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コラム

幸せな人々の特徴:主観的ウェルビーイングの研究知見から

コラム

幸せとは一体何でしょうか。非常に難しい問いですが、近年、経験的データに基づいて幸せの科学的な解明が少しずつ進んでいます。

幸せを捉える一つの視点が「主観的ウェルビーイング(subjective well-being)」という概念です。主観的ウェルビーイングを規定する要因は何でしょうか。どのようにすれば幸せになるのでしょうか。逆に、幸せであることはどのような意義があるのでしょうか。

本コラムでは、こうした問題意識に基づき、主観的ウェルビーイングの要因と意義について研究知見を紹介します。

主観的ウェルビーイングとその要因

主観的ウェルビーイングとは、簡単に言えば、自分の人生にどれだけ満足しているか、どれだけポジティブな感情を感じ、ネガティブな感情をあまり感じていないかを意味します。

主観的ウェルビーイングにはどのような要因が関わっているのでしょうか。初めに、過去30年間の主観的ウェルビーイングに関する研究を広く見直し、その要因をまとめた研究を取り上げましょう[1]

まず、結婚していて、宗教的で、明るく、楽観的な人が幸せだという結論は支持されてきましたが、この研究でもそのことを裏付ける結果が得られました。

一方で、若くて地位が高いことは幸せの条件ではないことがわかりました。また、収入や学歴などの人口統計学的な要因は、主観的ウェルビーイングの個人差の一部しか説明できないことも見えてきました。

むしろ幸せには性格特性が影響を与えています。明るい人はポジティブ感情を、神経質な人はネガティブ感情を感じやすいのです。また、物事を前向きに捉える考え方も幸せと関係していました。

個人の目標の持ち方も重要です。内発的な目標(成長、親密さなど)を追求する人は幸せですが、外発的な目標(お金、名声など)ばかり追求する人は主観的ウェルビーイングが低い傾向にあります。

さらに、良いことがあっても、それに慣れてしまい、主観的ウェルビーイングは元のレベルに戻ってしまいがちです。逆に、悪いことがあると、その回復には時間がかかることも分かりました。

全体として、幸せを決める要因は、収入などの客観的な要因だけでなく、その人の性格や価値観、物事の捉え方など、主観的な要因が複雑に絡み合っています。

ところで、主観的ウェルビーイングを考える上で、ポジティブ感情とネガティブ感情の関係は重要な論点です。続いて、その点について掘り下げてみたいと思います。

ポジティブ感情とネガティブ感情は別物

主観的ウェルビーイングを考えるとき、ポジティブ感情とネガティブ感情をどのように捉えるかは重要です。ポジティブ感情とネガティブ感情は対の関係にあると思いがちですが、実はそれほど単純ではありません。

ポジティブ感情とネガティブ感情を測る尺度として、「PANASPositive and Negative Affect Schedule)」は非常に有名です[2]

PANASは、ポジティブ感情を測る10項目(熱心な、わくわくした、など)とネガティブ感情を測る10項目(苦しんだ、うろたえた、など)から成ります。様々な調査から、それぞれの尺度の信頼性と妥当性が確認されています。

面白いことに、ポジティブ感情とネガティブ感情の相関は弱く、ほとんど関連がないことがわかりました。ポジティブ感情が多い人が必ずしもネガティブ感情が少ないわけではなく、その逆もしかりなのです。因子分析の結果からも、ポジティブ感情とネガティブ感情は別々の次元だと考えられます。

ポジティブ感情とネガティブ感情は、異なる生物学的なシステムに基づいている可能性が示唆されています。例えば、ポジティブ感情は行動を活性化するシステムと、ネガティブ感情は行動を抑制するシステムと関連し得ます。

外向的な人はポジティブ感情を、神経症傾向の高い人はネガティブ感情を感じやすいという性格上の背景の違いもあります。このように、ポジティブ感情とネガティブ感情は別々のメカニズムで働いていると考えられます。

この研究は、感情のメカニズムを探る上で、ポジティブ感情とネガティブ感情を区別して扱うことの重要性を示しています。ネガティブ感情を減らすだけでなくポジティブ感情を高める働きかけが、主観的ウェルビーイングを高める上で役立ちます。

主観的ウェルビーイングには、こうした感情的側面だけでなく、人生満足感という認知的側面もあります。

主観的ウェルビーイングの認知的側面

主観的ウェルビーイングは、ポジティブ感情とネガティブ感情という感情的側面と、人生に対する満足感という認知的側面から成り立っています。前者は先のPANASが有名ですが、後者の側面については「人生満足度尺度(Satisfaction With Life Scale: SWLS)」が開発されています[3]

