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コラム

冷笑する職場:組織シニシズムとは

コラム

エンゲージメントサーベイを実施すると、どの組織にも一定数、低いスコアをつけて回答をする社員が存在します。米国の調査会社ギャラップが行った2022年度エンゲージメント調査[1]によれば、日本では「全くエンゲージしていない従業員」が23%に達するという結果が出ています。

また、職場で不満を訴える社員の存在が、仕事に対する熱意や職場への愛着を持つ「エンゲージしている従業員」の割合をわずか5%にまで押し下げており、これは世界125か国との比較においても最低水準です。この状況は、いわゆる「ぶら下がり社員」とも称される「エンゲージしていない社員」が72%という多数派を形成する要因にもなっていると考えられます。ギャラップは、報告書の中で「従業員への対処の仕方を変えなければならない時期に来ている」と日本企業に対して警鐘を鳴らしています。

こうした否定的感情を持つ現象は、産業・組織心理学や組織行動の分野で「組織シニシニズム」と呼ばれます。「シニシズム(冷笑主義)」とは、社会の風潮や規範を冷笑的に捉える見方や態度であり、シニカルな態度と同じ語源を持っています。つまり、企業組織に対して冷ややかで斜に構えた視線を持つ社員が存在するということです。

本コラムでは、組織シニシズムに関する研究知見を紹介し、組織シニシズムが何を意味するのか、否定的な感情を持つ社員の存在が組織にどのような悪影響をもたらすのか、そしてその影響を軽減するためにはどのような方法が有効であるのかについて探求していきます。これらの研究知見を通じて、組織シニシズムについての理解を深めると共に、ビジネスの現場で活用できる有益なヒントを提供します。

組織に対する信念、感情、行動

組織シニシズムの定義について学術的には、「雇用している組織に対する否定的な態度」を指し、以下の3つの側面から構成されるとされています[2]

  • 組織には誠実さが欠けているという信念
  • 組織に対する否定的な感情
  • これらの信念や感情に基づく、組織に対する軽蔑的・批判的な行動の傾向

ここでは、信念、感情、行動という各要素について、それぞれの意味を詳しく説明します。

まず、「信念」についてです。組織シニシズムの第一の側面である信念とは、組織には誠実さが欠けているという確信を指します。オックスフォード英語辞典では、誠実さを「道徳的原則の健全さ、特に真実と公正な取引に関する、堕落していない美徳の性質、直情、正直さ、誠実さ」と定義しています。この定義をシニシズムの辞書的定義、「人間の動機や行動の誠実さや善良さを信じない性質」と関連づけると、シニシズム的信念とは、組織には誠実さが欠けているという考えに帰結します。

次に、「感情」についてです。組織シニシズムに関連する感情は、苦痛、怒り、嫌悪、軽蔑、恥など、多岐にわたります。組織シニシズムを持つ人は、組織に対して軽蔑や怒りを感じることがあります。また、組織について考えるとき、苦痛や嫌悪、さらには恥を経験することもあるでしょう。このように、組織シニシズムはさまざまな否定的感情と結びついているのです。

続いて、「行動」についてです。組織シニシズムには、否定的で、しばしば軽蔑的な行動をとる傾向があります。一般的には、シニシズム的な態度は、特定の行動そのものというよりも、ある種の行動に対する傾向から構成されています。古代ギリシャ哲学の一派のシニシズムに倣って、シニカルな態度を持つ人の最も顕著な行動傾向は、組織に対する強い批判の表明です。これは、組織の誠実さや真摯さの欠如についての明示的な発言など、さまざまな形を取ります。例えば、知ったかぶりをする態度や、目を丸くしたり、にやにや笑ったりするなどの行動です。これらの行動は、皮肉屋や古代のシニックスが長年知られている特徴でもあります。

以上のように、組織シニシズムは、信念、感情、行動として捉えられます。このため、組織シニシズムは多次元的な構成要素を持つと見なされます。人々は、組織の誠実さの欠如についての特定の信念を持ち、組織に対して特定の感情を経験し、それに基づく行動を示すことによって、組織に対してシニカルであると評価されるのです。

従業員の態度やパフォーマンスへの悪影響

組織シニシズムの定義について見てきました。続いて、従業員の態度やパフォーマンスに対する組織シニシズムの影響について、メタ分析による統合的な枠組みを提案した研究を紹介します。この研究は、32の主要な研究から得られたデータを統合し、9,186人のデータを対象としています。従業員の組織シニシズムが、個人差(肯定的・否定的感情、特性シニシズム)、職場環境の肯定的側面(知覚された組織的支援、組織的公正など)および職場環境の否定的側面(心理的契約違反、知覚された組織政治性、心理的緊張など)によってどの程度予測されるかを調査しました[3]

