2025年6月19日
人材採用の精度を高める:構造化面接の効果
採用面接は、企業が人材を選考する際に広く用いられる手法の一つです。しかし、面接によって「本当に良い人材」を見極められているのでしょうか。面接官の「感覚」や「印象」に基づいて評価が行われ、「なんとなく良さそう」という理由で採用が決まることも少なくありません。このような主観的な評価は、優秀な人材を逃す原因となったり、採用後のミスマッチを引き起こしたりする可能性があります。
学術研究では、面接の「構造化」が評価の精度を高めることが明らかになっています。構造化面接とは、あらかじめ決められた質問項目を使用し、評価の方法を統一・標準化することで、評価の妥当性や信頼性を高める手法です。具体的には、職務に直接関連する質問を準備し、全ての候補者に同様の質問をし、明確な評価基準に基づいて評価することなどが含まれます。
本コラムでは、構造化面接の有効性について、複数の研究成果をもとに解説します。結果的に「面接官の勘」に頼ることになる非構造化面接と比較して、構造化面接がどれほど有効か、そのメカニズムは何か、企業の人材採用にどのような意味を持つのかについて掘り下げていきます。
構造化した個人面接が最も高い妥当性
採用面接の「妥当性」とは、面接での評価が候補者の実際の仕事ぶりをどれだけ予測できるかを表す指標です。妥当性が高ければ高いほど、面接で高い評価を得た人が実際の職場でも高いパフォーマンスを示す可能性が高まります。
1980年代に行われた研究では、面接の形式(個人面接か集団面接か)と構造の程度(構造化されているか否か)が面接の妥当性にどう影響するかを調査しました[1]。この研究では、世界中の文献から150件の妥当性係数を集め、メタ分析という手法で総合的に分析しています。メタ分析とは、複数の研究結果を統合して全体的な傾向を見出す分析方法です。
分析の結果、最も高い妥当性を示したのは「構造化された個人面接」でした。構造化された個人面接の妥当性係数は調整後で高い値を示し、非構造化の個人面接を大きく上回りました。
集団面接においても同様の傾向が見られました。複数の面接官が一堂に会して行う集団面接でも、構造化されたものの方が非構造化のものよりも妥当性が高かったのです。
また、集団面接では面接官が個別に評価して後で統計的に平均化するよりも、面接官同士が議論して合意形成する方が高い妥当性を示すことが明らかになりました。これは当初の予想とは反対の結果でした。面接官同士の議論を通じて、より深く候補者の特性を理解できるためだと考えられています。
この研究では面接の信頼性と妥当性の関係も検討されています。信頼性とは、評価が安定しているかどうか、つまり異なる面接官が同じ候補者に対して一貫した評価を下せるかどうかを表します。分析の結果、構造化面接は非構造化面接よりも信頼性が高く、これが妥当性の高さに寄与していることが分かりました。
構造化面接の中でも、正式な職務分析に基づいて質問が作られている場合、非公式な方法で作成された質問よりも妥当性が高いことも明らかになりました。仕事内容をきちんと分析し、その職務に必要な能力や特性を測定できる質問を用意することが、面接の精度を高める鍵です。
面接は構造化するほど評価の信頼性が高まる
先ほど述べたように、面接の構造化は妥当性を高めるのに効果的です。具体的にどのような要素が面接の構造化を構成するのでしょうか。面接の「構造化」を定義し、その効果について詳細に検討した研究を頼りに考えてみましょう[2]。
研究では、構造化を「面接がどれだけ標準化されているか」と定義し、それを15の次元に分類しています。例えば、「職務分析に基づいた質問内容」「全ての候補者に対する一貫した質問」「候補者の回答を評価する明確な基準の設定」「面接官の事前訓練」「面接時間の統一」などです。これらの次元は、面接をより客観的で公平な評価プロセスにするための要素と言えます。
研究者たちは、これらの構造化要素が面接の信頼性に与える影響を調査しました。信頼性とは、前述の通り、評価の一貫性や安定性を表す指標です。例えば、異なる面接官が同じ候補者を評価した場合に、どれだけ似た評価になるか(面接官間信頼性)や、同じ面接官が同じ候補者を別の機会に評価した場合にどれだけ一貫した評価になるか(評価の安定性)などが含まれます。
調査の結果、構造化要素を多く取り入れるほど、面接の信頼性が向上することが明らかになりました。特に、「全ての候補者に同じ質問をする」「回答に対する評価基準をあらかじめ設定する」「面接官が事前に訓練を受ける」といった要素が、面接官間の評価の一致度を高めるのに効果的でした。
興味深いのは、面接質問が職務分析に基づいて作成されている場合の効果です。職務分析とは、ある職務を遂行するために必要なスキル、知識、能力を体系的に分析するプロセスです。これによって、実際の仕事に直接関連する質問を設計できるため、表面的な印象ではなく、仕事に関連する能力や経験を評価できるようになります。
職務分析に基づく質問を使用した面接は、そうでない面接よりも信頼性が高いことが示されました。これは、評価基準が明確になり、面接官が評価するべき点について共通理解を持つことができるためです。
評価方法の標準化も重要です。例えば、回答の質を評価するための明確な基準(評価尺度)を設定することで、面接官の主観的な判断を減らすことができます。面接官のトレーニングも信頼性向上に寄与します。トレーニングを受けた面接官は、質問の仕方や評価の方法について一貫したアプローチを取ることができ、より安定した評価を行うことができます。
