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コラム

求職者の視点で考える採用活動:不確実性削減理論がもたらす示唆

コラム

企業が人材を採用する時には、求職者が何を考えているのかをよく理解することが大切です。求職者の気持ちを知ることで、自分の会社の良いところを上手に伝えられるようになります。

ここで注目したいのが、「不確実性削減理論」という考え方です。人と人とのコミュニケーションの時に働く心理的な仕組みを説明した理論です。この理論は、求職者が企業を選ぶ時にも使うことができて、採用活動のヒントになります。

本コラムでは、まず不確実性削減理論の考え方を説明します。そして、その考え方が求職者の企業選びにどのように当てはまるのかを見ていきます。

求職者が企業を選ぶ時に感じる不確実性にはどんな種類があるのか、その不確実性を小さくしたいと求職者が思う理由は何か、また、情報が具体的だと求職者の企業への印象にどんな影響があるのかなどについて、研究の結果も交えながら考えます。

求職者の気持ちに寄り添い、その気持ちを和らげるためには、どんな情報を伝えるのが効果的なのかを探っていきます。

不確実性削減理論とは

不確実性削減理論は元々、初めて会う人同士がどんな心理状態でコミュニケーションをとるのかを説明したものです[1]。初対面の人同士はお互いのことをよく知らないため、不確実性を感じています。

不確実性とは相手の行動や態度が予測できないことを意味します。要するに情報不足の状態です。人は不確実性を小さくするために、コミュニケーションを通じて相手の情報を集めようとします。

最初は基本的な情報を集め、だんだんと深い情報を求めるようになるなど、段階を追って不確実性を小さくしていきます。情報を集めることで相手の行動や態度がある程度予測できるようになり、不確実性が減っていくのです。

このように、不確実性削減理論は人間関係が始まったばかりの時の心理的な流れを説明した考え方ですが、求職者が企業を選ぶ場面にも当てはめることができます。

就職活動は、企業と求職者が初めて出会う場面です。そこで求職者が感じる不確実性や、その不確実性を小さくしていく流れを理解することは、採用を行う上で重要な意味を持ちます。

企業選びにおける不確実性の削減

採用の場面で考えてみると、求職者は就職先の企業のことをよく知らないため、最初は不確実性が大きいと言えます。企業の雰囲気、仕事の内容、社員の様子など、わからないことだらけで、自分がその企業に合うのかどうかの判断が難しい状態です。

そこで求職者は、不確実性を小さくするために企業の情報を積極的に集めます。企業のウェブサイトや求人情報、ニュース記事などを読んだり、知り合いや家族、就職支援サービスから情報を得たりするなど、いろいろな方法を使って情報を集めようとします。新しい情報を得ることで、不確実性は少しずつ小さくなっていきます。

ただし、新しい情報を得ると同時に、新たな疑問や不安が生まれることもあります。例えば、仕事の内容の説明を読んで、自分にできるのだろうかと不安になったり、社員インタビューを見て、自分もあのように働けるのだろうかと悩んだりすることがあります。そんな時はもう一度、情報を探し直すことになります。

そして、不確実性が受け入れられるレベルまで下がったと判断した時点で、その企業に入社する決心をします。もちろん、どんなに情報を集めても、入社前に不確実性を完全になくすことはできません。求職者は、ある程度の不確実性を受け入れた上で決断をせざるを得ないのが現実です。

それでも、できる限りたくさんの情報を集めて、慎重に検討することで、自分に合った企業を選ぶ可能性を高めることができます。企業選びは、情報が完全ではない状況での決断だからこそ、求職者はできる限り不確実性を小さくしようと努力します。

求職者が直面する3つの不確実性

求職者が企業選びのプロセスにおいて直面する不確実性には、どのようなものがあるのでしょうか。3種類の不確実性に分類した研究を参考に考えてみましょう[2]

1つ目は「指示不確実性」です。これは、その仕事をどのように行えば良いのかがはっきりしないことを指します。求人情報や面接で、仕事の内容や進め方が具体的に説明されないことがよくあります。

例えば、プロジェクトを進めるのにチームで協力するのか、上司の指示に従うのかなどが不明だと、仕事のイメージがつかめません。特に、新卒者や未経験者は、仕事の進め方がわからないと不安になりがちです。自分にその仕事ができるか、どんなスキルが必要なのかといった疑問が頭に浮かぶでしょう。

2つ目は「評価不確実性」です。これは、仕事でどのような成果を出せば良いのかがはっきりしないことを指します。企業が社員をどう評価するのか、昇進やキャリアアップの可能性は、外部の求職者からは見えにくい部分です。

どのような成果を出したら評価されるのか、評価の方法やプロセスはどうなっているのか、将来的にはどんなキャリアパスがあるのか。評価に関する情報が不透明だと、求職者は自分のキャリアの見通しを立てにくくなります。

特に、高い目標を持つ求職者ほど、自分のキャリアをどう築いていけるのかを知りたいと考えますしかし、評価基準やキャリアパスがはっきりしていないと、その企業で長く働き続けるイメージが持てません。

3つ目は「関係不確実性」です。これは、職場の人とどう関われば良いのかがはっきりしないことを指します。職場の人間関係や雰囲気は、実際にその組織で働いてみないとわかりにくいものです。

同僚や上司とのコミュニケーションはどんな感じなのか、チームワークを大切にする雰囲気なのか、組織の一体感はどの程度なのか。人間関係や組織文化に関する情報は、入社前に得るのが難しいものです。

特に、初めて就職する新卒者は、職場の人間関係が気になります。上司や先輩に丁寧に教えてもらえるか、同僚とうまくやっていけるか、そんな心配を抱えている人は少なくありません。関係不確実性が高いと、求職者は入社後の人間関係に不安を感じます。

