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コラム

会社の空気は測定できる:組織文化と業績の関係性

コラム

よく耳にする「組織文化」という言葉。「うちの会社の文化は・・・」と言われると何となく理解できるような気がしますが、組織文化が組織のパフォーマンスにどのような形で関わっているのかを深く考える機会は少ないかもしれません。

組織文化とは、組織内で共有される価値観や信念、行動規範などを指し、目に見えにくいながらも組織の根幹を形成するものです。この目に見えにくい文化が、組織の業績や従業員の行動に関わっているとしたら、それはマネジメントにとって無視できない要素ではないでしょうか。本コラムでは、組織文化が企業のパフォーマンスにどのように結びついているのかについて、学術研究の知見をもとに掘り下げていきます。

かつては曖昧で捉えどころのないものと考えられていた組織文化は、測定可能なものであり、組織の成果と関連していることが明らかになっています。また、文化は知識の活用を促進することで組織の成果に貢献したり、従業員の離職率に影響を与えたりします。個人と組織の文化的な相性が良いと、従業員の満足度やパフォーマンスが高まることも分かっています。

これから紹介する研究結果は、組織文化がなぜビジネスの現場で大切なのか、そして組織文化をどのように考えていけば良いのかについて、新たな視点を提供してくれるでしょう。組織文化という見えにくい資産が、組織の競争力を支えているという事実に気づかされるはずです。

文化は定量的に測定可能で、業績と関連する

組織文化という言葉を聞くと、「雰囲気」といった曖昧な印象を持つかもしれません。組織文化は必ずしも目に見えるものではないため、捉えどころがないように感じられます。しかし、組織文化は定量的に測定することが可能であり、それが企業の業績と関連していることが分かっています。

組織文化を測定する試みの一つとして、「組織文化調査(Organizational Culture SurveyOCS)」があります[1]。そこでは組織文化を「組織の価値観、信念、期待、および承認される行動に関する共有された知覚」と定義しています。この定義に基づき、組織文化を測定するための調査票を開発したのです。

OCS6つの次元から組織文化を測定します。

  • 1つ目は「チームワークと対立」です。これは組織内のメンバー間でどの程度協力的な関係が築かれているかを表します。
  • 2つ目は「雰囲気とモラール」で、職場の雰囲気や従業員のモチベーション、満足度を測定します。
  • 3つ目は「情報の流れ」であり、組織内での情報共有の状況を表します。
  • 4つ目は「メンバーの関与」で、従業員が意思決定や組織運営にどの程度参加しているかを測ります。
  • 5つ目は「監督・管理の質」で、管理者が部下をどのように管理し、サポートしているかを評価します。
  • 6つ目は「ミーティングの有効性」で、会議がどれほど効果的に行われているかを測定します。

この研究では、政府機関や製造企業を含む複数の組織から267名の回答を集めました。インタビューとアンケートを組み合わせて、OCSの妥当性と信頼性を評価しました。その結果、OCSは高い信頼性(一貫性)と再テスト信頼性(時間的安定性)を持つことが確認されました。OCSによる測定結果は安定しており、組織文化を適切に捉えていると言えるのです。

定性的な調査結果からは、組織文化の特徴と組織のパフォーマンスとの関係について発見がありました。例えば、情報が自由に流れる組織では、従業員のモチベーションが高い傾向がありました。また、チームワークが良好な組織ほど、問題解決能力が高く、従業員のストレスが少ないことが分かりました。会議の質や管理者の指導が適切な組織では、組織の業績や従業員の満足度が高いことが見えてきました。

これらの結果は、組織文化が実際に測定可能で、かつ組織のパフォーマンスに関連することを示しています。組織文化は、従業員の行動や態度、そして組織全体の業績に影響を及ぼすということです。

OCSを使うことで、組織は自社の文化的な強みや改善点を把握することができます。例えば、「情報の流れ」の評価が低ければ、情報共有の方法を見直す必要があるかもしれません。「チームワークと対立」の評価が低ければ、協力的な関係を構築するための取り組みを検討するほうが良いでしょう。

このように、組織文化を定量的に測定することは、組織のパフォーマンス向上のための第一歩となります。組織文化という目に見えにくい要素を可視化し、その強みや弱みを把握することで、組織はより効果的に運営できるようになります。

