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コラム

エンパワーメントの二つの側面:権限委譲と動機づけ

コラム

「エンパワーメント」という言葉を、多くの人が耳にしたことがあると思います。職場において、上司が部下に仕事を任せ、自分で判断して行動できるようにすることはよく行われています。

ただし、エンパワーメントは単に権限を委譲するだけではなく、従業員が自発的に動くために動機づけし、積極的に仕事に取り組む姿勢を育むことを含みます。

本コラムでは、組織行動論の視点からエンパワーメントについて考えていきます。まず、エンパワーメントを新たな視点から捉え直し、その意味を探ります。次に、エンパワーメントが従業員にとってどのような経験であるかを検討し、要素を明らかにします。

そして、エンパワーメントを強化するための要因を、環境と個人の両方から詳しく調べます。最後に、エンパワーメントに対する注意点を挙げたいと思います。

権限委譲だけではないエンパワーメント

エンパワーメントは、よく権限を渡すことや一緒に意思決定する管理スタイルとして使われます。しかし、エンパワーメントの本来の目的は、従業員が自ら動くための動機を育み、仕事に積極的に取り組むようにすることです。

研究によると、エンパワーメントには二つの側面があります。一つは、上司から部下へ権限や統制を移す「権限委譲」の側面です。意思決定の共有や仕事の自由度を高めることで行われます。

もう一つは、「動機づけ」の側面で、部下の自己効力感や自己決定感を強化することです。エンパワーメントの核心は動機づけの側面にあることが指摘されています[1]。ただ権限を移すだけでは部下が本当に力を得たとは言えないからです。

重要なのは、部下が内から動くようになることです。その意味で、エンパワーメントは「部下の自己効力感を強化するプロセス」と言えます。エンパワーメントは、例えば、次のような段階で進められます。

  • 組織内の無力感を引き起こす要因を調べる:官僚制や上下関係の厳しい管理スタイルなど、従業員が力を持てない原因を見つける
  • マネージャーがエンパワーメント方略を実施する:無力感の原因を取り除くために何をすれば良いかを検討する
  • 部下に自己効力感を育てる:達成感のある経験、他人の成功を見る学習、励ましの言葉、感情を呼び覚ます体験などを通じて、自己効力感を高める
  • 部下がエンパワーメントを感じるようにする:マネージャーの働きかけを通じて、部下は自分が力を持っていると感じるようになる
  • 行動の変化を促す:エンパワーメントにより、部下は仕事に取り組む意欲や努力を持続するようになる

このようにして、エンパワーメントは部下の自己効力感を育て、内からの動機づけを引き出すものです。権限を渡すだけでは足りず、部下の心理的な変化を促すことが大切です。

心理的エンパワーメントとはどのようなものか

従業員の心理的状態としてのエンパワーメントという考え方が広まりました。この流れの中で、1990年代になると、心理的エンパワーメントという概念を実証的に調査した研究が現れました[2]

研究によると、心理的エンパワーメントは「仕事に対する内発的な動機づけを表す状態」と定義され、「意味」「有能さ」「自己決定」「影響力」の4つの側面から成り立っています。

  • 意味:仕事が自分の理想や価値観に合っていると感じること
  • 有能さ:仕事をうまくこなせると自信を持つこと
  • 自己決定:仕事の方法を自分で選び、自分で管理する感覚を持つこと
  • 影響力:自分の行動が仕事の結果にどれだけ影響を与えているかを感じること

この4つの側面をもとに心理的エンパワーメントを測定する質問が作られ、信頼性と妥当性が検証されました。具体的には、工業組織とサービス組織の2つの異なる設定で調査を行い、4つの側面がデータに合っているかを確認しました。

エンパワーメントが単一ではなく複数の側面から構成されることを示した点は功績と言えるでしょう。これによって、仕事の意味を感じ、自信を持ち、自分で決定し、影響を及ぼすという心理的な動機づけが、一つに統合された概念として理解されるようになりました。

