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コラム

チームの力を引き出す:組織内自尊心を育む職場の作り方(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、2024年1月にセミナー「チームの力を引き出す:組織内自尊心を育む職場の作り方」を開催しました。

チームが実力を発揮するために、何が必要でしょうか。「組織内自尊心」を育むことが重要です。

チームの一員として自分の価値ある存在と思うこと。これが組織内自尊心の意味するところで、近年注目を集めている考え方です。

皆さんは、自分が他の人の役に立っていると思えていますか。自分がチームに貢献できていると思えていますか。

組織内自尊心を高めると、多くの効果があることもわかっています。例えば、仕事に満足したり、会社に愛着を持ったり、成果を上げたりします。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

組織内自尊心とその焦点

まず「組織内自尊心」という概念が意味するところを理解しましょう。組織内自尊心とは、どういうものなのでしょうか。

組織内自尊心には「自尊心」という言葉が含まれます。自尊心とは、端的に言えば、自分自身に対する評価を指します。自尊心の高い人は、自分の価値を肯定的に見ています。

これまでの研究によれば、自尊心が高い人は生活に対する満足度が高いことが分かっています。これは自尊心の有効性を示しています。

一方で、さまざまな状況において自分自身への評価は変わります。例えば、職場での自分、友人関係での自分、家族の中での自分など、状況によって変わります。

この中でも、特に組織における自分への評価が「組織内自尊心」と呼ばれるものです。組織における自分に対して肯定的な評価を持っているかどうか、それが組織内自尊心です。

組織内自尊心が高い人は、組織における自分を高く評価しています。例えば、自分が会社にとって有能であり、重要であり、価値があると感じています。

組織内自尊心が高い人は、外から見ても自信に満ちていたり、積極的に自分の意見を述べたり、リーダーシップを発揮したり、専門家として認識されていたりするでしょう。

逆に、自分の能力や成果に自信がなさそうだったり、コミュニケーションが取りにくそうだったり、職場に適応できていなかったりする場合、組織内自尊心が低い可能性があります。

組織内自尊心の背景と意義

この数年、私は「組織内自尊心」というテーマについて様々な場で触れています。この概念は漢字6文字で表され、難解に聞こえるのか、あるいは私の力不足なのか、いまだ広く知られるには至っていませんが、とても重要な考え方だと思っています。

組織内自尊心の重要性を示す背景にはいくつかの要素があります。例えば、ナレッジワーク、つまり知識を使った仕事の割合が増えています。また、働き方も多様化しています。このような状況の中で、一人ひとりの貢献がより重要になってきているのです。

また、給料や福利厚生だけで満足する従業員は減り、より多くの人が仕事に意味や価値を見出したいと考えるようになっています。こうした背景のもと、「組織内自尊心」がより大事になってきていると言えます。

組織内自尊心を高めることには、どんな意義があるのでしょうか。様々な効果が検証されています。例えば、組織内自尊心が高い人は、仕事に対する満足度が高く、自分が組織に貢献していると感じやすいことが分かっています。

組織の成功に自分が寄与していると感じ、帰属意識も高まります。自己評価が高いため、新しい挑戦に積極的に取り組み、高いモチベーションで働くことができます。さらに、組織内自尊心が高い人は、パフォーマンスも高く、自分が重要な役割を果たしていると感じるため、他の会社に移ろうとは思わなくなります。

日本独特の組織文化と組織内自尊心に関する興味深い研究結果があります。日本的な組織文化、例えば家族主義や忠誠心などを重視する文化が強い場では、組織内自尊心も高い傾向にあります。

しかし、今日ではこうした文化が少しずつ変化し、以前より組織内自尊心が低くなりやすい状況にあるのではないかと思います。重要ではありつつも、高めにくい状況になっているからこそ、意識的に向上策を講じる必要があると考えられます。

周囲からの働きかけによる向上

組織内自尊心を高めることは、各社員が自身を有能で価値ある存在と感じられるようにすることを意味します。では、どのようにこれを実現できるのでしょうか。

本格的に対策を紹介する前に、大前提として、報酬の重要性に触れておきます。報酬が高いと、自身が重要な存在であると感じることができ、組織内自尊心が向上する傾向があります。報酬は組織内自尊心を高める一つの手段であることをご理解ください。

その上で、周囲からのサポートを増やすのが良いでしょう。職場における支援は、仕事の進行や人間関係の改善につながります。サポートは、社員が自身の価値を実感しやすくなり、組織内自尊心を高めます。

なお、サポートと言うと、仕事上のアドバイスや指導(仕事系のサポート)を想像してしまいがちです。それもサポートの一つですが、精神的なケア(感情系のサポート)も含まれることに注意しましょう。

職場におけるコミュニケーションの質の向上も重要です。例えば、同僚との仕事のレビューや肯定的なフィードバックの交換は、お互いの評価と感謝を促進します。また、チームビルディングの取り組みや仕事以外での関わりを通じて、社員同士の関係を深めることも有効です。

