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コラム

二要因理論の再検討:動機づけ要因と衛生要因は妥当か

コラム

仕事に対する満足度はどのように決まるのでしょうか。報酬を上げれば、それだけで満足度は上がるのでしょうか。

ハーズバーグは、職務満足に関する独自の理論、二要因理論を提唱しました。二要因理論によると、仕事の満足と関連する要因と、不満足と関連する要因は別々に存在します。

前者は達成感や承認などの「動機づけ要因」であり、後者は会社の方針や労働条件などの「衛生要因」と言われます。衛生要因が整っても、それだけでは満足にはつながらないという指摘は、当時としては斬新だったと思います。

しかし、二要因理論に対しては批判も寄せられています。満足と不満足は別次元のものなのか、調査対象者の反応にバイアスはなかったのかといった疑問が提示されてきました。

本コラムでは、ハーズバーグの二要因理論について解説し、それに対する批判的な検討を紹介します。職務満足のメカニズムについて理解を深めるとともに、研究で提示された理論を批判的に吟味することの意義についても考えていきます。

ハーズバーグの二要因理論とは

ハーズバーグは『The Motivation to Work』の中で、職務満足に関する理論を提唱しました。それが二要因理論です。

二要因理論によると、仕事の満足度と不満足度は別々の次元で生じ、異なる要因によって引き起こされます。満足をもたらす要因は「動機づけ要因」(motivators)、不満足をもたらす要因は「衛生要因」(hygiene factors)と呼ばれます。

衛生要因が満たされていないと不満が生じるが、衛生要因が満たされていても、それだけでは満足につながらないというのが二要因理論の考え方です。ハーズバーグは満足を得るためには、達成感や承認といった動機づけ要因が必要だと主張しました。

二要因理論を生み出す際、ハーズバーグはピッツバーグ地域の技術者や会計士などを対象に、満足や不満足をもたらした出来事の詳細を聞き出しています。そして内容分析を行い、満足と不満足をもたらす要因を特定していきました。

ハーズバーグが特定した動機づけ要因には、例えば、達成、仕事そのもの、責任、承認、前進、成長可能性などが含まれます。一方、衛生要因には、会社の方針と管理、対人関係、上司、労働条件、給与、地位などが含まれます。

二要因理論は、当時の常識的な見方とは異なっていたかもしれません。報酬を増やせば満足度も上がると考えていた人も少なくなったでしょう。そうした中で人々に斬新な視点を与え、二要因理論は産業界でも広まっていきました。

バイアスを抑えて再検証する

実は、ハーズバーグの二要因理論をめぐっては、それを批判する研究が提出されており、論争が起きています。例えば、ハーズバーグの研究方法を再現しつつ、バイアスを最小限に抑えて理論の妥当性を検証した研究があります[1]

職業訓練生を対象に、満足・不満足の両方の経験を含む、仕事に関する出来事や経験から構成されるチェックリストを用いて調査を行いました。

チェックリストには、動機づけ要因(達成、仕事そのもの)と衛生要因(会社の方針と管理、対人関係、労働条件)に関連する項目が同数含まれ、被験者はそれぞれの項目について、自分が実際に経験したかどうかを回答し、経験した場合はその満足度を評価しました。

調査データを分析したところ、全体として、ハーズバーグの二要因理論を支持する結果は得られませんでした。動機づけ要因と衛生要因の間で、満足度や不満足度の原因としての差はほとんどなく、同じ要因が満足にも不満足にも関連していることが示唆されました。

また、要因に対する反応は、満足と不満足の両極を持つ単一の尺度で最もよく説明できることが明らかになりました。これは、ハーズバーグが主張するように、満足と不満足が別の次元であるという考えとは矛盾する結果です。

この結果から、ハーズバーグの二要因理論は、研究方法のバイアスがあったことが示唆されます。例えば、ハーズバーグは、満足の出来事と不満足の出来事で異なる分類方法を用いており、そのことがバイアスを生んだ可能性があります。

具体的には、ハーズバーグの研究では、満足の出来事は「出来事」のカテゴリーで分類され、不満足の出来事はエージェントのカテゴリーで分類されました。分類方法の違いが、動機づけ要因は満足に、衛生要因は不満足に関連するという結果につながったのかもしれません。

また、自分の成功は自分の手柄、失敗は他人のせいにする傾向も、ハーズバーグの理論を支持する結果をもたらした可能性があります。被験者が自分の成功を内的要因(動機づけ要因)に、失敗を外的要因(衛生要因)に帰属させやすく、理論が実際の心理的メカニズムを反映しているのではなく、被験者のバイアスによって生じたとも考えられるのです。

