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コラム

「ほめること」の科学:心理学的アプローチから検討する(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、20244月にセミナー「『ほめること』の科学:心理学的アプローチから検討する」を開催しました。

仕事でほめられると、うれしいものです。最近は「ほめること」のノウハウを紹介する記事も増えています。

とはいえ、「いたずらに褒めていいものか」「いざやるとなると難しい」と悩む方も少なくありません。

本セミナーでは、「ほめること」の効果とメカニズムについて、学術研究から掘り下げます。そのうえで、職場における具体的な「ほめ方」を解説します。

講師は、ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆とフェローの黒住嶺です。職場のコミュニケーションや、人事施策について考える方におすすめの内容です。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

研究からみた「褒める」こと

「褒める」とはポジティブ・フィードバック

黒住:

私からは、褒めること全般の理解につながる研究知見を紹介していきます。前提として、実際に良いと思った点を、状況や相手に合わせてアレンジして、「適切に」褒めることが理想です。そのためにどんな点を工夫するよいのか、そのポイントを研究知見から紹介していきます。

褒めることを研究の視点から端的に言うと、行動が良いと伝えるものです。定義としては、言葉によって伝えられる対人的なポジティブ・フィードバックとなります。

定義の中にあるポジティブ・フィードバックとは、対象となる行動を増加、継続させることを意図して与えられる情報のことです。つまり、この行動が良かったので、今後増やしてほしい、あるいは維持してほしいと伝える情報を意味します。

フィードバックの要素

ここからは、フィードバックとは何かという点を掘り下げていきましょう。代表的な研究例として、達成する目標との関連から整理する研究があります。

具体的には、フィードバックは通常、何らかの目標達成の文脈で行われるものと考えます。例えば職場で考えると、個別に与えられた業務目標や、プロジェクトに関する成果物などが達成しようとする目標と言えます。そうした目標に対して、現状と目標の差を縮める手段の一つがフィードバックです。

では、目標との差はどのように意識できるのでしょうか。3つの視点で認識できると言われています。1つ目が、目標の再確認です。取り組んでいる目標は何か、それを達成することでどうなりたいのかを認識するということです。2つ目が、実践してきた内容を振り返ることです。その目標について、これまでどう取り組んできたのかを認識します。3つ目が、やるべきことの整理です。これまで取り組んできたことを踏まえて、この後にやっていくべきことを具体的に整理します。

これらの視点に加えて、注目する内容の分類もあります。1つ目が課題です。これは目標の達成に関わるもので、下位目標とも言えます。例えば、資料を作成するという目標があれば、その質や量がどうかといった点が課題だと整理できます。

2つ目がプロセスです。これは、課題をどう進めるかということです。例えば、自分一人で進めていくのか、誰かに聞きながらチームワークで進めるかなどがプロセスに当たります。

3つ目は自己評価です。先ほどのプロセスを、自分でどう確認したか、あるいはどう改善してきたかということです。職場の文脈で言えば、ToDoリストで管理しながら進めた、などが相当します。

4つ目が、目標に取り組む「人」としてどんな様子かです。「社交性を出せていてよかった」「細やかに配慮して進められていたよ」など、個人としての特徴に注目することもあります。

ポジティブ・フィードバックの話をまとめると、先ほどの三つの視点と四つの内容の組み合わせによって、行動を肯定的に評価するということになります。

「何のため」に褒めるか

業務の内外のパフォーマンスの向上

続いて、ポジティブ・フィードバックの効果を掘り下げます。これにより、何のために褒めると良いかということの参考になります。

1つ目は、パフォーマンスの向上です。ある研究では、上司のポジティブ・フィードバックが多いほど、部下のパフォーマンスが高かったという結果が確認されています。

パフォーマンスとして2つの内容が確認されています。1つ目が日常業務の質です。与えられた業務をきちんとこなしている、上手くこなせているという点で、業務そのものの質を指します。もう一つは、業務以外の望ましい行動です。例えば、今までの方法よりもより良い方法を積極的に探しているといった、業務以外のプラスアルファの部分になります。

