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コラム

アルムナイの科学:退職者との関係を考える(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、2024年3月にセミナー「アルムナイの科学:退職者との関係を考える」を開催しました。

多くの人が離職・転職を経験します。そうした中、近年、アルムナイに関心が集まっています。

企業が退職者との関係を維持し、コミュニティを作るのがアルムナイです。会社を離れる人に、会社がコストをかけることは、一見不思議に思えます。しかし、実はアルムナイは、企業に様々なメリットをもたらすのです。

研究知見を頼りに、アルムナイについて考えるセミナーを行いました。人と組織の関係について改めて考える内容です。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

「コミュニティ」としてのアルムナイ

黒住:

本日のテーマである「アルムナイ」は直訳すると「卒業生」を意味しますが、実務上ではいくつかの意味で用いられます。例えば、前職と関係がある離職者を指す場合や、離職者と現職者がつながるコミュニティを指す場合があります。後者は、「アルムナイネットワーク」と呼ばれることもあります。

なぜ、企業は離職者との関係を継続するのでしょうか。関係を維持するには時間やお金、気遣いなどのコストがかかります。例えば、年賀状は細く長い関係を継続する例ですが、やめてしまうこともあります。仕事以外の付き合いでは、なおさらそうした事態が起こりえます。

そうした中で、私が特に注目したいのはコミュニティとしてのアルムナイです。コミュニティとは、共通の目的や興味、地域で結びついた人の集まりと定義されます。アルムナイのコミュニティ運営だからこそ、離職者との関係を継続できる可能性があるのではないか、と思うのです。

アルムナイに関する実態

まず、日本のアルムナイの実態はどうなっているのか確認します。学術研究はまだ少ない状況ですが、企業の事例や実態調査が存在します。ここでは、人材版伊藤レポート2.0の事例集で紹介されている企業を見てみます。

例えば、株式会社荏原製作所がアルムナイのネットワークを形成しています。クラウド型のSNSサービスを使って、コミュニティを運営している報告があります。つまり、専用のサービスも既に普及し始めている実態があるのです。双日株式会社も、アルムナイのプラットフォームを構築しています。例えば、OB・OG社員と定期的に、面談やプロジェクトに関するアドバイス受けたりしているそうです。

企業が導入している制度の実態については、公式的な再雇用制度が主流です。パーソル総合研究所の調査によると、導入されている割合としては、出戻り・カムバック採用といった公式的な制度が比較的高い一方、アルムナイコミュニティの運営は低いです。

興味深いのは、従業員が「どのような経路で出戻りしたか」に関する実態です。公式の制度による再雇用の割合は少なく、全体の4.4%にとどまっています。対して、以前の上司や同僚から誘われたからという、非公式なルートで再雇用されるケースは、75.7%に上っていたのです。

これらの実態を総括すると、日本におけるアルムナイコミュニティは、まだ創成期にあると考えられます。大手企業では導入が始まっていますが、企業全体での導入率は高くありません。また、従業員が戻る経路は、人づてが中心でした。それを踏まえて、人と人とのつながりを増やす意味でもコミュニティの形成が重要だと言えます。

コミュニティが企業にもたらすもの

続いて、コミュニティとしてのアルムナイが、企業にもたらすメリットとデメリットについて考えてみます。まずメリットについては、研究では三つの側面が想定されています。

一つ目は人的資本です。これは、企業が従業員の知識やスキル、能力を得られるということです。例えば、出戻り採用として、社内の事情を既に知っている人材を獲得できれば、新人を一から教育する場合に比べてコストが少なくて済みます。社員として戻ってこずとも、アルムナイコミュニティを通して、自社の外で得た知識、つまり、社内では得にくい知識をもたらしてくれることが期待できます。

二つ目は評判資本です。会社の外部での評判を知ることができたり、それをもとに評価を高めることができます。具体的には、離職者が自社で働いた経験や、アルムナイコミュニティから得た現状を外部に広めることで、自社の特徴や評判を外部に広げ、ブランドイメージを向上させられます。また、退職者が外部からみた自社の印象を持ち帰ってくれることで、その情報をもとに現状を改善していくこともできます。

三つ目は社会的資本です。これは、直接的には、継続した関係性を構築できるということです。長く付き合った関係性の中で、新しい知識や情報、人材の紹介や業務提携など、間接的にメリットがえられるのです。

こうした社会的資本のメリットは、特に社外の人との関係性だからこそ得られるものだと言えます。近しい人との交流は、持っている情報が似通っているため、コミュニケーションコストは低くなる一方で、情報の新しさは少ないからです。