SWLSは「ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い」など、人生満足感に関する質問から成ります。回答は7段階で選び、スコアが高いほど人生満足度が高いことを表します。

因子分析の結果、SWLS1つの因子構造であることがわかりました。人生満足度という1つの概念を測定していると言えます。

また、他の主観的ウェルビーイング尺度とはある程度強い相関を示す一方、自尊心とは正の相関、神経症傾向とは負の相関を示しました。こうした結果は、SWLSの概念的な妥当性を裏付けています。

SWLSの特徴は、回答者が人生の様々な領域を自由に重み付けして評価できる点にあります。例えばある人は家族を、ある人は仕事を重視するかもしれません。SWLSは、そうした個人の価値観を反映した満足度を測ることができます。

人生満足度は、主観的ウェルビーイングを構成する要素であり、私たちの人生の質を評価する上で重要な指標となります。自分の人生をどう意味づけ、受け止めているかを表しているからです。

さて、主観的ウェルビーイングは私たちの心身の健康とどのように関わっているのでしょうか。主観的ウェルビーイングと私たちの心身の健康の関わりについて、もう少し詳しく探ってみることにしましょう。

健康に良好な効果をもたらす

主観的ウェルビーイングは、単に「幸せな気分」というだけでなく、私たちの心と体の健康に意味を持っています。ポジティブ感情と健康の関係について、多くの先行研究をレビューした研究があります[4]

それによれば、まず、高齢者を対象とした研究から、ポジティブ感情が高い人ほど死亡率が低いことが繰り返し示されています。ポジティブ感情は、健康的な行動や社会的な交流を促し、ストレスへの耐性を高めることで、健康を維持するのだと考えられます。

ポジティブ感情の高さは、心臓病や脳卒中のリスクが下がることとも関連します。こうした病気の予防には、ストレス対処が重要ですが、ポジティブ感情にはストレスを和らげる働きがあるのです。

ポジティブ感情は、免疫機能も高める可能性があります。感情と免疫の関係は複雑ですが、大まかにはポジティブ感情は免疫細胞の活性を上げ、ネガティブ感情は下げる方向に作用すると考えられています。

ポジティブ感情は痛みの緩和にも役立つようです。ポジティブ感情は、痛みに伴う不快感を和らげ、対処行動を促します。

ただし、ポジティブ感情が常に良いとは限りません。時と場合によっては、現実を直視せず楽観的になりすぎることで、かえって健康を損ねるリスクがあることが指摘されています。

主観的ウェルビーイングは健康面だけでなく、私たちのパフォーマンスや人生の成功とも関わっています。ここで、その関係性について具体的に見ていくことにしましょう。

パフォーマンスや成功につながる

主観的ウェルビーイングは、健康面だけでなく、私たちの仕事の成果や人生の成功とも関わっています。幸福度(ハピネス)やポジティブ感情が人生の様々な領域での成功につながるという理論モデルを提唱し、それを裏付ける幅広い研究知見を概観した研究をもとに解説しましょう[5]

まず、一時点のデータを用いた研究からは、幸福度の高さが仕事、対人関係、健康などでより良い結果と結びついていることが示されました。例えば、幸福度の高い人は仕事のパフォーマンスが高く、報酬も多く、人間関係の満足度や安定性も高いのです。

ある時点での幸福度が、その後の成功をどの程度予測できるかを検討した、時系列を伴う研究もあります。幸福な人は将来的により高い収入を得ている傾向が見られました。幸福度は成功の結果であるというよりも、むしろ原因となっていると考えられます。

さらに、実験的にポジティブ感情を引き出すと、創造性や問題解決能力が高まることも示されました。ポジティブ感情には思考を柔軟にし、新しいアイデアを生み出す効果がありそうです。

なぜ幸福度が成功につながるのでしょうか。研究では、やる気、対人魅力、ストレス対処などの心理的なメカニズムを介して、幸福度が成功を促進すると指摘されています。例えば、幸福な人は意欲的に目標に取り組み、周囲から好意的に受け止められ、困難な状況にも柔軟に対応できるということです。

ただし、幸福度が常に適応的であるとは限りません。幸福度が高いことで、現状に満足してしまい、成長の機会を逃すこともあります。また、楽観的になることで現実的なリスクを見落とすこともあり得ます。

主観的ウェルビーイングと人間関係の関わりについても、もう少し掘り下げて考えてみる必要がありそうです。その点について議論を進めていきたいと思います。

豊かな人間関係を構築する

主観的ウェルビーイングは、周りの人々とのつながりと関わっています。アメリカの大学生を対象に、とても幸せな人々(Very happy people)の特徴を探る調査が行われています[6]

