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コラム

組織文化入門:良質なカルチャーを理解し醸成するために

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本コラムでは、「組織文化」について様々な側面から解説します。組織文化は実務的には「カルチャー」と呼ばれ、注目を浴びているテーマの一つです。本コラムを読むことで、組織文化に関する基礎的な知識を得ることができます。 

まず、組織文化の定義を確認しておきましょう。組織文化は、「組織が外的適応と内的統合を実現するための、共有されたルール」を意味します[1]。外的適応とは、市場の中で生き残ること、内的統合とは社内でまとまることです。企業が一丸となって環境に適応していくプロセスを通じて形成されるのが、組織文化です。

組織文化と似た用語に「組織風土」があります。組織風土は「知覚された組織文化」であり、組織文化の中でも特に表層的なものを指します[2]。組織文化のほうが概念としては大きく、その中に組織風土が含まれています。

組織文化の実態調査を見ると、経営層の9割近くが「組織文化は経営幹部層が重要視するテーマである」と考えています。人々が組織文化に関心を払うのは、それが社員の行動を方向付けるからです。組織文化は、特定の行動に報酬や罰を与えます[3]。要するに、組織文化には、ここでは何が求められているのかを知らせる機能があります。 

組織文化を理解する切り口

本コラムを読む皆さんの会社にはそれぞれ歴史があり、その中で組織文化が育まれてきたはずです。ここでは自社の組織文化の特徴をどのように把握すればよいのかを考えます。 

競合価値モデル 多くの学術研究において、組織文化を理解するための枠組みが提出されています。それらの中でおそらく最も有名なのは、「競合価値モデル」です[4]。組織文化研究においてしばしば言及される競合価値モデルは、2つの軸で組織文化を整理します。

一つの軸が内部統合と外部適応、もう一つの軸が安定性と柔軟性です。外部適応と内部統合は組織文化の定義で触れた通り、市場で生き残ることと社内でまとまることを指します。続いて、安定性は社内でコントロールを利かせること、柔軟性は自由を持たせることを表しています。これら2軸を組み合わせれば、4つの組織文化に分けることができます。

1)クラン

内部統合と柔軟性を組み合わせた組織文化です。集団としてのまとまり、士気、育成が大切にされます。個人と会社のつながりを強くする施策が講じられ、会社は社員のことを家族のように扱います。所属感や相互信頼が価値を持つのが特徴です。

2)ヒエラルキー

内部統合と安定性を組み合わせた組織文化です。効率性や安定性が重んじられます。公式的な規則が正しく適用されたり、専門分化が進んでいたりします。手続きが社員の活動をコントロールします。

3)アドホクラシー

外部適応と柔軟性を組み合わせた組織文化です。創造性や成長が重視されます。変化を起こすことを良しとします。その時々の状況に応じて、誰がどのような権限を持つのかが移行していきます。

4)マーケット

外部適応と安定性を組み合わせた組織文化です。市場における競合への勝利が大事にされています。市場を勝ち抜くために戦略や目標を立てます。目標に向けてお互いに競い合っています。

 組織文化インベントリー

競合価値モデルは分かりやすい一方で、ややシンプルすぎるきらいもあります。より細かい次元で組織文化を捉える枠組みを紹介しましょう。組織文化インベントリーというもので[5]12の次元で組織文化を捉えようします。 

  1. 人間的・援助的:参加型で、社員が中心となる方法でマネジメントされている
  2. 関係的:人間関係が建設的であることに重きが置かれている
  3. 承認的:社内における対立が回避され、人間関係が良好である
  4. 保守的:伝統や階層で社員をコントロールしている
  5. 依存的:階層で社員がコントロールされ、参加型ではない
  6. 回避的:成功に対しては報いない一方で、失敗は罰する
  7. 反抗的:対立が蔓延しており、消極的では参加できない
  8. 強制的:地位に基づく権威が基盤になっている
  9. 競争的:勝つことに価値があり、良い成果を上げることで報いられる
  10. 能力/完全主義:粘り強く勤勉に働くことに価値が置かれる
  11. 達成:自分の立てた目標を実行できる人が評価される
  12. 自己実現:創造性や質、成長に価値が置かれている