分析する概念定義について説明します。

  • 知覚された組織的支援:従業員が組織からどれだけ支援や配慮を受けていると感じているかを示す概念
  • 組織的公正:従業員が組織内での処遇や意思決定プロセスに対して、公平であると感じる度合い
  • 心理的契約違反:従業員が組織や雇用主に対して抱いている期待や信頼が裏切られたと感じる状態
  • 知覚された組織政治性:従業員が職場内での意思決定や行動が個人的な利害関係や権力争いに基づいて行われていると感じる度合い
  • 心理的緊張:環境的要求がその要求に対処するための自分の資源に負担をかける、あるいはそれを超えるものであるという個人の評価

分析の結果、肯定的感情は組織のシニシズムと負の関係がある一方で、否定的感情や特性シニシズムとは正の関係があることが示されました。組織シニシズムの先行要因として、職場環境の肯定的側面である、知覚された組織的支援と組織的公正が組織シニシズムと負の関係を示しました。一方で、職場環境の否定的側面である心理的契約違反や知覚された組織政治性は組織シニシズムと強い正の関係があり、心理的緊張も中程度の正の関係を示しました。このことから、組織シニシズムは、個人のネガティブな感情やシニカルな性格によって強まる一方、ポジティブな感情によって和らぐことが分かります。

さらに、従業員の態度や意図に関して、組織シニシズムは職務満足度および組織コミットメント(従業員が組織に対して抱く帰属意識)と負の相関があり、離職意図とは正の相関があることが明らかになりました。また、組織シニシズムは、職務遂行能力と緩やかな負の関係を持つことが示されました。一方で、信頼は組織コミットメントや離職意向に対してより重要であるとされます。さらに、組織シニシズムと信頼は職務満足度に対して同等の重要性を示しました。

これらの研究結果から、実践的な意味をマクロな組織とミクロな個人の視点からまとめてみましょう。まず、マクロな組織の視点では、従業員の組織シニシズムを低下させるためには、支援的な環境の整備、公正な対応、心理的契約違反の低減、組織政治の抑制が有効です。具体的には、組織の方針や文化を通じてこれらの特徴を強化するだけでなく、リーダーシップ研修や公正さの強調、例えば透明な評価プロセスの導入、オープンな意思決定プロセスの推進、苦情処理手続きの確立といった組織的介入を行うことで、その効果を高めることが期待されます。

一方、ミクロな個人の視点では、シニカルな従業員の割合を減らすために、ポジティブな感情を持つ応募者を選抜する戦略を考えることができます。しかし、得られた研究結果から判断すると、このアプローチのみでは限界があるかもしれません。最も効果的なのは、組織の方針や介入を通じたマクロ的な組織視点のアプローチと、適切な人材を採用するための人事選考を活用したミクロ的な個人視点のアプローチを組み合わせることで、より高い成功率を達成することができるでしょう。

もう一つ組織シニシズムが従業員のパフォーマンスにどのような影響を与えるかを調査した研究があります。パキスタンの医療機関で働く200人の従業員を対象に、質問票を用いて組織シニシズムと従業員のパフォーマンスの関係を分析しました。また、従業員エンゲージメントが組織シニシズムと従業員のパフォーマンスの関係をどのように調整するかについても検証しました[4]

その結果、組織シニシズムと従業員のパフォーマンスの間に有意な負の関係があることが確認されました。シニカルな従業員は、組織に対する失望や不満から、報酬と業績の関連性を低く評価し、その結果、努力やパフォーマンスの低下に至ることがわかりました。こうした態度は、最終的には離職の要因となる可能性があります。

一方で、肯定的で支持的な組織構造や人間関係は、組織シニシズムの影響を軽減し、従業員のモチベーションを高める上で重要な役割を果たします。逆に、否定的な組織環境は、従業員のコミットメントやモチベーションの低下、組織全体の士気低下につながり、結果としてパフォーマンスの低下を招きます。

さらに、組織シニシズムと従業員のパフォーマンスの関係に対して従業員エンゲージメントが調整効果(2つの変数間の関係に対して別の変数がその強さや方向を変える影響を与えること)を持つことが示されました。高い従業員エンゲージメントを持つ職場環境は、欠勤率の低減や生産性の向上、離職率の低下に寄与し、組織のコストを削減することにもつながるといわれています。

