2023年5月1日
組織サーベイで自由記述の質問を作る際のポイント:うまく尋ね、分析し、活かす方法(セミナーレポート)
ビジネスリサーチラボは、2023年4月にセミナー「組織サーベイで自由記述の質問を作る際のポイント:うまく尋ね、分析し、活かす方法」を開催しました。
組織サーベイで用いる質問の一つに「自由記述」の形式のものがあります。自由記述の質問は、意外な意見の収集や社員の本音を探るのに役立つため、人気があります。
ただし、社員がせっかく時間をかけた回答を適切に分析できず、一読で終わってしまうこともあります。また、記述内容がばらつき、後で読むのが困難な場合もあります。
本セミナーでは、ビジネスリサーチラボ 代表取締役の伊達洋駆が講師を務め、自由記述質問の作成ポイント、分析方法、活用方法を紹介しました。
※レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。
執筆者
伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)など。
1.自由記述が有効に機能する場面
まず、調査には仮説検証型と仮説構築型の2つのタイプがあるというところから始めましょう。
仮説検証型は、既存の仮説を検証する目的で行われ、定量データを集めるために、選択式の質問を用いることが多いです。
一方、仮説構築型は新たな仮説を構築する目的で行われ、定性データを集めるために、本セミナーのテーマである、自由記述の質問が用いられます。
自由記述が効果的な場面は主に2つあります。1つ目は、回答の選択肢を挙げにくい場合です。例えば、職場のコミュニケーション向上策が未知の場合、自由記述で意見を聞くことが有効でしょう。
2つ目は、回答の選択肢が多すぎる場合です。福利厚生の希望など、選択肢が多すぎると回答者の負荷が高くなって精度が落ちるため、自由記述が適しています。
2.自由記述の質問項目を作る際の注意点
では、自由記述の質問項目を作る際のポイントについてお話しします。
自由記述の質問項目は簡単に作れそうですが、実際には思ったような回答が得られないことがあります。そこで、自由記述の質問項目を作る際に気をつけるべき7つのポイントを紹介します。それぞれのポイントについて、問題とその解決策をお話しします。
質問項目を具体的なものにする
第1に、質問項目が曖昧でないことです。曖昧な質問では、回答者がどのような回答を求められているのかわかりません。例えば、「職場の雰囲気についてどう思いますか」という質問よりも、「上司と部下のコミュニケーションについて、改善すべき点を教えてください」という具体的な質問が良いと言えます。
一つの質問では一つのことを聞く
第2に、一つの質問項目に複数の意味内容が含まれていないことです。複数の意味内容が含まれると、回答者がどれに答えればいいのかわからず、分析も難しくなります。例えば、「会社の福利厚生について、良い点や改善点を教えてください」という質問ではなく、「会社の福利厚生について、改善点を教えてください」と、一つのことだけを尋ねるようにしましょう。
専門用語を避けて質問項目を作る
第3に、専門用語を避けることが大切です。専門用語を使うと、理解できない人にとっては良い回答が得られないことがあります。例えば、「オンボーディングプロセスに対する要望はありますか」と聞かれた場合、オンボーディングの意味が分からない人もいるでしょう。そのため、求めている回答とは違った結果が得られることがあります。
人事領域でよく使われる言葉でも、一般の社員には理解されないことがあります。「キャリア自律」などです。質問をする際は、一般的な言葉を使って回答者に理解できるようにしましょう。
専門用語を避けるために、「オンボーディング」ではなく「入社後のサポートについて、良かった点を教えてください」と尋ねることができます。これにより、入社後のサポートについて具体的な回答が得られます。略語も使わず、すべての社員が理解できる言葉を使うのがおすすめです。
特定の人しか回答できない質問項目にしない
第4に、回答者が自分の立場や経験に基づいて回答できる質問項目にすることが重要です。例えば、「部下の育成において工夫している点は何ですか」という質問は、部下がいない人には答えられません。回答者の職種や役職、経験を考慮して質問を考えることが大切です。
全員に質問を投げる場合は、全員が回答できるようにしましょう。例えば、「キャリアに対する会社のサポートについて改善点を教えてください」という質問は、部下がいなくても回答できます。
近年、測定における「公平性」が重視されるようになっています[1]。特定の人を排除するような質問項目は、自由記述においても問題です。
誘導的な質問項目は避ける