信頼の構築も大事な要素です。互いの立場や価値観を理解し合うことで、信頼関係が芽生えます。信頼関係は、組織内自尊心を高めます。

さらに、メンタリングも対策になり得ます。メンターとの関わり合いは、安心感や信頼感を生み出し、自分の強みや成果を認識する手助けになります。メンタリングは、新人や若手社員だけでなく、幅広い社員に提供すると良いでしょう。

組織内自尊心が元々低い社員は、周囲の影響を受けやすいことが分かっています。このため、そうした社員に対して特に手厚いフォローが求められます。もちろん、組織内自尊心が高い社員に対しても、同様の働きかけを行えば、さらなる向上が期待できます。

組織内自尊心を高めるためには、周囲からのサポート、信頼関係の構築、そしてメンタリングが重要な役割を果たします。これらの要素を通じて、社員一人一人が自身の価値を実感することが可能です。

受け入れ時の注意点

続いて、組織内自尊心を考慮した新メンバーの受け入れについて話します。新しい環境に身を置く人は、心理的な変化を経験します。

一つは「ハネムーン効果」で、新しい役割や環境に対する高揚感があります。しかし、もう一つは「ハングオーバー効果」で、慣れてくると現実が見え、落胆とともに現実への適応が始まります。

この過程で、組織内自尊心が徐々に下がることがあります。実際、新しい環境に慣れる期間の中で、自尊心が低下しがちであることが指摘されています。

新しいメンバーに対して、適切なサポートを行い、自尊心が過度に低下しないよう工夫する必要があります。オンボーディングの研究を参考に、いくつかの方法を紹介します。

まず、新しいメンバーを放置せず、組織の目標やチームでの役割、業務の進め方を教えます。このことによって、「自分は受け入れられている」という実感が高まり、組織内自尊心の低下を防げます。

早期に達成可能な目標を設定することも良いでしょう。新しい環境ではすぐに成果を出すのが難しいこともあり、組織内自尊心が下がりやすいからです。小さな目標を掲げ、達成に向けた計画を立てることで、期待される役割や責任が明確になります。

受け入れ時のメンタリングも効果的です。組織をよく知るメンターが相談相手になり、アドバイスを提供します。メンターとの定期的なミーティングは、新しい環境における組織内自尊心の低下を防ぐのに役立ちます。

ポジティブ・フィードバックも効果的です。新しいメンバーはその環境に不慣れです。できたことに対する感謝や賞賛は成功体験となり、組織内自尊心の低下を防ぐことにつながります。

このように組織内自尊心は新しいメンバーが加わる際に注意が必要です。放置せず、メンタリングを提供し、小さな目標を立てて支援し、肯定的なフィードバックを行いましょう。

マネージャーにできること

マネージャーが部下の組織内自尊心を高めるためにできることに注目しましょう。特に、仕事の割り当て方に焦点を当てます。

割り当てる仕事の種類によって、組織内自尊心を高めることができるかもしれません。例えば、複雑性の高い仕事は、組織内自尊心を高める効果があります。

複雑性の高い仕事とは、要するに難易度の高い仕事です。始めから終わりまで関わり、成果に対してフィードバックが得られるような仕事を指します。このような仕事を通じて、社員は自分の能力を発揮し、成長することができます。

もう一つは、自律性の高い仕事です。これは、仕事の進め方や目標を自分で決められる仕事のことです。仕事を任せることで、社員は自己決定の感覚を持ち、責任感が高まります。その結果、組織内自尊心が向上します。

つまり、マネージャーは部下に難しく意義の感じられる仕事を任せると良いのです。ただし、仕事を任せた後は放置せず、適切なサポートも行いましょう。そうしないと、せっかく良質な仕事に取り組めても、組織内自尊心が高まる効果が相殺されます。

さらに、変革型リーダーシップも組織内自尊心を高める行動です。これには、部下の個別の事情を配慮し尊重することや、知的な刺激を与えることが含まれます。

例えば、部下一人ひとりの強みや関心を理解し、それに基づいて仕事を割り当てます。また、部下のキャリア目標に沿った機会を提供するのも大事です。

とはいえ、マネージャーにはすでに多くの負担があります。日本では特にプレイングマネージャーが多く、これらの役割をすべて果たすのは現実的に困難かもしれません。実現可能な範囲でこれらの行動を取り入れていきましょう。

それぞれの人にできること

組織内自尊心を高めるためには、マネージャーや周囲のサポートだけでなく、社員個々人にもできることがあります。

まず、自己改善に向けた行動を取ります。自分の能力を向上させることで、貢献を認識すると同時に、その範囲を広げることができます。

例えば、自分の働き方をリフレクションする時間を設けることや、キャリアやスキル開発の目標を設定し、それに向けて積極的に学ぶことが大切です。こうした取り組みが組織内自尊心を高めることにつながります。

