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コラム

副業の効果と企業に求められる対応

コラム

働き方改革において、多様な働き方の一例として副業が取り上げられ、奨励されたことをきっかけに、副業に対して社会的な関心が集まるようになりました。

国際的には、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより在宅勤務が広がったことで、副業が増えたとも言われています[1]

副業とは、端的に言えば、主たる仕事、すなわち本業の他に追加的に仕事を行うことを指します。副業は、いわゆる正規雇用だけではなく、非正規雇用や業務委託などにも適用される考え方です。

本コラムでは、副業に焦点を合わせ、副業を解禁する企業が少しずつ増える中で、より良い状態で副業に取り組むために何が必要か、社員が副業に取り組む意義とは何か、企業としてどのようなサポートを行えば良いかについて述べていきます。

副業への態度の違い

日本において副業の必要性が叫ばれているのには、理由があります。一つは、少子高齢化の影響で労働力人口が減る中、企業間の採用上の競争が激化しているのに対し、副業が進めば、労働力確保の新たな選択肢となるだろうという背景があります。

また、従来は収入補填の手段としての副業という捉え方が一般的でしたが、新たなスキルや経験を得るキャリア開発の手段としての副業が注目されています。これは自律的なキャリア形成が求められる時代の要請に合っています。

とはいえ、副業に対して賛成する企業もあれば、前向きではない企業もあります。社員が副業に積極的に取り組む企業の傍らで、副業禁止をあえて維持する企業もあります。

こうした違いがなぜ生まれるのか、考えられる理由の一つは、副業が疲弊する場合と学び豊かなものになる場合の両方があり得るからです。

同じ副業に従事していても、あるときにはプラスになる一方で、別のときにはマイナスになる可能性があるのです。副業に前向きな企業は前者に目を向け、前向きではない企業は後者を懸念しています。

マイナスになる副業

副業がなぜマイナスになるのか、この問題について、副業に関する多数の研究を整理し、そのメカニズムを迫った論文をもとに考えてみましょう[2]

人の持つ資源は無限ではありません。例えば、1日の時間は24時間を超えることはありませんし、エネルギーも無尽蔵にあふれているわけではありません。

本業に加えて複数の仕事を行うと、資源の消耗が進み、やがて不足状態に陥ってしまう可能性があります。これが、副業がマイナスになる際の主要な考え方です。

実際に、副業をする人ほど仕事と生活の間の葛藤を感じやすいという研究があります[3]。仕事と生活の葛藤とは、職業上の要求とプライベートの要求が衝突し、両方を満たせない状態を意味します。

例えば、本業に加えて副業を行うことで、プライベートの時間が減ってしまい、家族の役割を担ったり、趣味に取り組んだり、休息したりすることが難しくなります。あるいは、仕事後の副業に体が疲れて、本来プライベートで果たすべき責任を果たせなくなることもあり得ます。

特に家族を持ちながら副業を行う人は、副業が仕事と家庭の葛藤を高めて、パフォーマンスの低下やストレスの上昇につながることが分かっています[4]

副業がマイナスの結果につながりやすいのは、副業によって時間的な制約が厳しいケースでしょう。これは時間という資源が副業によって不足し、良くない事態を引き起こすということです。

副業がプライベートの時間を侵食し、自分のやりたいことや、やるべきことができなくなったら、副業が本人を苦しめる要因になります。

海外においても、副業に対して必ずしも良いイメージがあったわけではありません。副業を指す言葉の一つに「ムーンライティング」というものがあります。

ムーンライティングには、月明かりの下で、すなわち本業が終わった後の夜に、秘密裏に行われる仕事というニュアンスがあります。本業の雇用主に黙って、隠れて副業に従事している印象が付随するのです。

プラスになる副業

副業がプラスの効果をもたらすこともあります。副業を推進する企業では、副業のこのような側面を光に当てているのだと思います。

先ほど、人の資源は有限であり、副業を行うと資源不足になる可能性があるというメカニズムを紹介しました。

しかし、副業においては資源を消費するだけではなく、新たな資源を手に入れることもできます。副業は多様な資源を得る機会とも言えます[5]

副業を通じて得られる資源には、もちろん収入というものが含まれますが、それだけではありません。

例えば、キャリアに役立つ新たな経験を積むことができ、それによってスキルセットが拡充されます。また、本業では出会わない人との関係を構築できます。こうした人脈も働く上で重要な資源となります。とりわけ、異なる領域の専門家との出会いは貴重で、将来、自分を助けることになるかもしれません。

本業に加えて副業を行うと、確かに忙しくなります。しかし、忙しい中で、いかに効率的にタスクを遂行するかを考えることにより、時間管理能力が向上する可能性もあります。

新しい情報や発想も副業を通じて得られる資源であり、それらは創造性を刺激し、場合によってはこれまでにない解決策をもたらすこともあります[6]