これらの構造化要素が相互に関連していることも指摘されています。すなわち、一部の構造化要素だけを導入するよりも、複数の要素を組み合わせることで、より高い信頼性が得られるということです。例えば、職務分析に基づく質問と明確な評価基準を組み合わせることで、それぞれを単独で導入するよりも高い信頼性が得られます。
面接の構造化は評価の妥当性と公平性を高める
面接の構造化が評価の信頼性を高めることを見てきましたが、構造化面接はそれだけでなく、評価の妥当性と公平性も向上させます。この点について検証した研究を取り上げましょう[3]。
研究では、「妥当性」に焦点を当てています。妥当性とは、面接での評価が実際の職務パフォーマンスをどれだけ正確に予測できるかを表す指標です。研究者たちは、過去の研究を「ナラティブレビュー」(定性的に研究成果を整理する方法)と「メタ分析」(複数の研究結果を統計的に統合する方法)という二つの手法を用いて検証しました。
その結果、構造化面接は非構造化面接よりも職務パフォーマンスの予測において明らかに高い妥当性を示すことが分かりました。特に、行動記述質問(過去の具体的な行動を尋ねる質問)や状況的質問(仮想的な状況での対応を尋ねる質問)などを用いた構造化面接が特に効果的であることが明らかになりました。
構造化面接の妥当性が高い理由の一つは、職務に直接関連するスキルや能力を測定できることにあります。例えば、職務分析に基づいて設計された質問は、その職務で必要とされる能力や経験を引き出すことができます。「困難な状況でどのように対応したか」「チームの中でどのように協力したか」といった質問は、仕事場面での行動を予測するのに役立ちます。
さらに、構造化面接は評価の公平性も高めます。非構造化面接では、面接官の主観や偏見、第一印象などが評価に影響する可能性がありますが、構造化面接ではこうした要素の影響を減らすことができます。
研究によると、構造化面接は人種、性別、年齢などの属性に基づく評価バイアスを減少させることが示されています。全ての候補者に同じ質問をし、同じ基準で評価することで、特定のグループに不利になるような偏りを緩和することができるのです。
一方で、構造化面接に対する候補者の反応についても研究されています。一部の研究では、候補者は構造化面接を硬直的で機械的だと感じる可能性があるとされています。しかし、面接の目的や方法を説明し、職務に関連する質問であることを理解してもらうことで、候補者の納得感を高めることができます。
個人面接がパネル面接より妥当性が高い
採用面接を行う際、一人の面接官が一人の候補者を評価する「個人面接」と、複数の面接官が同時に一人の候補者を評価する「パネル面接」のどちらが効果的なのでしょうか。
面接の妥当性に関する過去の研究を網羅的に収集し、メタ分析を通じて検討した研究があります[4]。研究者たちは、245個の妥当性係数(対象者総数86,311人)を集めて分析しました。面接の内容(状況的質問、職務関連質問、心理的質問)、構造(構造化と非構造化)、形式(個別とパネル)、予測基準(職務遂行、訓練遂行、雇用期間)など、さまざまな角度から面接の妥当性を検証しました。
分析の結果、多くの人が想像するのとは反対に、個人面接がパネル面接よりも高い妥当性を示すことが明らかになりました。職務遂行を予測する妥当性において、個人面接の妥当性係数はパネル面接を上回りました。
これは一見、直感に反する結果かもしれません。複数の面接官がいれば、より多角的な視点から候補者を評価できるため、パネル面接の方が妥当性が高いと考えることもできるからです。なぜ個人面接の方が高い妥当性を示したのでしょうか。
いくつかの要因が指摘されています。まず、個人面接ではより自然なコミュニケーションが生まれる可能性があります。一対一の対話では、候補者がリラックスして本来の能力や性格を発揮しやすくなります。対照的に、複数の面接官に囲まれるパネル面接は、候補者にとってプレッシャーが大きく、緊張や不安を引き起こす可能性があります。そのため、実際の職場での行動よりもストレス下での反応を測定してしまう恐れがあります。
個人面接では面接官と候補者の間でより深い会話が展開できることも利点です。一対一のやり取りでは、面接官は候補者の回答を掘り下げたり、特定のトピックについて詳しく質問したりする柔軟性があります。パネル面接では、時間の制約や複数の面接官が質問を分担するため、このような深い掘り下げが難しくなる場合があります。
個人面接がより構造化されていることも妥当性の高さに寄与している可能性を指摘しています。研究結果によれば、構造化された個人面接が最も高い妥当性を示しました。構造化面接では、あらかじめ決められた質問と評価基準に従うため、面接官の主観や偏見の影響を減らすことができます。
ただし、パネル面接にも利点はあります。例えば、複数の視点からの評価が可能になるため、一人の面接官のバイアスを軽減できる可能性があります。組織の異なる部門や階層からの面接官を含めることで、候補者がさまざまな利害関係者と協働できるかを評価することもできます。
この研究は、面接の「内容」による妥当性の違いについても検証しています。その結果、「状況的面接」(仮想的な職務状況での対応を尋ねる質問)が最も高い妥当性を示し、次いで「職務関連面接」(過去の具体的な職務経験を尋ねる質問)、最も低かったのは「心理的面接」(性格や態度などの心理的特性を尋ねる質問)でした。
面接が予測する基準(職務遂行、訓練遂行、雇用期間)による違いも検証されています。職務遂行と訓練遂行についての面接の妥当性はほぼ同程度で高かったのに対し、雇用期間(どれだけ長く組織に留まるか)の予測については妥当性が最も低いという結果でした。
非構造化より行動質問の方が成果を予測する