次に、デメリットについて考えてみましょう。ここでは、メリットの1つでもあった社会的資本に注目します。コミュニティネットワークが広がっていくことは、企業にとってはメリットです。しかし、従業員個人の視点で見ると、社会的資本とはいわゆる「人脈」です。従業員が、会社を辞めた人と関わることは、たとえば引き抜きなど、企業目線でのリスクも懸念されます。

そこで、社会的資本が、二つの成果指標に対してどのような効果をもつのか検討した研究を確認します。それぞれの学術知見を検討することで、アルムナイコミュニティによって生じるデメリットを考えることができます。

1つ目の成果指標は、離職意図です。これは、従業員が自社を辞めたいと思う程度のことです。離職意図については、社会的資本が高いことで離職率が高まる効果と下がる効果の両方が確認されています。社外との付き合いが広がると、キャリアアップのチャンスを得て離職意欲が高まる、という効果が確認されています。一方で、社内でのコミュニティが濃くなることで、仕事や職場への満足感が高まり、離職意欲が下がるという効果もあるのです。

アルムナイコミュニティは、従業員と元・従業員が交流する、内部かつ外部のコミュニティとも言えます。このように考えると、コミュニティが従業員の離職意図に与える効果は、個別に状況がことなるミクロな現象として、予測や制御が難しいかもしれません。

2つ目の成果指標は、パフォーマンスです。これは、企業全体での業績や、従業員個人の業務効率など、さまざま成果を指します。研究では、社会的資本を「漫然と」維持することが、パフォーマンスを下げる可能性が指摘されています。アルムナイに限らない、ネットワーク全般に関してですが、企業が同じ相手との付き合いを続けるような閉鎖的な関係性を維持している場合、その成果が下がることが確認されています。

つまり、ネットワークの拡大や情報交換を活性化せず、コミュニティ運営自体が目的になったり、運営が企業にとって負担になると、逆効果になると考えられます。このように、アルムナイコミュニティは、離職者と付き合えるからこそのメリットがある反面、同じ特徴がデメリットにもなりうるという、一部で「諸刃の剣」の特徴を持つ可能性が見えてきます。

効果的なコミュニティの始動・運営

最後に、アルムナイコミュニティの運営について見ていきます。ただ、この分野の研究はまだ多くありません。日本ではコミュニティの実績自体がまだ十分に蓄積されておらず、海外でも個別の活動は増えていますが、研究として体系化されている部分はあまり多くありません。

そうした中で、ある研究では、複数の実践例を比較・統合するというアプローチによって、アルムナイコミュニティを立ち上げ、うまく運営していくためのガイドラインが提案されました。全てを見るのは冗長になるので、ここでは特に効果性を高めるうえで重要な、3つのポイントを紹介します。

1つ目が、目的の設定です。アルムナイコミュニティを通して、企業がどのような成果を得たいのかを検討することが重要です。具体的には、組織目線として、なぜコミュニティを作るのか、自社のビジネス戦略やビジョンとどう整合するのかを考えます。あるいは、離職者目線として、離職後の状況や離職理由を踏まえ、どのような活動内容が望ましいかを考えます。こうした両面から、企業として得られることを検討します。

2つ目が、運営上の注意点です。これは、さらに3つに絞って紹介します。まず、既存の人事制度との接続することです。採用時からコミュニティの存在を周知し、在職中から関わり、離職後は自動的に入ってもらえるようにすることで、継続的なコミュニティ運営につながります。

次に、多様性を高めることです。離職者は新天地で知識やスキルを得るため、在職時のパフォーマンスで選別しないことが重要です。逆に選別することは、選別を受けた側によってコミュニティの評価が下がるため、企業側や参加者のメリットを損なうリスクがあります[1]

そして、退職者との効果的な接点を設定することです。たとえばメールマガジンやイベント開催など、退職者との定期的、長期的な接点を作り続けることは、退職者が「参加したい」と思うタイミングを逃さない効果が期待されます。

3つ目が、効果の検証です。立ち上げ時に設定した目標がどの程度達成できたかを、適切に評価しましょう。例えば、コミュニティ内で、従業員や離職者に対する満足度調査を行ったり、登録率やイベント参加率などの客観的なデータから分析することが考えられます。こうしたポイントを参考に、効果的なアルムナイコミュニティの運営が実現されると嬉しく思います。

出戻り採用の可能性:ブーメランのように戻って来ること

伊達:

