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コラム

助け合う職場の作り方:サポートの効果・方法・リスク(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、20243月にセミナー「助け合う職場の作り方:サポートの効果・方法・リスク」を開催しました。

皆さんは困っている同僚がいたら、手を差し伸べますか。悩みを抱える同僚がいたら、相談にのっていますか。

助け合いのある職場では、エンゲージメント高く働けます。さらに、心理的安全性も高まりやすいことが分かっています。

では、お互いを支援し合う職場を作るには、どうすれば良いのでしょうか。サポート研究をもとに、そのことを考えるセミナーを開催します。

職場のマネジャーにもメンバーにも、職場開発を担う人事にもおすすめの内容です。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

サポートの背景にあるメカニズム

背景のメカニズム:研究知見から

藤井:

サポート行動には様々な側面があり、関連する学術的なテーマも多岐にわたります。例えば、他者と良好な関係を築こうとする「向社会的行動」、他者の利益のために行動する「利他行動」、困っている人の課題を解決しようとする「援助行動」、同じ立場の仲間同士で助け合う「ピアサポート」などがあげられます。

サポート行動には、サポートを提供する側とサポートを受ける側という両面性があります。それぞれの側に立つ人の心理によって、サポートが促進されたり、抑制されたりします。私のお話では特に、サポートを行う側の心理に焦点を当てて、その行動の背景にあるメカニズムを考えます。

私たちは日常生活の中で、何気なくサポート行動を取っています。例えば、電車やバスの中で、お年寄りに席を譲るといった光景を思い浮かべてください。そこには、明確な見返りがあるわけではありません。むしろ自分が座れなくなるという犠牲を払っているとも言えます。それでも、多くの人は見ず知らずの誰かを助けようとします。

なぜ人は、自分が直接の利益を得られなくても、他者を助けるのでしょうか。この問いは、心理学の領域において古くから関心が寄せられてきたテーマです。利他性はどこから生まれ、どのように形作られるのか。そのメカニズムの解明に向け、数多くの研究が重ねられてきました。

サポートを提供する側の動機として、例えば以下のものがあげられます。

  • 相手の困難な状況を目の当たりにして、自然と湧き上がる同情や共感といった気持ち
  • 自分が過去に受けたサポートへの恩返しの気持ち
  • サポートを通じて得られる社会的な評価を高めたいという気持ち

サポートを提供する行動は、一見、自分の時間や手間を犠牲にしているだけに思えるかもしれません。しかし、実際にはそのサポートが、直接的あるいは間接的に自分に返ってくる可能性があります。

例えば、サポートの直接の相手から、お返しの恩恵を受けることがあるでしょう。「あの時は本当に助かりました。私が何かお役に立てることがあれば」と、支援が行ったり来たりする関係が生まれます。

サポートの様子を見ていた第三者から、思わぬ形で恩恵を受けることもあります。「この前、あなたが後輩の面倒を見てくれていたので、今度は私が何かお返ししたいと思って」と、別ルートで自分に返ってくるのです。

こうしたサポートの恩恵が、直接的にも間接的にも還元されるメカニズムを表すことわざに、「情けは人のためならず」があります。一見、自分の利益につながらないように見える行動も、めぐりめぐって自分に返ってくる。この現象は学術的には「間接互恵性」と呼ばれ、利他性の進化を説明する理論の1つとなっています。

人は他者の行動をよく観察し、その評判を共有します。親切な人、助け合いを厭わない人は、社会の中で良い評価を得ます。そうした評判のもとでは、たとえ一時的に自分が損をしてでも、サポート行動を取ることが長期的には自分の利益になり得ます。

一方で、サポートを渋る人、自分の利益を優先する人は、周囲から好ましくない評価を受けます。社会には、そうしたただ乗り的な行動を抑制するメカニズムも備わっています。評判を落とすことは、長期的に見れば自分の不利益につながります。

このように、サポート行動は、社会の中での評判形成や間接的互恵性のメカニズムによって支えられている部分があります。「人の目」を気にするからこそ、自分の振る舞いを律し、他者を助ける行動を取ろうとします。

サポートの促進を考える際の注意点

ここまで、サポート行動の背景にあるメカニズムに注目しました。お互いの良い行いが評判となって伝わり、間接的な恩恵を生む環境では、サポートが自然と広がっていく可能性があります。

そうした原理を踏まえると、組織の中でサポートを促進するには、サポート行動を「見える化」したり、明確に「ルール化」したりすることが有効に思えます。

例えば、職場内で助け合いの事例を共有し称賛し合う仕組みを作れば、サポートがよい評価につながると周知され、社員のサポート意欲も高まるかもしれません。また、「業務の合間に必ず誰かに声をかけ、手助けを申し出る」といったルールを設けることで、サポートが習慣化され、自然に根付いていくことも期待できます。

しかし、こうした施策には、注意すべき点もいくつかあります。安易にサポートの「見える化」を進めたり、「ルール化」を図ったりすることは、時としてサポート行動を阻害するリスクがあります。

