2025年8月7日
感情労働とこれからの働き方:最新知見から考える心のマネジメント(セミナーレポート)
ビジネスリサーチラボは、2025年7月にセミナー「感情労働とこれからの働き方:最新知見から考える心のマネジメント」を開催しました。
自らの感情を調整しながら働くことを、学術的には「感情労働」と呼びます。感情労働は、様々な職種で見られる現象です。例えば、サービス業や窓口業務、社内のコミュニケーションでは、相手に気分よく接してもらえるように「感情を取り繕う」ことが良く起きます。また、仕事で感じた不満から「本心で納得する」まで考えることもあるでしょう。
このように、多くのビジネスパーソンが日々体験する感情労働ですが、その負担の正体や影響を十分に理解していないと、本人や職場にとって思わぬ問題に発展するリスクもあります。
本セミナーでは、感情労働をめぐる理論と実態の両面に光を当て、感情労働に関する理論的背景や基礎研究の知見を紹介しました。また、リモートワークやAIの導入など、近年の働き方の変化と感情労働の関係性についても、最新の調査や知見をもとに解説しました。
※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。
学術研究から見た感情労働
定義と2つのサブタイプ
黒住:
まず、感情労働とはどのようなものかを確認していきます。感情労働は、「社会的に求められた感情を表現するために、自身の感情を調整・管理する」働き方や行動を指します。 一般的には、肉体労働・知識労働に続く「第三の労働」[1]とも言われ、サービス業などを中心に議論されることが多いでしょう。
この感情労働ですが、学術研究においては、どのように求められる感情を表現するのかに注目して、大きく2つのスタイルに分類されます。それが「表層演技(surface acting)」と「深層演技(deep acting)」です[2]。
表層演技とは、本来の感情を抑え込んで表情や態度だけを取り繕う行為です。いわゆる「作り笑い」や、本心とは違うポジティブな感情を表面的に表現することがこれに該当します。
このような表層演技が継続すると、本音と態度のギャップが生じ、精神的な負担が増加します。その結果、情緒的な消耗感やバーンアウト(燃え尽き)状態に陥りやすくなります。また、消耗が続くことで注意力や集中力、顧客への対応品質が低下し、仕事の満足感も失われていきます。結果的には従業員の意欲低下や離職リスクの上昇につながります。
一方、深層演技は、自分自身の感情そのものを変化させることで、職務で求められる感情に本心から近づけようとする行動です。例えば、出勤中に心地よい音楽を聴いて気分を整えたり、お客様の立場に立って考えるようにするなどの行為が該当します。
深層演技は、状況の意味や受け止め方を積極的に見直すことで、自分の気持ちを前向きに調整します。これにより、自分が感じる感情と表情にズレが生じにくく、精神的な負担を減らすことができます。深層演技は、単に負担が少ないだけでなく、仕事に対する満足感や組織への愛着(コミットメント)を高める効果があります。
さらに、本当のポジティブな感情を相手に示すことで、相手からも好意的な反応を受けやすくなり、良好なコミュニケーションが生まれ、仕事の成果や生産性の向上にもつながります。
このように、感情労働は一見似たように見える行動であっても、その背後にあるメカニズムによって、従業員の心理状態や職務成果に大きく異なる影響を及ぼします。つまり、感情労働のすべてが悪いわけではないと理解することが重要です。
「個人」視点からの深堀
頻度や使い分けを踏まえたタイプ分け
続いて、感情労働を行う当人に注目して深堀していきます。感情労働に2つの種類があると紹介しましたが、二律背反の行動ではないことは想像に難くないと思います。さらに、「演技をする/しない」ではなく、その頻度の影響も気になるところです。
この視点で、個人がどのように、どの程度の組み合わせ方で感情労働を行う傾向があるのかに注目した研究があります[3]。調査回答者の報告に基づくデータドリブンの分類結果として、以下の五つのタイプが確認されました。
- 表層演技者:表層演技を主に行い、深層演技はしない
- 深層演技者:深層演技を多く行い、表層演技は少ない
