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コラム

実証研究が明かすインターンシップの価値:給与や就活に与える影響とは

コラム

大学生にとって、インターンシップは体験学習の枠を超えた存在となっています。就職活動の一環として参加し、企業もまた優秀な人材の確保や育成の機会として活用しています。インターンシップが実際にどの程度の価値を持つのか、その効果について検証が行われているのをご存知でしょうか。

各国の研究者たちが、インターンシップが学生に与える効果について実証研究を重ねています。例えば、大学での専攻分野よりもインターンシップ経験の方が就職活動において有利に働くという発見や、インターンシップが学業成績そのものを向上させるという報告があります。

本コラムでは、こうした研究知見を紹介しながら、インターンシップが学生の将来に与える多面的な効果について考察していきます。就職機会の拡大から給与水準の向上、さらには学業面での成長まで、インターンシップの価値を検討していきます。

インターンシップは学生の就職機会を高める

大学のビジネスカレッジにおけるインターンシップの効果について、包括的なレビューが行われ、インターンシップが学生の雇用機会向上に果たす役割が多角的に検討されています[1]。この研究では、既存の複数の調査結果を俯瞰することで、インターンシップの価値を評価しています。

研究によると、インターンシップを経験した学生は、未経験の学生と比較して就職活動において優位性を持つことが確認されています。顕著な差が現れるのは、仕事のオファーを受けるまでの期間です。インターンシップを修了した学生は、そうでない学生よりも短期間で内定を獲得する可能性が高く、就職活動の長期化というリスクを回避できることが分かっています。

加えて、就職後の職務内容についても差異が見られます。インターン経験者は、キャリア志向の強い職務に就く機会が多く、企業側も長期雇用の対象として捉えます。これは、インターンシップ期間中に学生が実際の業務を通じて自身の適性を理解し、企業側もその能力を把握できるためと考えられます。

職場における適応についても、インターン経験者は優れた成果を上げています。最初の就職後の仕事満足度が高いという調査結果は、インターンシップが学生に現実的な職場理解を提供していることを物語っています。職場環境を事前に体験することで、理想と現実のギャップに苦しむことなく、スムーズに社会人生活を開始できるのでしょう。

スキル向上の観点からも、インターンシップは学生に恩恵をもたらします。口頭および書面でのコミュニケーションスキル、問題解決能力といった、職場で求められる基礎的な能力が、実践的な環境下で磨かれることが確認されています。大学の講義だけでは身に付けることが困難なこれらのスキルを、実際のビジネス現場で習得できることは、インターンシップの価値と言えるでしょう。

インターンシップ経験は専攻より就職に有利

大学での専攻分野とインターンシップ経験が就職活動に与える効果について実証研究が行われています[2]。この研究では、レジュメ監査法という手法を採用し、専攻とインターンシップ経験の相対的な重要性を測定しています。

レジュメ監査法とは、架空の履歴書を実際の求人に応募し、企業からの反応を調べる研究手法です。20131月から7月にかけて、アトランタ、ボルティモア、ボストン、ダラス、ロサンゼルス、ミネアポリス、ポートランドの7都市において、約9,400通の履歴書がオンライン求人に送付されました。これらの履歴書には、会計学、生物学、経済学、英語学、金融、歴史学、経営学、マーケティング、心理学といった様々な専攻分野とインターンシップ経験の有無が、完全にランダムに割り当てられています。

このようなランダム化により、従来の研究では避けることが困難だった選択バイアスの問題を解決することができました。通常の調査では、優秀な学生ほどインターンシップに参加する傾向があるため、インターンシップの効果なのか、もともとの能力の差なのかを区別することが困難でした。しかし、この実験では架空の履歴書にランダムにインターンシップ経験を割り当てることで、純粋にインターンシップ経験そのものの価値を測定することに成功しています。

研究の結果、ビジネス関連専攻(会計学、経済学、金融、経営学、マーケティング)の応募者と、非ビジネス専攻(生物学、英語学、歴史学、心理学)の応募者との間で、面接依頼率に差は見られませんでした。これは、企業の採用担当者が専攻分野の違いをそれほど重視していないことを示唆しています。

