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コラム

組織を変える・組織が変わる:組織変革の理論と実践(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、202312月にセミナー「組織を変える・組織が変わる:組織変革の理論と実践」を開催しました。

外部環境が変化すると、それに適応するために組織も変わる必要があります。しかし、組織を変えるのは、とても難しいことです。

組織を変えようとする際、何が起きるのでしょうか。どうすれば、組織を変えることができるのでしょうか。

ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆が、「組織変革」について解説しました。人や組織、カルチャーを変えようとしている方におすすめの内容です。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

1.組織変革の際に抵抗が起こる理由

本セミナーでは、組織変革について3つの側面を掘り下げていきます。まず、組織変革に抵抗が生じる理由を解説します。次に、組織変革の初期段階に重要となる考え方について説明します。最後に、組織変革を進めるための9つのポイントを紹介します。

組織変革を進めようとすると、しばしば反発や抵抗が起きます。なぜ、そうしたネガティブな反応が生まれるのでしょうか。まずは、そのことを解説しようと思います。

組織は環境の中で生き残ろうとします。その中で、様々な形で試行錯誤します。うまくいかないことは棄却し、うまくいくことを続けながら、組織は少しずつ着実に学習していくことで、環境に適応します。

例えば、新型コロナウイルス感染症がパンデミックを引き起こしました。社員がオフィスに集まることが困難になりました。そうした変化を受けて、テレワークをはじめとした柔軟な働き方を導入する企業が増えました。

さらに、環境に安定的に適応するために、組織は規則、文化、人材を整えていくことになります。規則とは、公式・非公式の手続きや枠組み、文化とは、共有された価値観や慣習、人材とは、必要な能力とスキルを持つ社員のことを指します。

例えば、テレワークを取り入れる際、様々な規則を整える必要があります。テレワーク可能な日数や条件の検討、ウェブ会議のルール設定、チャットツールの整備、セキュリティポリシーの策定などがあります。

テレワークに合った文化を育むことも重要です。多様な働き方を尊重する文化の醸成、ライフスタイルへの相互配慮、ワークライフバランスの重視、タイムマネジメント研修の提供などが含まれるでしょう。

さらに、テレワークで活躍する人材を採用することも求められます。自己管理が得意な社員、オンライン・コミュニケーション能力が高い社員、新しいテクノロジーに順応する社員、目標に向かってコンスタントに成果を出せる社員などです。

規則、文化、人材が整えば、組織はより安定的に環境に対応できるようになります。これらが当たり前のものとなることで、再現性の高い成功を収める組織になります。

しかし、一度学習した方法を未来永劫使えるわけではありません。ときには、既存の方法を変える必要が出てきます。例えば、新型コロナウイルス感染症が5類に移行した際、テレワークの割合を減らそうとする企業が出てきました。

組織を変えるということは、自分たちがこれまでに学んできた規則、文化、人材に対する挑戦となります。既存の方法に対して、「変えよ」と言われると、抵抗感を持つのは自然な反応です。

人には「現状維持バイアス」があります。現状から離れることは損失と感じ、現状に留まろうとする傾向があるのです。組織変革は現状維持バイアスと衝突します。

また、慣れ親しんだ方法を変える際、人は情報不足に襲われます。これを専門的には「不確実性」と呼び、不確実性はストレス源になります。そして、不確実性が組織変革への反発や抵抗を引き起こします。

しかし、抵抗は学習の副作用とも言えます。組織変革においてネガティブな反応が起こるのは、組織が学習してきた証拠でもあります。逆に、抵抗がない場合は、再現性の高い成功パターンが存在しないことを意味するかもしれません。

したがって、組織変革における反発や抵抗は、組織がうまく機能していた証拠でもあります。そのため、これらの反応があった場合でも、まずは「良かった」と安堵することが大切です。

2.現実からの回避より未来への接近

組織変革を進める際、しばしば「切迫感を生み出すことが重要」と指摘されます。すなわち、「現状には問題があり、このままでは大変なことになる」という感覚を生じさせなければならないという考え方です。

切迫感は、現状をより危険に見せ、変革の必要性を感じさせるために効果的であるとされていますが、これは本当なのでしょうか。

実際のところ、切迫感が高まると、社員の不安やストレスが増し、組織変革に対する抵抗が強くなります。切迫感は逆効果になる可能性があるのです。

組織変革には2つの動機づけが関係しています。一つは現状から遠ざかりたいという「回避動機づけ」、もう一つは望ましい状態に近づきたいという「接近動機づけ」です。

回避動機づけに基づく変革はうまくいかないと考えられます。変革を進めるには、切迫感を高めるよりも、未来に対する期待感を高める方が効果的です。そのためには、社員にとって魅力的な未来を描く必要があります。

例えば、社員のアイデアを積極的に取り入れると良いでしょう。参加型のワークショップを通じてアイデアを集めるなどの取り組みが有効です。

また、社員が主人公となるストーリーを描きます。変革を通じてどのように成長し、成功を収めるかを伝えることも重要です。さらに、社内外の成功事例を共有し、視覚的な表現を用いて未来を具体的にイメージさせます。

