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コラム

採用面接の行動科学: 候補者の志望度を高める面接術(セミナーレポート)

コラムセミナー・研修

株式会社ビジネスリサーチラボ(以下、ビジネスリサーチラボ)は、20227月にセミナー「採用面接の行動科学:候補者の志望度を高める面接術」を開催しました。

採用面接を実施する際には、企業が候補者を選ぶだけにとどまらず、「候補者に企業を評価してもらう」視点も重要です。「惹きつけ」は、候補者が自社に対する志望度を高めることを意味します。しかし、オンライン面接が広がる中、惹きつけが十分に行えないという問題が深刻になっています。 

本レポートでは、オンライン面接と対面面接を比較しながら、惹きつけの効果を高めるためにやるべきことや工夫すべき点について考えていきます。本セミナーの講師を務めるのは、ビジネスリサーチラボ・代表取締役の伊達洋駆と、ダイドードリンコ株式会社(以下、ダイドードリンコ)の石原健一朗氏です。

本セミナーは、伊達の講演と、伊達・石原氏による対談の2部構成となっています。講演では、伊達が研究知見に基づいて惹きつけの方法を紹介します。対談では、石原氏から惹きつけに関する実践的な取り組みをお話いただきます。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

登壇者

石原健一朗氏:ダイドードリンコ株式会社 人事総務部人財開発グループ シニアマネージャー

2015年ダイドードリンコに入社。それまでは約11年間、京セラ株式会社で人材開発や組織開発に深く携わっていた。ダイドードリンコ入社後は、採用や制度構築、人事企画など幅広い人事領域を担当。現在は、人材開発グループの責任者として新卒の採用と全社的な教育・育成を統括し、人事総務部のシニアマネージャーとして活躍している。

 

 

 

伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

 

 

1. 講演:面接を通じた惹きつけの科学

オンライン面接は惹きつけが苦手

伊達:

基本的な事実として、オンラインの面接は対面と比較して惹きつけが苦手ということをご存じでしょうか。オンラインの面接と対面の面接を比較すると、前者の方が

  • 会話が円滑に進みにくい
  • 会話の内容が理解しにくい
  • 候補者が面接官に対して、好意を持ちにくい

ということを実証した研究があります。

他にも、オンライン面接において、候補者は面接官の性格・信頼感・能力・外見などについて低く評価する傾向にあることも検証されています。要するに、オンライン面接の方が対面よりも、惹きつけが不得意なのです。

その理由として、(1)非言語情報が減るため、(2)目線が合いにくいため、という2つが挙げられます。

(1)非言語情報が減るため

オンラインの面接では、例えば身ぶり・手ぶり・視線・においといった言葉以外の情報(非言語情報)が、対面より少なくなります。非言語情報が減ると、会話の中で感情が相手に伝わりにくくなります。オンライン面接では、候補者に面接官の熱意が伝わりにくい状況です。

(2)目線が合いにくいため

オンラインの面接において、面接官のインカメラの位置と候補者の目の位置は一致していません。そのため、画面の候補者の目を見ても、目線が合いません。

「目線が合いにくい」状況は、会話において良からぬ影響を及ぼします。人は視線の交換によって「今は自分が話す番」とタイミングを計っており、これがスムーズに会話を行う前提となっているからです。

視線が合いにくいオンライン面接では、候補者は会話がしにくく、結果的に自分の能力をきちんと発揮できたという感覚を持ちにくいといえます。自分が話したいことを話せたという感覚を得にくいわけです実際に、候補者は「オンライン面接では自分の考えていることを表現できた」と感じにくいことが明らかになっています。

いわば不完全燃焼に終わってしまうオンライン面接の中で、相手の企業に対してポジティブな印象を持つことは、なかなか難しいのではないでしょうか。

オンライン面接で能力発揮感を高める3つの方法

伊達:

オンライン面接でも能力発揮感が上がれば、惹きつけ効果も高まります。そのための方法を3つ紹介します。

1つ目は、事前に動画を提出してもらうという方法です。例えば、自己紹介や今までの自分の実績など、自分に関することを候補者自身がビデオに収録し、それを提出してもらいます。この方法で能力発揮感が高まりきるわけではありませんが、落ち着いた状態で話したいことを収録できる点で、能力発揮感を底上げできます。

2つ目は、候補者に面接中の自分の姿を見せないことです。オンライン面接で候補者の目に、自分の話している様子が目に入ってしまうと、そこに意識が持っていかれます。

対面の状況で考えるとわかりやすいかもしれません。鏡が目の前にある状態で面接すると、気が散りますよね。そのことが能力発揮感を阻害する可能性があります。面接時はセルフビューを非表示にすることも有効です。

3つ目は、構造化面接です。構造化面接とは、質問項目や評価方法を事前に定めて、その内容に基づいて行う面接です。何を聞くか、どう評価するのかをあらかじめ定めることを指します。オンライン面接の場合、構造化面接が惹きつけに有効であることがわかっています。

既述のとおり、非言語情報が限られたオンライン環境の中で、面接を構造化しないと会話がやりにくく、能力が発揮しにくくなります。他方で面接を構造化すると、候補者は、自分の話がしっかりでき、能力発揮感を得やすくなります。

逆に、対面の面接だと構造化するよりも、構造化しない方が惹きつけ効果があります。対面の面接で構造化していない状況は、普段のコミュニケーションと近く、自然と会話できます。しかし、対面で構造化すると、会話が不自然になります。

対面の構造化面接において、「はい、次の質問にいきます」と進められると、自分がテストされている気分になるようです。その結果、惹きつけの効果が高まりません。

以上を踏まえると、オンライン面接では、

  • 能力発揮感を高めるために動画を事前に提出してもらう
  • 候補者自身のビデオを非表示にする
  • 質問項目や評価方法をあらかじめ定める(構造化)