第5に、誘導的な質問が問題です。例えば、「仕事上のストレスを減らすために、どのように残業を減らすべきだと思いますか?」と聞くと、偏ったデータが得られます。この質問では、残業減らすことがストレス減少の前提になっています。代わりに、「あなたの職場で仕事上のストレスが発生する要因は何ですか」と聞くと、より適切なデータが得られます。
短く端的に尋ねる
第6に、質問が長いと理解が難しくなり、適切な回答が得られません。例えば、「最近の組織改編や新しいポリシーが導入されたことを考慮して、あなたが現在の職場環境でどれだけ快適に感じているか、また、何が改善されるべきだと思うかについてお聞かせください」という質問はわかりにくいと言えます。短く具体的な質問に変えることで、良質な回答が得られます。
回答の分量や方法を示す
第7に、回答すべき分量や方法がわからないと、回答者は困惑します。例えば、「最近のプロジェクトで印象に残った出来事を教えてください」と聞くと、欲しい回答が得られません。代わりに、「あなたの業務で、最も効率化が図られた実例を一つ教えてください(100文字程度)」と指定すると、具体的な回答が得られます。
ここに実は、効果的な質問をする際のポイントが含まれています。それは、「最も」という言葉を使うことです。「最も良かったこと」や「最も悪かったこと」などを尋ねる形式を、臨界事象法と呼びます[2]。「最も」という言葉がついていることにより、思い出しやすくなり、具体的な回答を引き出せます。
これまでに紹介した7つのポイントは、自由記述の質問項目を作成する際に重要である一方で、私が見てきた限り、十分に守られていないケースも少なくありません。ぜひ皆さんの会社の組織サーベイにおける自由記述の質問項目をチェックしてみてください。
さらに、質問のクオリティを向上させるために、自分自身で質問に回答してみることが重要です。また、周囲の人にも回答してもらいましょう。そうすることで、質問が適切に機能しているかを確認することができます。
3.自由記述のデータを分析・活用する方法
回答データを分解して分類する
続いて、自由記述の回答データを分析する際の原則をお話します。大事なのは、「分解」と「分類」です。まず、回答データを文章などの単位で分解し、その後、似たもの同士をグループ化して分類していきます。
例えば、「上司からのサポートで、最も嬉しかったものを挙げてください」という質問があったとします。得られた回答を一文ずつ切り分け、それらをカテゴリーに分類していくことで、どのようなサポートが有効だったのかが明確になります。この方法で回答データを分析することで、具体的なアクションが見えてくるでしょう。
カテゴリーとその定義を検討する
回答の中に挙がっている情報を、自分の感覚でざっと理解するよりも、分解して分類することで、見えてくるものがあります。
なお、分解と分類を進める際には、カテゴリーをきちんと設定する必要があります。例えば、時間支援、動機支援、進行支援、成長支援といったカテゴリーです。カテゴリーを設定し、それぞれに名前を付けることです。
カテゴリーの意味範囲を明確にするために、定義も付けると良いでしょう。例えば、時間支援という名称の隣に、「効率的なタスク管理とスケジューリングを促す行動」と定義を書けば、カテゴリー内の文章との整合性もとりやすくなります。
分解と分類はデータとカテゴリーを行ったり来たりしましょう。データに戻ってカテゴリーを修正し、カテゴリーから再びデータの分け方を変えてみるという具合です。
複数名で分類を洗練させる
分類をさらに精緻に行うこともできます。カテゴリーの種類がある程度見えてきたら、質問項目に対する回答データを分解した後、復数名で分類を行います。
分解された文章を複数名で別々に分類していくと、同じ文章が、異なるカテゴリーに入る場合もあります。このときにカテゴリーへの分類の一致率を求めましょう。例えば、カッパ係数という指標があります。
一致率が高ければ、分類はうまくいっているということですが、低い場合には、分類の基準やカテゴリーを見直す必要があります。
他のデータと組み合わせて重要度を評価する
カテゴリーを洗練させ、分類の方法を改善したら、自由記述のデータを他のデータと照らし合わせることもできます。例えば、社内で行ったエンゲージメント調査のデータと組み合わせて、エンゲージメントが高いグループと低いグループで、カテゴリーの回答数が異なるかを見ます。
この例では、成長支援というカテゴリーでエンゲージメントが高いグループの回答数が顕著に多いことがわかります。エンゲージメントが低いグループでは、成長支援の回答数が少ないため、成長支援がエンゲージメントと関係している可能性があります。
自由記述の回答データを他のデータと組み合わせて分析すると、カテゴリーの重要度を評価できるかもしれません。
例えば、上司からの支援に関する4つのカテゴリーのうち、どれが最も重要かを考えることができます。重要度によって優先順位を検討すれば、「まずは成長支援に対策を講じよう」という判断ができます。例えば、上司から部下への成長支援を促すために、次のような対策が考えられます。