組織変革は、社員の心に響く未来を描くことから始まります。自分たちの話として受け取り、自分たちにも恩恵があり、わくわくすると感じてもらうことが、成功への鍵となります。

3.組織変革を進める際の9つのポイント

組織変革を進める上で、特に重視すべき9つのポイントを挙げます。これらのポイントのうち、実践できるものから実践していただくことで、組織変革のプロセスがスムーズに進む可能性が高まります。

①未来を繰り返し伝える

変革後の未来像を、一度ではなく繰り返し伝えることが重要です。会議、メール、チャットなどの様々な手段を通じて何度も共有することで、社員の理解を得やすくなります。

②変革の賛同者を見つける

初期段階では、変革に賛同する人を探し、彼ら彼女らを通じて共感と支持を広げることが効果的です。変革のメリットを理解し、積極的に支持する社員を見つけ、他の社員に変革の必要性を共有してもらうことで、より広範な支持を獲得できます。

③経営層が範を示す

経営層が変革の必要性を理解し、自らの行動でそれを示すことが不可欠です。例えば、経営層が変化を受け入れようとしていることを、社内報を通じて共有することで、社員にも変革への意識が芽生えます。

④小さな目標を立てる

達成可能な小さな目標を設定し、いわゆるショートウィンを目指します。大きな変革の目標を小分けにして、進捗を感じやすくすることで、社員のモチベーションを維持しやすくなります。

⑤個人目標に落とし込む

社員が変革にどのように貢献できるかを明確にし、個々の役割を設定します。社員一人一人が変革における自分の役割を理解し、それに沿って行動できるようにすることで、変革が進行します。

⑥成果を可視化し、追跡する

変革の進捗状況を可視化し、定期的に追跡することが重要です。進捗ボードの設置や定期的なミーティングを通じて、社員が変革の進行をリアルタイムで把握できるようにします。

⑦小さな成功を祝う

小さな成功を見逃さず、祝うことが大切です。例えば、目標を達成したチームや個人を表彰するなどの方法があります。これにより、社員の士気を高め、変革への積極的な参加を促進することができます。

⑧過去に敬意を払う

過去の方法を「問題のある例」として否定していては変革が進みにくくなります。過去の方法は学習の成果です。それらに敬意を払いながら、新しい方向へと進みましょう。

⑨トレーニングを準備する

変革のためには能力開発も求められます。そこで、トレーニングをセットに進めていくのがおすすめです。例えば、新しい方法を学ぶ機会や、必要なスキルを獲得する研修を準備すると良いでしょう。

これらの方法はすべての企業がすべて実践できるわけではないでしょう。自社では、どれが実践しやすいかを考え、取り入れられるものから取り入れてみてください。組織変革が少しでも前に進みやすくなることを願っています。

Q&A

Q:組織変革に賛同している人をどう見つければ良いですか。表面上は賛同しているように見える人もいます。本当の賛同者を見極めるコツはありますか。

組織変革に賛同する人を見つけるには、まず変革後の未来をできるだけ広く共有することが重要です。異なる役職や部署、場合によっては社外の人にも伝えていきます。

変革後の未来について話したら、聞き手の反応を観察しましょう。ポジティブな反応を示すだけでなく、具体的な協力を申し出る人は、本当の意味で賛同者であると言えます。

もし賛同者が見つからない場合は、まだ十分に多くの人にアプローチしていないか、提案された変革が組織の現在の方向性と異なることが原因かもしれません。この場合、さらに多くの人にアイデアを共有するか、変革自体を再検討する必要があります。

Q:ワークショップで主体的な意見を引き出すためのアプローチはありますか。どのようにして参加者を活性化すれば良いでしょうか。

ワークショップで意見を引き出すために、参加者が日常の環境や思考から離れるようにすると良いでしょう。新しい場所でワークショップを行う、普段あまり関わらない人々との交流を促すなど、新鮮な環境を提供しましょう。

ワークショップの中で、一時的に制約や予想される障害を忘れる時間を設けることも一策です。これにより、参加者はより自由な発想を持ちやすくなります。

Q:コッターの変革プロセスについてどう評価していますか。今日でも有効なアプローチでしょうか。

まず、コッターの変革プロセスは組織変革に関する重要な知見の一つであり、一定の価値を持っていると思います。ただし、切迫感を起点としている点は、本日お示しした私の見解と異なっています。

変革を推進するためにはポジティブな動機付けがより効果的だというのが、本日のお話でした。コッターのアプローチは、緊急性や危機感を感じさせることで変革の必要性を伝えますが、人は恐怖や不安よりも、希望や期待、魅力的な未来によって動機付けられるものではないでしょうか。

変革プロセスにおいては、ポジティブな未来を提示し、参加者が変革に対して自ら関与しやすい環境を作ることが重要です。このことは持続的な成果をもたらすことにもつながるはずです。


登壇者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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