一方で、インターンシップ経験の有無は差を生み出しました。インターンシップ経験がある応募者は、経験がない応募者に比べて、面接依頼を受ける確率が高かったのです。

インターンシップの効果は特定の条件下で顕著に現れることも判明しています。非ビジネス専攻の学生にとって、インターンシップ経験はビジネス分野への参入において特に価値のあるシグナルとして機能します。学業成績が高い学生においても、インターンシップ経験の効果は認められており、既に優秀な学生がさらに競争力を高める手段としてインターンシップが機能していることが分かります。

インターンシップ経験者は給与が高くなる

ビジネス専攻の大学生がインターンシップを経験することによって、卒業後の就職市場において給与面でどのような恩恵を受けるかについて、雇用主の視点から調査が実施されています。この研究は、アメリカ北東部のAACSB認定ビジネススクールと連携し、392名のインターン生を受け入れた185社の企業を対象としたアンケート調査として実施されました[3]

研究の特徴は、学生側の視点ではなく、インターン生を雇用した企業側の評価と意向に焦点を当てている点です。企業の人事担当者や管理職に対して、インターン経験者と非経験者を比較した場合の評価、再雇用の意向、給与提示の意欲などについて質問を行いました。この手法により、就職市場における需要側の認識を把握することが可能になっています。

調査結果によると、雇用主の多くはインターンシップ経験を高く評価しており、職務スキル、生産性、学習能力の各面でインターン経験者に対してポジティブな評価を下していることが明らかになりました。同じ大学から再びインターンを採用したいという意向を示す企業も多く、インターン経験者を優先的に採用したいという傾向も確認されています。

給与水準に関するデータは、インターンシップの経済的価値を示しています。優秀なパフォーマンスを示したインターン(期待以上の成果を達成した場合)に対しては、非インターン経験者より高い給与を提示する意向があることが判明しました。期待通りの成果を上げたインターンに対しても給与増加が見込まれ、全体の平均では約9%の給与プレミアムが確認されています。

企業がインターン経験者により高い給与を支払う理由は、彼ら彼女らのパフォーマンスにあります。調査では、インターンの評価に影響を与える要素として「一貫性」「時間管理」「自己管理能力」「仕事の質へのコミットメント」が挙げられています。これらの能力は実際の職場環境において習得できるものでしょう。

インターンのパフォーマンスと企業の評価の関係についても発見があります。優秀なインターンを受け入れた経験のある企業は、そうでない企業と比較して、インターン経験者全般に対して積極的な評価を下し、給与面でも優遇する傾向が強いことが確認されています。これは、一度良いインターンとの経験を持った企業が、インターンシップの価値を深く理解し、制度そのものに対する信頼を高めていることを表しています。

企業側の視点から見ると、インターンシップは効率的な人材確保手段としても機能しています。採用プロセスにおいて、企業は限られた情報から応募者の能力を判断しなければなりませんが、インターンシップ経験者については既に職場での働きぶりを確認できているため、採用リスクを軽減できます。新入社員の教育コストも削減されるため、企業にとって経済合理性のある投資となっているのです。

インターンシップは初任給を高める

学部生時代のインターンシップ経験が卒業後のキャリア形成に与える長期的な効果について、包括的な追跡調査が実施されています。この研究は、アメリカ北東部の中規模公立大学のビジネス専攻卒業生を対象とし、卒業後15年間の期間にわたってキャリアの進展を追跡したものです[4]

調査の設計において重要なのは、インターンシップ経験の有無以外の要因をできる限り統制している点です。年齢、性別、大学でのGPA、専攻分野、卒業後の職務経験といった変数の影響を排除するため、インターン経験者と非経験者を同等の条件でマッチングして比較分析を行いました。

結果、インターンシップは大学の通常の授業では得られない実践的な能力向上をもたらしていることが確認されました。コンピュータスキル、創造的思考力、面接能力、人脈構築力、人間関係構築能力などの分野で、インターンシップ経験者は顕著な成長を遂げています。

他方で、口頭プレゼンテーション能力については、大学での授業の方がインターンシップよりも効果的であることが判明しました。大学教育と実務経験がそれぞれ異なる強みを持ち、相補的な関係にあることを意味しています。

キャリアの外的成功、すなわち給与や就職活動期間といった客観的な指標において、インターンシップ経験者は優位性を示しています。初任給について、インターン経験者は非経験者より約9%高い水準でスタートを切っています。現在の給与においてはその差がさらに拡大し、約17%の差が生じています。