- 調整者:表層・深層の両方を高頻度で行う
- 非演技者:いずれの演技も行わない
- 低行動者:どちらの演技も行うが、頻度は平均的
このうち、感情労働を「すること」の影響が確認できる、「表層演技者」「深層演技者」「調整者」の3タイプに注目します。表層演技者は、先ほど紹介した表層演技の影響がはっきり出ていました。つまり、本心と表現する感情の不一致を抱え、その結果として情緒的消耗や高い離職意図をもつリスクが高まる傾向にあります。
深層演技者も、深層演技によって得られるメリットを享受していました。つまり、内面の感情調整を通じて自然な感情表出を行うことで、仕事に対する満足度や組織への愛着が高く、心理的な安定が保たれやすいと報告されています。 また、このタイプの従業員は、役割期待への同調や共感的な対人行動が促進されることで、ポジティブな職務成果が期待できる可能性も言及されています。
最後に、調整者の結果が示唆に富んでいます。直感的には、表層・深層の両方を柔軟に使い分けているため、メリットを得られているように考えられます。しかし、実際には、心理的な消耗が最も高いことが指摘されていました。
調整者の結果からは、「負荷」に注目する必要があるという含意が得られます。2つの感情労働は、メカニズムや影響が異なるものの、いずれも負荷が生じる点では共通しているということです。そうした負荷をどう下げるのかが、感情労働によるリスクへ備える1つの視点になります。
負荷の「自覚」が重要
そこでポイントになるのが、「情動知能(Emotional Intelligence)」という特徴です。情動知能とは、「感情の働きや調整法についての知識や理解力」であり、情動知能の高い従業員は、感情労働によるストレスの影響を受けにくいことが示されています。
ある研究では、情動知能の高い従業員は、状況に応じて自分の感情を客観的に評価しなおして、求められる感情を自発的に喚起できる傾向が強いと報告されています。言ってみれば、自分の感情の扱い方全般に長けていることで、職場での求められている感情に対しても、深層演技による対応がしやすいのだといえます。
また、情動知能は表層演技にも影響を及ぼすことが指摘されています。具体的には、情動知能の高い従業員は、表層演技に伴う感情の不一致や自己抑制のストレスを、より柔軟かつ効果的に処理できるとされています。
たとえば、顧客のクレームに対応する場面を考えてみます。相手の主張が理不尽だったとすれば、本音では憤りを感じることもあるでしょう。このとき、情動知能が高い従業員は、いわば自然発生する自分の感情と、仕事としての環境・状況を切り分けて、「仕方がない」と割り切る対応が可能になります。これにより、感情を無理に押し殺すような負荷を抑えることができると考えられます。
このように、感情労働を行う個人・当人の視点で見ると、今の役割や場に即した感情労働を行っている自分の状態に気づき、自分の感情の調整方法を上手く会得することの重要性が示されています。そうして自分の感情労働の負担、ひいては業務に伴う疲労の軽減に努めることが大切です。また、感情労働が過剰だと思う場合には、環境の改善に向けて周囲への相談につなげていくことも必要でしょう。
「組織」視点からの深堀
「個人」と「組織」で効果が一致しない側面も
最後の話題は、感情労働の組織的な視点です。感情労働は、従業員の個々人のストレスやパフォーマンスに影響するだけでなく、組織全体としても重要な成果に波及します。従業員が感情労働を行うことで、顧客対応が良好になることを報告する研究[4]もありますが、ここでは組織視点での注意喚起につながる知見を中心に紹介します。
まず、感情労働の影響をチームレベルで検証するために、回答した個人の結果と、その個人が属するチームを紐づけて分析する「マルチレベル分析」という手法で分析した研究があります[5][6]。この研究では、個人の感情労働と、それをチーム単位で見たときには、パフォーマンスに差があるという結果が確認されました。
具体的には、表層演技が情緒的な消耗を高め、個人タスクパフォーマンスを超えて、顧客からみたチーム全体の印象も低下させるという効果が確認されました。感情労働で誰かが疲弊するならば、他のメンバーも疲弊しやすい環境だと解説されており、表層演技のいわゆる悪影響は従業員とチームに一貫して生じるのだといえます。
