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コラム

烙印された企業の生存戦略:組織的スティグマのインパクト

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私たちは様々な企業や組織と関わりながら生活しています。好感を持つ企業もあれば、反対に否定的な印象を抱く企業もあるでしょう。ときには、ある産業全体に対して社会的な拒絶反応が生じることもあります。このような社会的な烙印、すなわち「スティグマ」と呼ばれる現象は、該当する組織にどのような問題をもたらすのでしょうか。

組織的スティグマとは、組織や産業カテゴリーが社会から否定的に評価され、道徳的に問題視される状態を指します。このスティグマは、企業の戦略的決定や市場での競争力、さらには存続にまで影響を及ぼすことがあります。

本コラムでは、組織的スティグマが企業にもたらす多様な影響について取り扱います。スティグマを受けた企業がどのように資産を売却するのか、産業からの離脱を選択するのか、製品カテゴリーのスティグマが企業全体の評価にどう波及するのか、所属企業への非難がどのように強まるのか、そして破産というスティグマがいかに企業イメージを損なうのかといった観点から研究知見を紹介します。

組織的スティグマの理解は、ビジネス環境で生き残るための視点を提供します。社会的評価という目に見えない力が、企業の命運を左右することがあるのです。本コラムを通じて、組織にとってのスティグマの意味と重要性についての理解が深まれば幸いです。

スティグマを受けた企業は資産売却を行う

社会からの否定的な評価、すなわちスティグマを受けた企業はどのような行動をとるのでしょうか。注目したいのは、そうした企業が資産売却という戦略的決断を行う現象です。

企業が社会から否定的な評価を受けると、企業イメージを改善するための広報活動や社会貢献活動を行うことが考えられます。しかし、社会的にスティグマ化された産業では、このような従来の対応策が必ずしも効果を発揮しないことがあります。むしろ、否定的な評価を受けている事業から物理的・実体的に距離を置くという戦略、つまり「資産売却」という選択を取り得ることが明らかになってきました。

スティグマ化された産業における企業の資産売却行動に関する調査では、兵器産業に属する世界中の202社のデータを分析しました[1]。兵器産業は、合法ではあるものの道徳的に問題視されることがある産業であり、スティグマの影響を検証するのに適しています。

この調査では、世界的な主要新聞における企業への批判的報道の数と、各企業が兵器関連の資産を売却した時期や頻度との関連性を分析しました。その結果、メディアから直接批判を受けた企業は、兵器関連の資産を売却する確率が高くなることが判明しました。自社が直接批判されていなくても、同じ業界の他企業がメディアから批判を受けると、自社も資産売却を行う傾向が強まります。スティグマが業界全体に波及し、個別企業の戦略的決断に影響することを示しています。

企業が属する産業内のサブカテゴリーも重要です。攻撃された企業が、自社と同じ製品やサービスを提供するグループ(サブカテゴリー)に属している場合、その企業への批判の影響はより強く及ぶことが分かりました。例えば、ミサイル製造企業が批判された場合、同じくミサイルを製造する他の企業は、防衛システムなど異なる領域の兵器メーカーよりも強い影響を受けることになります。

この研究は、従来の印象管理理論では説明できない企業行動を明らかにしています。従来の理論では、否定的評価を受けると、企業は自社の良い面を積極的に宣伝したり、否定的評価を別の視点から捉え直したりする戦略をとるべきだとされていましたが、スティグマ化された産業ではこれらの戦略が逆効果になることがあります。むしろ、問題とされる資産を実際に手放すという物理的な対応があり得るが示されました。

社会から否定的に評価される産業に属する企業は、メディアからの攻撃に対して「言葉」ではなく「行動」で対応することがあるのです。特に道徳的議論の対象となりやすい分野では、資産売却という行動が、社会的批判からの距離を作るための戦略となっています。

スティグマは企業の産業離脱を促す

スティグマが企業に与える影響は資産売却にとどまりません。より抜本的な対応として、企業が産業自体から撤退するという現象も見られます。どのような条件下で企業はスティグマ化された産業からの離脱を決断するのでしょうか。

カテゴリーとしてのスティグマが企業の産業離脱に与える影響を検証した研究では、1970年から2000年のアメリカにおける原子力発電産業が調査対象となりました[2]。原子力発電は、1979年のスリーマイル島事故などをきっかけに、環境保護運動や世論からの批判が高まり、「危険」というスティグマが広く形成された事例です。

この調査では、30年間にわたって計画・承認された214基の原子力発電所を分析しました。研究者たちは、原子力に関するメディア報道の量と内容(肯定的・否定的・中立的)、電力会社の原子力への関与度(全保有発電所に占める原子力の割合)、そして各発電所の最終的な運命(完成または計画中止)を追跡しました。

分析の結果、カテゴリーに対するスティグマが強くなるほど、企業がそのカテゴリー(原子力発電)から撤退する(計画を中止する)確率が高まることが明らかになりました。これは直感的に理解できる結果かもしれませんが、興味深いのは、メディア露出の多さがスティグマの効果を弱める場合があるという発見です。