上司によるポジティブ・フィードバックが多いと、業務の質、業務以外の望ましい行動の双方が高いという結果が確認されています。

興味深いのは、ネガティブフィードバック、つまり、訂正することや修正することの効果と違いがあったことです。同じ研究ではネガティブフィードバックが多いと、先ほどの2つのパフォーマンスのうち、日常業務の質は高かったのですが、業務以外の望ましい行動は低いという結果でした。まとめると、指摘する場合には少し注意が必要であり、逆に褒めることはやはり効果がありそうだといえます。

職場環境の改善

2つ目に紹介する効果は、職場環境の改善にも役立つということです。端的に言えば、褒め合う文化が根付いていると、職場がうまく回っていくということです。

例えば、メールによる称賛の共有というものがあります。「○○さんの資料は素晴らしい出来でした」という趣旨で、上司から部下へのやり取りがメールで行われ、その情報がメーリングリストのような形で他の人にも共有されるという例です。こうしたメールによる称賛の共有制度に対して、社員の満足度が高かったことや、制度の導入によって離職率が低下したという良い効果が確認されています。

この背景には、自分や他の人が褒められるのを見たり経験したりすることで、「職場に受け入れられている」「所属先に貢献したい」といった意識が高まることが影響しています。つまり、褒めるという文化が職場に良い影響を与えたと言えるでしょう。

信頼関係とイノベーティブな行動の向上

3つ目の効果は、信頼関係を高めたり、革新的職務行動を向上させたりするといった結果です。まず信頼関係の部分ですが、建設的なフィードバックが行われると信頼関係が育まれます。部下による上司の評価において、上司がフィードバックをくれる度合いが高いほど、上司に対する信頼が高かったという結果が出ています。

信頼感が高まる理由は、上司からのフィードバックにより「自分が成長させてもらっている」という恩を感じるからです。専門的には互恵性の原理と呼ばれるもので、与えてもらったことに対する恩返しとしての心的な反応と考えられています。

そして、信頼感が高いと、イノベーションにつながる行動も多い、という結果も得られました。これは革新的職務行動と呼ばれるもので、新しいアイデアの生成や促進、その実施に関する行動を指します。

実は、革新的職務行動には失敗のリスクがあります。例えば、今までと違うことを試すので、すぐにうまくいくとは限らず、良い結果が出ないリスクがあります。また、新しい方法を試すことで、周囲から「なぜ今までの方法ではダメなのか」と反発を受けるリスクもあります。

こうした失敗のリスクを考えると、なかなか挑戦しづらいものです。しかし、上司との信頼関係があれば、「失敗しても上司は受け止めてくれるだろう」と考えられます。そのため、リスクがあっても挑戦できるようになるのです。

効果を期待する意図が伝わらないよう注意

ここまで見てきたように、褒めることには確かに効果があると言えるでしょう。ただし、こうした効果を得るために、これから部下を褒めることに努めようとする場合には、注意点もあります。

その1つとして、褒め言葉の真実味が疑われると、効果が得られにくくなるということです。褒められる側が、「自分ではそこまでのことはしていないのに」という具合で疑念を抱いたり、褒め言葉を「本心からのものではない」と感じたりしてしまうと、褒めることの効果が発揮されにくいのです。このことを踏まえると、効果を期待して褒めるとしても、その意図が見透かされてしまうのは危険だと言えます[1]

どのような「褒め方」があるか

自己調整を褒める

最後に、具体的にはどのような褒め方があるか紹介していきます。相手に応じた個別の対応が必要とはいえ、多くのケースに通じるパターンとして参考になります。

1つ目のパターンが、褒める内容を意識するという提案です。冒頭で紹介した褒めることの要素の中でも、特に自己調整を褒めることは効果が得やすいと考えられています。

例えば、今取り組んでいる仕事に熱心に取り組み続けてくれる効果があり、目標にやりがいを感じている人ほど効果が高まるという結果が得られています。参画したプロジェクトに「成功させよう」と意欲がある人には、「うまく管理と調整をしながら進められていますね」と褒めると、より真剣に取り組んでくれることでしょう。