そして、表層演技については、組織の運営として懸念すべき結果が確認されました。チームメンバーの深層演技は、個人のパフォーマンスは高めていたものの、顧客からのチームの印象を好転させる効果は確認できなかったのです。
この結果は、深層演技のメリットが、表層演技のデメリットにより帳消しになっていると解釈できます。つまり、あるメンバーの深層演技自体は、その個人は顧客から望ましい評価を得るかもしれません。しかし、感情演技が生じるチーム環境としては疲弊が生じやすく、顧客からみた全体的な印象は下がってしまうということです。
感情労働を組織的にケアすることの重要性
さらに、先ほど紹介した、感情労働のタイプ分けを行った研究[7]では、それぞれのタイプと職場の要因との関連も検討されています。特に、仕事を通じて感じる「不当な扱い」について、以下の4つの側面との関連を検討した結果が注目に値します。
- 上司(不当に叱責される、努力を否定される など)
- 同僚(意見を無視される、情報を共有されない など)
- 顧客(あいさつを無視される、高圧的な態度を取られる など)
- 組織全体(人格を無視した命令を受ける、意見が聞き入れられない など)
このうち、上司からの不当な扱いは関連が無かった一方で、残る3つの要因があるほど、表層演技を実施しやすいという傾向が確認されました。なかでも、特に強い影響を持ったのは「組織からの不当な扱い」だったのです。
この結果は、どのような職場にも感情労働に伴うリスクが存在していることを示唆します。顧客対応が必要になる業態や業種では「仕方のないもの」と捉えられがちなイメージに対し、人事担当者や経営の視点では、目を背けられない結果だといえるでしょう。
こうした背景を踏まえ、感情労働のリスクについては、組織的な対策が求められます。例えば、感情労働の理解を職場全体で深めることが一策です。先ほど紹介した情動知能の知見から、感情労働の負荷への気づきを促すよう、職場全体で「負荷が生じるもの」だと周知したり、上司や管理職も含めた研修も有効といえます。
また、従業員が安心して感情を表現できるようにするためには、職場における心理的安全性[8]を醸成する対応も考えられます。失敗や葛藤を共有しても非難されない風土があれば、本音としての感情を押し殺したり、表面的に取り繕う必要がなくなるため、深層演技による対応が促されると考えられます。
感情労働自体は、仕事の中で避けられない特徴があります。そのため、少しでも従業員の感情的な消耗や負担を減らせるよう、チームや組織的に対策することが重要だといえます。
新たな労働環境と感情労働
テレワークでは「感情労働の難しさ」が増す
皆さんの中にも実際に体験された方がいらっしゃるかもしれませんが、コロナ禍をきっかけにテレワークは一気に広がりました。こうしたテレワーク環境下で、感情労働はどのように変化したのでしょうか。
テレワークによる変化として代表的なものを挙げるとするならば、「職場で同僚や上司と直接顔を合わせる機会が減ったこと」でしょう。この変化により、「上司に気を遣う」「同僚の気持ちを探る」といった感情労働が減少したという側面もあります。しかし一方で、テレワークならではの特性が感情労働をむしろ難しくしている、という指摘もあるのです[9]。
その特性の一つが、「非言語的手がかりの減少」です。非言語的手がかりとは、話の内容や文字情報以外の、たとえば表情、仕草、声のトーンや抑揚といった情報を指します。私も今、抑揚をつけて話していますが、こうした情報が非言語的手がかりです。
テレワークによってこの非言語的手がかりが減ると、「感情のやり取り」が難しくなることがわかっています[10]。具体的な例で見てみましょう。
- オンライン会議にて:相手のカメラがオフになっていると、相手がどんな反応をしているのか分からず、不安になる。また、相手が話しているときにうまく相槌を打つタイミングがつかめず、「聞いているふり」を演じることに疲れてしまうことも
- チャットでのやり取りにて:相手が怒っているのか、ただ気にしていないのか判断できず、不安になる。こちらも冷たい印象を与えないよう、つい丁寧すぎる言葉遣いになり、結果として気疲れしてしまう
