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コラム

特権意識の功罪:「特別扱い」を求める心理と向き合う

コラム

ビジネスリサーチラボは、20256月にセミナー「特権意識の功罪:『特別扱い』を求める心理と向き合う」を開催しました。

皆さんの職場には、「自分は特別扱いされて当然」と考える人はいませんか。そうした人の存在が組織全体の雰囲気を悪化させ、情報共有を妨げ、チームの生産性を低下させている可能性があります。

しかし実は、この「心理的特権意識」は適切に対応すれば、活力源になることもわかっています。例えば、最新の研究によれば、心理的特権意識の強い人は、同僚との衝突を招きやすい反面、キャリア志向が強く仕事への没入度が高いという特徴も持ち合わせています。

本セミナーでは、職場における心理的特権意識の実態と影響について、研究知見をもとに解説しました。なぜ特権意識の強い人は知識を隠したり、非倫理的行動に走ったりするのか。どのような職場環境が、その潜在能力を引き出し、チーム全体の成長につながるのか。

組織の中で眠る多様な人材の可能性を引き出すために、心理的特権意識という新たな視点から職場マネジメントを見直してみませんか。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

はじめに

組織の中で「自分は特別な待遇を受けるべきだ」と考える人に出会ったことはありませんか。こうした思考は「心理的特権意識」という視点から理解できる現象です。この意識が職場の人間関係やパフォーマンスに与える影響は無視できません。

本講演では、心理的特権意識の特徴から具体的な対処法まで、研究知見に基づいて解説します。組織内の複雑な人間関係の背景に潜む心理的特権意識の理解を深め、職場づくりのヒントとなれば嬉しいです。

心理的特権意識が高い人の特徴

心理的特権意識とは、「自分は他者より優遇されるべきだ」という信念や感覚を指します。この意識が強い人は、自分にふさわしい特別な扱いを当然のように期待し、それが得られないと不満を抱きます。一般的な自信や自己肯定感とは異なり、他者との比較において自分の優位性を強く主張する点が特徴的です。

なぜ今、人事領域でこの概念に注目すべきなのでしょうか。それは、多様な価値観やライフスタイルが認められる現代の職場では、個人の特性に合わせたマネジメントが求められているからです。心理的特権意識が高い人材が組織に与える影響を理解することは、チーム全体のパフォーマンス向上につながります。

心理的特権意識が高い人の自己評価と他者からの評価にはギャップが生じます。ある研究では、特権意識の強い人ほど「自分には尊敬も権力も備わっている」と考える傾向が強いことが明らかになりました[1]。彼ら彼女らは専門性や人間的魅力によって尊敬される「威信」と、力で制圧する「支配」の両方を求めます。

しかし、周囲からの評価はその自己認識とは異なります。他者は彼ら彼女らを「支配的な人物」とは認識しても、「尊敬すべき存在」とは見なさないケースが多いのです。自分では「尊厳あるリーダーだ」と思っていても、実際には横柄な人という印象を与え、名声を得にくいという皮肉な結果を招きます。

このギャップの背景には、特権意識の高い人が取りやすい言動の攻撃性があります。地位の高い他者に対して悪意ある嫉妬を感じやすく、それが周囲に伝わることで「あの人は支配的で協力する気がない」という評価につながるのです。自分の望む尊敬を得られないという現実が、さらなる不満や対立を生み出す悪循環に陥りやすいこともわかっています。

他者を攻撃しやすい

心理的特権意識が高いことには様々な悪影響があります。顕著なのは、他者に対して攻撃的になりやすいという点です。この攻撃性は複数の形で表れ、職場の人間関係に深刻な影響を与えることがあります。

心理的特権意識が高い人は、自分が受けるべき待遇を得られていないと感じると、怒りや不満が高まりやすくなります。ある研究では、特権意識の強い人は、リーダーや同僚から十分な評価を得られていないと感じると、それによって精神的な緊張状態が増すことが示されています。本来なら自分にふさわしい称賛や待遇を受けていないという認識が、怒りを生み出す源となるのです。