エンパワーメントの効果を高める条件

エンパワーメントがいつでも効果的とは限りません。状況によってその効果は変わります。特に、国や地域の文化、個々人の性格によっては、エンパワーメントが期待通りに機能しないこともあります。

33カ国を調査し、国ごとの文化がエンパワーメントの効果にどう作用するかを分析した研究を紹介しましょう[3]。特に、権力格差という文化的価値観が、仕事の自律性と仕事の満足度との関係にどう影響するかを見ました。

権力格差とは、社会において権力が不均等に分配されることをどれだけ受け入れるかという度合いです。分析によると、権力格差が大きい国では、仕事の自律性が職務満足に与える影響が弱まることがわかりました。

カナダと中国のサービス業で働く人々を対象にした別の調査では、個々人の文化的価値観や性格がエンパワーメントの効果にどう影響するかが明らかになっています。権力格差を低く評価する人や、顧客志向が強い人では、エンパワーメントが職務満足を高める効果が強く表れました。

特定の状況でエンパワーメントがどう作用するかを見る実験も行われました。例えば、顧客の要求が妥当な理由に基づいている場合、エンパワーメントがあると従業員の満足度が高まることが確認されました。この効果は権力格差が低い文化(例えばカナダ)で特に顕著でした。

これらの結果は、エンパワーメントを実践する際の注意点を教えてくれます。権力格差が高い文化の中では、上司が部下に権限を委譲しても効果が見込めないことがあります。

従業員が自由を求めていない場合や、顧客に対する意識が低い場合も同じです。エンパワーメントが成功するためには、従業員が積極的に自由を活用し、顧客のニーズを満たそうとする意欲が必要です。

心理的エンパワーメントを促すもの

エンパワーメントをどのように強化すれば良いのでしょうか。30年にわたる研究を集めて分析し、エンパワーメントを向上させる要因を明らかにした研究を参考に考えてみましょう[4]

個人レベルで見ると、高業績マネジメント施策、社会政治的支援、リーダーシップ、仕事の特性といった要素が、心理的エンパワーメントに強く関連していることがわかります。

  • 高業績マネジメント施策:教育やトレーニング、情報の共有、参加型意思決定、成果に基づく報酬など、従業員の能力を最大限に引き出すための取り組み
  • 社会政治的支援:組織が提供する支援や個人への信頼、承認
  • リーダーシップ:上司と部下の信頼関係や支援的な行動
  • 仕事の特性:仕事が持つ技術の多様性や自律性、フィードバックなど、仕事そのものが持つ動機づけの要素

これらの要因は、従業員が仕事に対して能力があると感じたり、自分で決定できると感じたりすることを通じて、心理的エンパワーメントを促進します。

例えば、高業績マネジメント施策は従業員がスキルを伸ばし、仕事に積極的に参加することを促します。社会政治的支援は従業員が組織に属していると感じさせ、帰属意識を高めます。リーダーシップは心理的安全性を提供し、仕事の特性は仕事の価値を実感させ、自信を持たせます。

また、ポジティブな自己評価特性も、心理的エンパワーメントと関連しています。自尊心や自己効力感、情動安定性など、自己を肯定的に見る傾向が、挑戦的な仕事を選ぶ意欲や、建設的な感情体験、価値ある目標の設定を促すことで、エンパワーメントに貢献します。

チームレベルでも似た結果が見られ、高業績チーム施策、社会政治的支援、チームの特性などが、チームのエンパワーメントを高める要因として挙げられました。個人レベルでの要因が集団レベルでも同様に機能することを意味しています。

エンパワーメントを促進するためには、従業員のスキルアップや情報共有、職務の適切な設計が基本であり、それに加えて支援的な風土の醸成やリーダーシップの育成が重要であることがわかります。