まず、複数の幸福度指標を用いて、最も幸せな上位10%の人を特定しました。そして、その特徴を、普通の幸福度の人や最も幸福度の低い下位10%の人と比較しました。

結果、最も幸せな人は、社交的で良好な人間関係を持っていることがわかりました。一人で過ごす時間が少なく、家族や友人とたくさんの時間を共有していました。この傾向は、普通の人や幸福ではない人に比べて目立っていました。

ただし、良好な人間関係は幸福の必要条件ではあるものの、十分条件ではありませんでした。つまり、人間関係が良好でも必ずしも幸福ではない人がいたのです。幸福には、人間関係以外の要因も関わっています。

幸せな人はまた、外向的で協調的、神経症傾向が低いという性格的特徴を持っていました。また、抑うつや不安などの精神的健康の指標も良好でした。しかし、これらの性格特性や精神的健康もやはり、幸福の十分条件とは言えません。

興味深いことに、運動習慣や宗教活動、ポジティブな出来事の経験頻度は、幸福度においてあまり差が認められませんでした。

幸せな学生は多くの時間ポジティブ感情を感じていましたが、だからと言って、常にそうした感情に浸っているわけではありません。ネガティブ感情も適度に経験していました。

文化によって意味合いが異なる

ここまで見てきたように、主観的ウェルビーイングには様々な要因が関わっています。しかし、こうした要因の影響は文化によって異なる可能性があります[7]

例えば、北米では幸福(ハピネス)は個人の達成や自己実現と結びつけられます。他方で、東アジアでは幸福は人間関係の調和と結びつけられます。こうした違いは、それぞれの文化で重視される自己観の違いを反映しています。

北米では、自律的で独立した個人観が主流であるため、個人の目標達成が幸福と結びつきます。対して東アジアでは、他者との相互依存的な関係性の中に自己を位置づける見方が多いため、人間関係の調和が幸福と結びつくのです。

幸福を高めようとする動機づけも文化で異なります。北米では、ポジティブ感情を最大化し、ネガティブ感情を最小化することを目指します。しかし、東アジアでは、ポジティブ感情とネガティブ感情のバランスを保とうとする傾向にあります。

北米ではポジティブ感情とネガティブ感情を対極的に捉える一方で、東アジアでは両者を両立可能なものとして捉えることが実証されています。感情の捉え方自体が文化の影響を受けています。

また、自尊心は北米でも東アジアでも幸福と関連しますが、東アジアでは他者からの受容や支援の知覚も同様に大事です。自尊心を前面に出すことが対人関係を損ねるリスクもあるため、東アジアではサポートも重視されるのです。

一見普遍的に思える幸福の概念が、実は文化によって意味合いが異なります。幸福について考える上で、文化を考慮に入れる必要があります。

以上、本コラムでは、主観的ウェルビーイングの要因と意義について多角的に探ってきました。主観的ウェルビーイングは、私たちの心身の健康、パフォーマンス、人間関係など、多岐にわたる領域と関連しています。そして、そうした関連のあり方は、文化によって異なる可能性があります。

幸せを追求することが大事だと認識されるようになってきていますが、幸せの捉え方は様々です。主観的ウェルビーイングもまた一つの捉え方であり、参考にできる箇所を参考にしていただければと思います。

脚注

[1] Diener, E., Suh, E. M., Lucas, R. E., and Smith, H. L. (1999). Subjective well-being: Three decades of progress. Psychological Bulletin, 125(2), 276-302.

[2] Watson, D., Clark, L. A., and Tellegen, A. (1988). Development and validation of brief measures of positive and negative affect: the PANAS scales. Journal of Personality and Social Psychology, 54(6), 1063-1070.

[3] Diener, E., Emmons, R. A., Larsen, R. J., and Griffin, S. (1985). The Satisfaction With Life Scale. Journal of Personality Assessment, 49(1), 71-75.

[4] Pressman, S. D., and Cohen, S. (2005). Does positive affect influence health?. Psychological bulletin, 131(6), 925-971.

[5] Lyubomirsky, S., King, L., and Diener, E. (2005). The benefits of frequent positive affect: Does happiness lead to success? Psychological Bulletin, 131(6), 803-855.

[6] Diener, E., and Seligman, M. E. P. (2002). Very happy people. Psychological Science, 13(1), 81-84.

[7] Uchida, Y., Norasakkunkit, V., & Kitayama, S. (2004). Cultural constructions of happiness: theory and empirical evidence. Journal of Happiness Studies, 5(3), 223-239.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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