この怒りや不満は行動として表れることがあります。例えば、裏で同僚を陥れる行為を始めたり、露骨に暴言を浴びせたりといった攻撃に走るケースが報告されています。上司からのコミュニケーションも、特権意識の強い人には「自分を正当に評価していない」というフラストレーションとして受け止められ、それが職場での嫌がらせや陰口、権力行使へとつながることがあります[2]

他にも、心理的特権意識の高い人は、他者からの失礼な振る舞いに過敏に反応する傾向があります。人は一般的に、無礼な態度をとられると、自分の持つ知識や情報を隠そうとする心理が働きます。これは社会的交換の原理で説明できます。相手からの扱いに応じて、自分も同じレベルで対応しようとするのです。

ある研究では、高等教育機関の教員を対象に調査が行われ、誰かから侮辱的な態度をとられた人は、重要な情報を共有せず自分の手元に留めようとすることが見えてきました[3]。そして、心理的特権意識が強い人ほど、こうした反応が強くなります。「自分は特別な存在だ」と考えるあまり、少しでも失礼な扱いをされたと感じると、職場の同僚への情報提供を惜しみ、組織の協力体制を損ないます。

そして、心理的特権意識が高い人は、上司を非友好的で攻撃的だと捉える傾向があります。ホスピタリティ業界の従業員を対象とした研究では、特権意識が高い人ほど「自分の上司は非友好的で攻撃的だ」と認識する度合いが高く、その結果、知識を共有せず隠す行動に出やすいことが報告されています[4]

注目すべきは、実際に上司が攻撃的な態度をとったかどうかより、従業員側の主観的な認知が重要だという点です。特権意識の強い人は、ちょっとした指摘やアドバイスも敵対的に解釈しやすく、「自分の特別性が認められていない」と受け止めてしまいます。この不信感から知識隠蔽へとつながり、曖昧な説明や約束しても実行しないといった行動に表れます。

さらに、心理的特権意識が高い人は、自分が得るべきものを得られていないという「剥奪感」を抱きやすく、それが対人的な逸脱行動を引き起こします。ある実験では、特権意識の強い人ほど、自分が本来得るべき報酬や待遇が得られていないと考え、その感情を抑えきれずに同僚を傷つける言葉を発したり、陰口を広めたりすることが確認されました[5]

興味深いことに、この逸脱行動は対人関係には向かいますが、組織全体に対する破壊的行為(会社の物品を壊すなど)には必ずしも結びつきません。特権意識の高い人の感情は「目の前の人間に対する怒りや苛立ち」として表出されやすいと言えます。

別の研究では、心理的特権意識の強い人は「非倫理的向組織行動」を取りやすいことも明らかになっています[6]。これは、組織の利益のためなら多少の不正も行うという行動を指します。特権意識が高い人は、会社を守るために顧客に過度に誇張した情報を伝えたり、経理報告に手を加えたりといった行為に及ぶ可能性があります。しかし同時に、組織に対する破壊的な行為からは距離を置く傾向も見られます。

このように、心理的特権意識の高さは、様々な形で攻撃性を生み出し、職場の人間関係を複雑に歪める要因となり得ます。

意見や批判を聞かない

心理的特権意識がもたらすもう一つの影響は、他者の意見や批判に耳を傾けようとしないことです。これは組織の意思決定やチームの創造性にとって障壁となり得ます。

心理的特権意識が高い人は、指示を受けるとそれに従わないことがあります。ある研究では、参加者に作業フォーマットの指示を与えたところ、特権意識の高い人ほどその指示を無視することが明らかになりました[7]。この行動は指示の内容そのものが重い負担かどうかには関係なく、また指示を守らないことで生じるリスクが大きい場合でも変わりませんでした。

なぜこのような行動が起こるのでしょうか。特権意識の高い人は、たとえ些細な手間でも、「自分は敬われるべき存在」という認識から、それを「不当な命令」と受け止めてしまいます。彼ら彼女らにとっては、指示の内容より「自分が命令される立場に置かれている」という事実自体が納得できないことなのかもしれません。