まず、「見える化」について考えてみましょう。サポートへの評価を明示することは、確かにサポートのインセンティブを高めます。しかし、その一方で、「自分の行動が評価の対象になる」というプレッシャーから、サポートを控える人が出てくる恐れもあります。

「失敗をしたら低い評価を受けるかもしれない」「余計なお世話だと思われたくない」などの不安から、サポートを躊躇する社員がいてもおかしくありません。特に、他者からの評価を気にするタイプの人ほど、そうしたプレッシャーを感じ、萎縮してしまうかもしれません。

加えて、サポートの評価があからさまになることで、かえって良好な人間関係を損ねてしまうことも考えられます。「あなたはいつも助けてくれる、優しい人ですね」などと言われ続ける中で、評価に応えなければという義務感から過剰なサポートを強いられるといった弊害が生じるかもしれません。

サポートの「ルール化」についても、一長一短があります。助け合いを職場の規範とすることは、サポートを励行する土壌を作る上で一定の効果が期待できます。ルールがあれば、それに従おうとする意識が働くからです。

とはいえ、ルールの影響力は、必ずしも望ましい方向にばかり働くわけではありません。サポートが義務化されることで、「誰かがやってくれるだろう」と責任感が希薄になる社員が現れる恐れがあります。

サポートの形骸化も懸念されます。ルールに沿うことだけが目的化し、実のある支援が行われなくなる恐れがあるのです。報酬を伴うルールであれば、なおさらその傾向は顕著になると考えられます。

さらに、ルール化されたサポートは、時に職場の人間関係を歪めることも危惧されます。「サポートの少ない社員は非協力的だ」といったレッテル貼りが横行し、息苦しい空気を生むかもしれません。

組織の中でサポートを促進する際には、ここで挙げた「見える化」や「ルール化」に限らず、その取組や施策の功罪を十分に吟味する必要があります。一方的にサポートを奨励するのではなく、自発性を大切にしながら、適度な評価とルールのバランスを模索していきましょう。

サポートを促す方法:受け手の言動に注目して

サポートを妨げる要因

伊達:

職場に助け合いを根付かせるには、どのような工夫が有効でしょうか。その答えを探るにあたり、まずはサポートが生まれにくい状況について考えます。

サポートを妨げる要因が明らかになれば、それを取り除く施策も見えてきます。ここでは、サポートを阻害する要因としては、「過小評価」と「要請なし」の2つを挙げます。

「過小評価」とは、他者に対するサポートの影響を過小に見積もる傾向を指します。例えば、同僚の手助けをしても、「そこまで喜んでくれないだろう」「むしろ迷惑に感じるのでは」などと考えてしまうかもしれません。

相手のポジティブな反応を想定しにくく、ネガティブな反応が頭をよぎる。そうした認知の偏りが、サポートを躊躇させる要因の1つと言えます。

なぜ、過小評価が生じるのでしょうか。背景には、サポートする側とされる側で注目するポイントのズレがあります。サポートする側は、自分の行動が適切かどうか、役に立つものかどうかを気にします。「有能にサポートできるだろうか」という不安から、相手の反応を悪く想定してしまうのです。

一方、サポートされる側の関心は、サポートしてくれた相手の人柄に向きます。「こんなことまでしてくれるなんて、なんて優しい人なのだろう」と、相手の温かさに心を動かされます。サポートをしてくれた相手への好感が湧き上がってきます。

しかし、サポートする側は、その感情の機微に思い至りにくく、相手の喜びを想像することが後回しになります。そこにサポートをする側とされる側のギャップが生まれ、サポートのチャンスが逃されていきます。

もう1つのサポートの阻害要因が、「要請なし」という問題です。サポートを求める声があがらなければ、他者が助けを必要としていることに気づきにくいものです。サポートの要請がなければ、サポートは減ります。

興味深いことに、サポートが必要になるタイミングは、思いのほか多いことが明らかになっています。ある調査によれば、数分に1回はサポートを求めたくなる場面があるのだそうです。例えば、「この資料の作り方を教えてほしい」「この数字の意味を確認したい」など、ちょっとした疑問や課題が浮かんでくるのでしょう。

もちろん、そのすべてを言葉にして助けを求めるのは現実的ではありません。業務の流れを止めてしまっては、かえって非効率になりますし、相手にも迷惑になります。どの場面でサポートを要請するのかは、状況に応じて判断する必要があるでしょう。ただ、サポートを求めたい場面が想像以上に多く存在していることは押さえておきたい事実です。

加えて、要請がない状況でのサポートには文化差が見られます。具体的には、要請がない状況において、米国人に比べて日本人はサポートを差し控える傾向があります。その背景には、人間関係の調和を重んじる特性があると考えられています。

「余計なお世話だと思われたくない」「気を遣わせてしまうのでは」といった懸念から、自発的なサポートを躊躇します。振る舞いが相手との関係を損ねはしないか注意を払うあまり、サポートに二の足を踏んでしまいます。