一般に、あるトピックへのメディア露出が多ければ多いほど、社会的な批判や非難も高まると予想されます。しかし、この研究では逆の結果が示されました。メディアで原子力発電に関する報道が多い状況では、スティグマが強くても企業の離脱確率は低くなりました。この一見矛盾する結果は、「情報の飽和」という現象で説明できます。ある問題に関する報道が増えすぎると、人々はその問題に慣れてしまい、批判の心理的インパクトが薄れるのです。

もう一つの発見は、企業のカテゴリーへの関与度が離脱決定に影響することです。研究では、企業が原子力発電への関与度が高いほど(全発電能力に占める原子力の割合が大きいほど)、スティグマが強くても原子力発電から撤退しにくくなることが分かりました。これは組織のアイデンティティが関係しています。企業活動の中心が原子力発電である場合、その活動はすでに企業のアイデンティティと深く結びついているため、スティグマがあっても簡単には離脱できません。

この研究は、企業がスティグマ化されたカテゴリーに直面した際の戦略的意思決定に関する視点を提供します。社会的批判が高まったとき、企業はその批判の強さだけでなく、メディアでの露出度や自社のアイデンティティとの関連性も考慮して、カテゴリーからの離脱を検討します。

製品カテゴリーのスティグマは企業全体の評価を下げる

スティグマは産業レベルだけでなく、より細かい製品カテゴリーレベルでも発生し、企業評価に影響を及ぼします。この現象を「製品レベルでのカテゴリー・スティグマ」と呼びます。

米国のクラフトビール産業を事例とした調査では、特定の製品カテゴリー(アメリカン・ラガービール)がクラフトビール愛好家からスティグマ化されていることが明らかになりました[3]。クラフトビール業界では、大量生産型のアメリカン・ラガービールは「個性がない」「工業的」といった否定的な評価を受けることが多いのです。

この調査では、オンラインのビールレビューサイト「Beer Advocate」から収集した約115万件のレビューデータを分析しました。1996年から2012年までの長期間にわたるデータを用いて、製品カテゴリーのスティグマが企業評価に与える影響を検証しました。

分析結果からは、アメリカン・ラガーに分類されるクラフトビールは、他のカテゴリーの類似製品と比較して明らかに低い評価を受けることが判明しました。同じ品質のビールであっても、アメリカン・ラガーというカテゴリーに属するだけで、消費者からの評価が下がっていました。

企業がアメリカン・ラガーとの関連性を強めると、その企業が提供する他の製品カテゴリーのビールの評価も低下していました。これは「スティグマの伝染」とも呼べる現象で、一つの製品カテゴリーに付随するスティグマが、企業全体のイメージや他の製品にまで波及することを表しています。

例えば、あるクラフトビール醸造所がアメリカン・ラガーを主力製品にしている場合、その醸造所が作るIPAやスタウトなど他のスタイルのビールも、アメリカン・ラガーを作っていない醸造所のものよりも低く評価されます。これは企業のアイデンティティとスティグマ化された製品カテゴリーとの関連性が強いと認識されるためです。

高い評判を持つ企業ほど、スティグマ化されたカテゴリーとの関連によるペナルティが大きくなる場合があります。例えば、ビールコンテストで多くのメダルを獲得しているような評判の高い醸造所が、アメリカン・ラガーを多く製造すると、評判の低い醸造所よりも大きな評価の低下を経験するのです。高い評判を持つ企業に対する消費者の期待値が高いため、期待を裏切ることによる失望が大きくなるためだと考えられます。

この研究は、企業が新たな製品カテゴリーに参入する際の示唆を提供します。特に、社会的に否定的な評価を受けている製品カテゴリーに参入することは、その製品だけでなく、企業全体のイメージや他の製品の評価にも悪影響を及ぼす可能性があります。評判の高い企業ほど、このリスクは高くなります。

スティグマは個別企業への非難を強める

スティグマの問題は、企業の売上や評価に留まらず、企業が社会から受ける非難の度合いにも関わっています。特にスティグマ化されたカテゴリーに属する組織が、どのように社会の非難を経験するのかについて、グローバルな武器産業を対象とした調査からわかることを見ていきましょう。

この調査では、1996年から2007年までの武器産業における多国籍企業を対象に、世界各地の新聞や報道機関のデータを収集し、武器産業というカテゴリーに対するメディアでの非難の量や頻度を計測しました[4]。企業レベルでの非難を集計し、どのような条件下で企業が批判の標的になるかを統計的に分析しました。

武器産業は、社会的・道徳的に問題視されることが多い典型的なスティグマを持つカテゴリーです。調査の結果、武器産業全体に対するメディアの非難が増加すると、そのカテゴリー内の特定の企業も個別に非難されるリスクが高まることが確認されました。カテゴリー全体への批判が高まると、そのカテゴリーに属する個々の企業も批判の矢面に立たされやすくなるということです。