では、自己調整以外の内容を褒めることはどうでしょうか。その場合は、個別の配慮がより必要なります。例えば、取り組んでいる目標の種類です。新しい業務スキルや知識を身につけることが目標であれば、「この理解には誤りがある」など、下位目標を訂正する方が褒めるよりも効果的と言われています。あるいは、フィードバックの情報量です。例えば、訂正時は具体的な対応も併せて教えなければ効果がないと指摘されています。つまり、「次はこの点に注目するといい」など、より多くの情報を伝える必要性が出てきます。

このように、自己調整以外の部分について褒める場合には、目の前の相手の状況に応じてアレンジする必要性が高まります。そのため、これから褒める文化や褒めるスキルを伸ばしていこうと考えているならば、まずは効果の得やすい自己調整を褒めることから始めて、慣れてきたら他の部分も褒めるように取り入れていくのが良いでしょう。

感謝を伝える

2つ目のパターンとして、感謝の気持ちを伝えるという方法です。興味深いことに、感謝を伝えることにも、褒めることと同じ機能があると確認されています。

具体的には、生徒と教師を対象にした研究があります。生徒が、学校で価値を感じることとして「感謝されること」を報告しています。学校で、友達や先生から「ありがとう」と感謝されると、生徒は嬉しく感じるそうです。教師側の対応としても、生徒とのやりとりの中で、生徒を褒める目的で感謝を示すことが比較的多いことが確認されています。

さらに、感謝の効果に注目する研究では、お互いに感謝し合う関係があると、関係が親密になることが確認されています。つまり、先ほどの例に挙げたように、感謝することは褒めることと同様に、職場に受け入れられているという感覚に近いものを醸成するのです。

このことを職場で活用するうえで、目標を実施してくれたことに対して感謝を伝える、という応用が考えられます。例えば、「早めに確認してくれて助かりました」、「無事完了してくれてありがとうございます」など、仕事に取り組んでくれたこと自体には、褒める機能として感謝を伝えやすいと思います。

修正の指摘や訂正よりも多くの点を褒める

3つ目のパターンは、褒める割合に注意するということです。指摘や訂正よりも、褒める割合が高いほど効果が得やすいということが確認されています。例えば、小中学生の勉強や問題行動の改善、夫婦の関係性、上司と部下の関係など、様々な領域で、褒める割合が多いことの効果が確認されています。

具体的な割合の目安として、訂正することの2倍以上褒めることを提案します。研究毎に検討される割合の違いはありますが、褒める割合が高いことの効果は一貫しています。つまり、訂正すべき点は見つかるものですが、それを見つけたときには、その2倍以上、良かった点を見つけて褒めることを目指すと良いのです。

この点を実践するには、指導の度に重要性を思い出すようにすることと、実際にセルフチェックすることが有効です。実証研究でも、指導役の人へ、実際に指導する前に褒める割合への注意を促したり、自分で指導時に褒めた回数を記録してもらう介入によって、褒める割合が増えたことが確認されています。

もう一つの実践法は、テキストメッセージで褒めるということです。少し恥ずかしいですが、私が実際に受けたフィードバックを例に出してみます。

「早めに仕上げてもらってありがとうございました」

「前回よりも基本的な内容を修正していたので、よかったと思います」

「事前に共有もあったので、確認も楽になりました」

「今後に向けた修正箇所があったので確認してください」

上記では、ポジティブなフィードバックが3つ、訂正のフィードバック1つです。テキストメッセージであれば、推敲に時間をかけられますし、割合も確認することができます。社内のSNSやメールを利用したり、書類の返却に資料として別添えするといった方法で活用できるでしょう。

子供とは褒めの影響が異なる

伊達:

