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コラム

パースペクティブ・テイキング:他者の視点を得ようとする

コラム

他人の立場に立つこと、すなわちパースペクティブ・テイキングは、人との関係を築く上で重要な能力です。実際、その効果を支持する研究もたくさんあります。

例えば、パースペクティブ・テイキングは、ステレオタイプや偏見を減らし、協力的な行動を促す効果があることが分かっています。また、異なる背景を持つチームメンバーが互いの見方を理解し合うことは、創造性を高める効果があるとされています。

しかし、パースペクティブ・テイキングによって、相手の気持ちを正確に理解できるわけではありません。詳しくは後で触れますが、他人の視点を考えることが、必ずしも正確な理解につながるわけではなく、直接的なコミュニケーションの方がより効果的です。

本コラムでは、パースペクティブ・テイキングの良い面を確認しつつ、その限界にも目を向けていきます。他人の立場に立つことは、個人の人間関係や組織運営において重要な役割を果たすことでしょう。

なぜパースペクティブ・テイキングを行うのか

なぜ人々は他者の視点を理解しようとするのでしょうか。パースペクティブ・テイキングとは、他者の視点から世界を想像し、その人の立場に自分を置くことで、その人の思考や動機、意図、感情を理解しようとする積極的な認知プロセスです[1]

これは共感とも深く関連していますが、共感が感情的な側面に焦点を当てるのに対し、パースペクティブ・テイキングはより認知的な側面に重点を置いています。

パースペクティブ・テイキングは、認知的能力(例えば、認知的複雑性)や動機づけ(例えば、組織のインセンティブ)によって促進されることがある一方で、不安や認知的負荷によって妨げられることもあります。これらは認知的なプロセスに影響を及ぼすからです。

さらに、パースペクティブ・テイキングは偏見の減少や協力行動の促進など、肯定的な効果をもたらしますが、場合によっては逆効果を生じさせることもあります。例えば、パースペクティブ・テイキングを行う人の自尊心が低い場合や、対象者がステレオタイプに基づいた行動を取る場合などです。

人がパースペクティブ・テイキングを行う理由を検討するために、「混合動機モデル」という理論的枠組みが提案されています。このモデルでは、パースペクティブ・テイキングが協力と競争のバランスを取る手段として機能し、相手の視点を理解することで、自己利益と他者利益のバランスを取りながら、状況に応じた柔軟な行動が可能になります。

パースペクティブ・テイキングはバイアスを軽減

パースペクティブ・テイキングの有効性を掘り下げましょう。ある研究において、パースペクティブ・テイキングはステレオタイプやアクセシビリティ、内集団への好意を減少させる効果があることが、3つの実験を通じて探求されました[2]

最初の実験では、高齢者に関するエッセイを書く課題で、パースペクティブ・テイキングを行ったグループとステレオタイプを抑えるよう指示されたグループを比較しました。

結果としては、どちらのグループもステレオタイプに基づいた内容が減り、高齢者に対する肯定的な評価が増えました。しかし、語彙判断のタスクでは、ステレオタイプを抑えるグループはステレオタイプ関連の語に反応が早くなり、逆にステレオタイプが強化されたことが示唆されました。これは皮肉な効果です。

二番目の実験では、パースペクティブ・テイキングがどのように効果を発揮するかのメカニズムを探りました。参加者は自己評価と高齢者に関するエッセイを書き、高齢者に対するステレオタイプ的な特徴の帰属と自分と高齢者のイメージの重なりを測定しました。

パースペクティブ・テイキングを行ったグループは、ステレオタイプ的な特徴の帰属が減少し、自分と高齢者のイメージの重なりが増加しました。

三番目の実験では、最小集団パラダイムを用いて、内集団と外集団への評価にパースペクティブ・テイキングがどう影響するかを調べました。パースペクティブ・テイキングを行ったグループでは、内集団と外集団への評価の差が小さくなり、外集団に対する肯定的な評価が向上しました。

これらの実験から、パースペクティブ・テイキングが自己と他者のイメージの重なりを増やすことで、ステレオタイプのアクセシビリティや内集団バイアスを減らす効果があることが示されています。

パースペクティブ・テイキングは意識的および無意識的なプロセスの両方で効果を発揮し、ステレオタイプの抑制とは異なるアプローチであることが分かります。

多様性を活かすパースペクティブ・テイキング

パースペクティブ・テイキングは現代に合った効果を持っています。チームの多様性とパースペクティブ・テイキングがチームの創造性にどのように影響するかを検討した実験があります[3]

実験において、参加者は劇場経営チームの一員として、劇場を改善するプランを考えるタスクに取り組みました。チーム内での視点の多様性(多い/少ない)とパースペクティブ・テイキングの指示(指示あり/なし)が操作され、チームの創造性や情報の詳細な処理、その他の要因が測定されました。

結果、多様性とパースペクティブ・テイキングが組み合わさることで、チームの創造性や情報の詳細化に効果があることが分かりました。具体的には、パースペクティブ・テイキングを行っている多様なチームが、他の条件のチームよりも高い創造性と情報の詳細化を達成していました。

情報の詳細化とは、チームメンバーが持つ様々な情報や視点を共有し、それを活用して問題解決に取り組むことを意味します。これによって、メンバー間でのアイデアの議論が活発になり、より洗練された提案が生まれるのです。

この研究が示しているのは、チームの多様性を活用するためにはパースペクティブ・テイキングが重要であるということです。多様なメンバーを集めるだけでなく、互いの視点を理解しようとする努力が、情報をより詳しく処理し、創造性を向上させることが明らかになりました。