例えば、紛争地域での武器使用が国際的な批判を浴びている時期には、武器産業全体への非難が高まり、個別の武器メーカーも批判を受けやすくなります。この現象は、カテゴリーのスティグマが個別企業に「波及」することを意味しています。

しかし、この調査からは、カテゴリー内の企業数が増えると、個々の企業が受ける非難は減少する傾向があることも明らかになりました。これは「非難の分散効果」とも呼べる現象で、批判がカテゴリー内の多くの企業に分散されるため、個別企業への批判の集中度が下がります。例えば、武器産業に属する企業が少ない場合、各企業は批判の標的になりやすい一方、企業数が多ければ批判は分散され、個々の企業への圧力は相対的に軽減されます。

調査ではメディアによる批判的な言説の増加が、カテゴリー全体に対する非難を強化し、それが個々の企業への非難をさらに誘発することも明らかになりました。メディアが武器産業を批判的に描写する記事や報道を増やすと、社会全体での武器産業への批判意識が高まり、個別企業への批判も強まるのです。

このような調査結果は、スティグマを持つカテゴリーに属する企業が社会的非難を受けるメカニズムを理解する上で重要です。企業は自社の行動だけでなく、所属するカテゴリー全体への社会的評価にも影響を受けるため、カテゴリーの評判を含めた総合的なリスク管理が必要となります。

破産のスティグマは企業イメージを深刻に損なう

企業が直面する可能性のある深刻なスティグマの一つが「破産」です。破産は企業の財務的困難を公に示すものであり、企業イメージに打撃を与えます。米国の再建型の破産を申請した企業に関する調査から、破産がどのようにして組織イメージを損ない、どのような問題を引き起こすのかを見ていきましょう。

この調査では、コンピューター業界において破産を申請した4社を対象に、経営者、弁護士、債権者などへのインタビューや、破産裁判所の公式文書の分析、債権者委員会の会議の観察などを通じて、破産のスティグマとそれに対する企業の対応を分析しました[5]

調査結果によると、企業が破産を申請すると、周囲(顧客、従業員、取引先、債権者など)からの信頼や尊敬を失い、社会的に「傷ついた」状態になることが明らかになりました。具体的には、破産企業は次のような否定的反応に直面します。

例えば、「関係の離脱」が起こります。取引先が契約を打ち切ったり、顧客が製品購入を控えたりするなど、それまでの関係性が断絶されます。例えば、あるコンピューター企業が破産すると、部品供給業者がリスクを恐れて取引を中止したり、顧客が製品のサポートが受けられなくなることを懸念して購入を避けたりする現象が観察されました。

関係が続くとしても「関与の質の低下」が生じます。取引相手の協力レベルが下がり、例えば供給品の品質が落ちたり、納期が遅れたりするなどの問題が発生します。債権者や取引先がより有利な条件を要求する「交渉力の弱体化」も見られます。破産企業は財務的に弱い立場にあるため、通常より厳しい取引条件を押し付けられることがあります。

さらに、悪い評判や噂が広まる「噂による誹謗」や、経営者が直接的に非難や侮辱を受ける「直接的な非難」も発生します。これらの反応は、破産企業の再建をさらに困難にし、企業の存続リスクを高めます。経営者個人にも大きな心理的負担を与え、キャリアに長期的なダメージを与えることがあります。

破産によるスティグマに対処するため、経営陣は様々な戦略を取ることがあります。例えば、破産の事実を隠そうとする「隠蔽」、破産の意味を再定義し否定的な認識を変える「定義変更」、破産の原因を外部環境に帰属させる「責任否定」、一部の責任を認める「責任受容」、完全に引きこもることで批判を避ける「撤退」などの戦略が観察されました。

しかし、これらの戦略にはそれぞれ課題があります。「隠蔽」は短期的には有効かもしれませんが、発覚時には信頼を大きく損なうリスクがあります。「責任否定」は全面的には受け入れられず、批判をさらに招く可能性があります。「責任受容」が過度になると無能さを露呈するリスクがあり、「撤退」は無能や自信喪失として解釈されることがあります。

脚注

[1] Durand, R., and Vergne, J.-P. (2015). Asset divestment as a response to media attacks in stigmatized industries. Strategic Management Journal, 36(8), 1205-1223.

[2] Piazza, A., and Perretti, F. (2015). Categorical stigma and firm disengagement: Nuclear power generation in the United States, 1970-2000. Organization Science, 26(3), 724-742.

[3] Barlow, M. A., Verhaal, J. C., and Hoskins, J. D. (2016). Guilty by association: Product-level category stigma and audience expectations in the U.S. craft beer industry. Journal of Management, 44(7), 2934-2960.

[4] Vergne, J. P. (2012). Stigmatized categories and public disapproval of organizations: A mixed-methods study of the global arms industry, 1996-2007. Academy of Management Journal, 55(5), 1027-1052.

[5] Sutton, R. I., and Callahan, A. L. (1987). The stigma of bankruptcy: Spoiled organizational image and its management. Academy of Management Journal, 30(3), 405-436.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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