私からは「出戻り採用」についてお話しします。出戻り採用とは、一度離職した従業員が再び戻ってくるという、近年注目されている採用手法の一つです。

英語では “Boomerang Employment” と呼ばれますが、これはブーメランが投げると戻ってくるように、ある会社で働いていた人が一旦離職し、別の会社で働いた後に再び元の会社に戻ってくるようなケースを指すためです。

私の講演では、この出戻り採用について掘り下げていきます。先ほど黒住から話のあったコミュニティとしてのアルムナイというよりも、個人としてのアルムナイという意味合いで、アルムナイと接続します。

前提として、出戻り採用には素朴な疑問があるのではないでしょうか。一度会社を辞めた人が戻ってきても、また辞めてしまうのではないか、というものです。一度去った人を再び迎え入れることへの不安や懸念があるのは自然かもしれません。

しかし、実はこの点については検証が行われており、そうではないことがわかっています。出戻り採用と他の採用手法を比べたところ、出戻り採用の方が離職率が低いという結果が出ているのです。

この事実は、出戻り採用に対する不安や懸念を払拭するものであり、出戻り採用の有効性を示唆するものだと言えます。

元の組織に戻る理由

よく考えてみると、出戻り採用は不思議な選択肢でもあります。一度辞めた社員が再び転職を考える際、元いた会社に戻る必要はないからです。他の会社に行っても良いわけです。

いろいろな選択肢がある中で、元従業員が一度去った組織に再び戻ろうとするのはなぜでしょうか。出戻りの意図を考えてみたいと思います。

この点について示唆に富む検証結果があります。「レガシーアイデンティフィケーション」と呼ばれるものに注目した研究です。

レガシーアイデンティフィケーションとは、以前働いていた組織と自分のアイデンティティが密接に結びついている状態を指します。過去に所属していた組織の文化、価値観、目標などが自分のアイデンティティの重要な部分になっているのです。

研究によると、この元従業員のレガシーアイデンティフィケーションが、出戻りの意図と関連があることがわかりました。レガシーアイデンティフィケーションが高い人ほど、出戻りをする可能性が高いのです。

自分のアイデンティティの一部に元いた組織が含まれていると、その組織でもう一度働きたいという気持ちが自然に出てきます。その人のアイデンティティの一部に、元いた組織が含まれているかどうかが重要です。

では、レガシーアイデンティフィケーションをどう高めればいいのでしょうか。いくつかのアプローチがあります。

一つは、他の人たちが元いた組織のイメージを魅力的に感じていると、レガシーアイデンティフィケーションが高まります。周囲が「あの会社はいい会社だ」と元いた組織のことを言っていると、自分のアイデンティティの一部として元いた会社は重要だと感じやすく、その結果、出戻りの意図につながります。

周囲が前の会社のことを良く思っていると、レガシーアイデンティフィケーションが高まる傾向があります。その意味で、レガシーアイデンティフィケーションを高めようとすると、自社の評判を良くする必要があります。ただし、他者の評判は正直、コントロールしにくい部分もあります。

そこで、もう一つの方法があります。自社の特徴をはっきりさせるという方法です。特に三つの特徴をはっきりさせると、アイデンティフィケーションが促されます。

一つ目は「中心性」で、それぞれの会社でコアとなる特徴のことです。二つ目は「連続性」で、会社の中で一貫してずっと残り続けている特徴です。三つ目は「識別性」で、他の会社と区別するような特徴です。

皆さんの会社は、コアであり、長い間続いていて、他社とは異なるような特徴がありますか。これがはっきりしていたほうが、辞めた後も「自分はこういう会社で働いていた」と思い返し、レガシーアイデンティフィケーションも高まりやすくなります。

出戻りで活躍する条件

続いて、出戻り採用で戻ってきた人が活躍できる条件について考えてみましょう。出戻り採用は確かに意義のある採用手法です。ただし、どんな場合でも等しく効果をもたらすわけではありません。

活躍しやすい条件もあれば、そうでない条件もあるのです。では、どのような条件だと出戻り後に活躍しやすいのでしょうか。

一つ目は、当たり前のようですが、きちんと伝えておくべき内容です。最初に所属していたときのパフォーマンスが高い人ほど、出戻り後のパフォーマンスも高いというものです。人は突然変わるわけではないのです。

組織の中で活躍するには様々な知識が必要です。ハイパフォーマーは、在籍していた期間中に、活躍するための知識を身につけています。そのため、出戻り後も自分の能力を発揮しやすいのです。

