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コラム

組織的支援を育むもの:公正さが生み出す組織力

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従業員は組織の最も価値ある資産の一つとして認識されるようになっています。しかし、優秀な人材を確保し、モチベーションを維持するためには、良い給与や賞与を提供するだけでは不十分です。従業員が組織から支援されていると感じることが、組織への帰属意識や献身的な働きを引き出します。

「組織的支援」とは、従業員が「自分の組織は自分の貢献を評価し、幸福を大事にしてくれている」と感じる度合いを指します。この認識は専門的には「知覚された組織的支援(Perceived Organizational Support:組織的支援)」と呼ばれ、過去数十年にわたり多くの研究者の関心を集めてきました。

従業員が組織から支援されていると感じると、組織への愛着が深まり、離職意向が低下し、業績が向上することが様々な研究で実証されています。本コラムでは、組織的支援がどのようなメカニズムで形成され、どのような要素によって強化されるのかについて考察します。特に、「公正さ」と「上司の態度」が組織的支援の認識にどのように関わるのか、そして従業員がそれをどのように解釈し、どのような行動につながるのかを探っていきます。

手続き的公正が組織的支援を高め離職を防ぐ

職場において「公正さ」は多くの従業員にとって大切な要素です。自分が公平に扱われていると感じることは、組織に対する信頼感を育み、働く意欲を高めます。しかし、職場における公正さには様々な種類があることをご存知でしょうか。

米国北東部の大規模公立大学で651名の従業員を対象に行われた研究では、公正さの種類によって従業員の受け取り方や、その後の行動に異なる影響を与えることが分かりました[1]。「手続き的公正」と「対人的公正」の違いが注目に値します。

手続き的公正とは、組織内での意思決定プロセスが公平に行われているかどうかに関するものです。例えば、昇進や評価の基準が明確で一貫しているか、意見を述べる機会が平等に与えられているかなどが含まれます。一方、対人的公正は、上司などから受ける個人的な待遇の公正さを指します。上司が礼儀正しく接してくれるか、個人の尊厳を尊重してくれるかといった点です。

この研究では、これらの公正さが従業員の態度や行動にどう影響するかを「社会的交換理論」の枠組みで分析しました。社会的交換理論とは、人間関係において利益とコストのバランスを考え、互恵的な関係を築こうとする人間の傾向を説明する理論です。

調査の結果、手続き的公正は「知覚された組織的支援(POS;以降、組織的支援)」を通じて従業員の態度や行動に影響することが判明しました。組織的支援とは、組織が従業員の貢献を評価し、幸福を気にかけていると従業員が感じる程度のことです。手続きが公正だと感じる従業員は、組織から支援されていると感じやすく、それが組織へのコミットメントを高め、離職意図を減らすことにつながりました。

具体的には、組織の意思決定プロセスが公正であると感じた従業員は、「この組織は私のことを大切にしてくれている」という認識を強め、その結果、組織に対する感情的な結びつきが強まり、「この組織で働き続けたい」という気持ちが高まったということです。

一方、対人的公正は「LMXLeader-member exchange)」を通じて影響を及ぼすことが分かりました。LMXとは、上司と部下の間の関係の質を表します。上司から公平に扱われていると感じる従業員は、上司との良好な関係を築き、それが職務満足や上司に対する協力的行動(組織市民行動)につながりました。

手続き的公正は組織全体への態度(組織コミットメントや離職意図)に影響し、対人的公正は主に上司との関係や上司に向けた行動に影響しました。この結果から、従業員は公正さを「誰からのものか」によって区別して認識し、それに応じた反応を示すことが分かります。

組織の意思決定プロセスが公正であれば、従業員は組織全体から支援されていると感じ、組織への愛着を深めます。一方、上司からの扱いが公正であれば、上司との関係が良好になり、上司に対する協力的な行動を取るようになります。