パースペクティブ・テイキングが特に機能する条件

パースペクティブ・テイキングは組織におけるダイナミズムに影響を与えるのでしょうか。内部顧客と内部サプライヤーの関係に焦点を当て、内部顧客が内部サプライヤーの視点を理解することの重要性を探求した研究を参考に考えてみましょう[4]

ここでいう内部顧客とは、組織内の他の部門やチームからサービスを受ける従業員のことで、内部サプライヤーは他の部門やチームにサービスを提供する従業員のことです。

研究では、英国の製造会社の従業員とチームリーダーを対象に調査が行われました。内部顧客が内部サプライヤーの視点をどれだけ理解しているかを測るために、共感や肯定的な解釈を含む尺度が用いられました。また、従業員のパフォーマンスは、チーム内外の協力行動を含むいくつかの要素で評価されました。

調査を通じて、内部サプライヤーの視点を理解することは、従業員のパフォーマンス、特に協力行動に良い影響を与えることが分かりました。また、生産オーナーシップ、統合理解、サプライヤー相互作用が、内部サプライヤーの視点を理解するための要因として機能していることが明らかになりました。

生産オーナーシップとは、従業員が自分の仕事に加えて組織全体の成果に対して責任を感じること、統合理解とは組織の目標や仕組みを深く理解すること、サプライヤー相互作用とは、サプライヤーとのコミュニケーションや協働の機会を多く持つことを指します。これらが高いほど、内部顧客は内部サプライヤーの立場を理解しやすくなります。

また、仕事の自律性が、生産オーナーシップや統合理解を通じて間接的に内部サプライヤーの視点を理解することに寄与していました。仕事の自律性が高い従業員は、自分の仕事に対する責任感が強まり、組織全体への責任感も高まります。自律性が高まると、部門間の連携やコミュニケーションが必要になり、組織の全体像を理解することが容易になるのです。

この研究は、組織内の協力関係を深めるために、パースペクティブ・テイキングがいかに重要かを示しています。また、パースペクティブ・テイキングを促す条件を提出した点も有益でしょう。

パースペクティブ・テイキングと他者理解は別物

ここまでのところ、パースペクティブ・テイキングがもたらす様々な良い効果が明らかにしてきましたが、本当に他者の視点を取ることは相手を正確に理解することにつながるのでしょうか。この点について、なんと25もの実験を通じて検証した研究があります[5]

最初の15の実験では、他者との関係に関する判断の正確さを測るタスクを実施し、「他者の視点を考慮してください」という指示がどのように影響するかを調べました。

参加者は視点を考慮するグループとコントロールグループに分けられ、非言語性の正確さを診断するテストや、目の視線から心理状態を読み取るテストなどが行われました。その結果、視点を考慮したグループは他者の視点をより考慮していましたが、その正確さはコントロールグループよりも高くないことが分かりました。

続く9の実験では、日常生活でよく行われる判断を対象に、パースペクティブ・テイキングが人間関係の正確さにどう影響するかを検証しました。

ここでは、友人や配偶者などよく知っている人や、短い自己紹介後に知り合った人について、ユーモアや意見、好みなどを予測するタスクが行われました。結果的に、視点を考慮する条件は人間関係の判断の正確さを向上させるどころか、むしろ減少させる傾向があることが示されました。

最後の実験では、「他者の視点を考慮する」アプローチ(perspective taking)と「直接相手に質問して視点を得る」アプローチ(perspective getting)を比較しました。直接質問する方法は、相手の視点を直接理解しようとするものです。

この実験では、直接質問する方法が意見や考えを理解する際の精度が高いことが示されました。他方で、視点を考慮する方法は制御条件と比較して精度が低下する傾向にありました。

さらに、自信度も比較されましたが、他者理解の精度にはっきりした差があるにもかかわらず、参加者の自信度には差がなかったことが分かりました。参加者は異なる方法の効果の差を認識していなかったようです。人々は自分の対人理解の能力を過大評価しており、実際には効果的な方法を把握していないことが見て取れます。

全体として、この研究は他者を正確に理解するためには、直接的なコミュニケーションがパースペクティブ・テイキングよりも効果的であることを示しています。パースペクティブ・テイキングには他の人間関係上の利点があるかもしれませんが、他者を正確に理解するための最も効果的な方法ではないようです。

脚注

[1] Ku, G., Wang, C. S., and Galinsky, A. D. (2015). The promise and perversity of perspective-taking in organizations. Research in Organizational Behavior, 35, 79-102.

[2] Galinsky, A. D., & Moskowitz, G. B. (2000). Perspective-taking: Decreasing stereotype expression, stereotype accessibility, and in-group favoritism. Journal of Personality and Social Psychology, 78(4), 708-724.

[3] Hoever, I. J., Van Knippenberg, D., Van Ginkel, W. P., and Barkema, H. G. (2012). Fostering team creativity: Perspective taking as key to unlocking diversity’s potential. Journal of Applied Psychology, 97(5), 982-996.

[4] Parker, S. K., and Axtell, C. M. (2001). Seeing another viewpoint: Antecedents and outcomes of employee perspective taking. Academy of Management Journal, 44(6), 1085-1100.

[5] Eyal, T., Steffel, M., and Epley, N. (2018). Perspective mistaking: Accurately understanding the mind of another requires getting perspective, not taking perspective. Journal of Personality and Social Psychology, 114(4), 547-571.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

#伊達洋駆

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