就職活動期間の短縮効果も顕著です。インターン経験者が初回の正規雇用を得るまでに要した期間は平均1.98か月であったのに対し、非経験者は4.34か月を要しており、その差は2倍以上に達しています。

仕事満足度の面では、インターン経験者は全般的により高い満足度を報告しています。これは、給与や福利厚生といった外的な報酬に対する満足度の高さに起因しています。一方で、同僚や上司との人間関係については、インターンシップ経験の有無による差は見られませんでした。

この研究の価値は、インターンシップの効果を短期的な就職活動の成功だけでなく、中長期的なキャリア形成の観点から検証した点にあります。多くの学生や保護者は、インターンシップを、就職活動を有利に進めるための一時的な手段として捉えがちですが、実際にはキャリア全体にわたって継続的な価値を提供する投資であることが明らかになりました。

インターンシップは学業成績を向上させる

大学におけるインターンシップが学生の学術的成果に与える効果について、英国で実証研究が実施されています。この研究は、2001年から2009年までの9年間にわたって15,732名の学部卒業生を対象とした追跡調査として実施され、インターンシップの学業面での効果を検証しています[5]

英国の大学システムでは、通常の3年間の学位コースに加えて、約811か月のインターンシップを含む4年間コースが選択可能となっています。この制度的な特徴を活用し、研究者たちは同一大学内でインターンシップ経験者と非経験者の学業成績を比較することができました。

分析結果としては、インターンシップ経験者の最終学年での平均成績は、未経験者より高い水準を示していました。さらに注目すべきは、インターンシップ経験者が上位の学位を取得する確率は、未経験者の約2倍に達していました。

学生の背景要因との関連を分析した結果、性別では、女性の方が男性よりもインターンシップによる恩恵をより多く受けていることが判明しています。民族性に関しては、全体的に白人学生の方が非白人学生より高い成績を示しましたが、インターンシップの効果そのものには民族性による差は見られませんでした。インターンシップは文化的背景に関係なく、すべての学生グループに等しく学術的な恩恵をもたらしていることを意味しています。

過去の学業成績との関係では、もともと成績の良い学生ほどインターンシップの効果は相対的に小さくなるものの、それでも統計的に有意なプラスの効果が確認されました。学力水準に関係なく、すべての学生がインターンシップから学術的な恩恵を受けられることを示しています。

通常、優秀で意欲的な学生ほどインターンシップに参加するため、成績向上がインターンシップの効果なのか、もともとの学生の資質によるものなのかを区別することは困難です。しかし、この研究では、インターンシップが必修となっているコースと選択制のコースを比較分析することで、この問題を解決しています。結果として、必修コースでも選択制コースでも、インターンシップの学業成績向上効果に差は見られませんでした。

成熟効果の検証も行われました。インターンシップの効果が単なる「1年間の追加的な学習期間」による成熟によるものではないかという疑問に答えるためです。研究では、1年間を別の大学での勉強に費やした学生群との比較を行い、むしろそうした学生の学業成績は低下することが確認されました。

インターンシップが学業成績を向上させるメカニズムについて、研究者たちはいくつかの可能性を提示しています。有力な説明は、実務経験が学生の学習動機を高め、キャリアに対する明確な自己認識を形成することで、その後の学業に対する取り組み姿勢が改善されるというものです。

インターンシップ期間中に身に付けた時間管理能力、問題解決スキル、コミュニケーション能力などが、その後の学業遂行においても活用され、学習効率の向上につながっている可能性もあります。

脚注

[1] Knouse, S. B., and Fontenot, G. (2008). Benefits of the business college internship: A research review. Journal of Employment Counseling, 45(2), 61-66.

[2] Nunley, J. M., Pugh, A., Romero, N., and Seals, R. A., Jr. (2015). College major, internship experience, and employment opportunities: Estimates from a resume audit. Auburn University Department of Economics Working Paper Series, AUWP 2015-09.

[3] Gault, J., Leach, E., and Duey, M. (2010). Effects of business internships on job marketability: The employers’ perspective. Education & Training, 52(1), 76-88.

[4] Gault, J., Redington, J., and Schlager, T. (2000). Undergraduate business internships and career success: Are they related? Journal of Marketing Education, 22(1), 45-53.

[5] Binder, J. F., Baguley, T., Crook, C., and Miller, F. (2015). The academic value of internships: Benefits across disciplines and student backgrounds. Contemporary Educational Psychology, 41, 73-82.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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