求職者が不確実性を下げたい理由

求職者が企業選びをする際に、とりわけ不確実性を減らそうと動機づけられるのには、主に4つの理由が考えられます。

1に、入社してから「自分に合わなかった」というミスマッチを防ぐためです。求職者は、自分に合った企業を選びたいと思っています。そのためには、事前に仕事の内容や進め方について調べて、自分の能力や性格、価値観と照らし合わせ、その企業が自分に合っているかをしっかり見極めなければなりません。

入社前の情報収集が不十分で、入社後に「思っていた仕事と違った」「自分には合わない仕事だった」となってしまっては、求職者にとっても企業にとっても不幸な結果となります。

2に、その企業で自分がどのようにキャリアを築いていけるのかを見通すためです。多くの求職者は、単に「働く場所が欲しい」というだけでなく、「この企業でキャリアを築いていきたい」と考えています。

その企業でどのような成長機会が得られるのか、キャリアアップの仕組みがどうなっているのかを知りたいと思うのは自然です。評価や昇進・昇格の基準を理解しておくことで、キャリアを形成しやすくなります。

3に、職場の雰囲気が自分に合うかを確かめるためです。求職者にとって、職場の人間関係や文化は、働く上で影響を与える要素の一つです。上司や同僚との相性が良く、雰囲気に馴染めるかどうかは、仕事の成果や満足度に関連します。

そのため、入社前の情報収集において、職場の人間関係や組織の雰囲気を把握しようとします。社員の声を聞いたり、職場見学に参加したりするなどして、自分がその組織に溶け込めるかどうかを検討します。

このように、求職者が企業選びの過程で不確実性を下げようとするのは、入社後のミスマッチを防ぎ、自分のキャリアの見通しを立て、職場に馴染めるかを確認するためです。不確実性を減らすことは、求職者にとって重要なニーズです。

情報不足だと印象に左右されやすい

求職者は企業を選ぶとき、多くの情報を集めて、不確実性を減らそうとします。とはいえ、実際には十分な情報が得られないことがよくあります。入社前は、企業の詳しい情報を知る機会が限られているので、得られる情報の質と量が大切になります。

採用メッセージの具体性が求職者の企業に対する印象にどう影響するかを、精緻化見込みモデルを参考に調べた研究があります[3]

精緻化見込みモデルは、人が情報をどのように処理するかを2つの方法で説明する理論です。一つは、情報の内容そのものに注目し、論理的に吟味する「中心ルート」、もう一つは情報の周辺的な手がかりに基づいて判断する「周辺ルート」です。

精緻化見込みモデルの考え方を採用の場面に当てはめ、171人の学生を対象に実験が行われました。被験者を2つのグループに分け、一方には具体的な採用情報を、もう一方には抽象的な採用情報を見せました。

実験の結果、具体的な採用メッセージを見せられたグループは、抽象的なメッセージを見せられたグループに比べ、企業の特徴をより高く評価し、自分との適合性も高いと感じることがわかりました。

具体的な採用情報を得ることで、求職者はその企業の特徴をよりはっきりと理解し、自分に合っているかもより明確に判断できるようになるのです。例えば、給与、福利厚生、勤務地、キャリア形成の機会など、情報が多いほど求職者の理解は深まり、自信を持って企業を評価できます。

一方、採用情報が抽象的で具体性に欠ける場合、求職者は漠然とした印象に頼って判断せざるを得ません。そうした曖昧な判断は、応募意欲にも影響します。

研究では、採用メッセージの具体性と応募意欲の関係は、自分との適合性の感覚によって影響されることもわかりました。具体的な採用情報を得て企業との適合性を感じられれば、応募意欲が高まるのに対し、抽象的な情報しかなければ、適合性の判断が難しく、応募に踏み切りにくくなるのです。

精緻化見込みモデルの考え方で言えば、具体的な採用情報は「中心ルート」を通じて求職者の反応に影響を及ぼし、抽象的な情報は「周辺ルート」を通じて影響していると考えられます。採用メッセージの具体性によって、求職者の情報処理の仕方が変わってきます。

この研究から導かれる実践的な示唆は、採用活動においては具体的な情報を求職者に伝えることが大切だということでしょう。

抽象的な表現を並べるだけでは、求職者の心をつかむことは難しいと言えます。求職者が知りたい情報を明確に伝えることで、企業への理解と共感を得られます。丁寧な情報提供は、求職者の適合性の感覚を高め、応募意欲の向上につながるのです。

本コラムでは、求職者の企業選びにおける不確実性の削減について、先行研究の知見を踏まえながら考察してきました。不確実性削減理論によれば、求職者は企業選びのプロセスで、指示、評価、関係に関する不確実性に直面し、それらを減らすために情報収集に努めます。

求職者の心理に寄り添い、不確実性を和らげるためには、企業側が積極的に情報を開示し、求職者の疑問に答えていくことが求められます。業務内容、評価制度、キャリアパス、組織風土など、求職者が知りたい情報を具体的に伝えましょう。

脚注

[1] Berger, C. R., and Calabrese, R. J. (1975). Some explorations in initial interaction and beyond: Toward a developmental theory of interpersonal communication. Human Communication Research, 1(2), 99-112.

[2] Teboul, J. B. (1994). Facing and Coping with Uncertainty during Organizational Encounter. Management Communication Quarterly, 8(2), 190-224.

[3] Roberson, Q. M., Collins, C. J., and Oreg, S. (2005). The effects of recruitment message specificity on applicant attraction to organizations. Journal of Business and Psychology, 19, 319-339.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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