次に、社内外の人間関係の構築も意識すると良いでしょう。良好な人間関係が築ければ、職場での居心地が良くなり、自分が価値ある貢献をしていると感じやすくなります。部門間のプロジェクトや社外イベントへの参加を通じて、新たな人脈を築くことも一策です。

他に、自分自身の仕事の生産性を高める努力も、組織内自尊心を高めるのに役立ちます。生産性が向上すると、より大きな貢献が可能になり、自分の価値を実感しやすくなります。

時間管理のテクニックを習得する、ワークライフバランスを保つ、テクノロジーを活用するなど、生産性を高めるための方法は多岐にわたります。

組織内自尊心を高めるためには、周囲やマネージャーの働きかけが重要ですが、個人の自主的な取り組みも同様に有用です。

組織内自尊心の落とし穴

組織内自尊心を向上させるための対策は、できるだけ早期に施すことが望ましいと言えます。自尊心が低いと、失敗を恐れたり、消極的になったりします。

このような状態が続くと、成果が上がらず自尊心がさらに低下するというネガティブなスパイラルに陥りがちです。組織内自尊心が低い人はこのスパイラルによってさらに組織内自尊心が低下する可能性があります。

大規模な組織では自尊心が低くなりやすいことが示されています。大企業では仕事が細分化され、自身の貢献を感じにくくなるためです。大企業において特に自尊心を高める取り組みを進める必要があります。

また、勤続年数が長い社員では、自尊心が安定しやすく、変動が少なくなります。高い組織内自尊心を持つ人はその状態を維持し、低い人は低い状態に留まる可能性があります。経験豊富な社員に対しては、粘り強いアプローチが必要になります。

しかし、組織内自尊心は万能というわけではありません。組織内自尊心を高める取り組みにはリスクも伴います。

組織内自尊心が過剰になると、自分が常に高いパフォーマンスを発揮しなければならないというプレッシャーを感じ、これがストレスの原因となり得ます。

自己犠牲を美徳と捉えるようになると、ワークライフバランスの崩壊につながることもあります。高い自尊心を持つ人だけが良い仕事を受け持ち、組織内での不公平感が生じることもあります。

他方で、自尊心が高い人は自分の考えに固執し、周囲からの助言に耳を傾けなくなるリスクもあります。これは貢献を引き下げたり、周囲との関係に亀裂を生じさせたりし、組織全体の柔軟性や協力性を損なってしまいます。

組織内自尊心は多くの利点を持ちますが、同時に潜在的なリスクも含んでいます。組織内自尊心を向上させる際には、これらのリスクを理解し、適切に管理することが重要です。

Q&A

Q:組織内自尊心は、組織コミットメントなどの類似概念とどう異なっていますか?

組織内自尊心は、組織における自分に対する評価であり、要するに、「自分自身をどう捉えているか」という視点が中心になります。対して、組織コミットメントは組織への愛着であり、組織に対して肯定的な感覚を持っていることを示します。

つまり、自分自身に向けられる感覚が組織内自尊心であるのに対し、組織コミットメントは組織に対する感覚である点が異なっています。

Q:新人受け入れの際には、OJTトレーナーを設けていますが、メンターは別でアサインした方がいいのでしょうか?

OJTトレーナーの役割と機能は各社で異なっていますが、一般的には仕事に関するアドバイスを提供することが多いでしょう。これは私の講演における表現で言えば、仕事系のサポートです。

対して、感情系のサポートにはメンターが向いています。自分を評価する立場にない、直接の利害関係にない人をメンターにすると、より安心して話ができるからです。斜めの関係にある人とのコミュニケーションには特有の利点があります。

Q:管理職がまさに落とし穴にはまっており、リスクの3点が全て該当しています。どうすれば良いでしょうか。

初めに、マネージャーが組織内自尊心が本当に高いかどうかを考えてみても良いかもしれません。もしかすると、組織内自尊心が低く、不安に駆られた末の防衛的な行動であるという可能性もなきにもあらず、だからです。

その上で、組織内自尊心が高いと分かったとします。組織内自尊心がもたらすリスクの要因の一つは、自分を客観的に見ることができなくなることです。

そこで、マネージャーに自分自身を俯瞰的に見る機会を設けると良いでしょう。360度評価やセルフリフレクションが挙げられます。客観的なフィードバックを提供してくれるメンターやコーチを持つことも手段です。

Q:メンターが大事ということはよく聞く話ですが、良いメンターになるための学習方法や研修というのはあるのでしょうか?

良いメンターになるためには、確かに知識や経験が必要ですが、それだけでは不十分です。他者を支援したいという意欲を持つことが大事です。もし他者の支援に関心がない場合、その人が良いメンターになるとは思えません。

例えば、メンターが持つと良い相手の話を聞くスキルは、研修などを通じて学ぶことができるでしょう。ただし、人を支援する気持ちが根底にないと、いくらスキルを身に付けても、そのスキルを発揮しようとせず、効果的なメンターにはなりにくいのではないでしょうか。


登壇者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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