ビジネスリサーチラボ

open
読み込み中

コラム

「自分たちならできる」がチームを動かす:集合的効力感のメカニズム

コラム

現代はVUCAの時代といわれて久しく、企業や組織が直面する課題は多岐にわたっています。テクノロジーの進化による業務の高度化、グローバル化による競争の激化、働き方の多様化によるマネジメントの複雑化など、組織が成果を出すための難易度は増すばかりです。

このように変化が激しく未来が見えない状況下では、メンバー一人ひとりが自身の能力に自信を持ち、積極的に行動することが組織パフォーマンスの向上に必要とされています。このような「自分ならできる」という感覚を、学術的には「自己効力感」[1]と呼びます。

この自己効力感と同じように重要視されているのが、「自分たちならできる」という感覚、すなわち「集合的効力感」です。本コラムでは、集合的効力感を深掘りし、組織に良い影響をもたらすメカニズム、集合的効力感を高めるうえでのポイントについて解説します。

集合的効力感とは何か

集合的効力感(Collective Efficacy)とは、メンバーが持つ「自分の組織やチームが目標を達成し、さまざまな課題に対応できる」という自信や信念を表します[2]。集合的効力感が高い人は、上司や同僚、経営陣の能力の高さや、企業としての業績の良さを認識しています。そのため、組織の力を信頼し、「自分たちならできる」と感じている状態にあるといえます。

より具体的には、集合的効力感は以下3つの要素から構成されています。[3]

集合的能力感

集合的能力感とは、組織やチームが力を合わせて、目標を達成するために必要な行動を計画し、実行できるという感覚を表します。課題を解決するための実行可能な施策を考えるうえで、メンバー間でしっかりと議論したり支援しあったりしている組織では、メンバーの集合的能力感が高いといえます。

使命感

使命感とは、目的意識を持って行動するための指針があり、組織や個人が目指すべき方向が明確になっている程度を表します。刻一刻と変化する環境下では、メンバーがいま何をすべきなのか、どこへ向かうべきなのかが不明瞭になってしまい、パフォーマンスに悪影響を与えかねません。リーダーがミッションや組織のありたい姿をしっかり設定しており、向かうべき方向性を指し示している組織では、メンバーが高い使命感を持って働けているといえます。

レジリエンス

集合的効力感におけるレジリエンスとは、組織が困難や予期せぬ課題に直面したときに、それを乗り越え、持続的に成長できる力を表します。例えば、予期せぬ自然災害や競合他社の台頭により、自社のビジネスモデルが危機に陥った場合でも、業績を持続しさらなる成長につなげるために別の戦略を実行できる組織は、レジリエンスが高いといえます。

以上をまとめると、目指すべき目標やミッションを掲げ、問題解決のために協力しあい、逆境に立ち向かい成長する組織は、集合的効力感が高いといえるのです。

組織の規模と集合的効力感

集合的効力感は対象とする規模によって、「グループ(チーム)集合的効力感」と「組織的集合的効力感」の2つに分かれます。グループ集合的効力感は、部署や課など小さなユニットにおける効力感を表し、上司や同僚の能力から影響を受けます。一方で、組織的効力感は自分が働く組織全体や経営陣の能力に関連した、より大きな単位における効力感を指します。

研究知見では、従業員が置かれている状況によって、グループと組織、どちらの効力感が影響しやすいかが異なることが指摘されています。例えば、ある人の作業が終わらないと次の人の作業が始められない、といったお互いの作業が密接に関わりあう職場では、グループ集合的効力感の影響を受けやすいことが示されています[4]。他方で、メンバーのローテーションやチームの再編成が多く行われるような組織で働く従業員にとっては、組織的集合的効力感の方が影響力を持ちやすいとされています。

集合的効力感がもたらす影響

集合的効力感が高まると、組織にさまざまな良い影響をもたらします。以下はその一例です。

組織パフォーマンスの向上

複数の研究結果をまとめて再分析した研究では、集合的効力感はメンバーの共同作業を促進し、組織のパフォーマンス向上に寄与することが示されています[5]

集合的効力感が高いチームでは、個々人が困難な目標に挑戦し、努力を続ける意欲が高まります。また、チーム内での情報共有、コミュニケーション、協調行動が強化されます。それらの結果として、組織としてのパフォーマンスが向上します。

