2025年5月15日
アルゴリズム管理と労働:変わりゆく職場環境を考察する
アルゴリズム管理は、近年さまざまな業界で存在感を増しています。AIなどを活用することにより、人間の管理者が行ってきた業務の一部を自動化し、迅速な意思決定を行うことができるとされています。配送や倉庫作業、さらには配車サービスなどで導入が進み、身近なところでもこの管理手法に触れる機会が生まれています。
そうした変化は業務効率の向上やコスト削減に関連して語られる一方で、働く人々にとってどのような意味をもたらすのかという問いは見過ごせません。新しい技術が導入されると、それまで暗黙のうちに存在していた職場の秩序やコミュニケーションが変容する可能性があります。その変化がどのような形で生じ、働き手にどのような感覚をもたらすかは、多くの人にとって関心の高い話題でしょう。
本コラムでは、アルゴリズム管理がもたらす諸側面を確認しながら、それによってどのようなものが失われうるかを探ります。新しい管理手法には効率性やスピードアップが期待されますが、人間が主体的に仕事を組み立てる余地はどう変化するのか、絶え間ない待機が生じるのはどのような仕組みによるのか、権限や意欲に関する問題は生じるのかなど、さまざまな視点から検討していきます。
アルゴリズム管理が仕事の自律性を低下させる
アルゴリズム管理が、どのように人間の仕事に変化をもたらすのかを論じた研究があります[1]。そこでは、アルゴリズムが担う管理機能を分類し、労働の進め方や労働者の裁量幅がどう変化するかが整理されています。
さまざまな管理機能のうち、タスクの割り当てやスケジュールの作成などは、人間の管理者ではなく機械的なプロセスに置き換えられることがあります。誰にどの業務を何時までに行ってもらうかという決定が計算処理で下されるため、働き手はその指示どおりに動くことになります。そこには、個々の判断や工夫を挟む余地が見いだしにくい面があるのではないかと指摘されています。
かつては管理職やリーダーが経験や現場の声を取り入れながら調整していた領域に、アルゴリズムによる評価や割り当てが入り込むとき、労働者は自分のペースで仕事を組み立てる選択肢を狭められることがあるかもしれません。
宅配を担当する現場に着目し、アルゴリズムが収集した膨大な走行データや配達履歴から最適化されたスケジュールが自動生成される事例を精査した研究があります。そこでは、瞬時に送り出される指示に従わないと業務の進捗が乱れるため、独自の考えで行動できなくなるという実態が描かれています。
その研究で用いられた方法は、既存の文献調査と、宅配現場の労働者や管理者へのインタビュー、それに加えてアルゴリズムの設計に携わるエンジニアとの話し合いです。生の声を集めながら導入プロセスを分析することで、自律性の変化を浮き彫りにしています。
自律性がどう失われるかを掘り下げる際、タスクに関する決定の自由度だけでなく、どんな情報をもとに日々の戦略を組み立てられるのかという点も注目されました。アルゴリズムが収集した情報は管理者や分析担当者に集約される一方で、現場の働き手は自分の仕事の背景情報を把握する経路を失うことがあるというのです。これは、作業ペースを自分自身で調整する能力や、仕事に意義を感じるポイントを見いだす過程にも影響を及ぼし得ます。
このように、アルゴリズム管理が導入されることで、自分の裁量で業務を変化させたり試行錯誤したりする余白が小さくなるかもしれません。現場経験を活かす場面が限定され、受動的にシステムの出す指示をこなすだけで終わってしまう危険性を訴える声もあるということです。
もちろん、すべての職場が同じ状況に陥るわけではなく、労働者がタスクを調整できる要素が残されているケースもあるでしょう。しかし、そうした例でも、判断基準はアルゴリズムによる数値化により管理されることが多く、その意味で自律性が狭まる構造が生じやすいのではないかと論じられています。
労働時間を細分化し常時待機を強いる
アルゴリズム管理は、時間の使われ方にも変化をもたらすという分析があります。ある調査では、配車アプリやデリバリーアプリの運転手や配達員が、一度の注文や乗客を受けるまでの空き時間を無報酬のまま待機させられ、その待機が細切れに積み重なる状態が観察されています[2]。仕事量自体は限られているにもかかわらず、サービスを継続的に利用できる状態でいなければスコアが下がってしまうことがあるため、待機時間も事実上の拘束と感じるのです。
この研究では、インタビューと現地観察を組み合わせながら、アルゴリズム管理がもたらす時間の区切り方を詳細に記録しています。毎回のタスクがすぐに終わるような仕事であっても、次のタスクを与えられるまでの間に報酬が発生しないケースが多いため、労働者は常にアプリを起動し、指示が届き次第すぐ対応できるように備えています。本来なら休憩に充てられそうな時間さえも、自由に過ごしにくい状況として捉えられています。区切られたタスクが連続し、わずかな中断に賃金が伴わない形で押し寄せるということです。