文化の影響は知識活用を通じて組織成果に表れる

組織文化が測定可能であり、組織のパフォーマンスと関連することを見てきました。今度は、組織文化がどのようなメカニズムを通じて組織の成果に結びつくのかを見ていきましょう。

組織文化が組織の有効性(Organizational effectiveness)に与える影響のメカニズムを解明しようとした研究があります[2]。「ナレッジマネジメント」が組織文化と組織有効性の関係を媒介していました。ナレッジマネジメントとは、組織内外からの知識の生成、共有、活用というプロセスを指します。

この研究は資源ベースの観点と知識ベースの観点を理論基盤としています。資源ベースの観点では、企業の競争優位は他社が模倣困難な資源や能力に依存するとされています。一方、知識ベースの観点では、知識を企業の競争優位の源泉として位置づけています。ナレッジマネジメントが組織の成果に貢献すると考えられるのです。

アメリカの301社を対象にアンケート調査が実施されました。組織文化、組織構造、組織戦略、ナレッジマネジメント、組織有効性を測定し、これらの関係を分析しました。その結果、ナレッジマネジメントが組織有効性に正の影響を与えることが明らかになりました。知識の生成・共有・活用がうまく機能する組織ほど、高いパフォーマンスを示すということです。

さらに、組織文化がナレッジマネジメントに正の影響を与え、ナレッジマネジメントは組織文化と組織有効性の関係を完全に媒介することが分かりました。組織文化が直接的に組織有効性に影響を与えるのではなく、ナレッジマネジメントを通じて間接的に影響を与えます。

どのような組織文化がナレッジマネジメントを促進するのでしょうか。この研究では、組織文化は「適応性」「一貫性」「関与度」「使命感」という4つの次元で測定されました。適応性とは環境変化に対応する柔軟性、一貫性とは価値観や行動の一貫性、関与度とは従業員の参加度合い、使命感とは組織の目標や方向性の明確さを指します。これらの文化特性が強い組織ほど、ナレッジマネジメントが活発に行われる傾向がありました。

例えば、適応性の高い組織文化は、従業員が新しい知識を取り入れ、共有し、活用することを促進します。その結果、組織は環境変化に対応でき、高いパフォーマンスを発揮できるのでしょう。同様に、関与度の高い組織文化は、従業員が自分の知識を共有し、組織の知識創造に貢献します。これが組織全体の成果向上につながります。

離職率は業績よりも文化によって左右される

続いて、組織文化が従業員の離職率にどのような影響を与えるかについて検討します。ある研究は、組織文化の特性が従業員の離職率にどのような影響を及ぼすかを実証的に分析しました[3]。会計監査業界において、企業の文化的価値観が新卒者の離職率にどのような影響を与えるかを調査しました。

まず注目したのは、組織文化によって従業員の離職傾向が異なるかどうかです。一般的に、業績の高い従業員は昇進や昇給など様々な恩恵を受けるため、離職率が低くなり、逆に、業績の低い従業員は評価が低く、処遇も悪くなるため、離職率が高くなると考えられてきました。

しかし、この研究では組織文化によって、業績と離職の関係が異なるのではないかと考えました。例えば、従業員間のチームワークや長期的な忠誠心を重視する文化では、業績にかかわらず離職率が低くなるかもしれません。一方、個人主義的・起業家的な文化では、高業績者のみが長期間定着し、低業績者は早期に離職するかもしれません。

この仮説を検証するため、アメリカの特定都市にある6つの会計監査企業において調査を行いました。対象は904名の新卒従業員で、調査期間は6年間でした。分析の結果、組織文化は6つの企業間で異なることが分かりました。特に、「業務志向(Work Task Values)」と「対人関係志向(Interpersonal Relationship Values)」の2つの文化タイプが識別されました。業務志向文化は精密性や安定性を重視する文化であり、対人関係志向文化はチーム志向や人々への尊重を重視する文化です。

重要な発見は、組織文化が離職率に有意な影響を与えるということです。対人関係志向の組織文化を持つ企業は、業務志向の企業よりも新卒従業員が14ヶ月長く在籍することが分かりました。労働市場の条件や従業員の人口統計学的特性を統制した上でも見られる効果です。組織文化それ自体が従業員の定着に影響を与えているのです。