私の講演では、初めに、子供と大人に対する褒め言葉の影響の違いについて説明させていただきます。

褒めることに関する研究は、子供を対象としたものが多く見られます。子供をどのように褒めるのが効果的なのかという問題意識が従来から強く持たれており、実際に多くの研究が積み重ねられてきたのです。

その中で特に注目されてきたのが、能力を褒める「能力褒め」と、努力を褒める「努力褒め」の違いについてです。相手の能力を褒めるのと、相手の努力を褒めるのでは、どちらがより効果的なのかという研究が行われてきました。

子供を対象にした研究では、「能力褒め」と「努力褒め」について、ある程度一貫した結果が得られています。すぐに想像できる通り、子育て本などにも書かれていることかもしれませんが、「あなたは頭がいい」のように本人の能力を褒める「能力褒め」よりも、「よく頑張った」というプロセスを褒める「努力褒め」の方が、子供に対して高い効果があることがわかっています。

大人ではどうなのでしょうか。大人に対して、子供と同じようなフレームワークで褒め言葉の影響を検証した研究があります。その研究では、三つの褒め方を用いています。

  • 能力褒め:「高い知性がある」のように能力を褒める
  • 努力人物褒め:「よく働く人」のように努力を人物に帰属させて褒める
  • 努力褒め:「よく頑張った」のようにプロセスを褒める

3種類の褒め方の効果を比較したところ、「能力褒め」を受けた人は、うまくいかないことがあったときに能力のせいにしがちであることが明らかになりました。また、「努力人物褒め」を受けた人は、自分に対する評価や課題に対する楽しさが低い傾向にあることがわかりました。

興味深いのは、「努力褒め」の結果です。子供の研究結果とは異なり、大人においては「努力褒め」を受けても、他の褒め方との効果の差は見られませんでした。子供と違って大人には「努力褒め」が効きにくいということがわかったのです。

この結果について、研究では示唆的な考察が行われています。大人の特性は子供よりも安定しているため、一言によってすぐに変化するとは考えにくいのではないかと指摘されています。大人の場合、一度努力を褒められたからといって、すぐに一喜一憂するようなことは起こりにくいのです。

この研究から考えさせられるのは、大人に対して褒め方の知見を適用する際には、一度褒めれば効果が得られるとは限らないということです。むしろ、繰り返し粘り強く働きかけていくことが重要になります。

上司が部下の努力を一度褒めただけで変化がないからといって、諦めるのではなく、大人の場合は時間がかかる現象だと考える必要があります。

褒める側への影響も無視できない

これまでの議論や、社会で一般的に流通している褒めることに関する知見の多くは、褒めることが褒められた側にどのような良い影響や悪い影響をもたらすのかを検証しているケースがほとんどです。

それに対して、ここで紹介したいのは、褒める側への影響に注目した研究です。褒めることが褒める側にどのような利点があるのかを検討した興味深い議論があります。

実際に、どのような研究結果が得られたのでしょうか。他者を褒める行為が褒める人自身に与える影響を検討したところ、まず明らかになったのは、「あなたは知性が高い」というように、能力褒めを多く行うと、褒めた人自身が、能力は変化しにくいと考えがちになるという傾向でした。

具体的には、他者の能力を褒めた後に難しい課題に取り組み、うまくいかなかった場合、褒めた側の課題に対する楽しさやポジティブな感情が低下してしまうことがわかりました。

他者を褒めることは、褒めた側にも影響を及ぼします。特に能力を褒めることは、褒めた側にあまり良くない影響を与えるようです。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか。これは、「saying is believing効果」と呼ばれる効果で説明されています。「言うは信ずるなり」と訳せば良いでしょうか。