12の次元のうち、自社はどの次元が特に高いかを考えてみてください。自社の組織文化を理解する助けになることでしょう。 

組織文化インデックス

組織文化インデックスと呼ばれる枠組みもあります[6]。今度は短い言葉で組織文化の特徴を捉えようとします。組織文化インデックスでは、官僚的文化、革新的文化、支持的文化の3つに文化を分けます。 

1)官僚的文化

階層が重視され、部門化が進んでいます。責任と権限が明確であり、コントロールや権力に重きが置かれています。官僚的文化に近いほど、次の言葉が当てはまる傾向があります。

  • 階層的だ
  • 手続き重視
  • 構造的な
  • 秩序立った

2)革新的文化

刺激的でダイナミックな組織文化です。職場は創造性にあふれており、挑戦やリスクテイクが盛んに行われています。革新的文化に近いほど、次の言葉が当てはまります。

  • リスクテーキング
  • 創造的だ
  • 刺激的だ
  • 挑戦的だ

3)支持的文化

温かい職場があり、人々が優しく、お互いに助け合っています。家族のような存在として支え合っています。次の言葉が当てはまると、支持的文化であると言えます。

  • 協力的だ
  • 人間関係志向
  • 社交的だ
  • 信頼できる

組織文化を変える際のポイント

自社の組織文化を理解する切り口として、組織文化研究が提示した枠組みを紹介しました。一方で、現状の組織文化に満足している企業は多くありません。例えば、2018年に発表された実態調査では、経営者は自社の組織文化を変える必要があると考えています[7]

とはいえ、組織文化を変えることは簡単ではありません。組織文化を変えようと働きかけても、逆戻りしてしまいます。その理由は、組織文化研究の始まりをたどるとわかりやすいかもしれません。研修を受けても職場に戻ると元通りになる理由を考えるために検討されたのが、組織文化という考え方なのです[8]

企業によっては、組織文化を手っ取り早く変えようと、組織図を変更する場合があります。しかし、組織構造は組織文化に影響を与えないことを検証した研究もあり[9]、あまり有効な方法であるとは言えません。

新しいメンバーを迎え入れることで組織文化が変わらないかと期待する企業もあります。ところが、組織文化は、新しいメンバーが加入しても簡単に揺らぐものではないと指摘されています[10]

非常に変わりにくい組織文化を変えるためには、「理想を考える」「絞り込む」という2点を意識する必要があります。 

理想を考える

自社にとってどのような組織文化が理想的かを考えましょう。例えば、経営理念を参考に考えたり、現場にヒアリングをして考えたりします。事業計画を実現するために必要な組織文化を考えるアプローチもあり得ます。重要なのは、唯一最善の組織文化は存在しない点です。各社で理想とする組織文化を丁寧に検討しなければなりません。 

絞り込む

次に、絞り込むことです。組織文化を丸ごと入れ替えるのは至難の業です。しかし、文化の一部を変更するのであれば、実現可能性が上がります。例えば、現在の組織文化は閉鎖的で、理想の組織文化は開放的なのであれば、閉鎖的から開放的にすれば良いでしょう。このように範囲を絞って、組織文化を変えていきます。 

パフォーマンスにつながる文化

既述の通り、完全な組織文化はありません。とはいえ、学術研究の中では、どのような特徴の組織文化が良い結果を生み出されやすいかが検証されています。

初めに、組織文化を大きく2つに分けます。「外部志向」と「内部志向」です。外部志向は、外的適応を重視する組織文化です。対して内部志向は、内的統合を重視する組織文化です。これら2つのどちらがパフォーマンスに良い影響をもたらすかが検討されてきました。

結論としては、外部志向のほうが適応的でした。競合他社と比べたときに外部志向の組織文化を持つ企業の方が利益率や成長度が高いことが明らかになりました[11]。外部志向は市場を重視するため、市場での競争において良い結果が出るのは理解しやすいかもしれません。