時と場合によっては、あえてサポートを控えることも大切です。しかし、過剰な遠慮は、互いに助け合う機会を奪います。

受け手にできる工夫

サポートの阻害要因を踏まえると、サポートを促す打開策として、受け手側の言動に着目することの重要性が見えてきます。サポートによって得られる恩恵を伝え、サポートを求める姿勢を示すことで、周囲の行動を変えていくことができます。

例えば、サポートを受けた際には、「ありがとう」と言うだけでなく、具体的にどのように助かったのかを伝えるようにしましょう。「おかげで課題が解決できました」「新しい気づきを得られました」など、サポートの意義を言葉にすることで、相手に喜びを実感してもらえます。

サポートを求める際も、遠慮は禁物です。「これは〇〇さんの専門分野だから、ぜひアドバイスをいただきたい」と、相手の強みを認めつつ助言を求めます。「締め切りが迫っているので、協力してもらえると助かります」と、具体的にサポートが必要な理由を伝えるのも一策です。

もちろん、やみくもにサポートを要請すればよいわけではありません。自分の力でできることは自分でやってみたり、わからないことは調べたりした上で、必要な部分で周囲の力を借りるのがよいでしょう。

研究によれば、サポートを求められた人は、快くそれに応じる傾向があります。無視したり断ったりするより何倍も高い確率です。助けを求めれば、大抵は助けてもらえるという心強い事実を示唆しています。

とはいえ、サポートを求める一歩を踏み出す勇気がなかなか持てない場合もあると思います。そこで大事になるのが上司の行動です。上司がサポートを率先して要請することが有効です。

権威的に振る舞うのではなく、時に部下に助言を求め、共に学び合う関係性を築く。そうした謙虚なリーダーシップは、メンバー一人ひとりのサポート要請を後押しする力となるはずです。

上司自身がサポートを求める行動をとることで、「助けを求めることは悪くない」というメッセージを部下に伝えられます。上司の行動を見れば、「自分も安心してサポートを求められる」と、メンバーは感じます。

Q&A

Q:組織市民行動と今回のサポートの違いは何ですか。

伊達:

組織市民行動は組織にとって有益な役割外の自発的行動を指します。一方で、サポートは組織にとって有益なものもあれば、そうでもないものもあります。ただし、組織市民行動の一部にサポートの要素が含まれており、重なりもあります。

Q:利他行動を印象操作の目的で利用する人への対処法はありますか。

藤井:

客観的な事実に基づいて評価することが重要です。本人の主張だけでなく、実際に行われた行動や、サポートを受けた側の評価を参考にすることで、本当に周りにとって良い結果になっているかを判断しましょう。

Q:サポートをする側とされる側の固定化による問題にどう対処すべきですか。

伊達:

例えば、サンクスポイント制度など、サポートを可視化する仕組みを導入し、サポートをする側とされる側のバランスを確認できるようにします。サポートをする量とされる量のバランスが取れていないと、満足感が下がることが分かっています。

ただし、AさんがBさんにサポートしたとき、BさんはAさんだけでなくCさんにお返しすることも可能です。お返しは別の人にしてもよいのです。これは藤井の解説した間接互恵性につながっていくでしょう。

Q:サポートは場合によってはハラスメントにつながりませんか。

藤井:

相手が求めていないサポートを押し付けることは、内容によってはハラスメントに関わる可能性があります。本当に必要とされているサポートなのか、本人が要請しているのかを確認することが大切です。

伊達:

ハラスメントまでいかなくても、パターナリズムに基づくサポートは、場合によっては、相手の成長機会を奪うことになり、注意が必要です。相手のためを思ってサポートしているつもりでも、過保護になって体験の機会を奪うのは問題です。

Q:サポートにおける内発的動機づけを促進する方法はありますか。

藤井:

元々内発的動機でサポートしている人のモチベーションを維持することが大切です。そのためには、変に報酬を与えて外発的にならないようにします。内発的動機付けを高めることは難しい面もありますが、まずは元々ある内発的動機を損なわないよう気をつけると良いでしょう。

伊達:

仕事を任せること、お互いの仕事が重なり合うようにすることも、内発的動機づけに基づくサポートを促します。仕事を任せないとサポートの余地がなくなります。一方、互いの仕事が重なり合っていないと、サポートのタイミングもつかめません。


登壇者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

藤井 貴之 株式会社ビジネスリサーチラボ チーフフェロー
関西福祉科学大学社会福祉学部卒業、大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程修了、玉川大学大学院脳情報研究科博士後期課程修了。修士(教育学)、博士(学術)。社会性の発達・個人差に関心をもち、向社会的行動の心理・生理学的基盤に関して、発達心理学、社会心理学、生理・神経科学などを含む学際的な研究を実施。組織・人事の課題に対して学際的な視点によるアプローチを探求している。

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