動機づけ要因と衛生要因は独立しているか

他にも二要因理論に対しては、疑問を投げかけられています。ハーズバーグが著書で報告した17の集団を対象とした10件の内容に着目し、掲載された表のデータを用いて、各要因が満足と不満足のどちらに分類されているかを集計した結果が報告されています[2]

例えば、「達成感」という要因が動機づけ要因に分類された回数と、衛生要因に分類された回数を数え上げたところ、二要因理論では動機づけ要因とされているにもかかわらず、衛生要因としても一定の頻度で報告されていることが明らかになりました。動機づけ要因と衛生要因が独立しているというハーズバーグの主張と矛盾する結果です。

研究では、二要因理論においては、動機づけと満足の関係を単純化し過ぎており、満足と不満足を二分法的に捉えるのではなく、個人差や状況要因を考慮に入れた、より複雑な理解が必要だと主張されています。

なお、同じ要因が満足と不満足の両方の原因として報告されているケースが複数見られたのは、他の研究でも同様です。

状況が二要因を浮かび上がらせたのか

とはいえ、ハーズバーグの二要因理論には批判ばかりではなく、それを支持する研究もあります。ある研究ではうまく再現できるのに、他の研究では再現できないのはなぜかを検討していく必要があります。

ここで、二要因理論をめぐる研究結果の矛盾は、回答者が「社会的に望ましい」答えをする傾向により説明できる可能性があると指摘する議論が参考になります[3]

人は自分に都合の良い答え、つまり満足の理由を自分の業績に、不満の理由を環境のせいにする傾向があるというのです。これは社会的に望ましい答えをする傾向の一種と言えます。

この仮説を検証するために実験が行われました。ある企業での就職面接を受ける14人(実験群)と、同じ企業で働く14人(対照群)を対象に、面接状況の堅苦しさや自我関与の度合いが異なる条件で質問をしたのです。

実験群は、就職面接の一環として質問に答えました。面接の出来が採用に直結するため、自我関与が高い状況だったと言えます。一方、対照群は非公式な面接で、リラックスした雰囲気の中で質問に答えました。面接の結果は何の影響もないことを知っていたため、自我関与は低い状況です。

ここで言う「自我関与」とは、その状況が自分にとって重要で関わりが深いことを指します。実験群にとって、面接での受け答えは自分の将来を左右する重大事です。したがって、自我関与が高くなります。

実験の結果、興味深いことに、堅苦しく自我関与が高い状況(実験群)では二要因理論と一致する回答が得られました。その一方、リラックスした状況(対照群)では、そうではありませんでした。

対照群では、満足の理由と不満の理由の両方において、動機づけ要因(承認、責任など)と衛生要因(上司、労働条件など)が同程度挙げられました。二要因理論が主張するような、満足は動機づけ要因から、不満は衛生要因から生じるという結果にはならなかったのです。

研究では、この結果から、二要因理論を支持する回答が自我防衛的プロセスの産物である可能性を考察しています。自我防衛的プロセスとは、自尊心を守るために無意識に行う心の働きのことです。

例えば、面接での質問「あなたが仕事に満足を感じたのはどんな時ですか?」に対し、「自分の能力を認められて昇進した時」「チームを率いてプロジェクトを成功させた時」など、自分の頑張りや能力を示す答えを選ぶのは自我防衛的な回答です。

一方、「あなたが仕事に不満を感じたのはどんな時ですか?」という質問には、「上司の理不尽な指示があった時」「同僚との人間関係がうまくいかなかった時」など、自分以外の要因を挙げて回答するのも、自分の責任を回避する自我防衛的な反応と言えます。

実験群は、面接の出来が採用に直結するため、このように自我防衛的に、社会的に望ましい答えをしたと考えられます。対照群は本音で答えられたため、二要因理論とは異なる結果になったというわけです。

二回調査を実施したらどうか

ハーズバーグの二要因理論とその方法論の妥当性を検証するために、興味深い研究が行われています[4]。それを紹介しましょう。研究では、143人の被験者を対象に、ハーズバーグが用いたプロトコルを6週間間隔で「2回」実施しました。

被験者に対して、18ヶ月以上前と18ヶ月以内の仕事上の良い経験と悪い経験を思い出してもらい、その内容を分析しました。また、被験者に動機づけ要因の重要度の順位付けを行ってもらい、各要因が動機づけ要因か衛生要因かの識別も行ってもらいました。