自分の成長を目的に副業に取り組んでいる場合、こうした資源獲得による好影響を受けやすいと考えられます。成長にはまさに資源の獲得が伴います。

自分の価値観や関心に基づいて副業を選んでいる場合も、副業がプラスになりやすいものです。自分にとって有益な資源を得られる可能性が高いからです。

総じてプラスになる

副業は、ときにプラスの影響をもたらしますが、マイナスの影響を及ぼす可能性もあります。新しいことに開放的な人は、リスクを聞いても積極的に副業に取り組むかもしれませんが、リスクを避けたい人は副業を避けたい気持ちになるかもしれません。

しかし、安心していただきたいのは、副業のプラスとマイナスの効果を検討した研究によると、プラスの効果が大きいことが分かっている点です[7]。副業に関連するプラスとマイナスの作用を比較すると、プラスの作用の方が大きいのです。

ただ、これまでの議論は、副業が「個人」にとってどのような影響を与えるかという観点からのものでした。それでは、副業は「企業」にとっても意味があるものなのでしょうか。

ここでは、企業に対する副業の意義に着目しましょう。企業にとっての副業のリスクについては、情報漏洩や労務管理の煩雑さ、過重労働による健康被害など、すでに広く知られているからです。

副業をめぐって企業は、二つの関わり方をします。一つは、自社の社員が他社で副業を行う場合、これは「副業を送り出す企業」と言えます。もう一つは、副業をする人を自社で働かせること、これは「副業を受け入れる企業」と言えます。

このうち、副業を送り出す企業にとって、副業はどのような価値を持つのかを考えてみましょう。

副業を送り出すメリット

副業に送り出す企業にとって、副業のメリットは大きく分けて4つあります。社員が他社で副業することによって得られるメリットをそれぞれ紹介しましょう。

スキルを高める機会になる

先ほど述べたように、副業はスキルを高める機会になります。副業を通じて、社員は本業では経験できないような仕事をし、問題解決能力を高めることができます。

例えば、自社ではプッシュ型の営業に従事している社員が、副業では小さなウェブデザイン会社で営業のサポートを行う場合を考えてみましょう。

副業先の会社は小さいため、営業活動だけでは時間を持て余すことがあり、ウェブデザインの作業も一部手伝うことになるかもしれません。結果、良いウェブサイトを作るための知識を獲得できる可能性があります。

企業が副業以外の方法で、社員に本業とは異なるスキルを身につけさせようとする場合、研修などを実施する必要があります。ところが、それには一定の予算がかかります。

副業を通じて社員が自主的に学習を積むことで、このようなコストを直接投じることなく、社員の成長を促すことができます。副業は企業にとって効率的な教育機会になるのです。

エンゲージメントが向上する

副業においては普段と異なる人々と交流する機会があり、新しいアイデアを得ることもあるでしょう。このような刺激は、社員が本業にも積極的に向き合うことに結びつき、エンゲージメントが高まる要因となります。

さらに、副業での仕事に慣れると、職業人生に対する自信が湧いてきます。これは専門的には自己効力感と呼ばれ、エンゲージメントを上昇させる効果があることが、これまでの研究で明らかになっています[8]

エンゲージメントを高めることを、人材戦略の一つとして掲げる企業が増えています。エンゲージメントが高い社員は、高いパフォーマンスで満足して働くことが多く、そのことは企業にも好影響を及ぼします。

副業がエンゲージメントを高める可能性を秘めていることは、企業にとって大きなメリットと言えるでしょう。

採用上のプロモーションになる

副業に注目が集まる背景には労働力不足がありますが、副業は採用においても有効に機能します。副業を認め、推進することで、優秀な人材を確保しやすくなります。なぜなら、副業を進める企業に対して求職者はポジティブな印象を抱くからです。

例えば、求職者は副業を推進する企業に対して「働き方の柔軟性がありそう」と感じます。企業が副業を進めれば、多様な働き方を選択できることを意味し、その背後には働き方の柔軟性があると求職者は推測するのです。

また、副業を許可することは、社員の自己管理能力や仕事に対する姿勢を信じていることを示します。求職者は「この会社は社員を信頼している」と考えるでしょう。

副業で社員が自分の専門性を広げる機会を得ることは、企業が社員の成長を大切にしていることを意味します。副業では、異なる業種や職種の経験を積むことも可能であり、これは求職者にとって魅力的です。

このように、副業を推進することは、成長やキャリア、そして柔軟性を重んじる求職者の目を引くことになり、採用上のメリットもあるのです。

組織変革や事業開発につながる

異なる業界や企業での経験は、新しい事業のヒントを提供する可能性があります。すなわち、副業は自社の事業開発につながることもあるのです。

本業の中にいると皆が似たような情報に接する傾向にありますが、副業においては本業で触れないタイプの情報に触れる機会があります。これは、本業にとっても新しい視点を提供する可能性があります。

これは小さな例かもしれませんが、小売業の社員がIT企業で副業を行い、ECサイトに関する最新動向を知ることができれば、本業のECサイトに追加すると良い新たな機能に気づくこともあるでしょう。