解釈スタイルでエンパワーメントが向上する

エンパワーメントを向上させるには、客観的な環境だけではなく、個人の主観的な考え方も大切です。研究によれば、仕事の捉え方や事情の考察、未来の予想など、個人がどう解釈するかがエンパワーメントに影響を与えます[5]

研究では、実際の出来事よりも、その出来事をどう解釈するかが重要ではないかと考えました。同じ状況でも、それをどう意味づけるか、何が原因だと思うか、どうなると予測するかによって、エンパワーメントが変わります。

そうした解釈スタイルを測る方法を開発し、それがエンパワーメントの感じ方や仕事に対する態度とどう関連しているかを分析しました。結果、物事の良い面を見たり、失敗を一時的なものと考えたりするポジティブな解釈スタイルの人は、エンパワーメントが高く、仕事の満足度も高いことがわかりました。

エンパワーメントを高めるためには、個人が物事をどう解釈するかを変えることも重要だと言えます。例えば、仕事のポジティブな側面を強調したり、失敗を建設的に捉えるよう助けたりすることが、エンパワーメントを感じやすくするかもしれません。

上司が部下の解釈の仕方を理解し、それに応じて接することも大切です。ネガティブに考えがちな部下には、仕事の意義を強調したり、小さな成功を経験させたりすることが効果的です。逆にポジティブに考える部下には、さらに挑戦的な仕事を任せることで、エンパワーメントを促すことができます。

チームの調和とエンパワーメントを両立する

とはいえ、エンパワーメントは万能ではないと考えることも大事です。エンパワーメントを通じて個々の従業員が自律性を高める一方で、これがチームメンバー間の協調性や協力関係が損なわないように注意が必要です。

自分の判断やプロジェクトに集中し過ぎることで、他のメンバーとのコミュニケーションや協力が減少し、結果として「孤立」につながることも考えられます。

エンパワーメントはどちらかというと、個人主義の傾向が強い文化の中で育まれた概念です。個人の自律性と自己決定を重んじ、個々人が自己の能力を最大限に発揮することを狙います。

これが即座に問題となるわけではありませんが、個人よりもチームの調和を重んじる集団主義の文化において、エンパワーメントを実践する際にはいくらか考慮すべき点があるでしょう。

例えば、チーム全体の協力と調和を保ちつつ、各メンバーが自信を持って行動できるような支援や環境整備が一層求められるかもしれません。具体的には、例えば、次のような点を工夫すると良いと思われます。

  • 相互依存性:エンパワーメントを促すとき、個人の自由と自立を促すことに加えて、その行動がチーム全体にどのような影響を与えるかを意識してもらうと良いでしょう。
  • コミュニケーション:エンパワーメントのプロセスにおいて、他のチームメンバーとの意思疎通を保つための機会を提供することが大事です。個々の判断や行動がチームの調和を乱すことなく、むしろチームの結束を強化する要因となり得ます。
  • チーム志向:個人に権限を委譲する代わりに、チーム全体に権限を分散させるアプローチも考えられます。チームメンバーが意思決定プロセスに参加し、共同で責任を担うことができます。

脚注

[1] Conger, J. A., and Kanungo, R. N. (1988). The empowerment process: Integrating theory and practice. Academy of Management Review, 13(3), 471-482.

[2] Spreitzer, G. M. (1995). Psychological empowerment in the workplace: Dimensions, measurement, and validation. Academy of Management Journal, 38(5), 1442-1465.

[3] Hui, M. K., Au, K., and Fock, H. (2004). Empowerment effects across cultures. Journal of International Business Studies, 35(1), 46-60.

[4] Seibert, S. E., Wang, G., and Courtright, S. H. (2011). Antecedents and consequences of psychological and team empowerment in organizations: A meta-analytic review. Journal of Applied Psychology, 96(5), 981-1003.

[5] Thomas, K. W., and Velthouse, B. A. (1990). Cognitive elements of empowerment: An “interpretive” model of intrinsic task motivation. Academy of Management Review, 15(4), 666-681.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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