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コラム

適合性が生み出す効果:P-Eフィットの基本を理解する

コラム

働く環境と自分がどれだけ合っているかということは、職場における満足感やパフォーマンスに大きな影響を与えます。

この適合性、つまり個人と組織、個人とチーム、個人と上司などの関係がどれだけうまくいっているかを「P-Eフィット」(Person-Environment Fit)と呼びます。P-Eフィットは幅広い概念で、いろいろな側面があります。

本コラムでは、これまでの研究成果をもとに、P-Eフィットの基本的な考え方とその効果について説明していきます。P-Eフィットの理解を深めることは、働く環境をより良くしたり、職場でのやる気を高めたりするのに役立つでしょう。

P-Eフィットとは

P-Eフィットとは、個人とその働く環境がどれだけ合っているかを表す概念です[1]。この適合性には、補完的フィットと補足的フィットの二つの側面があります。

補完的フィットは、個人と組織が似たような特徴を持っていることを指します。例えば、価値観や目標が一致している状態がこれに当たります。個人の価値観と組織の価値観が合っていれば、満足感が高まるでしょう。

一方、補足的フィットは、個人と組織がお互いに足りない部分を補い合うことを意味します。個人の欲求を組織が満たしたり、組織が求めることに個人の能力が合っていたりすることなどが含まれます。

補完的フィットに関する実証研究はたくさん報告されています。価値観が一致していると、満足度や組織への愛着、やる気などに良い影響を与えます。また、目標が一致していても同じような効果があり、個人と組織の目標が合っていると満足度やパフォーマンスが上がります。

補足的フィットについては、個人の特性と組織の雰囲気がマッチしているかが重要になります。個人の欲求や能力と組織の特徴が合っていると、満足度、組織への愛着、パフォーマンスなどに良い影響を及ぼすことが分かっています。

P-Eフィットの中でも特に注目されているのが、P-Oフィット(Person-Organization Fit)です。P-Oフィットを測る方法には、直接的な方法と間接的な方法があります。

直接的な方法は、個人に適合の程度を直接聞く方法で、例えば「今の職場と自分が合っていると感じますか」といった質問が当てはまります。間接的な方法は、個人と組織それぞれの特徴を別々に測定し、その類似性を評価する方法です。

P-Oフィットがもたらす効果としては、満足度、組織への愛着、ストレス、自主的な役割外の行動、パフォーマンスなどが挙げられます。個人のレベルでは、P-Oフィットが高いと満足度や組織への愛着が高まり、辞めたい気持ちが低くなります。ただし、組織全体で見ると、適合が高すぎると組織の多様性が失われ、革新性を妨げる恐れもあります。

フィットの種類による効果の違い

P-Eフィットの概念と効果について理解が深まったところで、フィットの種類によってその効果が違うことを見ていきましょう[2]

社員は人と組織の適合(P-Oフィット)、ニーズと供給の適合(N-Sフィット)、要求と能力の適合(D-Aフィット)という3つの適合感を区別しており、それぞれが異なる結果と関係しています。

既述の通り、P-Oフィットは、個人の価値観や文化的な側面が組織と一致しているかどうかを示します。P-Oフィットが高いと、組織に対する一体感や組織からのサポート、自主的な役割外行動などに良い影響を与え、辞めたいという気持ちを低くします。

N-Sフィットは、個人のニーズが組織によってどれだけ満たされているかを表します。仕事を通じて得られる報酬や成長の機会、サポートが自分のニーズと合っていれば、仕事やキャリアへの満足度、職業に対する愛着が高まります。

D-Aフィットは、仕事で求められることと個人の能力やスキルの一致度を示します。D-Aフィットが高いほど、個人はその仕事で高い成果を出せると考えられていますが、実際の研究では必ずしもそうではありません。職場の環境や人間関係など、他の要因も成果に影響を与えているのでしょう。

P-Oフィットの様々な効果

フィットの種類によって効果が違うことが分かりましたが、特にP-Oフィットが満足度や組織への愛着、辞めたいという気持ちに影響を与えることが、メタ分析の結果からも確認されています。

21の研究を対象にメタ分析を行った結果によれば、P-Oフィットが高い社員ほど、満足度や組織への愛着が高く(正の相関)、辞めたいという気持ちが低い(負の相関)ことが示されています[3]。個人と組織の価値観や目標が一致していれば、社員はその組織に貢献しようという意欲を持つようになるのです。

P-Gフィットが愛着と発言行動に与える影響

個人とチームの適合(P-Gフィット)が、チームへの愛着や発言行動に与える影響についても研究されています。

ある研究では、P-Gフィットを価値観、性格、能力の3つの側面に分け、それぞれがチームへの愛着、発言行動、知識共有を通じて成果に影響を与えるという仮説を立てました[4]

韓国の製造業の793名の社員とその上司を対象に、2回に分けて調査を行ったところ、価値観に基づくフィットはチームへの愛着に、性格に基づくフィットは発言行動に良い影響を与えていました。一方、能力に基づくフィットと知識共有の関係は支持されませんでした。

価値観や性格が一致していると、個人の心理的な安心感や信頼感が生まれ、チーム内のコミュニケーションや協力がスムーズになるため、愛着や発言行動が促進されるのだと考えられます。

