」か「低い」か、そして添えられた顔写真の「魅力」が「高い」か「低い」か、という二つの要素を組み合わせて、合計4種類のパターンが用意されました。参加した採用担当者が、普段から物事をじっくり考えることを好むタイプかどうかも、事前にアンケートで測定されました。

全体の結果から見ていきましょう。分析の結果、応募者の能力がたとえ低くても、見た目の魅力が高い場合の方が、能力は高いが見た目が良くない場合よりも、「採用を推奨する」という評価が高くなるという結果が得られました。採用というプロフェッショナルな判断の場であっても、見た目の魅力が能力という本質的な情報を凌駕してしまうことがある、という現実を浮き彫りにしています。

採用担当者を、事前に測定した「考えることが好きな人(高認知欲求群)」と「そうでない人(低認知欲求群)」の二つのグループに分けて、その判断プロセスを比較しました。すると、両者の間には、評価の仕組みの違いが見られました。

「考えることがあまり好きではない」グループの採用担当者は、応募者の見た目の魅力に、その判断が左右されていました。応募者の魅力が高いと、採用担当者の心の中にポジティブな感情が生まれ、その感情が直接的に「この応募者に対して好意的な態度」を形成し、最終的に「採用を推奨する」という判断に結びついていたのです。このプロセスでは、履歴書に書かれた能力の情報は、あまり大きな働きをしていませんでした。まさに、見た目の魅力という分かりやすく、処理しやすい周辺的な手がかりに頼って、判断を下している様子がうかがえます。

それに対して、「考えることが好き」なグループの採用担当者の判断プロセスは異なっていました。このグループの人々は、応募者の見た目の魅力にはほとんど惑わされることがありませんでした。その代わりに、履歴書に書かれた「能力」に関する情報をきちんと読み取り、その情報に基づいて応募者の将来のパフォーマンスを予測し、それが応募者への態度、最終的な採用推奨の判断へとつながっていたのです。

考えることを好む人々は、自ら進んで情報を深く、論理的に処理しようとします。その認知的な努力によって、見た目の魅力という強力で表面的な手がかりの呪縛を乗り越え、より本質的であるはずの能力情報を評価の土台に据えることができていました。

誠実な上司は信頼性を、そうでなければ気分を見る

これまで、ウェブサイトの閲覧、会計監査、採用という三つの異なる場面で、評価する側の知識、思考の深さ、思考スタイルが、評価の着眼点をいかに変えるかを見てきました。最後に、私たちの最も身近な組織である職場に舞台を移し、日常的に行われる評価、すなわち「上司が部下の提案をどう評価するか」という場面に焦点を当てます。ここでは、上司自身の「部下や仕事に対する誠実さ」ともいえる特性が、部下の何を見て評価するかを決定づける様子を探っていきます。

従業員が現状の問題点を指摘したり、新しい改善策を提案したりする「声(ボイス)」は、組織が成長するために欠かせないものです。しかし、部下がいくら勇気を出して声を発しても、上司がその提案を適切に評価し、「承認」しなければ、その価値は生まれません。ある研究は、「上司による承認」のプロセスを、やはり「精緻化見込みモデル」の枠組みを用いて解き明かそうとしました[4]

この研究では、中国の様々な企業で働く上司と部下のペア、約170組を対象にアンケート調査が行われました。部下には、自分の仕事に対する熱意や気分などを尋ね、上司には、その部下の信頼性や、自分自身の仕事に対する義務感、考え方の柔軟性、実際にその部下の提案を承認したかどうかなどを回答してもらいました。

研究者は、このモデルを適用するにあたり、部下の「信頼性」(専門知識やこれまでの実績など)を、上司がじっくり吟味すべき本質的な情報、すなわち「中心ルート」の手がかりと位置づけました。一方で、部下がそのとき見せる「機嫌の良さ(ポジティブな気分)」を、深く考えなくても判断に利用できる、分かりやすい「周辺ルート」の手がかりと設定しました。上司側の特性である「部下の成長や幸福に責任を感じる度合い(義務感)」や、「物事を多角的に捉える能力(認知的柔軟性)」が、これら二つの経路のどちらを通りやすくするかを調整すると考えたのです。

分析の結果、部下の「信頼性」が高いほど、またそのときの「気分」が良いほど、その提案は上司に承認されやすいことが分かりました。信頼性と気分の両方が、承認にプラスに働いていました。

この関係は、上司の特性によってその姿を変えました。ここでもまた、評価のメカニズムを左右する「スイッチ」の存在が浮かび上がってきました。

「部下に対する義務感」が高い上司のグループを見てみましょう。このグループの上司は、部下の提案を評価する際に、その部下の「信頼性」を強く判断材料にしていました。一方で、部下のそのときの機嫌の良し悪しには、ほとんど評価が左右されませんでした。部下に対して強い責任を感じている上司ほど、提案の表面的な雰囲気ではなく、その中身や、提案者のこれまでの実績といった本質的な部分を真剣に吟味しようとする姿勢がうかがえます。

対照的に、「部下に対する義務感」が低い上司のグループでは、逆のパターンが見られました。このグループの上司の判断は、部下の「信頼性」よりも、そのときの「機嫌の良さ」に強く影響を受けていました。部下への責任感が薄いと、提案内容をじっくり吟味しようという動機づけが弱まります。その結果、部下の明るい表情や楽しそうな雰囲気といった、処理しやすく心地よい周辺的な手がかりに判断を委ねてしまう傾向が見られたのです。

「考え方の柔軟性」が低い、いわば思考が硬直的な上司も、部下の機嫌の良さに評価が左右されやすいことが分かりました。多様な情報を統合して複雑な判断を下すことが苦手なため、手っ取り早く結論に至れる分かりやすい手がかりに頼ってしまうのかもしれません。

脚注

[1] Cyr, D., Head, M., Lim, E., and Stibe, A. (2018). Using the elaboration likelihood model to examine online persuasion through website design. Information & Management, 55(7), 807-821.

[2] Griffith, E. E., Nolder, C. J., and Petty, R. E. (2018). The elaboration likelihood model: A meta-theory for synthesizing auditor judgment and decision-making research. Auditing: A Journal of Practice & Theory, 37(4), 169-196.

[3] Liu, W. N. (2024). Exploring the persuasive influence of physical attractiveness premium in the recruiting process: A study using the elaboration likelihood model. Journal of Service Science and Management, 17(1), 89-106.

[4] Li, X., Wu, T., and Ma, J. (2021). How leaders are persuaded: An elaboration likelihood model of voice endorsement. PLOS ONE, 16(5), e0251850.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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