2025年10月29日
直感と経験を活かし、乗り越える:採用面接における認知バイアスの理解と対策
採用面接は多くの組織にとって人材選抜の中核をなすプロセスです。面接官は限られた時間の中で候補者の能力や適性を見極め、組織の将来を左右する判断を下します。しかし、この一見合理的な選考過程には、私たちが想像する以上に多くの落とし穴が潜んでいます。
人間の判断は完璧ではありません。心理学研究が明らかにしているのは、面接官もまた認知バイアスという心理的な歪みから逃れられないということです。直前に面接した優秀な候補者の印象が次の判断を曇らせたり、第一印象の良し悪しがその後の評価全体を支配したり、科学的に実証された手法よりも直感を信じてしまったりする現象が起こっています。
これらのバイアスは個人の資質の問題ではありません。人間の認知機能に深く根ざした現象であり、経験豊富な面接官であっても例外ではないのです。だからこそ、バイアスの存在を前提とした面接設計が求められます。
本コラムでは、面接官が陥りやすい認知の罠を解説し、それらを防ぐための構造化・標準化がなぜ必要なのかを考察します。科学的エビデンスに基づいた知見を通じて、より良い人材選抜の実現に向けた道筋を探っていきます。
直前の優秀者が次候補の合格率を下げる
面接会場では、候補者が順番に呼ばれて評価を受けていきます。それぞれの面接は独立した評価プロセスのように思えますが、実際にはそうではありません。直前に面接した候補者の質が、次の候補者への判断に左右するという現象が存在します[1]。
この現象はコントラスト効果と呼ばれ、ある調査によってその実態が浮き彫りになりました。研究者たちは、互いに独立した二つの面接プロセスを対象に、合計35,000件を超える個別面接データを分析しました。一つはドイツの名門大学院奨学金プログラムの入学面接、もう一つは大手コンサルティング企業の新卒採用面接です。
この研究設計では、候補者はほぼ無作為に面接官へ割り当てられ、面接順もランダムに近い条件が整えられていました。直前候補の合否判定が現在候補の採用決定に与える影響が検証されました。面接官固有の判断傾向や候補者の属性による偏りも統計的に除去された上で、コントラスト効果が測定されました。
結果、直前の候補者が「採用すべき」と評価された場合、次の候補者が同じ評価を得る確率は低下しました。面接官は無意識のうちに「前の人が良すぎたから、今回は厳しく見よう」という心理的調整を行っていたということになります。
このコントラスト効果は、特定の条件下でより強く現れることも明らかになりました。候補者同士が性別や学歴といった属性を共有する場合、効果は増幅されます。面接官は同じカテゴリー内での相対比較を行いやすくなるためと考えられます。
時間的要因も無視できません。面接間の休憩が短いほど効果は大きくなり、逆に長いインターバルを設けると縮小する傾向が観察されました。面接日の序盤では効果がより顕著になることも分かっています。これは面接官がまだ十分な評価基準を確立できていない段階で、直前の候補者を基準点として使ってしまうためと解釈されます。
面接官の経験年数や役職、面接訓練の有無といった要因は、コントラスト効果の強さをほとんど説明しませんでした。このバイアスは幅広い人々に根深く存在する現象だということです。
面接前に研究結果を短く紹介し、「前の候補者と比較せずに評価してください」と促す注意喚起を行いましたが、残念ながら効果の低減は検出されませんでした。意識づけだけでは、このバイアスを修正することは困難だということです。
しかし、希望がないわけではありません。複数の評価者による独立評定を行った場合のシミュレーションでは、個々の面接官のコントラスト効果が平均化され、決定への偏った影響が緩やかに減衰することが確認されました。コストは増大しますが、3名の独立評定を採用すれば相当程度の改善が期待できます。
現場は科学的手法より直感的判断を頑なに優先する
構造化面接などが実証的に高い予測力を持つことが研究で明らかになっているにもかかわらず、現場での採用がなかなか進みません。この現象の背景には、人事担当者や面接官が抱く信念体系が横たわっています。
ある分析によると、この抵抗の源泉は科学知見の不足ではなく、二つの暗黙の信念にあることが分かってきました[2]。一つは「完璧な予測が可能だという暗黙の信念」、もう一つは「経験を積めば直感で人を見抜けるという専門性神話」です。
現場の人事担当者に対する調査においては、「非構造化面接が最も効果的」だと評価する一方で、メタ分析(多数の研究結果を統合した分析)では構造化面接の方が一貫して高い妥当性を示しています。この乖離は知識不足によるものではありません。多くの場合、「自社には研究結果が当てはまらない」という信念が根底にあるのです。