という対策が、惹きつけのために有効です。

2. 対談:伊達洋駆×石原氏 

伊達:

石原さんとの対談に移ります。オンライン面接で惹きつけのために工夫していることはありますか。

石原:

伊達さんの講演でも説明されていましたが、当社では動画の提出を採用しています。どんな内容の動画を送ってもらうかというと、こちらから候補者に伝えているのは「自分らしく自己PRしてください」ということのみです。

こうした質問にしているのは、学生が自分らしさを大事にしていることを考慮したいという理由と、オンラインでは自分らしさを表現しにくいという理由があります。動画で先に出していただいて、どんな人なのかをインプットしたうえで、面接に臨んでいます。

動画の内容には個人差があります。面接を意識しスーツに身を固めた真面目な動画もあれば、フリップを使っているものもあります。

面接自体の質問ということで言うと、私の場合、オンラインも対面も、聞く内容は基本的に一緒です。構造化できているのかもしれません。

ただ、オンライン面接ではいろいろと話を聞いた後に、動画に収録された「その人らしさ」と、対面の面接で聞いた「その人らしさ」を掛け合わせて感じた共通項や、「動画ではこう感じましたが、今日はこう思いました。それについてどうですか」といった質問など、面接で感じたことをフィードバックすることもあります。

伊達:

「自分の動画を見てくれている」と感じるでしょうね。面接官が相手のことをきちんと理解しようとする姿勢は、候補者にとって嬉しいはずです。

石原:

オンライン面接の工夫についてもう一つお伝えします。当社が利用している面接のシステムには、面接の様子を録画できる機能があります。この機能を使って、私がどのような面接をしているかを残し、それを部下に見てもらっています。部下育成の教材として面接の動画は使えますね。

伊達:

対面の場合、それぞれの面接がブラックボックスになりますよね。半ば聖域化されているともいえます。お互いにあまり侵入してはいけないような。その意味で、面接の様子を見てもらうのは、まさに百聞は一見にしかず、です。

対面の面接で工夫していることは?

伊達:

対面の面接で工夫していることは、オンラインと同じですか。対面独自に工夫していることはありますか。

石原:

対面の場合、当社が飲料メーカーということもあり、面接時にお茶を置いています。「まず、一服してから始めましょうか」と、当社製品を試していただきます。「どうですか」や「緊張したら、お茶を飲んでもらっていいですよ」などと言いながら、お茶を使ってアイスブレークしています。

伊達:

飲み物について話すことで、面と向かって話すことの緊張感がいくぶん和らぎそうです。

石原:

緊張して手が震えている人もいます。対面は緊張するのだと思います。そういう人には、「緊張していますか」と声をかけます。

私は人材開発のキャリアが長いので、候補者にも面接が一つの成長機会になればと考えています。例えば、候補者が話すエピソードの中に、「主体性があります」「自分は誠実です」「部活でキャプテンを務め、みんなで議論しました」という表現が出てきたとします。

そうした際に、「自主性と主体性の違い」「正直・真面目・誠実の違い」「対話と議論の違い」などについて質問を投げかけます。評価もありますが、半分は成長の支援ですね。いいことを学んだと思って帰ってもらうようにしています。

伊達:

今までの経験やスキルを総動員して、候補者と関わっているのが印象的です。石原さんのお話を聞いていると、志望度をどうやって高めるのかを考えながら接していたら、志望度は高まらない気がしてきました。自分たちが面接という場で候補者に何を提供できるのかを考え、そこを徹底してやっていくことが、結果的に志望度の上昇につながるのでしょう。

面接以外で工夫していることは?

伊達:

面接以外の場面で行う工夫はありますか。例えば、対面の面接を実施する場合、面接前後の時間も重要になりますよね。受付の前を通って、エレベーターに乗って、執務スペースを横切って会議室に入る。面接以外の部分で企業を理解するための情報を得る機会が、対面の場合にはあったと思います。

石原:

オンラインで面接が進み、最終面接で初めて対面の場合もあります。面接の前に会議室まで歩いていく途中で、「こういう雰囲気ですよ」と引率のメンバーが候補者に説明しています。

また、面接が終わった後に別の部屋に案内して、「今日の面接はどうでしたか? 」と尋ねる時間をつくることもあります。その場でのやりとりの中で、少し社内を見たいとなれば、要望に応じて対応しますね。

伊達:

別の部屋に行くと、候補者も話しやすくなりますね。

会社への惹きつけに変えるためには?

伊達:

一つ質問をいただきました。「面接官のスキルが高過ぎて、面接官個人に惹きつけられてしまい、会社に対する惹きつけができない場面も想定されます。人そのものではない対象に対する惹きつけを行う際のポイントはありますか?」という質問です。石原さん、いかがですか。

石原:

本質を突くご質問ですね。私は2015年に当社に入りました。2016年に、それまでの採用スキームを現状分析し、2017年から総入れ替えしました。そこから数年間は、私が主導して面接を進めていきました。ところが、自分一人で進めるのは限界があります。

私の実施していることを、部下や周りの人もできるようにするために、トレーニングを行いました。面接に活かすことはもちろん、部門のマネジメントにも活かしてもらうことを狙って、力を注いでトレーニングをしています。

伊達:

石原さんが大事にする価値観や接し方を、人事だけではなく、現場の方々にも伝えていく。そのようにして、社員が考え方や方法を共有していれば、会社に対する惹きつけも可能になりそうです。

では、本日のセミナーは、ここで終了となります。ご参加いただき、ありがとうございました。

石原:

ありがとうございました。

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