業績と離職の関係が文化によって異なることも明らかになりました。業務志向文化では、高業績の従業員が低業績の従業員よりも13ヶ月長く在籍していました。業務志向文化では、高業績者が報酬を得て長く勤め、低業績者はそうした報酬を得られずに早く辞める傾向があります。

一方、対人関係志向文化では高業績と低業績従業員の離職率の差はほぼ見られませんでした。対人関係志向の文化では、業績の高低にかかわらず従業員が長く勤めるのです。対人関係志向の文化では、チームワークや互いへの尊重が重視されるため、業績だけでなく人間関係や職場の雰囲気が従業員の定着に影響すると考えられます。

人と文化の一致は離職率を左右する

個人の価値観と組織文化の一致(適合性)が、離職率やコミットメントにどのような影響を与えるかについて掘り下げていきましょう。人と組織の適合性(Person-Organization Fit)を測定するための新たな方法を提案し、その適合性が個人の態度や行動にどのような影響を与えるかを実証的に検討した研究があります[4]

研究では、個人と組織の適合性を「個人の価値観と組織文化の一致度」として捉えています。個人の価値観と組織文化が一致している場合、その個人は組織に適合していると考えられます。逆に、価値観と文化が一致していない場合、適合性は低いと言えます。

この適合性を測定するため、「組織文化プロファイル(Organizational Culture Profile: OCP)」という新たな尺度を開発しました。個人に対しては「あなたが働きたい組織ではどの程度この価値観が重要ですか」と質問し、組織に対しては「この組織ではどの程度この価値観が特徴的ですか」と質問します。両者の回答を比較することで、個人と組織の価値観の一致度を計算できます。

この尺度を用いて、MBA学生(西海岸大学と中西部大学の2グループ)、会計事務所に勤務する新入社員およびその上司(アメリカ西海岸の大手8事務所)、政府機関の中間管理職を対象に実証分析を行いました。

初めに、OCPの因子構造を検討したところ、個人の希望する文化と組織の実際の文化は類似した因子構造を持っており、両者が比較可能であることが明らかになりました。これは、個人と組織の価値観を同じ尺度で測定し、比較することが妥当であることを示しています。

続いて、個人の性格特性と個人が希望する組織文化タイプとの関連を分析しました。その結果、性格特性によって希望する組織文化タイプが異なり、個人の価値観や性格が組織文化への志向を予測できることが分かりました。例えば、自律性を重視する人は、革新的で危険を恐れない文化を好む一方、対人関係を重視する人は、支援的でチーム志向の文化を好みます。

そして、入社直後に測定した人と組織文化の適合性が、その後の個人の態度や行動にどのような影響を与えるかを検討しました。具体的には、組織コミットメント(組織への愛着や一体感)、仕事満足度、離職意図および実際の離職率を測定しました。

分析の結果、人と組織の適合性は、入社1年後の組織コミットメントや仕事満足度を有意に予測することが分かりました。適合性が高い人ほど、組織へのコミットメントが高く、仕事に対する満足度も高い傾向がありました。

人と組織の適合性は離職意図および実際の離職率も予測することが分かりました。適合性が低い人ほど、離職意図が高く、実際に2年以内に退職する確率も高かったのです。

入社時に測定した人と組織の適合性は、その後の長期的な態度や行動を予測できます。個人の価値観と組織文化の一致度は、その個人の組織への適応や定着に重要なのです。

採用プロセスにおいて、候補者の価値観と組織文化の適合性を考慮することが求められるでしょう。適合性の高い候補者を採用することで、将来的な組織コミットメントの向上や離職率の低下が期待できます。新入社員のオリエンテーションや研修において、組織文化を明確に伝え、個人がその文化に適応するための支援を行うことも必要です。

脚注

[1] Glaser, S. R., Zamanou, S., and Hacker, K. L. (1987). Measuring and interpreting organizational culture. Management Communication Quarterly, 1(2), 173-198.

[2] Zheng, W., Yang, B., and McLean, G. N. (2010). Linking organizational culture, structure, strategy, and organizational effectiveness: Mediating role of knowledge management. Journal of Business Research, 63(7), 763-771.

[3] Sheridan, J. E. (1992). Organizational culture and employee retention. Academy of Management Journal, 35(5), 1036-1056.

[4] O’Reilly, C. A., Chatman, J., and Caldwell, D. F. (1991). People and organizational culture: A profile comparison approach to assessing person-organization fit. Academy of Management Journal, 34(3), 487-516.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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