支援行動の増加

韓国の大手企業で働く従業員を対象とした調査で、集合的効力感が高いと思っている人ほど、自発的に上司や同僚を手助けしていることが示されています[6]

集合的効力感が高い従業員は、自分の所属する組織を誇りに思い、組織と一体感を持って働いていると感じます。また、組織が安定した資源やサポートを自分たちに提供してくれていると認識しています。よって、組織に貢献したい意欲が高まるため、自身のパフォーマンスだけでなく、周囲の人々を支援する行動も増えるのです。

失敗からの学びの効果を促進する

中国のハイテク企業に所属する新製品開発チームを対象にした調査[7]では、失敗からの学びが、そのチームが開発した新製品が売り出されるスピードを促進することが分かりました。加えて、特に集合的効力感が高いチームほどその効果が高まることが顕著でした。

集合的効力感が高いチームでは、お互いの能力を信頼しています。それゆえに、過去の失敗がなぜ起きたのか、それを解決するにはどうすべきかを臆することなくお互いに話し合い、早期かつ具体的に対策を実行することができたと考えられます。

集合的効力感を高める要素

様々な効果が認められている集合的効力感ですが、その効力感を高める要素についても研究が行われています。具体例は以下の通りです。

リーダーシップ

研究では、以下のようなリーダーシップスタイルが集合的効力感を高めることが分かっています。

  • サーバントリーダーシップ[8]:仲間や部下の成長や幸せを支えることを最優先に考え、相手に尽くすことを大切にするスタイルです。リーダーの誠実なふるまいや、周りを大事にする姿勢が、チーム内に安心感をもたらし、メンバーがお互いに信頼でき、支えあう関係が築かれます。
  • コーチングリーダーシップ[9]:「指示者」ではなく「伴走者」のような存在であり、単に成果を求めるのではなく、メンバーが自分の強みを活かして活躍できるように応援することを特徴としたスタイルです。リーダーが個々の強みを認め、チームとして協力して課題に向き合う姿勢を促すことで、メンバーたちは「自分たちはできる」という感覚を共有しやすくなります。
  • オーセンティックリーダーシップ[10]:強みや弱みといった自分らしさを受け入れつつ、誠実な姿勢で人を導くスタイルです。このスタイルのリーダーは一人ひとりが自分らしく働けるようにサポートします。メンバーの意見や批判を受け入れる姿勢があり、透明性のある対話を通じて安心感のある環境をつくり出します。こうしたリーダーのもとでは、メンバーも自分の考えを率直に伝えやすくなり、職場全体が前向きな雰囲気をもつようになります。

能力を高める人事施策

中国の複数の企業で働く従業員を対象とした調査[11]で、従業員のスキルや専門性を高める人事施策が行われているほど、集合的効力感が高まることが示されています。

実際に自分や同僚の能力が高いほど「自分たちならできる」という感覚は高まります。加えて、自分たちの能力を高めるような研修・教育機会があることは、「ちゃんと選ばれて、育てられた」という実感をもたらすため、メンバーの間に「自分たちなら新しいことにも挑戦できる」という自信と意欲を生むのです。

協力的な規範意識

韓国の複数の企業で働く従業員を対象とした調査で、協力的な規範意識が高いチームほど、集合的効力感が高いことが分かりました。

協力的な規範意識を持つチームは、「お互いに助け合おう、協力しよう」という価値観や行動のルールが自然に共有されており、メンバー同士で情報をオープンに共有したり、自分だけの利益よりもチームのためを優先したりするといった行動がよくみられます。そのため、「自分たちにはやり遂げる力がある」という自信が生まれやすくなります。

集合的効力感が高すぎることのデメリット

上述したように、集合的効力感の向上は様々なメリットを持ちます。一方で、集合的効力感が高すぎる、つまり過信している状態は以下のようなデメリットを引き起こす可能性があることも指摘されています。

リスクが高い戦略をとりやすくなる

アメリカの大学生を対象に、チーム制の戦争ゲームで競わせた調査[12]があります。このゲームは、31組のチームが戦車を操作し、敵の固定砲台を破壊するというものです。また、目標の難易度やインセンティブが設定されており、「自チームが他チームに襲われる可能性があるが、破壊すると高得点をもらえる砲台」や、「襲われる危険性は少ないが、破壊しても得点が低い砲台」が存在しました。そのような設定の中で、各チームは戦略的なリスクを取りながら協力して目標達成を目指しました。