二要因理論では、動機づけ要因は主に良い経験に関連し、衛生要因は主に悪い経験に関連すると予測されます。したがって、良い経験と悪い経験では、動機づけ要因と衛生要因の順位が異なることが想定されます。しかし、この研究では、4つのデータセットで要因の順位が類似していました。

さらに、同じプロトコルで収集した2回のデータの一致度を分析したところ、一致係数が低い値を示しました。6週間の間隔を置いて同じ被験者に同じ手順を実施しても、得られるデータの順位付けに一貫性がなかったのです。プロトコルの信頼性に問題があると解釈できます。

そして、二要因理論では、動機づけ要因と衛生要因は異なる働きをすると予測されますが、この研究では、動機づけ要因同士の比較と衛生要因同士の比較の方が、動機づけ要因と衛生要因の比較よりも差が大きいことが示されました。

また、時間をまたいだ要因の重要度の変化と、良い経験と悪い経験の間の要因の重要度の変化を比較したところ、時間をまたいだ変化の方が大きいことが示されました。このことは、要因の重要度が良い経験と悪い経験で異なるという二要因理論の予測を棄却するものです。

被験者に各要因を動機づけ要因、衛生要因、どちらでもない、または両方、という具合に識別してもらったところ、多くの要因が「どちらでもない」や「両方」に分類されました。二要因理論では、各要因が動機づけ要因か衛生要因かに分類されるはずですが、そうはなりませんでした。

二要因理論に対する批判の論点整理

ハーズバーグの二要因理論は、動機づけに関する理論の中でも広く知られています。満足をもたらす要因(動機づけ要因)と不満足をもたらす要因(衛生要因)が独立しているという、考えさせられる内容です。

しかし、この理論に対しては、様々な角度から批判的な検討が加えられてきました。本コラムで取り上げた批判について、その論点を整理しておきます。

まず、二要因理論の中心的主張の一つは、動機づけ要因と衛生要因が独立しているということです。しかし、この主張に対しては疑問が提示されています。

例えば、ハーズバーグ自身のデータを再集計した結果、達成感や承認などの要因が、満足要因としても不満足要因としても一定の頻度で報告されていました。二要因が独立しているとは言えないことを示唆しています。

また、同じ要因が満足にも不満足にも関連しており、二要因理論では説明できないという検討結果もありました。要因に対する反応は単一の尺度で最もよく説明できると述べられています。

二要因理論に対するもう一つの批判は、ハーズバーグの研究結果にバイアスが作用している可能性があるというものです。例えば、満足と不満足で異なる分類方法を使用することなどにより、結果にバイアスがかかっていることが指摘されています。

被験者の自我防衛的な反応が結果に影響を与えていることが示されています。人は満足の理由を自分の手柄だと考え、不満の理由を環境のせいにする傾向があるというのです。

インタビューの状況も結果に影響を与えたのかもしれません。堅苦しく自我関与が高い状況では、二要因理論を支持する社会的に望ましい回答が導かれやすいと述べられています。

方法論的な問題点も指摘されています。例えば、ハーズバーグのプロトコルを6週間間隔で2回実施し、その妥当性を検証した結果、ハーズバーグの手法は職務満足の信頼できる尺度とは言えないこと、同じプロトコルで収集したデータの一致度が低く、手法の妥当性や信頼性に疑問があることが明らかになりました。

以上のように、二要因理論に対しては様々な批判が提示されてきています。それと同時に、ここまでは取り上げなかった点として、二要因理論の解釈や適用には一定の価値があることも指摘されています。

例えば、二要因理論が動機づけと満足の関係を単純化しすぎているとしつつも、職務充実の方針は満足を高め、不満を和らげる効果が期待できます。二要因理論が提供する洞察は重要であるということです。

脚注

[1] Gordon, M. E., Pryor, N. M., and Harris, B. V. (1974). An examination of scaling bias in Herzberg’s theory of job satisfaction. Organizational Behavior and Human Performance, 11(1), 106-121.

[2] House, R. J., and Wigdor, L. A. (1967). Herzberg’s dual-factor theory of job satisfaction and motivation: A review of the evidence and a criticism. Personnel psychology, 20(4), 369-389.

[3] Wall, T. D., and Stephenson, G. M. (1970). Herzberg’s two‐factor theory of job attitudes: A critical evaluation and some fresh evidence. Industrial Relations Journal, 1(3), 41-65.

[4] Hinton, B. L. (1968). An empirical investigation of the Herzberg methodology and two-factor theory. Organizational Behavior and Human Performance, 3(3), 286-309.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

#伊達洋駆

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