また、この研究ではP-Gフィットの3つの側面を単純に足し合わせるよりも、全体的なフィット感という上位の要因が3つの側面を決定する高次因子モデルの方が、データにより適合していることが示されました。

P-Sフィットにおける類似性の重要性

上司と部下の関係(LMX)は、早い段階で形作られることが明らかになっています。LMXP-Sフィットの代理指標として機能し、上司と部下の適合性を考える際に役立ちます。

新しく組織に入った社員とその上司を対象に調査を行い、入社直後の上司と部下のお互いに対する期待がその後のLMXの質を予測することを見出した研究があります[5]。初期の期待がその後の関係性を方向づけるのです。

また、上司と部下の類似性の認知と好意がLMXを予測することも分かりました。興味深いことに、年齢や性別などの表面的な類似性は関係がなく、内面の類似性の認知が上司と部下の関係に影響を与えていました。

上司と部下の関係は初期のわずかなやりとりによって形作られ、その後はあまり変わりにくいということです。P-Sフィットを考える際には、表面的な類似性よりも感情的な要因が重要であり、お互いに対する期待、類似性、好意などに注目すると良いでしょう。

フィットの種類と結果のまとめ

ここまでP-Eフィットにおける様々なフィットについて研究知見を紹介してきました。本コラムで登場したフィットとそれぞれをめぐる結果を整理しておきましょう。

  • P-Eフィット(Person-Environment Fit):個人とその働く環境の適合度を示す。個人と組織(P-Oフィット)、個人とチーム(P-Gフィット)、個人と上司(P-Sフィット)、個人のニーズと組織の供給(N-Sフィット)、個人の能力と仕事の要求(D-Aフィット)を含む。
  • P-Oフィット(Person-Organization Fit):個人の価値観や文化的側面が組織と一致しているかどうかを示す。P-Oフィットが高いと満足度や組織への愛着が高まり、辞めたいという気持ちが低下する。
  • N-Sフィット(Needs-Supplies Fit):個人のニーズが組織によってどれだけ満たされているかを示す。N-Sフィットが高いと仕事やキャリアへの満足度、職業への愛着が高まる。
  • D-Aフィット(Demands-Abilities Fit):仕事で求められることが個人の能力やスキルとどれだけ一致しているかを示す。D-Aフィットが高いほど個人の成果が上がると考えられているが、必ずしもそうではない。
  • P-Gフィット(Person-Group Fit):個人とチームの適合性を示す。価値観に基づくフィットはチームへの愛着、性格に基づくフィットは発言行動に良い影響を与える。能力に基づくフィットと知識共有の関係は明確ではない。
  • P-Sフィット(Person-Supervisor Fit):個人と上司の関係における適合性を示す。上司と部下の関係(LMX)は初期の相互作用によって形作られ、表面的な類似性よりも感情的な要因が重要。

P-Eフィットは、個人と働く環境の総合的な適合度を示す重要な概念であり、P-Oフィット、N-Sフィット、D-Aフィット、P-Gフィット、P-Sフィットなど様々な側面を含んでいます。それぞれのフィットが満足度、組織への愛着、辞めたいという気持ち、パフォーマンスなどに与える影響は多岐にわたりますが、適合性の高い職場環境を作り出すことが、個人と組織の両方にとって大切だと言えるでしょう。

フィットしない環境に身を置く

P-Eフィットが満足度を高めるという点に強く焦点を当てすぎると、短期的な満足度が優先され、場合によっては、成長の機会が後回しになるかもしれません。最後にあえて、適合していない環境に置くことが持つ意味を考えておきましょう。

P-Eフィットが低い環境は、個人にとって挑戦的な状況となります。新しいスキルや知識を習得する必要があるため、学習する機会になり得ます。困難な状況や新しい課題に直面することで、問題解決の能力や柔軟性が高まる可能性があります。

適合しない環境は、個人をいわゆるコンフォートゾーンから引き出すのです。コンフォートゾーンに留まると成長が停滞することもあります。不適合な環境に身を置くことで、自己反省や新たな知見の獲得が促されます。

また、P-Eフィットの低い環境に適応しようともがく中で、多様な視点を吸収することができます。自分とは異なる背景の人々と働くことで、多くのことを学べると同時に、多様性に対する受容度も高まることが想定されます。

P-Eフィットの高い環境は総じて良い効果をもたらすのは事実ですが、他方で、適合しない環境に置かれることもまた、捉え方によっては、個人の成長にとってポジティブな影響をもたらし得ます。

脚注

[1] Kristof, A. L. (1996). Person-organization fit: An integrative review of its conceptualizations, measurement, and implications. Personnel Psychology, 49(1), 1-49.

[2] Cable, D. M., and DeRue, D. S. (2002). The convergent and discriminant validity of subjective fit perceptions. Journal of Applied Psychology, 87(5), 875-884.

[3] Verquer, M. L., Beehr, T. A., and Wagner, S. H. (2003). A meta-analysis of relations between person-organization fit and work attitudes. Journal of Vocational Behavior, 63(3), 473-489.

[4] Seong, J. Y., and Kristof-Brown, A. L. (2012). Testing multidimensional models of person-group fit. Journal of Managerial Psychology, 27(6), 536-556.

[5] Liden, R. C., Wayne, S. J., and Stilwell, D. (1993). A longitudinal study on the early development of leader-member exchanges. Journal of Applied Psychology, 78(4), 662-674.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

#伊達洋駆

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