このように、相手の感情が分かりづらくなるだけでなく、自分の感情を相手に伝えることも難しくなる、という両面があります。この両面があることで、テレワークでの感情労働には大きな負担を強いられることになるのです。
まず「相手の感情が分かりにくいこと」について、感情労働では、相手の気持ちや場の雰囲気に応じた行動が求められます。そのためには、まず相手の感情をある程度理解しなければなりません。しかし感情の把握が難しくなると、「自分はどうふるまうべきか」という演技の基準が分からず、感情労働の難しさが増してしまいます。
次に、「自分の感情が相手に伝わりにくい」ことの影響についてです。たとえば、相手に共感していることを伝えたいのに、それが伝わらない。その結果、より大げさに感情を表現しないと伝わらないのではと考え、必要以上に表層的な演技を強いられることになります。
たとえばリモート研修の開始時に、講師の方が「発表には大きくリアクションしてくださいね」と言うのを聞いたことがあるかもしれません。自分では頷いたりリアクションしたりしているつもりでも、「もっと首が痛くなるくらい動かさないと伝わりませんよ」と言われてしまう。これがまさに表層演技による心理的な負担を物語っています。
ギグワークでは「感情労働の負荷」が増す
「ギグワーク」とは、仕事をしたい個人と、仕事を依頼したい企業や個人とを、インターネット上のプラットフォームでマッチングして、単発あるいは短期で業務を行う働き方のことです。たとえば、フードデリバリーや配車サービス、エアコンの清掃といったサービスがこれにあたります。こうした働き方は、現代においてかなり浸透してきているといえるでしょう。
ギグワークにおける感情労働の特徴を一言で表すと、「負荷が高い」ということになります。なぜ負荷が高いか、それはギグワーカーにとって「顧客の評価」が、その人の報酬や今後の仕事の受注に大きく影響するからです。
中国での研究[11]によると、特に女性ギグワーカーの場合、男性の顧客からのハラスメントを避けたいと思いつつも、機嫌を損ねると低評価につながるというジレンマに直面していることが示されています。つまり、「嫌がらせは避けたいが、評価は下げたくない」という非常に困難な状況に置かれることで、より注意深くふるまう必要があり、その結果として表層演技の負荷が増してしまうのです。
「AI」と感情労働
近年、AIはさまざまなサービスに導入されており、私自身も日々その恩恵を受けています。AIの活用は対外的な顧客対応だけでなく、社内、つまり従業員や労働者の評価にも広がりつつあります。
たとえば、接客のトレーニングにAIを用いるケースがあります。表情や声の大きさなどを項目ごとにAIが評価し、「あなたは100点中70点です。ここを直すとよいでしょう」といった形で、理想的な態度や表情をAIが具体的に指示してくるというわけです。
こうしたAIの導入は、感情労働にどのような影響を与えるのでしょうか?結論として、「AIの導入は表層演技と深層演技のどちらも促進する可能性がある」ことが、研究から示唆されています。そして、表層演技と深層演技、どちらが促されるのかの分岐点になるのが「AIの透明性」です。
この「透明性」は以下3つの要素で成り立っており、これらの要素が揃ったAIやアルゴリズムは、「透明性が高い」と評価できます。
- 情報の開示:AIやアルゴリズムがどういう情報に基づいて評価しているのか、網羅的かつ詳細に、たとえば従業員に対して開示されているかどうか
- 情報の明確さ:開示された情報が、専門用語ばかりでなく、誰にでも理解できるように、わかりやすく説明されているかどうか
- 情報の正確さ:開示された情報が現実と一致しているか、つまり実際の評価運用と矛盾がないか
具体例は次のとおりです。まず「情報の開示」について。たとえば人事評価にAIを使う場合、AIがどのようなデータ、たとえば売上実績や360度評価の結果などを参照しているのか、またそれぞれのデータにどの程度の重み付けをしているのかが明らかになっていれば、「開示度が高い」と評価できます。
次に「明確さ」。たとえばAIが従業員の過去の評価やスキルマップを分析した上で、「あなたのキャリア目標は〇〇ですね。それに対してこのスキルが不足しているので、この研修をおすすめします」と、なぜその研修が必要なのかを具体的に説明してくれる場合、「明確さが高い」と評価できます。