したがって、従業員エンゲージメントを促進することは、組織シニシズムの悪影響を抑え、組織のパフォーマンス向上に資する重要な戦略といえます。高い従業員エンゲージメントを維持することで、組織シニシズムが従業員のパフォーマンスに与える負の影響を軽減し、組織と従業員の利害の一致を図ることができるでしょう。

組織シニシズムが離職意向に与える影響

先の節では、パフォーマンスに対する影響を見てきました。ここでは、離職意向についての研究を紹介します。組織シニシズムが離職意向にどのような影響を与えるかについて社会交換理論に基づく調査が行われました。社会交換理論とは、人々は有形・無形の交換を通じて関係を形成・維持・発展させるという理論です。

トルコのイスタンブールにあるテクノロジー企業で、289人の従業員と管理職を対象に、組織シニシズムが従業員の離職意向にどのように影響するのか、また組織的支援がこの関係をどの程度媒介するのかについて検証しました[5]

本研究はCOVID-19の大流行前に実施され、組織シニシズムが離職意向に影響をあたえるものの、知覚された組織的支援がその影響を緩和することを示しました。具体的には、対面やバーチャルな介入による組織的支援が個人の離職意向を減少させる効果が、パンデミックの影響で組織シニシズムが再燃する中でも明らかになっています。

研究結果によると、組織シニシズムの認知的次元(信念や考え方)および感情的次元(ネガティブな感情)は、離職意向に対して有意な正の影響を与えますが、行動的次元(否定的な行動)は影響を持たないことがわかりました。また、知覚された組織的支援は、認知的・感情的シニシズムの負の影響を軽減し、離職意向を抑える効果を持つことが示されています。

この調査は、組織シニシズムが離職意向を引き起こし、組織的支援がその影響を調整する役割を果たすことを示唆しています。しかし、シニカルな行動を抑制するためには、単なる支援メカニズム以上の実質的な組織的介入が必要であることも示されています。知覚された組織的支援の欠如は職場でのシニカルな行動の増加に繋がる可能性があり、こうした行動を管理するには積極的な介入が求められます。

このように、組織シニシズムは離職意向に多大な正の影響を及ぼす要因であり、適切な組織的支援と環境の整備が、シニシズムの影響を軽減し、組織の持続的な成長を支える鍵となります。

高額な役員報酬、業績悪化、人員削減が原因

組織シニシズムの影響について見てきました。ここからは、組織シニシズムを引き起こす原因についての研究を紹介します。アメリカの68の企業に所属する207人の管理職・専門職を対象に再生医療企業でシナリオを用いた実験が行われました。この実験には、役員報酬、組織業績、人員削減に関する詳細な説明が含まれており、これらがどのように従業員の組織シニシズムに影響を与えるか調査しました[6]

この実験の結果、企業環境のいくつかの特性が従業員の組織シニシズムを生むことが明らかになりました。具体的には、高水準の役員報酬、劣悪な組織業績、過酷な人員削減の発表が、組織シニシズムを増大させる要因として特に顕著でした。

こうした不公正な状況は、従業員が自身の職務経験を通じて直接、またはメディアを通じて間接的に経験することが多く、それ自体が企業に対する強いシニカルな反応を引き出す原因になります。このため、一般的なビジネス全般に対する組織シニシズムよりも、特定の企業に対する組織シニシズムのほうが強く表れる傾向が確認されました。これは、特定の企業に対する態度が、その企業特有の特徴に大きく影響されるためと考えられます。

さらに、シニカルな態度は、組織市民行動(企業や団体の従業員が自分の職務の範囲外の仕事をする役割外行動)を抑制することが分かりました。特に、企業に対して冷笑的な態度を持つ従業員は、忠誠心を高める行動や役割外の行動を取る意欲が低くなります。しかし、組織シニシズムが一般的な人間性(他人が信頼できる誠実な人であるかどうかは当てにならないという態度)に向けられている場合には、それが特定の企業に対する行動意図に与える影響はほとんどないことも示されています。

特筆すべきは、組織シニシズムが企業の非倫理的要求に対する従業員のコンプライアンス(法令遵守)に与える影響です。企業に対してシニカルな態度が強い従業員は、経営陣からの非倫理的な要求に従う意図が低いことがわかりました。一方で、人間性に対する組織シニシズムが高い従業員は、非倫理的な要求に従う意図が高いという結果も得られました。