また、心理的特権意識が高い人は批判に対して敵対的な反応をとりやすくなります。学術的な検討によれば、心理的特権意識の強い人は、周囲からの評価が期待を下回ると、強い不満や敵意を抱きがちです[8]。軽微な意見や指摘であっても「自分の価値を認めない行為」として受け取り、対立的な態度をあらわにします。

実験では、心理的特権意識を高く持つ参加者にわずかな批判的フィードバックを与えた段階で、怒りを抱いたり攻撃的な発話をしたりすることが確認されました。表面上は自信家のように見える一方で、実際には自尊感情が不安定であるという側面も指摘されています。自分の地位が脅かされそうだと感じると、一気に反発し、言動にトゲが現れます。

加えて、心理的特権意識の強い人は、自説に固執する傾向が見られます。自分の見解が最も正確だという確信を持ち、異なる視点を受け入れることに消極的であることが多いのです。ある調査では、特権意識を測る尺度と独断的な傾向を測る尺度の間に正の相関が確認されました[9]

特権意識の高い人は「自分こそが正しい知識をもっている」と過信しており、対立するデータや新しい発見に対して柔軟に対応できません。「自分が受けるはずだった特別扱い」を正当化するために、論理的な検証や反証可能性を受け入れにくくなります。

謙虚さの面から見ると、特権意識が高い人ほど「自分の能力や功績を誇り、周囲に配慮する態度が弱まる」という特徴があります。ある実験では、「自分を大きく捉える」図と「他者を大きく捉える」図のどちらを選ぶかという視覚的な質問に対し、特権意識の強い人は自分を大きく描いた図を選ぶ傾向がありました。これは自分を優先に考える心理を表しています。

こうした謙虚さの欠如は、重要な他者の助力を得る機会も失わせます。周囲からすれば「どうせ聞く耳をもたない」と判断され、意見交換が成立しにくくなります。その結果、孤立感が深まり、ますます「自分だけが正しく、周囲が間違っている」という思いが強化される悪循環に陥ります。

組織における意思決定や問題解決において、多様な視点を取り入れることの重要性は広く認識されています。しかし心理的特権意識の高い人がチームにいると、その価値ある多様性が活かされず、創造的な解決策を見出す機会が失われてしまいます。

悪くない面はないか

ここまで心理的特権意識の様々な悪影響について紹介してきましたが、この特性は常にネガティブな結果をもたらすのでしょうか。実は研究によれば、適切な環境や条件のもとでは、心理的特権意識が組織にプラスに働く、あるいはマイナスを抑えられる可能性も示唆されています。

注目すべき点として、心理的特権意識は、職場の風土によって良くも悪くも作用します。中国の自動車メーカーを対象とした研究では、従業員関与の風土が強いチームほど、特権意識のある従業員であっても自分のスキルやアイデアを活発に発揮し、周囲を手助けする場面が増えることが明らかになりました[10]

従業員関与の風土とは、チームのメンバー全員が意見を交わし、業務方針や方法を一緒に考え、各人の意見が尊重される環境を指します。このような環境では、特権意識を持つ人でも「自分の価値が認められている」という安心感を抱き、組織への自発的な貢献行動が増えます。

逆に関与の度合いが低いチームでは、特権意識のある人ほど「どうせ意見を聞いてもらえない」と感じ、組織市民行動が著しく低下します。特権意識の高い従業員の貢献を引き出すには、「自分を認めてもらいたい」という欲求を満たす場を整えることが重要です。

他方で、心理的特権意識が高い人はキャリア志向も高い傾向があります。ある研究では、特権意識の強い人ほど「給料アップや昇進のためにどんな努力も惜しまない」「今の会社で成功を収めることを優先する」などといった項目で高いスコアを示しました[11]

自分は特別だという感覚が職場での成功を強く意識させ、キャリアに打ち込む度合いを高めると考えられます。さらに、この傾向はジョブ・インボルブメント(仕事への心理的な没頭度)の高さにもつながります。特権意識が強い人は、自分の能力認知の強弱にかかわらず「当然それくらいの報酬を得られる」と思いやすく、キャリアに注力する姿勢を維持します。