この研究で深く掘り下げられているのは、アルゴリズムが時間配分を制御できる点です。管理側は、混雑状況や地理情報をもとに、仕事を差し込むことができるため、人手による調整よりスピードが上がります。しかし、その仕組みは労働者にとって、常時スタンバイし続けることを暗黙のうちに求めるものでもあるという観察が示されています。たとえ一日のなかで稼働している合計時間自体は短いとしても、いつ指示が届くか予測しにくいため、長いあいだ身動きできない感覚がつきまといます。
こうした「断片化された時間」の配置は、ギグエコノミーの労働に特徴的であるものの、従来型の業種でも似たような仕組みが拡散し始めていると言います。出勤する時間帯や作業の順番がアルゴリズムによって決められ、合間の細切れ時間は無報酬、あるいは極めて低い単価での支払いにとどまる例が出てきているようです。
そうなると、労働者は形式上は柔軟に働けているようでいて、実際にはいつ仕事が来るか分からない中で常時ログインしていなければ安定した収入を得られない状況になります。まとまった休息や心の切り替えが難しくなるため、生活リズムが乱れる人も出てくるかもしれません。
その論考では、労働時間短縮の理想像と現実の隔たりを強調しています。アルゴリズム管理によってタスク自体は効率化されていく一方で、待機状態に置かれる時間が長引き、実質的には自由な時間が増えないという状態が起こり得ます。労働時間は細分化され、表面的には短くなっているように見えても、実質的な拘束はむしろ増えている可能性があります。
アルゴリズム管理が労働者の権限を弱める
アルゴリズム管理が進むと、現場で働く人々の権限がどのように再編されるのかを、伝統的な企業を対象に調べた研究があります[3]。ここでは、プラットフォーム企業だけでなく、従来の物流業者などでもアルゴリズム管理が徐々に導入され、経営陣やエンジニア、現場の労働者の間でどんなやりとりが起こるかが検討されました。導入の最初の段階では、見える化や効率化を目標に掲げ、あくまで現場の労働者を監視するためではないと説明されます。
しかし、実際にデータ収集が始まり、その分析結果をもとに業務の進め方を見直す段階になると、情報が集中する場所が管理部門やアルゴリズムを開発する部署になります。そうなると、日々の業務に必要な判断材料が集まるのは企業の本部やデータ分析チームであり、現場の声はあまり反映されなくなる事態が生じます。この過程で、権限を持っているのは誰なのか、どこまで労働者が意思決定に参加できるのかが不透明になっていきます。
研究者らは質的なアプローチをとり、特定の物流企業を長期にわたって観察し、従業員や管理職へのインタビューを積み重ねました。そこでは、データ生成の段階においては現場の協力が不可欠でしたが、データを分析して方針を固める段階では本社主導の決定が下される光景が浮かび上がっています。
労働者は、どのような基準で最適化が進められているのか実感しにくいまま、結果的に作業工程が細かくマニュアル化され、自身の経験やノウハウを生かす余地が削られるという変化を体感していたようです。管理者が労働者の考えを聞く姿勢を示しても、最終的な意思決定はアルゴリズムが提示する最適値に沿う形に収束してしまいます。
監視の明確な意図がなくても、アルゴリズム管理を導入すると、知識が集約される拠点に権力が集中しやすい可能性が指摘されました。現場レベルでの調整や改善が行いにくくなり、労働者が自ら提案する機会が減ることもあるかもしれません。
労働者の意欲と紹介行動を低下させる
アルゴリズム管理が、労働者のサービス品質や仲間への紹介といった行動にどのような変化を引き起こすかに着目した混合研究があります[4]。デリバリーサービスの配達員を対象に、量的調査と質的調査を組み合わせる手法で検討した結果、アルゴリズムの介入度が高いほどサービスに対する意欲が下がり、知り合いを同じ仕事に誘う行為を控える傾向が確認されました。
研究では、複数のシナリオを用いた実験的調査が行われました。あるグループの配達員には、人間中心の管理がメインという説明を行い、別のグループにはアルゴリズムによってスコアや評価が即時に更新され、それが業務配分に反映されるといった仕組みを示しました。そして、サービスの質をどれほど大事にしたいと思うか、同じ仕事を他者に勧めたいと思うかを尋ねたのです。その結果、アルゴリズムの指示を受けると認識している配達員ほど、サービスへの思い入れが弱まることが示されました。
さらに、インタビューを通じて具体的な感情や体験も掘り起こしました。顧客からの評価が機械的に処理されて次の報酬や配車割り当てに反映される場面では、自分の努力が正当に評価されているかどうか疑わしく感じる人がいました。例えば不公平と感じる顧客クレームでもアルゴリズムが一律に減点を行う場合には、労働者はやり場のない苛立ちを覚えます。仕事への思い入れを失い、周囲の知人にこの働き方を紹介しようとしなくなります。
興味深い部分として、その研究では労働負荷が大きいと感じている配達員の場合、アルゴリズム管理に対する不満が緩和される傾向があると指摘されています。逆に、比較的ゆとりのあるスケジュールで動いている人は、アルゴリズムからの干渉を意識しやすく、モチベーションを下げやすいという分析が盛り込まれていました。こうした差は、受注数や報酬体系と結びついているのかもしれません。
