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コラム

パーパスの科学:理念を体現する組織の作り方(セミナーレポート)

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20222月に、ビジネスリサーチラボ代表取締役 伊達洋駆の著書『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎、以下「本書」)が刊行されました。本書の出版を記念し、2022426日、「パーパスの科学:理念を体現する組織の作り方」を開催しました。

近年、パーパスを改めて策定する企業が増えています。しかし、パーパスは掲げるだけではなく、浸透しなければ意味がありません。本セミナーでは株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEOの安斎勇樹氏をお招きし、パーパスの策定と浸透のポイントについて対談しました。

本レポートは、対談内容を基に編集・再構成したものです。

登壇者

安斎 勇樹 氏
株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。研究と実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について研究している。ファシリテーションを総合的に学ぶためのウェブメディア「CULTIBASE」編集長を務める。著書に『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)や『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(共著;学芸出版社)などがある。

伊達 洋駆
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役。神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。


パーパスの浸透方法:組織アイデンティティ研究から 

伊達:

私からはパーパスの浸透方法について、『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』の内容に基づきお話しします。

パーパスとは「企業の存在意義」、何のためにその企業が存在するかを表します。パーパスは、企業で働く人々が歩むべき方向性に対して影響を与えます。今日ご参加の皆様は、自社のパーパスをすぐに挙げることができるでしょうか。

仮にパーパスを作ったとしても、それが社員にしっかり浸透しており、共感されていなければ意味がありません。パーパスは作るだけではなく、浸透させる必要があるのです。

パーパスを浸透させる方法について、組織アイデンティティ研究を頼りに説明します。組織アイデンティティは、「自分の所属組織に対して知覚する、中核的・識別的・連続的な特徴」と学術的に定義されています。

中核的とは、その会社の本質を表す特徴であること。識別的とは、他の会社と区別できる特徴のこと。連続的とは、安定して継続している特徴のことを指します。たとえば、「自社の特徴を一言で表してください」と言われたとき、本質を突いた、他社とは異なる、持続している特徴を一言で表せますか。

組織アイデンティティが高い人の特徴

このような自社ならではの特徴を内化している人は、どのような人なのでしょうか。組織アイデンティティが高い人の特徴として、たとえば、自社を批判されると侮辱されたと思ったり、自社を会社名ではなく「うちの会社」と表現したり、自社の成功は自分の成功でもあると思えたりすることが挙げられます。

組織アイデンティティが高い人は、パーパスが浸透している状態と重なる部分も多いといえます。私のお話では組織アイデンティティという概念を手がかりにパーパス浸透の問題を考えます。

なお、組織アイデンティティが高いと、会社に一体感が出たり、会社にとって有益な役割外行動を社員が取ったりすることが分かっています。組織アイデンティティは、会社・本人双方にとって重要です。

組織アイデンティティを高める処方箋

組織アイデンティティを高めるための処方箋をいくつか挙げましょう。

(1) 素材を用意する

特徴を内化するためには「素材」が必要になります。たとえば、創業者の価値観、自社の過去の出来事、自社で語り継がれているストーリーなどを基に、自社の特徴をつかむことができます。

自社内で共有されているエピソードがあるか、そのエピソードはパーパスと合致しているかを考えてみましょう。さらには、そのエピソードが社内に広まるプロセスが設計されているか、古いエピソードだけでなく最近のものも作られているかも考えると良いと思います。いずれにせよ、パーパスを浸透させていくためには、一定の素材が必要です。

(2) 自社の代表として振る舞う機会を設ける

社外の人から会社の代表として扱われると、組織アイデンティティが高まることが検証されています。会社の代表として振る舞うような機会があると、パーパスが浸透しやすいのです。

たとえば、営業担当が、会社の名前を背負って営業を行う場合。採用担当者が、自社の代表として自社を説明する場合。プロジェクトの責任者が、対外的な調整を行う場合。こうした仕事では自社の代表として振る舞うことができます。

自社の代表として自社を説明する機会があれば、自社について考えざるを得ません。自社の本質的な特徴、他と区別できる特徴、持続している特徴を自ずと考えられるのです。

(3) 他社理解を深める

組織アイデンティティを高めるには、実は他社理解が重要になります。他社のビジネスモデルや実態を理解しようとすると、自社との違いを考えることになります。「他社と自社の比較」がポイントです。他社と比べて自社がどうかを考えると、自社のパーパスにも向き合う必要が出てきます。 