組織的支援は公正さや上司の態度で変わる

組織的支援の認識がどのように形成されるのか、より詳しく見ていきましょう。558もの研究を対象としたメタ分析によると、従業員が組織から支援されていると感じる度合いは、様々な要因によって影響を受けることが分かっています[2]

このメタ分析では、「組織支援理論」を基盤として、従業員の組織的支援の知覚(組織的支援)に影響する要因と、組織的支援が高まることで生じる結果を包括的に検討しました。組織支援理論とは、従業員が組織からの扱いをどのように解釈し、それに基づいてどのような行動を取るかを説明する理論です。

組織的支援を高める要因として、リーダーシップの質が重要であることが判明しました。従業員をサポートするリーダーシップや変革を促すリーダーシップは、組織的支援と強い関連性がありました。上司が部下の成長を助け、将来のビジョンを共有し、個々の従業員の意見を尊重するスタイルで主導すると、従業員は組織から支援されていると強く感じるのです。

一方、業務の達成だけを重視するリーダーシップや、規則や手続きを厳格に守ることを強調するリーダーシップは、組織的支援との関連性が弱いことも分かりました。これは、従業員が「自分は歯車ではなく、一人の人間として扱われている」と感じることの重要性を示唆しています。

公正さの要素も組織的支援に影響することが確認されました。手続き的公正(意思決定プロセスの公平さ)は、配分的公正(報酬や資源の分配の公平さ)や相互作用的公正(コミュニケーションの公平さ)よりも組織的支援との関連性が強いことが判明しました。

これは先に紹介した研究結果とも一致しており、組織内の意思決定プロセスが透明で一貫している場合、従業員は組織から大切にされていると感じやすいことを表しています。例えば、評価や昇進の基準が明確で、全員に公平に適用されている場合、従業員は組織を信頼し、支援されていると感じるでしょう。

さらに、人事施策や職場環境も組織的支援に影響を与えることが分かりました。能力開発の機会が充実していたり、仕事に自律性や多様性があったりする職場では、従業員はより強く組織的支援を感じます。組織が従業員の成長や自己実現を大切にしていると従業員が認識するためでしょう。

組織的支援が高まると、どのような結果がもたらされるのでしょうか。研究によると、組織的支援が高い従業員は組織への情緒的コミットメント(感情的な愛着)が強く、職務満足度も高いことが分かりました。自己肯定感も向上し、職場でのストレスや燃え尽き感も低下しました。

組織的支援が高い従業員は業務パフォーマンスや組織市民行動(職務記述書にない協力的行動)も向上し、離職意図や実際の離職も減少することが確認されました。これらの結果は、組織的支援が従業員の心理的・行動的側面に幅広い好影響を与えることを示しています。

組織的支援がこれらの好ましい結果をもたらすメカニズムについても、この研究は知見を提供しています。組織への同一化(自分と組織を一体と感じること)と情緒的コミットメント(組織への感情的な愛着)が、組織的支援と職務パフォーマンスや組織市民行動を結びつける媒介要因であることが分かりました。

従業員が組織から支援されていると感じると、組織と自分を同一視するようになり、組織への感情的な結びつきが強まります。その結果、組織のために良い仕事をしたい、組織のために協力的な行動を取りたいという気持ちが高まるのです。

公平さと上司の態度で高まり返報を生む

組織的支援がどのように生まれ、どのような結果をもたらすのかについて、さらに掘り下げていきましょう。70以上の研究を体系的にレビューした論文では、組織的支援の要因と結果、そしてその背景にある心理プロセスが検討されています[3]

組織支援理論によれば、従業員は「組織が自分の貢献をどの程度評価し、自分の幸福を気にかけているか」について一般的な信念を形成します。この理論的基盤には、社会的交換理論と返報性の規範があります。社会的交換理論は、人間関係において利益とコストのバランスを取ろうとする傾向を説明し、返報性の規範は、受け取った恩恵に対して返礼しようとする傾向を指します。