面接で聞く質問の種類も、評価の妥当性に影響を与えます。「過去の行動に基づく質問」は、将来の職務パフォーマンスを予測する上で効果的であることが分かっています。ある研究では、「パターン化された行動記述面接(Patterned Behavior Description Interviews:PBDI)」と従来型の「非構造化面接」を比較し、どちらが優れているかを調査しました[5]。
行動記述面接とは、過去の具体的な行動に焦点を当てた質問を用いる面接法です。例えば、「リーダーシップを発揮した経験を教えてください」と尋ねるのではなく、「あなたがチームをリードした最近の例を教えてください。どのような状況で、あなたは具体的に何をしましたか。その結果はどうなりましたか」といった形で、実際の行動とその結果について詳しく聞き出します。この方法の背景には、「過去の行動が将来の行動の最良の予測因子である」という考え方があります。
研究では、15名の大学のティーチングアシスタント(TA)を対象に、行動記述面接と非構造化面接の両方を実施し、その後のTA評価(学生からの評価スコア)との関連を調査しました。
研究の結果、行動記述面接は非構造化面接よりも高い妥当性を示しました。行動記述面接の妥当性係数(実際のTA評価との相関)は0.54と高い値を示したのに対し、非構造化面接の妥当性係数はわずか0.07で統計的に有意ではありませんでした。行動記述面接はTAの実際のパフォーマンスを予測する能力が高いのに対し、非構造化面接はほとんど予測能力がなかったのです。
この違いはどこから生まれるのでしょうか。研究者は面接内容の分析を行い、非構造化面接では主に「資格情報」(学歴・経歴など)と「自己認識」(自身の強み・弱みなどの主観的評価)の情報が多く収集されるのに対し、行動記述面接では「具体的行動の記述」の情報が多いことを発見しました。
行動記述面接が効果的である理由は、具体的な過去の行動という客観的なデータに基づいて評価を行うため、表面的な印象操作や主観的情報に影響されにくいからです。例えば、「私はリーダーシップがあります」という自己申告よりも、「前回のプロジェクトでは、チーム内の対立を解決するために週1回のミーティングを導入し、全員の意見を聞く場を設けました。その結果、チームの雰囲気が改善し、予定通りにプロジェクトを完了することができました」というエピソードの方が、その人のリーダーシップ能力を判断する材料として優れています。
この研究では評価者間の一致度(信頼性)についても調査していますが、予想に反して行動記述面接の方が非構造化面接よりも信頼性が低い結果となりました。これは、各面接官が行動記述面接で重視する評価次元が異なったためであると考えられています。
行動記述面接のもう一つの利点は、候補者自身も自分の経験を思い出すことで、より正確な自己評価ができることです。抽象的な質問(「あなたの強みは何ですか?」など)では、候補者は社会的に望ましい回答や一般的な回答をしやすいのですが、具体的な行動を思い出す過程で、より正直で深い回答が引き出されることがあります。
行動記述面接は面接官にとっても評価がしやすいという利点があります。抽象的な特性や能力を直接評価するよりも、行動事例を評価する方が、面接官の主観や偏見の影響を減らすことができます。
脚注
[1] Wiesner, W. H., and Cronshaw, S. F. (1988). A meta-analytic investigation of the impact of interview format and degree of structure on the validity of the employment interview. Journal of Occupational Psychology, 61(4), 275-290.
[2] Campion, M. A., Palmer, D. K., and Campion, J. E. (1997). A review of structure in the selection interview. Personnel Psychology, 50(3), 655-702.
[3] Campion, M. A., Palmer, D. K., and Campion, J. E. (1997). The structured employment interview: Narrative and quantitative review of the research literature. Personnel Psychology, 50(3), 655-702.
[4] McDaniel, M. A., Whetzel, D. L., Schmidt, F. L., and Maurer, S. D. (1994). The validity of employment interviews: A comprehensive review and meta-analysis. Journal of Applied Psychology, 79(4), 599-616.
[5] Janz, T. (1982). Initial comparisons of patterned behavior description interviews versus unstructured interviews. Journal of Applied Psychology, 67(5), 577-580.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。