第一の信念である「完全予測可能性の幻想」について見てみましょう。多くの人々は、選抜を確率的で誤差を含むプロセスとして理解するのではなく、「適切な候補者を正確に測ることができれば失敗は起こらない」という決定論的な世界観で捉えやすいと言えます。このため、テストが「不完全」だと指摘されると、他の情報を加えれば完全性が回復できると誤解してしまいます。
しかし現実は異なります。人のパフォーマンスには、採用時点では把握できない要因が数多く影響を与えます。個人の成長、環境の変化、予期しない出来事など、どれほど精密な選考を行っても予測には自然な上限が存在するのです。これは「予測天井」と呼ばれる概念で、完璧な予測という理想が根本的に不可能であることを表しています。
第二の信念は「直感的専門性の神話」です。面接経験を積むことで候補者の真の姿を見抜く力が向上すると信じることです。表面的な回答の奥にある本音を読み取ったり、微細な表情やしぐさから性格を判断したりできるようになると考えているのです。
ところが、この信念を支える実証的証拠は乏しいのが現状です。臨床心理学、司法、教育といった幅広い領域で行われた研究を総合すると、経験は直観的判断の精度をほとんど高めないことが一貫して示されています。面接官間の信頼性や予測的妥当性に関するメタ分析でも、非構造化面接は業績分散の約10パーセント程度しか説明できないとされています。
直感アプローチを擁護する論理も存在します。稀少だが決定的な情報や、複数の特性が組み合わさって生まれる独特のパターンは、機械的手法では捉えられないという主張です。しかし、これらの主張も実証的検証には耐えられませんでした。
では、なぜ直感への依存は根強いのでしょうか。その背景にはいくつかの社会・心理的要因があります。
第一に、誤判の曖昧性があります。直感に基づく選考では、間違いが生じても責任の所在が不明確になります。「総合的に判断した結果」という説明により、意思決定者は自己の楽観性を保ちやすくなります。
第二に、社会的な容認性の問題があります。数値やアルゴリズムに依拠するよりも、熟練者の「目利き」に頼る方が組織内外で評価されやすい風潮があるかもしれません。これは医療診断やスポーツの選手評価でも同様に報告される現象です。
第三に、理解の難しさが挙げられます。例えば妥当性係数0.50という数値がどれほど価値のあるものかを示す適切な文脈や可視化が提供されることは稀で、現場は効果を過小評価してしまいます。
ハロー・ホーン効果で面接判断が偏るため標準化が必須
面接室に入った瞬間の印象が、その後の評価すべてを決めてしまう。このような経験をしたことがある面接官は少なくないでしょう。この現象は心理学では「ハロー効果」と「ホーン効果」として知られており、採用面接における判断の歪みを生む原因となっています[3]。
ハロー効果とホーン効果は、第一印象の一側面が他の独立した評価次元へ汎化・投射される現象です。例えば、候補者の感じの良い笑顔を見て「業務能力も高いに違いない」と判断したり、話し方がゆっくりしているのを見て「仕事が遅そう」と評価したりする心理的メカニズムを指します。
これらの効果が採用面接で発生する過程は複雑です。履歴書の内容、外見、第一声といった初期の手がかりが、候補者に対する全体的な好悪感情を呼び起こします。この感情は面接官の行動を変化させ、質問内容や視線の配り方、頷きの頻度、沈黙の長さなどに反映されます。候補者もまた、面接官のこうした非言語的サインを敏感に読み取り、それに応じて自分の振る舞いを調整します。
この相互作用の結果、面接官は自分の初期印象と整合する情報ばかりを重視し、最終的な採用判断を下すという自己成就的な連鎖が形成されます。客観的で公正な評価を行っているつもりでも、実際には最初の数分間で形成された印象に引きずられているという事態が生じます。
バイアスの強弱は、職種や文化的背景によって変動することも分かっています。高度専門職である医師の場合、「落ち着いた外見=豊富な経験」というハロー効果が働きやすくなります。ファッションデザイナーのような創造性を求められる職種では、「見た目の洗練度=創造力の高さ」という連想が生まれがちです。
文化的要因も見逃せません。評価者が属する文化圏で重視される属性によって、ハロー・ホーン効果のトリガーとなる要素が変化します。年長者への敬意を大切にする文化では年齢が、美的価値観の強い文化では外見が、それぞれ過度に重視される可能性があります。
ジェンダーに関連したバイアスも深刻です。男性優位とされる職種では、「美人は有能さを欠く」という逆説的な効果が生じることがあります。これは「beauty-is-beastly効果」と呼ばれ、女性の外見的魅力がかえってホーン効果として働く一方で、男性には同じ魅力度がプラスに機能するという非対称性を生み出します。