組織的支援を高める要因として、この研究では主に3つのカテゴリーが挙げられています。一つ目は「公正さ」です。とりわけ手続き的公正(決定プロセスの公平さ)が重要で、組織内で公平な意思決定プロセスが確立されているほど、従業員の組織的支援は高まります。逆に、組織内で政治的な駆け引きが横行していると感じられる場合、組織的支援は低下する傾向があります。

二つ目の要因は「上司の支援」です。上司が従業員を支援する行動を取ると、それが組織からの支援として認識され、組織的支援が高まります。ここで興味深いのは、上司が組織を代表する立場にあると従業員が認識しているほど、この効果が強くなるということです。上司の行動が「組織の意思」として解釈されるほど、組織的支援への影響力が大きくなります。

三つ目の要因は「組織的報酬と職務条件」です。昇進や給与アップ、職務の自律性、雇用の安定性などが組織的支援を高めることが確認されています。ただし、これらの影響は公正性や上司支援に比べると比較的弱いことも分かっています。

組織的支援が高まると、どのような結果がもたらされるのでしょうか。組織コミットメントへの影響が顕著です。組織的支援は情緒的コミットメント(組織への感情的な結びつき)と強い正の関連があり、従業員の組織への愛着を強めます。一方、継続的コミットメント(離職コストへの懸念から組織に留まる傾向)とは弱い負の関連があります。これは、組織的支援が高い従業員は、「辞めると損だから」ではなく、「この組織が好きだから」という前向きな理由で組織に留まることを意味しています。

組織的支援が高い従業員は職務満足度も高く、職場での気分も良好であることが示されています。仕事への関心や没頭感も高まることが確認されています。

パフォーマンス面では、組織的支援は通常の業務遂行(職務内行動)よりも、職務記述書にない協力的行動(組織市民行動)との関連性が強いことが分かりました。組織から支援されていると感じる従業員は、「やらなくてもいい」けれども組織にとって有益な行動を自発的に取ります。

離職行動に関しては、組織的支援が高いと離職意図(辞めたいという気持ち)が大きく低下します。一方、実際の離職に関しては比較的影響が小さいことも分かりました。実際の離職には、組織的支援だけでなく、外部労働市場の状況など他の要因も影響するためと考えられます。

組織的支援と各要因の関連を生み出す心理的メカニズムも興味深いものです。「帰属プロセス」として、従業員は組織の行動が自主的であるほど、組織が自分を評価していると強く感じることが分かっています。例えば、法律で義務付けられた福利厚生よりも、組織が自主的に提供する支援の方が組織的支援を高める効果が強いということです。

「返報性の規範による義務感」も一つのメカニズムです。組織的支援が高まると「組織に報いる義務感」が生じ、それが情緒的コミットメントやパフォーマンスの向上につながります。この義務感は、従業員が「交換のイデオロギー」(受け取った恩恵に返礼すべきだという価値観)を強く持つほど強まります。

また、組織的支援は承認や尊重といった「社会情緒的ニーズ」を満たし、ストレスの緩和やウェルビーイングの向上にも寄与します。「パフォーマンス報酬期待」として、組織的支援は従業員が「良い仕事をすれば報われる」という期待感を強め、それがパフォーマンスを促進する効果もあります。

公正な扱いや報酬で高まり愛着を生む

組織的支援とLMXがどのような要因によって高まり、どのような結果をもたらすのかについて見ていきましょう。米国の製造業の工場で211名の従業員とその直属の上司を対象に行われた研究では、組織的支援とLMXという二つの概念が、異なる先行要因と結果要因を持つことが明らかになりました[4]

この研究では、組織的支援とLMXを区別し、それぞれに影響する要因と、それぞれが影響を与える結果を明確に分けて検証しました。組織的支援は組織全体からの支援の認識を指し、LMXは直属の上司との関係の質を表します。