事業開発だけでなく、人や組織のマネジメントに関する示唆も得られます。他社における良い取り組みを知れば、それを自社に取り入れて改善を図ることができます[9]

例えば、最近ダイバーシティ推進に力を入れ始めた大企業で働く社員が、多様な属性・価値観を持つメンバーから構成されるベンチャー企業で副業を行った場合を考えてみましょう。そこにおいて、会議運営のノウハウを学び、それを本業に取り入れることでマネジメントの改善を図ることができます。

企業にできるサポート

副業を送り出す企業にとってのメリットを最大限享受するためには、副業をする社員を適切にサポートすることが不可欠です。では、どのような支援が効果的でしょうか。6つの支援策を紹介します。

  • キャリア開発支援:社員が自分のキャリアを振り返り、今後の展望を立てる機会を提供しましょう。自身のキャリアにおける副業の位置づけを理解することで、副業をより充実させることができます。例えば、公開型のキャリア研修への参加を促す、キャリアカウンセリングを利用する、などが考えられます。
  • 柔軟な働き方の実現:働く場所や時間の裁量を高めることがおすすめです。柔軟な勤務時間やテレワークの制度を導入すれば、本業と副業のバランスを取りやすくなります。フレックスタイム制や在宅勤務の制度を整備することも一案です。
  • ガイドラインの策定:副業・兼業を行う際のルールや社内の承認手続きを明確にし、それらをガイドラインとしてまとめましょう。副業に意欲を持った際にガイドラインを読むことで、望ましい副業のあり方を学ぶことができます。副業をしている人は、本業のみの人と比べて会社からの情報が不足しているほど、会社や仕事への満足度が下がりやすいという報告もあります[10]
  • 成功事例の共有:副業をうまく進める社員を探し、その人の実践内容をヒアリングして、記事にまとめた上で社内に共有すると良いでしょう。共有された本人が喜びますし、さらに、他の社員の副業への意欲が高まります。身近な成功事例は自信を促し、行動の変容をもたらすという研究もあります[11]
  • コミュニティの形成:副業する人を孤立させないことが重要です。副業に関する情報交換を肯定的に行える社内コミュニティを作ると良いでしょう。副業の経験者が集い、交流することでつながりが生まれ、それは社員の引き留めにも貢献します[12]。コミュニティでは副業で得た知見を話す発表会を設けることも良いでしょう。
  • 健康管理の徹底:副業は楽しいものですが、あまり没頭し過ぎると健康を害する恐れがあります。適度なバランスを保つことが大切です。健康アプリ、ジム利用、食事改善などのウェルネスプログラムを充実させ、副業に取り組む社員の健康増進を行うことも効果的です。

脚注

[1] Bhardwaj, T. (2022). Moonlighting and its negative impact on the employee and the employer. Financial Express, October 29.

[2] Campion, E. D., Caza, B. B., and Moss, S. E. (2020). Multiple jobholding: An integrative systematic review and future research agenda. Journal of Management, 46, 165-191.

[3] Webster, B. D., Edwards, B. D., & Smith, M. B. (2019). Is holding two jobs too much? An examination of dual jobholders. Journal of Business and Psychology, 34(3), 271-285.

[4] Mellor, S., and Decker, R. (2020). Multiple jobholders with families: A path from jobs held to psychological stress through work-family conflict and performance quality. Employee Responsibilities and Rights Journal, 32(3), 1-21.

[5] Campion, E. D., Caza, B. B., and Moss, S. E. (2020). Multiple jobholding: An integrative systematic review and future research agenda. Journal of Management, 46, 165-191.

[6] Caza, B. B., Moss, S., and Vough, H. (2018). From synchronizing to harmonizing: The process of authenticating multiple work identities. Administrative Science Quarterly, 63(4), 703-745.

[7] Sessions, H., Nahrgang, J. D., Vaulont, M. J., Williams, R., and Bartels, A. L. (2021). Do the hustle! Empowerment from side-hustles and its effects on full-time work performance. Academy of Management Journal, 64(1), 235-264.

[8] Halbesleben, J. R. B. (2010). A meta-analysis of work engagement: Relationships with burnout, demands, resources, and consequences. In A. B. Bakker (Ed.) & M. P. Leiter, Work engagement: A handbook of essential theory and research. Psychology Press.

[9] 石山恒貴・伊達洋駆(2022)『越境学習入門:組織を強くする「冒険人材」の育て方』日本能率協会マネジメントセンター。

[10] Kottwitz, M. U., Hunefeld, L., Frank, B. P., and Otto, K. (2017). The more, the better?! Multiple vs. single jobholders’ job satisfaction as a matter of lacked information. Frontiers in Psychology, 8, 1274.

[11] Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84, 191-215.

[12] Mitchell, T. R., B. C. Holtom, T. W. Lee, C. J. Sablynski, and M. Erez. 2001. Why people stay: Using job embeddedness to predict voluntary turnover. Academy of Management Journal, 44, 1102-1121.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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