このように、心理的特権意識は職場内でネガティブな局面をもたらすだけでなく、人をキャリアに向けた活動へ駆り立てる活力としても働き得ます。

ところで、心理的特権意識と自律性の組み合わせには注意が必要です。テレワークやフレキシブルな勤務制度の下で働く従業員を調査した研究では、特権意識が顕著で、かつ業務における裁量権が広い従業員は、組織のルールから外れた行動を取りやすいという結果が得られています[12]

自律性が高い状況では、上司や同僚による監督が緩くなるため、「少々勝手をしても咎められない」という感覚が生まれやすくなります。特権意識を抱く人は「自分は例外として扱われるはずだ」と考え、規律違反や不正に走る可能性が高まります。

ただし、組織からのサポートや評価が十分に感じられる場合には、「多少ルールを破っても許されるだろう」という思いが和らぎ、反生産的な行為が抑えられる効果も見られます。

このように、心理的特権意識は、個人の他の特性や組織の風土、仕事環境との相互作用によって、その影響が変わってくることがわかります。

心理的特権意識への対処

以上を踏まえて、心理的特権意識にどう対処していけば良いでしょうか。3つの観点に分けて、ここまでの研究知見を参考に対策を考えてみたいと思います。

初めに、心理的特権意識が悪い方向に転びにくくするためにはどうすれば良いでしょうか。

効果的な方策として、360度評価を導入し、自己評価と他者評価のギャップを認識させることが有効かもしれません。研究が示すように、特権意識の高い人は自分の姿と他者から見られている姿にズレがあります。自分では「尊厳あるリーダー」と思っていても、周囲からは「横柄な人」と見られているというギャップを可視化することで、歪んだ自己認識の修正を促すことができるでしょう。ただし、フィードバックが批判的に感じられると反発を招く恐れがあるため、事実に基づく具体的な行動の指摘と、改善への建設的な提案を組み合わせることが求められます。

もう一つ考えられるのは、組織からの情報提示には「なぜそうするのか」という理由を添えることです。研究によれば、特権意識の高い人は指示を「不当な命令」と捉えやすいため、その背景にある合理性や公平性を丁寧に説明することで、理解と納得を促せる可能性があります。例えば新しい規則を導入する際には、その目的や全員に与えるメリットを伝え、「特定の誰かを制限するため」ではなく「組織全体のためのルール」であることを強調すると良いでしょう。

さらには、完全な自律性ではなく、適切な監督体制を維持し、成果物の評価基準を示すことです。研究が示すように、特権意識の高い人は高い自律性の環境で逸脱行動を取りやすくなります。そのため、一定の監督とフォローの仕組みを設け、「自分は例外」と考えて逸脱行動を取るリスクを低減させます。成果の評価基準を透明化することで、「自分だけが不当に評価されている」という認識を防ぐことができます。

続いて、心理的特権意識を良い方向に転ばせるにはどうすれば良いでしょうか。

重要な施策は、責任ある役割を任せることで建設的な自己重要感を育てることです。研究からは、特権意識の高い人がキャリア志向も高いことがわかっています。この特性を活かし、組織にとって重要なプロジェクトや役割を任せることで、個人の野心と組織目標を一致させることができます。「自分は特別だから優遇されるべきだ」という受動的な期待を、「自分は特別だからこそ組織に貢献できる」という能動的な姿勢に変えるよう導きます。

次に効果的なのは、意見を積極的に取り入れる文化で「特別な自分」の力を発揮させることです。研究によれば、従業員関与の風土が強いと、特権意識を持つ人も組織市民行動を高めます。ブレストやアイデア共有の場を設け、全員の意見を尊重することで、特別感を持つ人の表現欲求を良い形で満たし、攻撃性や不満を減らすことができるでしょう。

そして、リーダーが健全な自信と謙虚さのバランスがとれた見本を示すことも効果的です。特権意識の強い人は周囲の行動パターンからも影響を受けます。上司や経営層が「自信に満ちつつも他者の意見を尊重する」姿を見せることで、適切な自己主張と配慮のバランスを学習してもらうことができます。特に、成功を独り占めせず、チームの貢献を認める姿勢を示すことが大事です。