組織的支援を高める要因として、「手続き的公正」「分配的公正」「包括感」「承認」の4つが確認されました。手続き的公正とは、意思決定プロセスの公平さを指し、分配的公正は報酬や資源の分配の公平さを意味します。包括感とは、従業員が組織の一員として歓迎され、受け入れられていると感じる度合いです。そして承認は、従業員の貢献が正当に評価されることを指します。

これらの要因がすべて組織的支援を高めるという結果は、従業員が組織から支援されていると感じるためには、公平なプロセスと公平な報酬分配、そして組織の一員として認められ評価されることが重要であることを指しています。

一方、LMXを高める要因としては「業績連動型報酬」と「上司との関係期間」が確認されました。業績連動型報酬とは、上司が従業員の良いパフォーマンスに対して適切な報酬(称賛や評価など)を与えることを指します。上司との関係期間が長いほどLMXが高まるという結果は、良好な関係構築には時間がかかることを示唆しています。

当初の仮説とは異なり、分配的公正はLMXと有意な関連を示しませんでした。これは、報酬の分配の公平さは組織全体の問題として認識され、直接的には上司との関係の質には影響しないことを意味しています。

組織的支援とLMXの関係についても発見がありました。組織的支援からLMXへの正の影響は認められましたが、逆方向(LMXから組織的支援)への影響は有意ではありませんでした。組織からの支援を感じることが上司との関係の質を改善する効果はあるものの、上司との良好な関係が必ずしも組織全体からの支援を感じることにはつながらないことを意味します。

組織的支援とLMXがそれぞれどのような結果をもたらすかについても検証されました。組織的支援は「情緒的コミットメント」(組織への感情的な愛着)と「組織市民行動」(職務記述書にない協力的行動)に有意な正の影響を与えました。組織から支援されていると感じる従業員は、組織に対する愛着が強く、また自発的に組織のために行動します。

一方、LMXは「職務パフォーマンス評価」に有意な正の影響を与えました。上司との関係が良好な従業員は、上司からより高い業績評価を受けることが分かりました。ただし、当初の仮説とは異なり、LMXから組織市民行動への直接的な影響は確認されませんでした。

組織市民行動は職務パフォーマンス評価に正の影響を与えることも確認されました。職務記述書にない協力的行動を取る従業員が、上司からより高い評価を受けるということです。

この結果から、組織的支援とLMXは明確に異なる概念であり、それぞれ異なる要因を持ち、異なる結果をもたらすことが明らかになりました。組織が従業員のコミットメントや組織市民行動を促進するためには、公正な手続きや包括感、承認を通じて組織的支援を高める必要があります。一方、従業員の職務パフォーマンスを直接的に向上させるには、上司との関係性を改善し、業績連動型の報酬行動を推進することが有効です。

組織的支援がLMXに影響を与えるという結果は、組織全体の風土や政策が、上司と部下の個別の関係にも波及効果を持つ可能性があるということです。組織が従業員を大切にする文化を育てることで、上司と部下の関係も良好になり得ます。

脚注

[1] Masterson, S. S., Lewis, K., Goldman, B. M., and Taylor, M. S. (2000). Integrating justice and social exchange: The differing effects of fair procedures and treatment on work relationships. Academy of Management Journal, 43(4), 738-748.

[2] Kurtessis, J. N., Eisenberger, R., Ford, M. T., Buffardi, L. C., Stewart, K. A., and Adis, C. S. (2015). Perceived organizational support: A meta-analytic evaluation of organizational support theory. Journal of Management, 43(6), 1854-1884.

[3] Rhoades, L., and Eisenberger, R. (2002). Perceived organizational support: A review of the literature. Journal of Applied Psychology, 87(4), 698-714.

[4] Wayne, S. J., Shore, L. M., Bommer, W. H., and Tetrick, L. E. (2002). The role of fair treatment and rewards in perceptions of organizational support and leader-member exchange. Journal of Applied Psychology, 87(3), 590-598.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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