量的調査のデータを用いて、サービス品質への思いと紹介行動の関連を探ったところ、両者が密接に関係しているとされ、モチベーションが失われると仕事仲間を増やす働きかけにも消極的になっていく構図が見いだされました。
研究者らはこのような状況を踏まえ、アルゴリズム管理の導入には効率を高める側面もある一方で、精神面への負担やコミュニティ内での評判形成の仕組みをゆがませる可能性があると述べています。どのような領域でどんな管理方法が実施されるかによって結果は変わるものの、機械的なフィードバックが続くと、働く意欲の低下と紹介の減少が連動し得る点が強調されています。
労働者の自律性を制限しうる
もう一つ、アルゴリズム管理が働き手の自律性をさまざまな次元で弱め得るという主張を中心に据えた議論があります[5]。そこでは、自律性を心理的側面、価値観を選び取る側面、最終意思決定を行う側面の三つに分けて整理しています。
そのうち、特に問題になりやすいのは最終的な決定権がどこにあるのかという点だとしています。アルゴリズムが業務指示を出すだけでなく、細かな行動データの分析を通じて労働者の立ち居振る舞いを予測し、必要に応じて調整を施す場面が増えると、働き手は自らの裁量で行動する自由を縮減されてしまうからです。
論考では、人間の判断を何らかの形でサポートする技術が、自律性を奪うかどうかは設計のあり方次第という見解が述べられています。実際に行われた調査によれば、監視カメラやGPSを用いたモニタリングを導入する職場では、データの使い方が不透明だと感じる労働者が少なからずいるそうです。システムの根幹部分がブラックボックス化している場合、管理の基準があいまいに感じられ、自分の判断が評価にどう反映されるのか理解できないまま働き続けることになります。
他方で、アルゴリズム管理によって一定の自由度が保障されるケースもないわけではないと紹介されています。労働者がスケジュールを自主的に調整する仕組みを用意したり、学習機会の案内をシステムが自動で提案したりする場合は、かえって選択肢が増える可能性があります。ただ、そうした導入事例は限られており、現実には効率を追求する過程で多くの工程が自動最適化され、人間が介在する範囲が狭まる状況が散見されます。最初は補助的なはずのアルゴリズムがいつの間にか労働者の意思決定権を代行し、最終的には指示通りに動かなければ不利になる仕掛けが導入される可能性もあります。
アルゴリズム管理は人間の自律性を深く揺るがす要素をはらんでいると言えるかもしれません。導入の狙いや運用の仕方次第では、自律性が促されることもあれば、制限されてしまうこともあるため、一概に良い悪いとは断言しにくくはありますが。
脚注
[1] Parent-Rocheleau, X., and Parker, S. K. (2021). Algorithms as work designers: How algorithmic management influences the design of jobs. Human Resource Management Review, 31(4), 100838.
[2] Piasna, A. (2024). Algorithms of time: How algorithmic management changes the temporalities of work and prospects for working time reduction. Cambridge Journal of Economics, 48(1), 115-132.
[3] Krzywdzinski, M., Schneis, D., and Sperling, A. (2025). Between control and participation: The politics of algorithmic management. New Technology, Work and Employment, 40(1), 60-80.
[4] Lu, Y., Yang, M. M., Zhu, J., and Wang, Y. (2024). Dark side of algorithmic management on platform worker behaviors: A mixed-method study. Human Resource Management. Advance online publication.
[5] Unruh, C. F., Haid, C., Fottner, J., and Buthe, T. (2022). Human autonomy in algorithmic management. In Proceedings of the 2022 AAAI/ACM Conference on AI, Ethics, and Society (pp. 753-762). ACM.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。