能力を褒めることで、自分自身や他者の成果を能力で評価するようになってしまい、それが自分に返ってくるような現象が生じるのです。

成果の有無を能力の問題だと考えるようになると、課題そのものを楽しめなくなってしまいます。能力を褒めることは、褒める側にとってもあまり良くないことなのです。

もう一つ理由があります。能力を褒めると、他者の成果も自分の成果も能力で評価するようになりますが、能力というのは厄介な存在です。「あなたは能力がありません」と言われると、確かに能力は開発できますが、時間がかかります。

「方法が違っています」と言われれば、方法を修正すればいいのですが、能力はそう簡単に変えられるものではなく、コントロールが難しいものです。

そのため、うまくいかなかった時に、自分はもう簡単に良くなれないと思いがちです。結果、能力を褒めた側は失敗後にポジティブな感情が低下してしまいます。

褒め言葉の副作用とその対処法

薬を飲む目的は、もちろん主作用を得ることですが、どんな薬にも副作用があるのは事実です。実は、褒めることも同じです。褒めることには主作用があるのと同時に、副作用もあります。

褒めることの副作用には、どのようなものがあるのでしょうか。一つ目は、褒めることが今後のより高い成果への期待を含んでいると受け取られ、褒められた側がプレッシャーや不安を覚えてしまうことです。

褒められる際に「次もよろしく」といった暗黙のメッセージが加わると、プレッシャーがかかることになり、かえってパフォーマンスが下がる可能性があります。せっかく褒めているつもりが、逆効果になってしまうのです。

二つ目は、褒めることが報酬や罰のように受け取られると、内発的動機づけを損なう可能性があることです。これは心理学ではアンダーマイニング効果として知られています。

今までは自分がやりたくてやっていたことを褒められると、褒められないとやる気が出なくなるという現象が生じます。褒めることが一種の報酬として認識されてしまうと、内発的動機づけが損なわれ、逆効果になります。

三つ目は、過剰な褒め方や、その場の雰囲気に流されるような褒め方が、褒められた側に良い印象を与えないことです。例えば、「褒めないといけない雰囲気だから褒めている」と受け止められると、褒められた側はあまり嬉しくありません。過剰な褒め言葉もむしろ逆効果になります。

四つ目は、褒める人の動機が不誠実だと褒められる側が受け止めた場合、褒められた側は褒めた側に対して抵抗感や嫌悪感、不信感を抱くことです。

例えば、「この人は何か裏があって褒めているのでは」と思われてしまうと、せっかく褒めているのに信頼を失い、褒めた側と褒められた側の関係性が悪化し得ます。

五つ目は、熟達したスキルを要する仕事、つまり半ば自動的に遂行できるほど慣れた仕事を褒めると、自己注目が高まってパフォーマンスが阻害されることです。

例えば、自転車に乗ることは、慣れればあまり意識せずにできるようになります。そんなときに「今の右足の出し方は素晴らしい」などと褒められると、かえって自転車のこぎ方がぎこちなくなってしまいます。熟達したスキルに対する褒め言葉は、時としてマイナスの影響をもたらします。

これらの副作用に対してどのように対処すればよいのでしょうか。まず、褒めることがプレッシャーにならないようにするには、「着実に成功していけば大丈夫」といった、過度な期待を和らげるメッセージを添えることが有効です。褒めると同時に、相手の不安を軽減するような言葉をかけましょう。

次に、褒めることが内発的動機づけを下げないようにするには、チームでお互いに褒め合い、認め合うことが一策です。みんなで「うまくいった」と達成感を味わうことで、内発的動機づけを下げにくくできます。お互いを認め合う文化を作ることが重要です。

そして、過剰な褒め方にならないようにするには、具体的な言動を褒めることが有効です。例えば、「この企画書は目的が明確で説得力がある」と、本当に良かった部分を具体的に褒めれば、大げさな褒め方を避けられます。抽象的な褒め方ではなく、具体的な褒め方を心がけましょう。