最後に、心理的特権意識が高くなりにくい環境を作るにはどうすれば良いでしょうか。

まず大切なのは、いかなる成功も多くの人の支援や協力の結果であることを強調することです。個人の成果を称える際にも、それを支えたチームや周囲のサポートに言及することで、「特別な自分が全てを成し遂げた」という誤った認識の形成を防ぎます。組織内の語りや表彰の場面でも、個人の貢献と同時に協力の価値を伝えます。

あわせて有効なのは、ゼロサム的な競争ではなく、「共に成長」を重視する目標設定を行うことです。他者より優位に立とうとする競争心が特権意識を高める循環を断ち切るために、相対評価よりも絶対評価や成長度合いを重視し、個人間の比較ではなく自己成長に焦点を当てる評価が有効でしょう。個人の成功が他のメンバーの成功にもつながるような、協力型の目標設定も効果的です。

忘れてはならないのは、「特別な才能」より「努力と成長」を重視するフィードバックを行うことです。能力は努力によって伸びるというマインドセットを持つ人は、挫折に強く学習意欲も高いため、褒める際にも「あなたは才能がある」といった固定的な資質を強調するのではなく、「素晴らしい努力をしましたね」「前回よりも成長していますね」といった過程や進歩に焦点を当てることで、歪んだ特別感の発生源となる過度な賞賛のパターンを断ち切ることができます。

これらの対策は、一朝一夕で効果が表れるものではなく、継続的な取り組みが求められます。心理的特権意識の理解と対応は、より生産的な職場の構築につながる人事マネジメントの一側面と言えるでしょう。

おわりに

本講演では、心理的特権意識の特徴とその職場への影響、そして対処法について考えてきました。「自分は特別な存在だ」という感覚は、時に攻撃性や独断性といった問題行動につながる一方で、適切な環境下ではキャリア志向や貢献意欲の源泉ともなり得ます。

重要なのは、この二面性を理解し、組織にとってプラスに働く方向へ導くことです。多様な価値観が共存する現代の職場においては、心理的特権意識への理解を深め、個々の特性に合った育成と環境づくりが、組織の持続的な成長につながるでしょう。

Q&A

Q:特定の専門性や経験を持つ人材が、それを根拠に特権意識を抱いてしまうことがあります。多様性を尊重しつつ、特定のスキルが特権とならないようにするには、どうすればよいでしょうか。

まず組織全体で共有すべきなのは、「どのような成功も、一個人の力だけで成し遂げられるものではない」という価値観です。この考えを組織文化として根付かせることが重要になります。

組織には様々な専門性を持つ人材がいます。個々の能力以上に、多様なメンバーが協力し合うことに価値がある、という点を日頃から強調していくことが望ましいでしょう。例えば、社内表彰の機会では、特定の個人の功績だけを称賛するのではなく、その人を支えたチームや他部署の貢献にもしっかりと光を当てます。成功をチーム全体の成果として位置づけることで、過度な個人主義を防ぎ、特権意識が生まれる土壌をなくしていくことができます。

Q:心理的特権意識が高い人は、見方を変えれば周囲を巻き込む力も強いと感じます。その能力をポジティブな方向に発揮してもらうには、どうすれば良いでしょうか。

特権意識の高い人が持つエネルギーを、組織にとって良い方向に導くことは可能です。鍵となるのは、彼ら彼女らが持つ「自分の意見には価値があるのだから、話を聞いてほしい」という強い承認欲求を理解し、それを満たしていくことです。

彼ら彼女らの意見に真摯に耳を傾け、一度受け止める環境を整えましょう。「自分の話を聞いてもらえている」という安心感を得られれば、他のメンバーの意見にも耳を傾けるようになる可能性が高まります。「あなたの意見も尊重します」という姿勢を示すことが、その能力を良い形で引き出すきっかけになります。