他社を理解する方法の一つとして、他社の採用ページに注目すると良いでしょう。そこに書かれている内容を素材に、自社とどう違うかを考えてみましょう。ほかにも、他社に知り合いがいて、互いの会社について語り合える関係だと、自社のパーパスを深く理解する機会になります。

組織アイデンティティの副作用 

ここまでは、組織アイデンティティはポジティブなものであるという前提で説明してきています。ただ、組織アイデンティティには「副作用」もあります。

先ほどの通り、組織アイデンティティが高い人は、現在の会社と一体感を抱く傾向があります。この「現在の」という点に注目してください。組織アイデンティティが高い人は、現在の会社をポジティブに捉えています。つまり現在が良い状態であるため、現状維持の力が働いてしまいます。結果、会社の変革に対して抵抗したり、異質な他者を排除したりする傾向があります。

組織アイデンティティとパフォーマンスの関係を検証した研究があります。組織アイデンティティが低いと、一体感が得られないためパフォーマンスが低下する一方、組織アイデンティティが高くなりすぎると、現状維持の力が強くなってしまい、変化できなくなることが明らかとなっています。

副作用への対策 

組織アイデンティティの副作用に対しては対策もあります。たとえば、「自社の意思決定に参加できる」こと。自社の物事や仕組みを変えていく機会に参加していると、組織アイデンティティが高まっても、パフォーマンスが下がりにくいことが分かっています。自身が変革の当事者になるため、変化に対するネガティブな姿勢を抑制できるからです。

ここまでお話しした内容は、『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』の「26経営理念を浸透させていきたい」に記載されています。この本を手に取っていただければ、復習にもなるはずです。

さて、安斎さんに登場いただき、対談に移ります。

「パーパス」を対談テーマにした理由

安斎:

私は現在、MIMIGURIという約50名の会社を経営しています。この会社は、私が創業した約20名のミミクリデザインと、現在共同経営者のミナベが経営していた約20名のDONGURIが、20213月に合併したものです。それぞれ組織アイデンティティが高い組織だったと思います。

このことが、今回、パーパスというテーマを選んだ理由につながってきます。というのも、経営者として感じる課題がありました。合併して1年が経過し、自社のパーパスを再定義しつつ、50人が「自分たちはMIMIGURIのメンバーである」という組織アイデンティティを持てているかを心配していました。

それから、もう1つ、パーパスをテーマとして選んだ理由があります。MIMIGURIはコンサルティングとして、他社の理念の開発や浸透などを得意としています。そのエビデンスに関心があったということもありますね。

組織アイデンティティで役割外行動を高める 

安斎: 

伊達さんのお話の中で、実感知と合致していた点があります。組織アイデンティティが高いと、会社に有益な役割外行動をとるという点です。

組織は、役割分担で成り立っています。ただ、どのように組織をデザインしても、役割と役割の間には必ず隙間が生まれ、誰も拾わないグレーゾーンのタスクが発生します。役割が明確すぎると、グレーゾーンを誰も拾わなくなります。

グレーゾーンのボールをどれだけ拾い合えるかが、組織の柔軟性や強さにつながると思います。そう考えると、役割外行動をもたらす組織アイデンティティは本当に重要だと感じました。

伊達:

組織が存続するために、必要なことが3つあると研究で言われています。1つ目は「従業員が定められた行動を取ること」、2つ目は「従業員が定着すること」、3つ目は「従業員が役割外行動を取ること」です。

1つ目の「定められ行動」の間には、安斎さんがおっしゃった通り、隙間が生まれます。組織を存続させるためには、隙間を埋めることが重要です。

この隙間を埋めるのが役割外行動なのですが、役割外行動は規定されていないので、「こんな行動をとって大丈夫だろうか」と不安になるものです。そこで機能するのがパーパスです。パーパスが浸透していると、「こういう方向性の行動なら大丈夫」という価値観が共有されており、安心して役割外行動をとれます。

ただし、パーパスにはジレンマもあります。パーパスは柔軟に動くために役に立つのですが、今度はパーパスが「聖域」になる可能性もあります。パーパス自体の変更が難しくなる点が問題です。

パーパスが浸透すると採用の問題が生まれる 

安斎:

副作用のお話も面白かったです。「組織アイデンティティが高すぎると、異質性を排除する」という点に共感しました。

伊達:

安斎さんも私も、どちらかというとパーパスのはっきりした会社を経営していると思います。とはいえ、社員全員が100パーセントの浸透度・共感度ではないですよね。しかも、それで良いということです。

他方で、悩ましいのは、パーパスが高いレベルで浸透している社員から見ると、そうでない社員が「この人、どうなの?」と問題であるかのように見える点です。こうした認識が異質性の排除につながります。

安斎:

MIMIGURIが合併して1年目は、組織開発に力を入れました。今では、社内で誰も「私は元ミミクリデザインだから」などと、元の社名を言いません。その意味で、MIMIGURIでの組織開発は成功していると思います。

採用活動もメンバーが主体的にやってくれるようになりました。ただ、一つ問題が出てきました。自分たちと似た人を採用しようとする傾向が出てきたのです。

意図的に異質性を排除しようとまではしていませんが、同質的な仲間を増やそうとする力が働きつつあります。そうした状況を踏まえ、経営者である私とミナベは、「非連続の採用をしよう」「よく分からない人を入れよう」と部門長に伝えています。

伊達:

パーパスに共感している人ほど、入社した後の適応が円滑にいくと考えられます。会社側が入念に受け入れ準備をしなくても、あたかも昔からいたかのように入っていけます。

これは良いことではありつつ、他方で自社の働き方や仕事の進め方を見直さなくなるといった副作用もあります。適応が円滑にいくと、自分たちの「当たり前」を疑う機会がないからです。

安斎:

そういえば、MIMIGURIのミッションとして掲げている「創造性の土壌を耕す」という言葉は、定義してから変更していませんね。その一方で、「自分たちが、それを何者として成すのか」については意識的に定義ができないようにしているのかもしれません。

MIMIGURISNS上で、あるときはデザインファーム、あるときはファシリテーター集団やコンサル集団、もしくは、研究組織のように見えていると思います。MIMIGURIが何をしているかよく分からないけれど、創造性の土壌を耕すための会社であることは分かる。このようにすることで柔軟性が確保できます。

パーパスを浸透・構築する上でのポイント

(1)パーパスを自分の言葉で言い換える

伊達:

続いてのテーマは、「パーパスを策定・浸透する上でのポイント」です。安斎さんは何がポイントだと思いますか。

安斎:

伊達さんの本の中で、「社外で代表者として扱われると、組織アイデンティティが高まる」という新しい視点をいただけました。この点はすぐにミナベに伝え、自社でも施策に落とみました。部門長やマネジャーごとに採用ミートアップを行い、自社のことを話す機会を意図的につくる、という施策です。

これは一例ですが、このように「自分にとってパーパスが何を意味するのか」を、主体的に再構築する経験を介さないと、パーパスの浸透は起こり得ないと思います。パーパスを自分の言葉で言い換える機会をつくることがポイントでしょうね。

(2)物語の中に自分たちを位置づける:資生堂の事例

伊達:

会社の代表として話さなければならない状況をつくる以外に、アプローチはありますか。

安斎:

MIMIGURIが外部支援する際に得意なアプローチは、いったん非日常的な場でワークショップを開催することです。私の執筆した『問いかけの作法』では、問いかけの鉄板パターンの一つとして、別の言葉で言い換えさせる「パラフレーズ」を紹介しています。

パラフレーズは、パーパス浸透を行う際にも有効です。我々が携わった資生堂さんの事例を紹介しましょう。

資生堂さんには、『Think Big』『Take Risk』など8つのクレドがありました。ただ、例えば、化粧品を開発する方、人事の方、販売する方で、『Take Risk』のイメージは異なります。『Take Risk』されたら困る部署の方もいます。各クレドの意味合いを現場でかみ砕かないと、「大事だよね」で終わってしまう懸念がありました。

そのときに実施したワークショップでは、各部署で、「8つのクレドの中で、要らないものがあるとしたらどれか」「その要らないクレドを、自分たちに必要な別のものに差し替える」ということを行いました。これが奏功しました。

進め方としては、まず、経営チームからワークショップを実施しました。自分たちが立てたクレドを、自分たちで変更するのです。興味深いことに、「自分たちは、これはできているから要らない」「それは残しておかないとまずい」など、活発に議論が行われました。クレドの意味を再解釈していったのです。

論理的なモードを解除し、ナラティブモードに引き込むことで、浸透度が一気に深まります。実際、ワークショップ後の組織サーベイでは、全部署で理念が浸透しているという結果が出ました。

伊達:

パーパスを浸透していくとき、論理的な説得よりも、物語の中に自分たちを位置づけるような働きかけが重要なのでしょうね。 

安斎:

さらに、これは資生堂さんのお話ではなくMIMIGURIの事例ですが、「入れ子構造をつくる」ことを意識しています。「創造性の土壌を耕す」という全社のパーパスがありつつも、各部署で話し合い、自部署のドメインパーパスに言い換え、掲げ直しています。掲げ直したドメインパーパスについては、経営陣からは何の批判もフィードバックもしません。

伊達:

1つのパーパスだけで進めようとすると、パーパスの抽象度が非常に高くなりますよね。抽象度が高いと、従業員の日常には落としこみにくくなります。

それに対して、MIMIGURIでは全社のパーパスを参照しつつも、自分たちの部署はどうかを考え、具体化しているのですね。それを仮に「サブパーパス」と呼んでみましょう。

分化・統合を経てパーパスが強くなる

伊達:

「このサブパーパスとこのサブパーパスは食い違っているのでは?」という事態は発生しないのでしょうか。

安斎:

発生しうると思います。サブパーパスを掲げることは、社内に越境学習的な状況をつくることだと考えています。

MIMIGURIでは月1回、全社総会を行っており、違う考えの下で動いている別のメンバーに触れる機会を設けています。それにより、「同じパーパスで働いているはずなのに、なぜこのドメインは、このようなことやっているのだろう」という違和感や葛藤が生み出されます。この葛藤は健全であり、創造性の源だと捉えています。

伊達:

経営学の古典的な議論に「分化」と「統合」というものがあります。分かれることと結びつけることを、MIMIGURIでは1カ月単位で行っているのでしょうか。

安斎:

正確には、3カ月に1度です。ある月は個人目線の話、次の月はドメインチーム目線の話、さらに次月は全社に目線を上げる会を行っています。3カ月に1度は、「『創造性の土壌を耕す』とは何か」に戻るようになっています。 

伊達:

3ヶ月というのはちょうど良い期間なのでしょうね。何年もの期間をあけて、全社のパーパスに戻ってくると、もはや統合できない気がします。

ところで今の議論で特に面白いと思うのは、分化した後に統合することで、パーパスが鍛えられていく点です。

パーパスの成長可能性を確保する 

安斎:

パーパス自体の成長可能性は重要だと思います。『パーパス経営』という本に最初に出てくる成功事例は、ファーストリテイリングの「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というものです。 

それでは、20人の会社でもそうしたパーパスを掲げることが、果たして良いことでしょうか。私は身の丈に合いつつも夢がある、といった塩梅のパーパスであることが重要だと考えています。

私と伊達さんは『少年ジャンプ』で育った世代なので、マンガを例にとってみましょう。魅力的な少年マンガは、パーパス自体が変遷しています。

たとえば『ドラゴンボール』で、幼少期の悟空が最初から「異星人の脅威から人類を守る」と言っていたら、少し寒いですよね。最初は「ドラゴンボールを七つ集める」が身の丈にあっていたのだと思います。しかし、やがて「異星人の脅威から人類を守る」ことが自然になっていきます。 

伊達:

パーパスそのものが鍛えられていく。そのような仕組み自体が社内になく、「現在のパーパスが完全体」となってしまうと、市場や組織が変化した際に危険ですね。「パーパスを鍛える」「パーパスの成長可能性」というのは多くの企業にとって検討に値するテーマだと思いました。

安斎:

パーパスの成長可能性を確保するためには、「評価可能な目標に落とし込めないパーパス」であることも大事だと思います。 

たとえば、Soup Stock Tokyoの遠山さんは「世の中の体温を上げる」ことを目標にしています。ただ、実際に体温が上がったかどうかは分からないですよね。現場からすれば、「『世の中の体温を上げる』って何だろう」と考えなければいけません。

このように、評価が困難でありながらも、それでも追いかけたくなるようなテーマ設定が良いのでしょう。

伊達:

他にも、パーパスの成長可能性を確保するためには、「他の制度と関連し過ぎていないこと」も大切です。たとえば、パーパスに基づく評価制度を作ったら、パーパスを変えるときに評価制度も変えなければなりません。制度と絡めすぎると、身動きがとれなくなります。 

さて、1時間超にわたり、パーパスについて多角的にお話ししてきましたが、時間になってしまいました。本日の対談は以上で終了したいと思います。ありがとうございました。

安斎:

ありがとうございました。

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