活躍に必要な様々な知識には、例えば、仕事を進める上での方法やスキル、周囲とどのように関わればいいのかといったこと、会社が大事にしている価値観などが含まれます。

高いパフォーマンスを発揮している人が辞めるときには、関係を維持し、出戻りの可能性を高めておく必要があります。

もう一つ、出戻りの活躍に関する観点があります。一度組織を離れた従業員が出戻りするとき、どのような場所に戻るといいのかです。これについては、二つの興味深い結果があるので、紹介しましょう。

初めに在籍していたときと戻ったときの「上司」が違う場合、どうなるでしょうか。これはあまりパフォーマンスに影響しないことが明らかになっています。

上司が同じでも、違っていても、パフォーマンスに有意な差はありません。出戻り後の配置を考える上で、前と同じ上司をつけないとまずいわけではないのです。

一方で、初めに在籍していたときと戻ったときの「職場」が違うケースでは、パフォーマンスに負の影響が出ます。職場が同じほうがパフォーマンスを保ちやすく、職場が違うとパフォーマンスが下がってしまいます。

これらの結果から、上司は変わってもいいが、職場は変えないほうがいいという含意を得られます。出戻り採用では、戻る前と同じような仕事につかないと、効果が十分に発揮されにくいというなのでしょう。

連続性か非連続性を活かす

出戻り採用がなぜうまくいくのかを考えると、「連続性」というキーワードが浮かびます。連続性とは、地続きになっているということです。出戻り採用で戻ってきた元従業員の特徴は、組織の知識を持っていることです。

通常、転職や受け入れには障壁があります。前の職場とやり方が違うなど、非連続なものであることが多いのです。しかし、出戻り採用の場合は、そうした障壁が低く済みます。本来非連続であるはずの転職や受け入れに連続性があるのが、出戻り採用の強みです。

そのように言うと、「ちょっと待ってください」と思う人もいるかもしれません。出戻り採用の人たちは他の会社でいろいろなことを学んできているはずです。そうであれば、自社にとって新しい知識や考え方、スキルをもたらしてくれるのではないか。それも出戻り採用の魅力だという考え方があり、研究でも指摘されています。

他の会社で学んだことを元の組織に適用するのは、連続的ではありません。自社とは異なる知識を適用することになるので、ある種の非連続性が伴います。出戻り採用がパフォーマンスを発揮しやすい理由は連続性にある一方で、他の会社で学んだことを適用するとなると非連続性が出現します。

確かに、戻る前の他の組織で多くの経験をすると、出戻り後のパフォーマンスが高いという結果もあります。ただし、非連続性はそんなに甘くないとも思わざるを得ません。というのも、出戻り採用を読み解く上で参考となる研究があり、それが「越境学習」です。

越境学習については、法政大学大学院の石山先生と一緒に出した『越境学習入門』という本でも取り上げています。越境学習の研究を参考にすると、非連続性、すなわち、他の組織で学んだことをもう一度戻ってきて生かすことの難しさが見えてきます。

越境学習のことを少し説明しましょう。越境学習とは、ホームとアウェイを往還する学びです。ホームとは慣れ親しんだ場、アウェイとは不慣れな場です。それを行ったり来たりしながら学びを得ていくのが越境学習です。

ホームが最初にいた会社だとします。そこから離職して、アウェイであるまだ慣れていない他の会社に移り、そしてもう一度ホームに戻ってくる。こう整理すると、出戻り採用は越境学習と重なる点があります。

越境学習の研究によれば、アウェイに行った後にホームに戻ってくると興味深いことが起こります。ホームは慣れ親しんだ環境のはずですが、そこに違和感を覚えるのです。例えば、会議の進め方が効率的だとか、なぜこんなに人数が多いのか、チャットツールの使い方に問題があるなど。

他の会社で学びを得ているので、戻ってきた後に違和感を覚え、「こうすればいいのに」と思う点が出てきます。これは越境学習の醍醐味ではあるのですが、アウェイに行ってホームに戻ってきた人は、ホームに対する違和感を解消しようと、あれこれ提案をします。

ところが、なかなかうまくいかないのです。反発や抵抗に遭ってしまったり、話を聞いてもらえなかったりします。そのようなことに直面すると、つらいものです。せっかく良かれと思って言っているのに、話を聞いてもらえない、それどころか反発されてしまう。そうすると、「やめておこう」と思ってしまい、学びは風化していきます。

なぜ反発などが起こるのでしょうか。人は基本的に慣れた方法を変えるのが嫌です。慣れた方法を変えると、情報不足の状態に陥ります。これを「不確実性」と呼びます。不確実性は人にとってストレスなので、人は変化をあまり好みません。