Q:特権意識の高い人のキャリア志向を活かすため、責任ある役割を任せることは有効だと感じます。しかし、その抜擢が周囲の不公平感につながらないか懸念されます。

抜擢人事を行う際に不可欠なのが、人事における「透明性」です。なぜその人が選ばれたのか、その理由が周囲にとって不明確であれば、不公平感が生まれるのは当然です。

抜擢の際には、その理由と期待する役割を、本人だけでなく周囲のメンバーにも丁寧に説明するプロセスが欠かせません。その際、「組織の目標達成のために、彼・彼女が持つこの能力が必要です」というように、組織への貢献という視点から説明しましょう。これによって、本人の意欲を組織貢献へと導くと同時に、周囲の納得感も得られ、不公平感を和らげることができます。

Q:心理的特権意識の強さに年齢差はあるのでしょうか。また、特権意識の高い社員へのフィードバックは「人格否定」と捉えられがちで、対話が非常に難しいのですが、どうすれば良いでしょうか。

人の価値観を変えることの難しさに、年齢はそんなに強くは関連せず、個人差が大きい問題と捉えるのが良いでしょう。その上で、考えを変えるのが難しい相手へのアプローチで重要なのは、「一度で解決しようとせず、継続的に粘り強く働きかける」ことです。

短期的な解決は困難だと考え、長期的な視点で対話を続けましょう。初めのうちは、相手の怒りや不満といった感情を否定せずに受け止め、じっくりと話を聞きます。その上でフィードバックを伝える際は、「あなたがしたこの具体的な行動が、周囲にこのような影響を与えました」というように、主観を排して「客観的な事実」を根気強く伝え続けることが、有効なアプローチとなります。

脚注

[1] Lange, J., Redford, L., and Crusius, J. (2019). A status-seeking account of psychological entitlement. Personality and Social Psychology Bulletin, 45(7), 1113-1128.

[2] Harvey, P., and Harris, K. J. (2010). Frustration-based outcomes of entitlement and the influence of supervisor communication. Human Relations, 63(11), 1639-1660.

[3] Zaheer, H., Karim, J., and Bibi, Z. (2022). Actions dictate the consequences: Workplace incivility, knowledge hiding, and psychological entitlement. Journal of Business and Social Review in Emerging Economies, 8(1), 25-38.

[4] Khalid, M., Gulzar, A., and Khan, A. K. (2020). When and how the psychologically entitled employees hide more knowledge? International Journal of Hospitality Management, 89, 102413.

[5] Vatankhah, S., and Raoofi, A. (2018). Psychological entitlement, egoistic deprivation and deviant behavior among cabin crews: an attribution theory perspective. Tourism Review, 73(3), 314-330.

[6] Aqeel, M., and Siddiqui, D. A. (2020). Psychological entitlement and unethical workplace behavior in Pakistan: The role of status striving, moral disengagement, organizational identification, and egoistic deprivation. Sarhad Journal of Management Sciences, 6(3), 597-618.

[7] Zitek, E. M., and Jordan, A. H. (2019). Psychological entitlement predicts failure to follow instructions. Social Psychological and Personality Science, 10(2), 172-180.

[8] Campbell, W. K., Bonacci, A. M., Shelton, J., Exline, J. J., and Bushman, B. J. (2004). Psychological entitlement: Interpersonal consequences and validation of a self-report measure. Journal of personality assessment, 83(1), 29-45.

[9] Curry, C. C. (2010). Expanding the nomological network: Entitlement and associated constructs (Doctoral dissertation, Pacific University).

[10] Schwarz, G., Newman, A., Yu, J., and Michaels, V. (2023). Psychological entitlement and organizational citizenship behaviors: The roles of employee involvement climate and affective organizational commitment. The International Journal of Human Resource Management, 34(1), 197-222.

[11] Lin, S. Y., Chen, H. C., and Chen, I. H. (2022). The bright side of entitlement: Exploring the positive effects of psychological entitlement on job involvement. Evidence-based HRM: A Global Forum for Empirical Scholarship, 11(1), 19-34.

[12] Bizri, R. M., and Kertechian, S. K. (2024). Investigating the link between psychological entitlement and workplace deviance: Moderations and post hoc analysis. International Journal of Organizational Analysis, 32(10), 2177-2204.


登壇者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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