最後に「正確さ」。たとえばAIが「成果と挑戦意欲」を重視して評価すると明示している場合、最終的に評価が高い人や昇進した人がその基準に合致していれば、「実際の運用と一致している」と判断できます。このような場合、「正確さが高い」と評価できます。
こうした透明性の高いAIの場合、従業員は「どう振る舞えばよいのか」「何が評価されるのか」が明確に把握できます。それによって「評価が納得できる」と感じ、安心して業務に取り組むことができるため、内面的な感情の調整——つまり深層演技が促されます。
さらに興味深いのは、深層演技が増えるだけでなく、表層演技、つまり「本心では思っていないけれど、とりあえずそう見せる」というような演技が減ることも分かっている点です。
反対に、アルゴリズムの透明性が低い場合はどうなるでしょうか。労働者は「どんな行動がどのような評価につながるのか」が分からず、不安になります。その結果、「自分の感情はさておき、とにかく言われた通りにやろう」となってしまい、表層演技が加速してしまうのです。
ここで気になるのは、「実際、その中のAIの透明性はどの程度確保されているのか」という点です。この点については、「透明性が失われがちである」とする研究結果があります[12]。いわゆる「ブラックボックス問題」と呼ばれるものです。
AIの性能や精度を高めるには、複雑なアルゴリズムを使用し、大量かつ多様なデータを取り込む必要があります。その結果として、出力された評価が「なぜそうなったのか」を人間が直感的に理解することが難しくなります。つまり、AIの性能を追求すればするほど、「なぜそういう判断になったのか」という説明可能性が犠牲になるという、トレードオフの関係が生じてしまうのです。
このバランスは非常に重要です。もちろん「説明できれば、性能が低くてもよい」ということではありません。ただし今回の感情労働の文脈においては、説明可能性を重視することで、演技の基準に対する納得感が生まれ、感情労働の負荷を軽減できるのではないかと考えられます[13]。
Q&A
Q1:感情労働の負荷がチームや組織全体の生産性に与える悪影響を詳しく知りたいです
黒住:
感情労働の負荷が高いことで生じる悪影響の1つとして、「仕事の先延ばし」が増えるという傾向が確認されています。先延ばしは、やるべきことだとわかっていても後回しにしてしまう行動で、特にストレスや心理的な負担からの回避という側面があります。
感情労働が多い職場では、疲弊感が積み重なりやすくなります。すると、「この職場自体がつらい」と感じ、そうしたストレスを生む職場やタスクから距離をおく、あるいは業務に向き合う意欲が低下します。その結果として、職場における先延ばしが増え、組織としての生産性が低下するという現象が起きやすいといえます。
Q2:テレワークで「相手の感情が分からずに気を遣いすぎてしまう」場合にすぐ実践できるコツがあれば教えてください。
小田切:
この原因の1つは、非言語的な手がかり(表情や声の抑揚など)が減るためです。チャットツールを使っている場合は、スタンプや絵文字などを活用し、感情を補完するのが効果的です。可能であれば、月に1回でも対面で会う機会をつくるなど「顔の見える関係」をつくることで、相手との関係性が少し滑らかになり、感情の読み取りにもつながります。
そのような根本的な対応が難しい場合は、最初の一歩として、「オンラインでは感情が伝わりにくい」という難しさをチーム全体で共有しておくことだけでも重要です。このような共通認識を持つことで、「あの人は怒っているのかな」「無視されたかもしれない」といった不安を減らす効果が期待できます。
脚注
[2] 以下の文研を参考;
Feinberg, M., Ford, B. Q., & Flynn, F. J. (2020). Rethinking reappraisal: The double-edged sword of regulating negative emotions in the workplace. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 161, 1-19.