このように、組織シニシズムという態度は、否定的な影響を持つように見える一方で、特定の状況下では建設的な結果をもたらす可能性があることが示唆されます。例えば、企業や経営陣に対する組織シニシズムは、非倫理的な要求や指示に従業員が従うことが少なくなる可能性があるのです。

本研究は、シナリオを用いた実験により得られたものでありますが、人員削減などの実際の経験は、影響を受けた従業員にとってより切実であり、さらに強い否定的な態度や行動を引き起こす可能性があります。また、組織シニシズムの影響は、高学歴でない従業員やブルーカラーの従業員の間でより顕著である可能性もあります。

このように、組織シニシズムは単なる否定的な態度ではなく、特定の状況下でさまざまな影響をもたらす要因であるといえます。組織としては、組織シニシズムの原因を理解し、その影響を最小限に抑えるための対策が求められます。

リーダー行動が組織シニシズムに与える影響

リーダーの行動が、組織シニシズムにどのような影響を与えるのかを調査した研究があります。この研究では372人の従業員を対象に、9ヶ月間隔で2回データを収集し、組織環境における個人の変化を評価しました。その結果、変革型リーダーシップが従業員の組織シニシズムを効果的に低減できることが明らかになりました[7]

変革型リーダーシップは、従業員の変革への態度に積極的な影響を与えることから、組織シニシズムに対抗する有効なツールと考えられます。組織シニシズムは、特にアメリカの企業で増加傾向にあり、組織の機能に悪影響を及ぼします。したがって、組織変革においてオープンで献身的な従業員を育成したい組織は、変革型リーダーシップを変革の手段として活用することが有効です。

研究によれば、変革型リーダーシップの行動の一部は訓練によって強化でき、リーダーがビジョンを明確にし、効果的なロールモデルとなる能力を向上させることができるとされています。しかし、変革型リーダーシップを推進するためには、単なるトレーニングだけでは不十分であり、支援的な職場環境や文化の整備が不可欠です。支援的でない環境では、変革への取り組みが失敗するリスクが高まります。

また、組織シニシズムを単なる障害と見なすことは避けた方がよさそうです。シニカルな従業員は、組織の問題を慎重に指摘し、意思決定プロセスにおいて「悪魔の代弁者(あえて反対意見を出す人)」として重要な役割を果たすことがあります。そのため、組織シニシズムを建設的な意見として捉え、適切に対応することが必要です。

変革型リーダーシップは、従業員のシニシズムを低減させる有効な手段である一方で、それを無分別に適用するのではなく、倫理と影響力に関するトレーニングを併用することが求められます。シニカルな従業員を変革の推進派に変えることが、組織変革の成功につながるでしょう。

上司の支援が緩和

悪影響を及ぼす組織シニシズムは何かの要因によって軽減をすることはできるのでしょうか。気質がどのようにシニカルな態度を促進するのかについての研究があります。アメリカの就業する成人を対象としたオンライン調査では、312人と529人の二つのサンプルを用いて、気質がシニカルな態度をどのように促進するか、また組織シニシズムが従業員に与える悪影響をどのように軽減できるのかを調査しました[8]

研究の結果、否定的な自己観を持つ従業員は、組織の行動をシニカルに見る傾向があることが明らかになりました。しかし、否定的な自己観が組織シニシズムに及ぼす負の影響の一部は、従業員が上司の支援を受けていると感じる場合に緩和されます。また、上司の支援は、組織シニシズムが職務満足度に及ぼすネガティブな影響も軽減することが示されています。つまり、皮肉な態度を持つ従業員は職務満足度が低い一方で、支援的な上司の存在がこうした負の影響をある程度抑える効果を持つということです。

理論的には、これらの結果は、組織シニシズムの発達が従業員の自己認識に関連しており、否定的な自己観を持つ人ほど、組織の行動をシニカルに見る傾向が強いことを示しています。経済状況の悪化や組織の否定的な行動(例えば、ダウンサイジング)によって、もともとシニカルな傾向を持つ人々の組織シニシズムがさらに強まる可能性があります。このように、自己と状況の相互作用を探ることで、組織シニシズムがどのように発達し、いつその影響が最も大きくなるのかについて理解が進むでしょう。

また、どのような従業員が最も影響を受けやすいかを理解することで、上司の支援以外の調整要因を評価することも可能です。例えば、組織的公正(公正な手続きなど)や、組織やその代表者の倫理的行動に対する認識が、組織シニシズムの発現を緩和する要因となるかもしれません。特に、自己観の細かな分析は、組織シニシズムの発生を防ぐための手立てを考える上で重要です。