しかし、これらのバイアスは決して克服不可能なものではありません。適切な標準化手法を導入することで、その影響を削減できることが実証されています。
構造化面接は基本的でありながら効果的な対策です。質問項目と評価基準を事前に統一することで、主観的印象が介入する余地を抑制できます。面接官は予め定められた枠組みに沿って評価を行うため、初期印象による判断の歪みが軽減されるのです。
複数の評価者による多角的評価も有効です。複数回の面接や複数の面接官による独立評価を行うことで、個々の面接官が持つハロー・ホーン効果を相殺し合い、より客観的な判断が可能になります。
構造化と匿名面接で選抜バイアスが減少する
医療現場における人材選抜は、生命に関わる仕事の特殊性から、特に高い精度と公正性が求められます。泌尿器科研修医選抜に関する包括的研究では、ビジネス領域で実証されてきた構造化面接や面接官ブラインド化の手法を医療系レジデンシーに応用することで、どのようにバイアスが軽減され多様性が高まるかが検証されました[4]。
この研究が注目を集める背景には、従来の客観的指標に対する疑問があります。USMLEスコアといった標準化テストの成績が、必ずしも臨床現場での成功を予測しないという知見が蓄積されています。そこで焦点となったのが、「面接そのものをいかに標準化し得るか」という課題でした。
従来の非構造化面接では問題が指摘されています。質問項目が固定されておらず、面接官と候補者間の自由な対話に委ねられるため、質問の一貫性が失われ、受験者間の比較妥当性が低下します。面接官の主観的好みや無意識のバイアスが入り込む余地が大きく、ハロー効果やホーン効果、親和性バイアスといった認知の歪みが生じやすくなります。
これに対して構造化面接では、異なるアプローチが採用されます。あらかじめ定義されたコア・コンピテンシー、例えばコミュニケーション能力、誠実性、協働性といった要素に基づいて、全受験者に同一の質問を提示し、定量的なルーブリック(評価基準表)で採点を行います。
質問形式には主に二つのタイプが用いられます。行動連鎖型質問では、過去の具体的経験を詳しく語ってもらうことで、将来の行動パターンを推定します。状況型質問では、仮想的な場面での対処策を問うことで、候補者の価値観や優先順位を評価します。
実装プロセスでは綿密な準備が必要です。まずプログラム内で「成功するレジデント像」について合意を形成し、評価すべき属性を厳選します。続いて、該当属性を引き出すための質問を作成し、模擬面接による妥当性検証を行います。0点から5点といった行動指標付きルーブリックを定義し、面接官に対して評価誤差の種類と対策を説明しながら採点演習を実施します。
この訓練を経た面接官は、相互一致度が向上します。構造化面接スコアは、コミュニケーション技能やプロフェッショナリズムといった臨床パフォーマンス指標の有意な予測因子となることが確認されています。
Multiple Mini-Interview(MMI)という手法も注目に値します。これは6から12の短い面接ステーションを巡回し、複数の面接官が非認知能力を多角的に評価する方式です。同時処理能力、倫理的判断力、共感性といった要素を、それぞれ専門性を持った評価者が独立して測定します。
MMIの利点は複数あります。面接官間のバイアスが平均化されることで信頼性が高まります。臨床知識や手技、例えば結び目作成や解剖識別といった実践的スキルを含む拡張設計が可能です。オーストラリアの助産師プログラムでは、MMI導入後に学習成績の向上と離脱率の低下が観察され、候補者の情熱やコミットメントを多角的に抽出できる効果が実証されています。
面接は標準化と候補者満足の両立が重要
採用面接の研究領域では、長らく「いかに正確な評価を行うか」という技術的課題に焦点が当てられてきました。しかし、1989年以降に発表された278本の面接研究を統合したレビューは、この視点だけでは不十分であることを明らかにしました[5]。面接は評価の場であると同時に、組織のブランディングの場でもあり、候補者の体験と満足度が採用成功の鍵を握っています。
この包括的研究では、面接プロセスを5つの主要ファクターに分類して分析が行われました。社会的要因、認知的要因、個人差要因、測定上の要因、そしてアウトカムです。従来の研究では測定の技術的側面に偏りがちでしたが、このレビューは社会心理学的プロセスと候補者反応にも同等の重みを置いたアプローチでした。
社会的要因の分析では、面接官と候補者の相互作用について知見が得られました。従来は「単純な人種・性別の一致」が評価を左右すると考えられていましたが、近年の研究では態度や価値観の類似性の方がより強い影響を持つことが判明しています。