この調査の結果、集合的効力感が高いチームほどリスクが高い選択肢(他チームに襲われるとしても、高得点を狙おうとする)を選びがちで、結果としてチームのパフォーマンスが低下する可能性があることが示されました。

チームが自分たちの力を過信すると、「多少リスクが高くても、自分たちならなんとかできるはず」と判断し、実際のリスクの大きさを過小評価してしまう傾向があります。それにより、状況に適さない戦略選択や過剰なリスクテイクにつながり、最終的にはパフォーマンスの低下を招いてしまうのです。

丁寧な意思決定を省きがちになる

カナダの大学生を対象に、チーム制のビジネス戦略ゲームで競わせた調査[13]では、参加者がチームを組んで架空の企業の経営陣となり、意思決定を行いました。ゲームは13ラウンド(1ラウンド=1年)で構成されており、各ラウンドでは価格設定、研究開発、広告、販売戦略、財務など10項目にわたる戦略的判断が求められます。

ゲームの前半(18年目)は地域ごとの市場での競争が行われ、各チームは急成長する市場でのシェア拡大を目指します。9年目以降は、政府の規制緩和によって地域間の競争が可能となり、市場環境が大きく変化します。このタイミングで各チームは、30分以内に新たな戦略方針を策定し、経営会議に向けた提案文書を作成するという課題に取り組みました。

この調査の結果、集合的効力感が中程度のチームで最もパフォーマンスが高く、低すぎても高すぎてもパフォーマンスが低下しやすいことが示されました。

集合的効力感が高い組織では、上述したリスクの過小評価に加え、「前もうまくいったから今回も大丈夫だろう」と考え、問題の深掘りや代替案の検討などの慎重で丁寧な意思決定を省いてしまう傾向があります。それゆえ、組織としてのパフォーマンスが低下する可能性があるのです。

組織外の知見を活かそうとしなくなる

中国のハイテク企業に所属する新製品開発チームを対象にした調査[14]では、他のチームで起きた失敗を活かすことが、自チームの製品の革新性を高めることが分かっています。しかし、集合的効力感が高いチームほど、そのメカニズムが働きにくくなることも示されました。

集合的効力感が高すぎるチームは、「自分たちはできる」という強い自信から、他チームの失敗を自分たちに関係のないことだと捉えてしまいがちです。さらに、自分たちの能力ややり方に過剰な信頼を置きすぎることで、外からの情報や新たな視点を受け入れにくくなり、学びのチャンスを自ら狭めてしまいます。また、その自信ゆえに既存のやり方に固執しやすく、抜本的な改善や斬新な発想につながりにくくなる傾向もあります。

これらの要因が重なることで、集合的効力感が高いチームほど、他者の失敗から柔軟に学ぶ力が弱まり、結果としてイノベーションの可能性を縮めてしまうのです。

実践に向けたポイント

以上のように、集合的効力感は基本的には高めたほうが良いものの、高めすぎることにもデメリットがあることに注意する必要があります。このことを踏まえつつ、集合的効力感を向上させ、パフォーマンスにつなげるためのポイントは以下の通りです。

「自分たちならできる」と思える共通の土台を築く

集合的効力感を高めるうえで最も基本となるのは、「自分たちには目標を達成する力がある」という感覚をチーム全体で共有することです。そのためには、これまでの成功体験を振り返ったり、メンバー同士の強みを可視化したりすることが有効です。チーム内で「自分も役に立っている」「みんなが頼れる存在である」と思える状態が、ポジティブな自己・他者認識を生み、集合的効力感の土台を築きます。

支援し伴走する誠実なリーダーシップを育む

集合的効力感を育むうえで、リーダーのあり方は極めて大きな影響を持ちます。メンバーを支えるサーバントリーダー、共に進むコーチングリーダー、自分らしさと誠実さで導くオーセンティックリーダーなど、「上から指示する」ではなく「ともに働く」というスタイルが、信頼と自信を引き出します。メンバー一人ひとりの強みや考えに耳を傾けるリーダーは、チーム全体の「自分たちはできる」という感覚を強めます。

過信を避け、「謙虚な自信」を育てる

集合的効力感が高まりすぎると、自信が過信へと変わり、リスクを見誤ったり、慎重な意思決定を怠ったりするリスクがあります。リーダーやチームは、「過去にうまくいったから今回も大丈夫だろう」という思い込みに陥らないよう、常に現状を丁寧に分析し、代替案を検討する習慣を持つことが大切です。謙虚さを保ちつつ、「今の自分たちにできる最善の行動は何か」を常に問い直す姿勢が求められます。