組織シニシズムの緩和には、上司の支援が重要な役割を果たします。上司が従業員に対してオープンにコミュニケーションを取り、高いレベルの支援やリソースを提供し、部下の貢献を認め賞賛し、公正で透明な対応をすることで、組織シニシズムの悪影響を和らげることができます。上司と部下の間の支持的な関係を育むことは、組織シニシズムと職務満足度の低下を防ぐための効果的な手段となります。特に、組織シニシズムが高い環境では、上司の適切な指導が欠かせません。

組織シニシズムが従業員に与える悪影響は明白であり、その影響は拡大しています。しかし、適切な緩和要因があれば、組織シニシズムの影響を和らげ、従業員がより良い環境で働くことができるでしょう。組織は、上司と従業員の関係を強化し、支援的な環境を整えることで、組織シニシズムの悪影響を最小限に抑える努力が求められます。

組織シニシズムのまとめとマネジメントへの知見活用

本コラムでは、組織シニシズムがどのように従業員の態度やパフォーマンスに影響を与え、組織全体に悪影響を及ぼすかを探りました。調査結果から、組織シニシズムは信念、感情、行動という複数の側面から構成される複雑な現象であり、特定の状況下で強く表れることが明らかになりました。また、組織シニシズムは従業員の職務満足度や組織コミットメントを低下させ、離職意向を高める要因となる一方、適切なリーダーシップや支援的な環境によって緩和されることも示されています。

特に、支援的な上司の存在や組織的な公正な手続きの確保が、シニカルな態度の悪影響を和らげる効果があるとされています。また、従業員エンゲージメントの向上は、組織シニシズムによるパフォーマンス低下を防ぐ有効な戦略であることが確認されています。これにより、組織はシニカルな従業員を単なる問題として捉えるのではなく、彼らの視点を積極的に取り入れ、建設的な意見交換を促すことで、より強固な組織文化を築くことができるでしょう。

組織が持続的に成長していくためには、従業員一人ひとりの信念や感情に配慮しつつ、公正で支援的な環境を提供することが求められます。これにより、組織シニシズムを軽減し、健全で生産的な職場環境を実現することが可能になるでしょう。

脚注

[1] ギャラップ(2023). ギャラップ職場の従業員意識調査:日本の職場の現状

[2] Dean Jr, J. W., Brandes, P., & Dharwadkar, R. (1998). Organizational cynicism. Academy of Management review, 23(2), 341-352.

[3] Chiaburu, D. S., Peng, A. C., Oh, I. S., Banks, G. C., & Lomeli, L. C. (2013). Antecedents and consequences of employee organizational cynicism: A meta-analysis. Journal of vocational behavior, 83(2), 181-197.

[4] Arslan, M., & Roudaki, J. (2019). Examining the role of employee engagement in the relationship between organisational cynicism and employee performance. International Journal of Sociology and Social Policy, 39(1/2), 118-137.

[5] Cicek, B., Turkmenoglu, M. A., & Ozbilgin, M. (2021). Examining the mediating role of organisational support on the relationship between organisational cynicism and turnover intention in technology firms in Istanbul. Frontiers in Psychology, 12, 606215.

[6] Andersson, L. M., & Bateman, T. S. (1997). Cynicism in the workplace: Some causes and effects. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 18(5), 449-469.

[7] Bommer, W. H., Rich, G. A., & Rubin, R. S. (2005). Changing attitudes about change: Longitudinal effects of transformational leader behavior on employee cynicism about organizational change. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 26(7), 733-753.

[8] Scott, K. A., & Zweig, D. (2016). Understanding and mitigating cynicism in the workplace. Journal of Managerial Psychology, 31(2), 552-569.


執筆者

樋口 知比呂 株式会社ビジネスリサーチラボ コンサルティングフェロー
博士(人間科学)×人事専門家×キャリコン。アカデミック経歴は、立命館大学大学院博士課程修了 Ph.D(人間科学)、カリフォルニア州立大学MBA、早稲田大学政治経済学部卒。UCLA HR Certificate取得。研究テーマは、ワーク・エンゲイジメント、従業員エンゲージメント、モチベーション。従業員エンゲージメントに関する研究論文で人材育成学会奨励賞受賞。職業経歴は、通信会社で人事担当者、コンサルティングファームで人事コンサルタント/シニアマネージャー、銀行で人事部長を含む役席者を経て、2021年よりFWD生命にて執行役員兼CHROを務める。人事専門家として20年超の実務経験を有する。国家資格キャリアコンサルタント。

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