- 部下のスキルやキャリア開発を支援する方法を学べる研修を上司に提供する
- 成長支援の成功事例を社内で探し、具体的な内容を上司に共有する
- 上司の成長支援活動に対する評価基準を設け、成長支援への意識を高める
- 部下のキャリア目標に応じたメンターを紹介することを後方支援する
属性と組み合わせて対策のターゲットを探る
優先順位が明確になると、どのカテゴリーにリソースを投入すべきかが見えてきます。さらに、属性のデータと組み合わせることで、どの層に対策が必要かわかります。
例えば、成長支援が重要だと分かったとして、それを部門ごとに比較してみます。すると、人事部や開発部は多くの人が関与しているのに対し、営業部は少ないことが分かります。これは、営業部に成長支援の対策が必要かもしれないことを示唆しています。
自由記述の回答データは、分解し、分類し、他のデータと組み合わせることで、様々な含意が導き出せます。単純に回答データを眺めるのではなく、回答データを分解して分類し組み合わせてみましょう。
自由記述の回答データに関する他の分析方法
他にも、回答データの分析方法には様々なものがあります。例えば、頻出語を算出する方法です。回答データでよく出てくる語を特定するものです。例えば、「上司からのサポートで、最も嬉しかったものを挙げてください」という質問に対し、どのような語がよく使われたかを集計します。
「フィードバック」という語がよく使われていると分かれば、社員は上司からのサポートの中でもフィードバックに関心があることがわかります。その場合、上司から部下へのフィードバックを促す対策が良いかもしれません。
さらに、共起ネットワークと呼ばれる分析方法があります。これは、どの語とどの語が一緒に使われる傾向があるかを分析する方法です。
例えば、上司からのサポートで、「フィードバック」「具体的」「行動」という3つの語が共起していることが分かったとします。具体的な行動に対するフィードバックが効果的かもしれません。
このように自由記述の質問は、適切に分解し、分類し、組み合わせて分析することで、様々な有益な情報が得られます。しかし、質問数が多すぎると、回答者の負担が大きくなり、回答が得られなかったり、アンケートから離脱してしまったりします[3]。そのため、質問数は2~3問程度に抑えることをおすすめします。
Q&A
私の講演は終わったので、ここからはいくつかのご質問に答えていきます。
まず、「選択肢+その他(自由記述)」という質問形式の有効性について質問がありました。その他の回答で新たな視点が得られなければ、外しても良いでしょう。どうしても尋ねたい場合は、自由記述の質問項目として独立させた方が使いやすいと思います。
続いて、組織サーベイにおける自由記述の質問項目について、回答者の文章表現力が十分でない場合、どうすれば良いかという質問をいただきました。回答者が書き言葉より話し言葉に慣れているとすれば、インタビューに切り替えると良いでしょう。回答者の能力に合った調査方法を選ぶことで、有益なデータが得られます。
さらに、自由記述に回答例のサンプルを用意したほうが良いかというご質問です。これは、サンプルを用意しなくても回答できるような質問項目が良いですね。ただし、回答者に見せるためではなく、質問項目に改善が必要かを確認するためにサンプルを用意するのはありです。
それでは、以上で本セミナーを終了します。ありがとうございました。
参考文献
[1] AERA, APA, and NCME. (2014). Standards for educational and psychological testing. American Educational Research Association.
[2] Smith, J. (2019). Critical incident technique: A learning intervention for organizational problem solving. Journal of Organizational Behavior, 40(2), 123-135.
[3] Bailey, K. D. (1987). Methods of social research (3rd ed.). The Free Press, New York.
Knapp, F., and Heidingsfelder, M. (2001). Dropout analysis: Effects of research design. In U.-D. Reips & M. Bosnjak (Eds.), Dimensions of Internet Science (pp. 221-230). Lengerich: Pabst.