外部の知見や他チームの学びに目を向ける

強い自信を持つチームほど、自分たちのやり方に固執し、外からの学びを軽視しがちです。しかし、持続的な成長やイノベーションのためには、他チームや外部の事例に耳を傾ける姿勢が不可欠です。自分たちに直接関係ないように思える失敗事例であっても、そこから得られる教訓を柔軟に取り入れることで、新たな発想や改善のヒントが得られます。視野を広げる習慣が、長期的な強さにつながります。

脚注

[1] Bandura, A. (1994). Self-efficacy. In V. S. Ramachaudran (Ed.), Encyclopedia of

human behavior (Vol. 4, pp. 71-81). New York: Academic Press

[2] 脚注1(Bandura, 1994)と同じ

[3] Bohn, J. G. (2010). Development and exploratory validation of an organizational efficacy scale. Human Resource Development Quarterly, 21(3), 227-251. https://doi.org/10.1002/hrdq.20048

[4] Du, J., Shin, Y., & Choi, J. N. (2015). Convergent perceptions of organizational efficacy among team members and positive work outcomes in organizational teams. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 88(1), 178-202. https://doi.org/10.1111/joop.12085

[5] Gully, S. M., Incalcaterra, K. A., Joshi, A., & Beaubien, J. M. (2002). A meta-analysis of team-efficacy, potency, and performance: interdependence and level of analysis as moderators of observed relationships. Journal of applied psychology, 87(5), 819832. https://doi.org/10.1037/0021-9010.87.5.819

[6] 脚注4Du et al., 2015)と同じ

[7] Tao, X., Wang, C. L., Robson, P. J., & Hughes, M. (2025). How does team learning from failure facilitate new product performance? The double-edged moderating effect of collective efficacy. Small Business Economics, 64(1), 133-155. https://doi.org/10.1007/s11187-024-00895-2

[8] Nastiezaie, N., Bameri, M., & Dadkan, N. A. (2016). The relationship of servant leadership with trust and organizational efficacy. Modern Applied Science, 10(9), 87-93. https://doi.org/10.5539/mas.v10n9p87

[9] Mastrorilli, A., Santarpia, F. P., & Borgogni, L. (2025). Team collective efficacy as a mediator of coaching leadership effects on exhaustion: a multilevel investigation. Team Performance Management: An International Journal, 31(1/2), 38-62. https://doi.org/10.1108/TPM-03-2024-0029

[10] Ozkan, S., & Ceylan, A. (2016). Collective efficacy as a mediator of the relationship between authentic leadership and well-being at work. International Business Research, 9(6), 17-30.

[11] Ma, Z., Long, L., Zhang, Y., Zhang, J., & Lam, C. K. (2017). Why do high-performance human resource practices matter for team creativity? The mediating role of collective efficacy and knowledge sharing. Asia Pacific Journal of Management, 34, 565-586. https://doi.org/10.1007/s10490-017-9508-1

[12] Knight, D., Durham, C. C., & Locke, E. A. (2001). The relationship of team goals, incentives, and efficacy to strategic risk, tactical implementation, and performance. Academy of management journal, 44(2), 326-338. https://doi.org/10.5465/3069459

[13] Tasa, K., & Whyte, G. (2005). Collective efficacy and vigilant problem solving in group decision making: A non-linear model. Organizational behavior and human decision processes, 96(2), 119-129. https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2005.01.002

[14] 脚注7Tao et al., 2025)と同じ


執筆者

小田切 岳士 株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー
同志社大学心理学部卒業、京都文教大学大学院臨床心理学研究科博士課程(前期)修了。修士(臨床心理学)。公認心理師。働く個人を対象にカウンセラーとしてのキャリアをスタート。その後、企業人事として制度・施策の設計・運用などに携わる。現在は主な対象を企業や組織とし、臨床心理学や産業・組織心理学の知見をベースに経営学の観点を加えた「個人が健康に働き組織が活性化する」ための実践を行っている。特に、改正労働安全衛生法による「ストレスチェック」の集団分析結果に基づく職場環境改善コンサルティングや、職場活性化ワークショップの企画・ファシリテーションなどを多数実施している。

#小田切岳士

アーカイブ

社内研修(統計分析・組織サーベイ等)
の相談も受け付けています