また、不誠実な印象を与えないようにするには、本当に思ったことを伝えます。無理に褒めると、相手に伝わります。

例えば、会議後の雑談で「今日の提案は本当に良かった」と伝えるなど、率直に褒めることが有効でしょう。褒めるときは、自分の真意を込めることが重要です。

褒めることは人と人との関係性を築く上で欠かせない行為ですが、時として予期せぬ副作用を引き起こすこともあります。しかし、副作用を理解し、適切に対処することで、褒めることの効果を最大限に引き出すことができるはずです。

Q&A

Q:人前で褒められることを嫌がる人がいる場合にはどうしますか。

黒住:

そういう場合は個別に褒めるのが良いでしょう。みんなの前ではなく、直接言葉で伝えるほか、メール等のテキストメッセージは、他の人目につかない方法として使えます。それぞれの人のニーズに合わせて褒めるようにしましょう。

Q:ネガティブフィードバックでもフィードバックがあった方が、何のフィードバックもないよりはパフォーマンスが高いのでしょうか。

伊達:

ネガティブフィードバックの効果は一定ではなく、むしろパフォーマンスが下がってしまう場合もあります。ネガティブフィードバックが機能するための条件があり、一例として、上司との関係性が良いことが挙げられます。上司との関係が良ければ、ネガティブフィードバックによってパフォーマンスは高まります。

Q:褒めと訂正の順番について、サンドイッチ法などはどうですか。

伊達:

サンドイッチ法はそれほど有効ではないことがわかっています。褒めるときは一貫して褒め、訂正するときは一貫して訂正する方が良いようです。一度にいろいろなメッセージを言われると混乱するからでしょう。

Q1日の終わりに褒めることで、翌日のパフォーマンスが上がるなどの効果はありますか。

黒住:

自然な形で、11で褒めることができれば、効果が得られるかもしれません。しかし、形式的にやると逆効果になる恐れもあるので、注意が必要です。

Q:成果を褒める「結果褒め」の効果について教えてください。

黒住:

良い結果を出したことを褒めるのは大切ですが、次につながるか、という別の問題があります。結果にこだってしまうリスクや、状況が変わると再現できないかもしれないので、プロセスや方略など他の部分も褒めた方が良いでしょう。

Q:「能力褒め」と「結果褒め」は同じですか。

伊達:

異なります。能力褒めは、知的能力など、簡単には変わりにくい本人の特性を褒めることです。一方、結果褒めは、成功や失敗といったアウトプットに対して褒めることを指します。

Q:褒める点が見つからない場合の対処法を教えてください。

黒住:

何らかの目標や業務に取り組んでいる過程として、フィードバックの機会があるはずです。つまり、目の前の成果物だけでなく、仕事の文脈全体から掘り下げていくことで、例えば取り組んでいること自体に感謝するという手段も含めて、褒める点が見つかるでしょう。

Q:社内表彰など人前で褒めることの副作用について、どう考えますか。

伊達:

他者との比較を気にさせるような褒め方は避けるべきです。本人の中での比較や絶対的な基準と比べるようにすることで、副作用を防げるのではないでしょうか。

黒住:

表彰のように、目に見えて、形に残る褒め方と、日常の交流の中で褒めるのでは性質が異なると考えられます。前者の副作用が懸念される場合は、個人同士のやりとりの中で褒めてフォローするなど、いくつかの褒め方を切り分けて併用することが有効かもしれません。

脚注

[1] フィードバックにまつわる注意点については、当社の以下のコラムでより詳しく紹介しています。適宜ご参照ください;


登壇者

黒住 嶺 株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー

学習院大学文学部卒業、学習院大学人文科学研究科修士課程修了。修士(心理学)。日常生活の素朴な疑問や誰しも経験しうる悩みを、学術的なアプローチで検証・解決することに関心があり、自身も幼少期から苦悩してきた先延ばしに関する研究を実施。教育機関やセミナーでの講師、ベンチャー企業でのインターンなどを通し、学術的な視点と現場や当事者の視点の行き来を志向・実践。その経験を活かし、多くの当事者との接点となりうる組織・人事の課題への実効的なアプローチを探求している。

 

 

 

伊達洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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