Nguyen, N., & Stinglhamber, F. (2020). Workplace mistreatment and emotional labor: A latent profile analysis. Motivation and Emotion, 44(4), 474–490.
Zhao, J., Wang, Y., & Liu, Y. (2020). Exploring the relationship between emotion regulation and job burnout: A systematic review and meta-analysis. Work & Stress, 34(3), 256–272.
[3] Nguyen, N., & Stinglhamber, F. (2020). Workplace mistreatment and emotional labor: A latent profile analysis. Motivation and Emotion, 44(4), 474–490.
[4] Pinkawa, C., & Dörfel, D. (2024). Emotional labor as emotion regulation investigated with ecological momentary assessment: A scoping review. BMC Psychology, 12, Article 69.
[5] Zhao, J., Wang, Y., & Liu, Y. (2020). Exploring the relationship between emotion regulation and job burnout: A systematic review and meta-analysis. Work & Stress, 34(3), 256–272.
[6] マルチレベル分析については、当社コラムでも解説しています。適宜ご参照ください;
組織の階層構造を捉える:マルチレベル分析の基礎
組織と個人の相互作用を紐解く:マルチレベル分析の活用(セミナーレポート)
[7] 脚注3と同じ(Nguyen & Stinglhamber, 2020)
[8] 心理的安全性については、当社コラムでも解説しています。適宜ご参照ください;
言いたいことが言える職場か:『60分でわかる!心理的安全性 超入門』の紹介
[9] 阿久津聡, 勝村史昭, 徳永麻子, 後藤恵美, & 木村誠. (2021). コロナ禍で加速したテレワーク時代の共感マネジメント―コミュニケーションモデルの提案と実践手法の検討―. マーケティングジャーナル, 41(1), 54-67.
[10] 脚注9と同じ(阿久津ら, 2021)
[11] Liu, Y., & Huang, H. (2025). Emotional Labor as a Situated Social Practice: Investigating the Performance of Emotional Labor by Women Migrant Workers in China’s Platform-based Gig Economy. Gender & Society, 39(2), 226-256.
[12] Heidemann, A., Hülter, S. M., & Tekieli, M. (2024). Machine learning with real-world HR data: mitigating the trade-off between predictive performance and transparency. The InTernaTIonal Journal of human resource managemenT, 35(14), 2343-2366.
[13] AI・アルゴリズムと、労働・マネジメントの関係性については、多くの解説コラムを当社HPに掲載しています。ぜひご覧ください。
登壇者
黒住 嶺 株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー
学習院大学文学部卒業、学習院大学人文科学研究科修士課程修了、筑波大学人間総合科学研究科心理学専攻博士後期課程満期退学。修士(心理学)。日常生活の素朴な疑問や誰しも経験しうる悩みを、学術的なアプローチで検証・解決することに関心があり、自身も幼少期から苦悩してきた先延ばしに関する研究を実施。教育機関やセミナーでの講師、ベンチャー企業でのインターンなどを通し、学術的な視点と現場や当事者の視点の行き来を志向・実践。その経験を活かし、多くの当事者との接点となりうる組織・人事の課題への実効的なアプローチを探求している。
小田切 岳士 株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー
同志社大学心理学部卒業、京都文教大学大学院臨床心理学研究科博士課程(前期)修了。修士(臨床心理学)。公認心理師。働く個人を対象にカウンセラーとしてのキャリアをスタート。その後、企業人事として制度・施策の設計・運用などに携わる。現在は主な対象を企業や組織とし、臨床心理学や産業・組織心理学の知見をベースに経営学の観点を加えた「個人が健康に働き組織が活性化する」ための実践を行っている。特に、改正労働安全衛生法による「ストレスチェック」の集団分析結果に基づく職場環境改善コンサルティングや、職場活性化ワークショップの企画・ファシリテーションなどを多数実施している。