出戻り採用においても、他の組織で学んだことを適用してほしいと、非連続性を生かそうとする場合、反発や抵抗が起きてくることが考えられます。

本人も受け入れ側も覚悟を決めて進めていく必要があります。非連続性を期待されると、本人は新しい提案をしたのに否定されて疲弊し、受け入れ側も、既存の方法を揺さぶられて疲弊します。

出戻り採用はおそらく一般的には、連続性を期待したほうがいいのではないかと思います。外の組織で得たものを取り入れるよりは、以前のように働いてもらうということが、出戻り採用の魅力とみなすのがうまくいくでしょう。

基本は連続性を期待しつつ、特定の人材だけ、覚悟を決めて非連続性を生かしていくことが、戦略的には有用でしょう。

もちろん、越境学習の研究からすると、非連続性に醍醐味があるので、できれば生かしてほしいとは思うのですが、短期的に考えると、出戻り採用の人たちが苦しむことになると、出戻り採用が定着しなくなってしまいます。

Q&A

Q:アルムナイというテーマに対して、どこに面白みを感じたのですか。

黒住:

人付き合いを続けていくのはコストがかかる中で、コミュニティがあれば続けられるということに面白みを感じました。コミュニティがあることで、しばらく付き合いがなくても、タイミングが来れば参加できるチャンスがあります。コロナ禍で離職が増える中、過去に自社と関わってくれた人を呼び戻そうという動きがあり、アルムナイコミュニティがあれば、よりスムーズにつながりを実現できると感じたのが起点になっています。

Q:退職後あまり期間をあけずにコミュニケーションをとることが重要とのお話がありました。なぜでしょうか。

黒住:

研究では、離職後1年以内に離職者とのコミュニケーションを取ることが重要だと指摘されています。これは、それ以降にコミュニケーションを取り始めても、アイデンティティが薄れている可能性があるからではないでしょうか。離職直後は距離を置くことも必要ですが、少なくとも1年以内に適切なタイミングでコミュニケーションを取れるようにしましょう。

Q:出戻り採用は他の採用手法と比べて離職率が低いとのことですが、具体的にどの程度低いのでしょうか。

伊達:

海外の研究では、出戻り採用の離職率は他の採用手法と比べて20%程度低いという結果が得られています。ただし、これが日本の文脈で同じ確率で再現できるかは不明です。重要なのは有意な差があったということでしょう。

Q:レガシーアイデンティフィケーションがあれば出戻りが促されるとのことですが、元々愛社精神があると転職しないのではないでしょうか。

伊達:

愛着のある会社に残り続けようと思いやすいのは事実です。しかし、それでも辞める人はいます。例えば、社外により良い選択肢や成長できる選択肢があれば、そちらに行くからです。

他方で、一旦離職しても、レガシーアイデンティフィケーションが高ければ出戻りする可能性は高まります。言ってみれば、愛着を持っていると辞めにくくはありますが、それでも辞めた場合、レガシーアイデンティフィケーションが高くなりやすく、必要に応じて出戻りの話を持ち出すのが良いかもしれません。

Q:副業で以前の会社に関わっているのですが、最近、うまくいかなくなりました。何が起きているのでしょうか。

伊達:

文面だけでは詳しい事情はわかりませんが、例えば、その会社で以前働く上で大事にしていたことが不履行になっている可能性があります。

黒住:

副業として関わり続けるポジションを用意するなど、柔軟性の高い会社なのかなと感じました。嫌だと感じる部分をきちんと伝えて、より良い関わり方を模索していくことも一つかもしれません。

Q:出戻り採用をうまくいかせるために、離職時の接し方も大事ですか。

伊達:

はい、出戻り採用をうまくいかせるためには、離職時の体験が大事になります。特に、辞めるときに出戻りという選択肢があることをお互いに認識すると良いでしょう。選択肢の一つとして埋め込めば、それを選ぶ可能性が出てきます。

脚注

[1] 法的な違反者や重大な規則違反を犯した元従業員には、適切な対応が必要です。しかし、その対象者は多くないはずであり、多様性の観点では、大きな問題にはならないと考えられています。


登壇者

黒住 嶺 株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー

学習院大学文学部卒業、学習院大学人文科学研究科修士課程修了。修士(心理学)。日常生活の素朴な疑問や誰しも経験しうる悩みを、学術的なアプローチで検証・解決することに関心があり、自身も幼少期から苦悩してきた先延ばしに関する研究を実施。教育機関やセミナーでの講師、ベンチャー企業でのインターンなどを通し、学術的な視点と現場や当事者の視点の行き来を志向・実践。その経験を活かし、多くの当事者との接点となりうる組織・人事の課題への実効的なアプローチを探求している。

 

 

 

伊達洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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