興味深いことに、外部志向か内部志向かによって、経営者の注目ポイントも異なることが分かっています[12]。外部志向において経営者は将来を見据える傾向があり、戦略的な問題に注目します。他方で、内部志向において経営者はオペレーションにこだわりを見せ、業務の問題に注目します。後者は中長期的に会社を繁栄させていく点で少し不安が残ります。

組織文化とパフォーマンスの関係について検証結果を参考にすると、外部志向の組織文化を持つことの重要性が浮かんできます。 

強い文化の功罪

本コラムの中では、組織文化を理解するための枠組みを提示し、枠組みに基づいて自社はどうかと考えていただきました。その際に、こんなことを感じませんでしたか。自社の他の社員が自社の組織文化について答えたら、自分と同じ回答をするか、と。

社員間で同じような回答をする企業もあれば、ばらつきが出る企業もあります。これらは組織文化の強さと関わっており、前者のような企業は、組織文化が強い企業です。最後に、組織文化の強さについて検討しましょう。

強い組織文化のもとでは、組織文化がしっかりと浸透しており、一見良さそうに見えます。強い組織文化を称賛する議論もあり、強い組織文化のほうがポジティブな認識を持たれているかもしれません。

ところが、組織文化の強さとパフォーマンスの関係は弱いことが分かっています[13]。組織文化が強いから会社として伸びるわけではありません。それどころか、強い組織文化を持つ企業は、環境変化が小さい場合には業績が安定する一方で、環境変化が大きいと業績が低迷します[14]。変化が大きい環境では、組織文化の強さが仇となるのです。

強い組織文化があると、前例を踏襲しようとする慣性の力が働きます。環境が変化すると会社も変化しなければならないにもかかわらず、慣性の力があると変化への抵抗が起きます。組織文化の強さゆえに変化への対応に遅れが生じ、パフォーマンスに悪影響が及ぶのです。

組織文化はとにかく強くすればいいものではありません。特に環境変化が大きい場合、強い組織文化には要注意です。組織文化は、ある程度変えられるゆとりを持ち、ほどほどの強さにとどめる必要があるのでしょう。

 執筆者

伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)など。

 


[1] Schein, E. H. (1990). Organizational culture. American Psychologist, 45, 109-119.

[2] Ashforth, B. E. (1985). Climate formation: Issues and extensions. Academy of management review, 10(4), 837-847.

[3] Forehand, G. A. and Von Haller, G. (1964). Environmental variation in studies of organizational behavior. Psychological Bulletin, 62(6), 361-382.

[4] Cameron, K. S. and Quinn, R. E. (1999). Diagnosing and Changing Organizational Culture: Based on The Competing Value Framework, Addison-Wesley.

[5] Cooke, R. A., & Rousseau, D. M. (1988). Behavioral norms and expectations: A quantitative approach to the assessment of organizational culture. Group & Organization Studies, 13(3), 245-273.

[6] Wallach, E. J. (1983). Individuals and organizations: The cultural match. Training & Development Journal, 37(2), 28-36.

[7] PwC Strategy &2018)「グローバル組織文化調査」

[8] Schein, E. H. (2010). Organizational culture and leadership (Vol. 2). John Wiley & Sons.

[9] Lawler III, E. E., Hall, D. T., & Oldham, G. R. (1974). Organizational climate: Relationship to organizational structure, process and performance. Organizational behavior and human performance, 11(1), 139-155.

[10] Ashforth, B. E. (1985). Climate formation: Issues and extensions. Academy of management review, 10(4), 837-847.

[11] Deshpande, R. and Farley, J. U. (1999). Executive insights: Corporate culture and market orientation: Comparing Indian and Japanese firms. Journal of International Marketing, 7(4), 111-127.

[12] Berthon, P., Pitt, L. F., and Ewing, M. T. (2001). Corollaries of the collective: The influence of organizational culture and memory development on perceived decision-making context. Journal of the Academy of Marketing Science, 29(2), 135-150.

[13] Kotter, J. P. and Heskett, J. L. (1992). Corporate Culture and Performance. Free Press, New York.

[14] Sorensen, J. B. (2002). The strength of corporate culture and the reliability of firm performance. Administrative Science Quarterly, 47(1), 70-91.

#伊達洋駆

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