非言語・言語行動に関する36件の新研究が追加され、視線、姿勢、声調といった要素が評価と一定の相関を持つことが再確認されました。非言語的手がかりのみでも職務パフォーマンスの予測が可能だという報告も存在します。ただし、この知見は候補者の印象操作スキルが選考を左右しかねないという新たな課題も提起しています。
自己アピールなどの印象操作は、しばしば評価向上に結びつきますが、それが真の「有能さの伝達」なのか、それとも「バイアスの源泉」なのかは状況に依存します。構造化面接では印象操作の効果が弱まる傾向が観察されており、標準化が表面的な演出を抑制する可能性を示しています。
認知的要因では、面接官の情報処理プロセスに焦点が当てられました。履歴書などから形成される事前印象が本番評価に与える影響は存在しますが、予備スクリーニング段階での決定ほど強固ではないことが分かっています。アンカリングや調整不足といった判断ヒューリスティックも、構造化面接では軽減される傾向にあります。
能力を示唆する肯定的情報は評価を押し上げる効果がありますが、道徳性に関わる特性では否定的情報の方が重視されるという非対称性も発見されました。面接官は「有能だが不誠実」よりも「誠実だが平凡」を好む傾向があるのです。
個人差要因の研究では、候補者の外見や障害、パーソナリティといった属性が評価に与える影響が検証されました。身だしなみや肥満は面接評価に影響しますが、実務環境ではその効果が縮小しやすいことが示されています。
パーソナリティでは、外向性と誠実性が面接評価と弱から中程度の相関を示し、適切な準備行動を媒介する役割を果たしています。面接官側では、認知的複雑性の高い評価者が非言語的手がかりを柔軟に解釈し、評定の分散が大きくなる傾向が観察されました。
測定上の要因では、面接が単一の能力を測定するのではなく、知能、パーソナリティ、社会的スキル、職務興味、組織適合といった多元的構成を同時に測定し得ることが確認されました。
このレビューで重要な発見は、アウトカムに関する知見です。候補者は面接をテスト類よりも公正で納得感の高いプロセスとして認識しています。これは面接が持つ双方向性と人間的触れ合いによるものと考えられます。
ところが、構造化の度合いが高まると候補者の好意度が下がる場合があることも判明しました。標準化による公正性の向上と、候補者満足度の間にはトレードオフ関係が存在するのです。この発見は、面接設計において技術的効率性だけでなく、候補者体験も同時に考慮する必要性を浮き彫りにしています。
脚注
[1] Radbruch, J., and Schiprowski, A. (2024, June 30). Sequential contrast effects in hiring and admission interviews. VoxEU.org. https://cepr.org/voxeu/columns/sequential-contrast-effects-hiring-and-admission-interviews
[2] Highhouse, S. (2008). Stubborn reliance on intuition and subjectivity in employee selection. Industrial and Organizational Psychology, 1(3), 333-342.
[3] Shao, Y. (2023). How do the halo effect and horn effect influence the human resources manager’s recruitment decision in an occupation interview? Proceedings of the International Conference on Social Psychology and Humanity Studies, 6, 187-195.
[4] Bergelson, I., Tracy, C., and Takacs, E. (2022). Best practices for reducing bias in the interview process. Current Urology Reports, 23(10), 1-8.
[5] Posthuma, R. A., Morgeson, F. P., and Campion, M. A. (2002). Beyond employment interview validity: A comprehensive narrative review of recent research and trends over time. Personnel Psychology, 55(1), 1-81.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

