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コラム

テレワークの心理学:テレワークで有効な働き方・マインドとは(セミナーレポート)

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新型コロナウィルス感染症が拡大して以降、感染症対策としてテレワークを導入する企業が増えました。テレワークにおいて社員のパフォーマンスを高めるためにはどうすればよいのでしょうか。また、テレワークによって社員の働き方やマインドはどのように変わったのでしょうか。

ビジネスリサーチリサーチラボでは2022年3月11日、ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆とテクニカルフェローの正木郁太郎が講師を務める「テレワークの心理学:テレワークで有効な働き方・マインドとは」を開催しました。本セミナーでは、テレワークにまつわる学術知見ならびに調査結果をご紹介しながら、テレワークの活用について解説しています。本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

登壇者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近刊に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著:ソシム)。

 

正木 郁太郎 株式会社ビジネスリサーチラボ テクニカルフェロー
東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程修了。博士(社会心理学:東京大学)。2021年現在、東京女子大学現代教養学部心理・コミュニケーション学科心理学専攻専任講師。組織のダイバーシティに関する研究を中心に、社会心理学や産業・組織心理学を主たる研究領域としており、企業や学校現場の問題関心と学術研究の橋渡しとなることを目指している。著書に『職場における性別ダイバーシティの心理的影響』(東京大学出版会)がある。

 

 


テレワークにおいてパフォーマンスを発揮するためには

 伊達:

 本日は三つの問いにアプローチします。一つ目は、テレワークにおいてパフォーマンスを発揮するためには何が必要か。二つ目は、テレワークによって社員同士のコミュニケーションの質は変わるのか。三つ目は、テレワークの導入が社員のマインドセットを変えるのかです。

 私から、一つ目の問いである「テレワークとパフォーマンス』についてお話します。私の講演では、(1)コロナ前のテレワーク、(2)テレワークと非テレワークの違い、(3)テレワークでのパフォーマンスを促す要因の3点についてお話しします。 

 (1)コロナ前のテレワーク

 コロナ前、テレワークと非テレワークのどちらのほうがパフォーマンスは高かったのでしょうか。コロナ前の多くの実証研究で、テレワークのほうが非テレワークよりも、仕事のパフォーマンスが高いことが明らかになっています。

 ただし、これらの結果はコロナ前のデータ、かつ海外の調査結果です。コロナ後の、日本のデータではどうなのでしょうか。

 ビジネスリサーチラボでは昨年9月、テレワーカー153名、非テレワーカー319名を対象にしたオンライン調査を実施しました。対象者の性別と年齢の人数比も、日本全体の労働者の属性に合わせたデータです。このデータを用いて、テレワークとパフォーマンスの関係について見ていきます。

 まずテレワークのほうがパフォーマンスは高いかどうか。調査では、業務を期待以上に実行できている程度、すなわち「主観的パフォーマンス」を測定しています。テレワーカーと非テレワーカーの主観的パフォーマンスを比較すると、統計的に有意な差はありませんでした。

 コロナ前の海外調査では、テレワークのほうがパフォーマンスは高かったのですが、コロナ後の日本のデータでは差はありませんでした。なぜこのような違いが生まれたのでしょうか。

 コロナ前はテレワークに合う一部の専門人材が、自ら選んでテレワークを行っていたと思われます。テレワークがパフォーマンスを高めていたのではなく、パフォーマンスの高い人がテレワークをしていたのかもしれません。

 ところがコロナ拡大後、専門人材以外にも様々な人が、半ば強制的にテレワークを余儀なくされました。これが、テレワークと非テレワーク間で差がなくなってきた理由と考えられます。 

 (2)テレワークと非テレワークの違い

 次に、テレワーカーと非テレワーカーに分け、それぞれでパフォーマンスと関連する要因を相関分析しました。

 相関の差の検定を行った結果、四つの要因について、テレワークのほうが非テレワークよりパフォーマンスとの関連が強いことが明らかとなりました。

 一つ目は「報酬上の公正感」で、自分が得ている報酬に対して納得感がある状態を指します。テレワークでは仕事のプロセスが見えにくくなります。評価の結果である報酬に対して公正感を持つことが、パフォーマンスを高める上で重要になっています。

 二つ目は「テレワーク推奨」で、自社でテレワークの実施が推奨されているかです。テレワーカーにとっては、テレワークが推奨されている会社のほうがパフォーマンスは高まりやすいのは自然です。

 三つ目は「仕事技術活用度」です。「私の仕事は、情報共有にオンラインツールの積極的な活用が不可欠である」などの質問で尋ねています。テレワークでは、オンラインとの相性がよいほうがパフォーマンスにつながりやすいといえます。

 四つ目は「技術活用の有効性」です。オンラインツールの活用によって、仕事がより効率化されていると感じることを指します。 

 (3)テレワークでのパフォーマンスを促す要因

 テレワーカーと非テレワーカーそれぞれで、パフォーマンスに影響を与える要因について重回帰分析を行いました。非テレワーカーのパフォーマンスを促進するのは「仕事の自己効力感」「仕事とのフィット」、抑制するのは「業務情報の不足」でした。一方、テレワーカーのパフォーマンスを促進するのは「仕事の自己効力感」「職場での受容」、抑制するのは「業務情報の不足」でした。

 この中で「仕事の自己効力感」と「業務情報の不足」は、テレワーカー・非テレワーカーに共通する、パフォーマンスに影響を与える要因です。他方で「職場での受容」は、テレワーク独自の影響要因です。

 共通点から見ていきます。「仕事の自己効力感」は、その仕事を遂行するうえでの自信です。コロナ前の研究でも、自己効力感を持っている人のほうがパフォーマンスは高いことが明らかになっています。

 なお、自己効力感を高めるために重要とされているのは、たとえば、「小さな成功体験を得る」ことや「ロールモデルを見つける」ことです。

 続いて「業務情報の不足」は、業務の情報が足りないため、どう振る舞えばいいのか分からない状態です。こちらもコロナの前の研究で、情報が不足しているとストレスが高まったり、仕事の満足度が下がったり、離職したい気持ちが高まったりすることが分かっています。

 最後に、テレワーカーのみパフォーマンスへの影響が見られた「職場での受容」について。これは、職場の中でメンバーの一員として受け入れられている感覚です。テレワークではメンバーがお互いに離れています。そのため、職場に自分が受け入れてもらえている感覚が重要になります。

 職場での受容を高めていくために、自分が職場に貢献している実感を持つ必要があります。たとえば、職場のメンバー同士で感謝を伝え合ったり、承認し合ったりすることが有効でしょう。感謝のコミュニケーションについては、正木さんの講演の中で解説があります。

 今回の分析結果から、自己効力感を持つこと、業務情報を伝えること、職場に受け入れてもらえる感覚を醸成することが必要であると分かりました。特にテレワークにおいては、職場での受容が重要です。 

テレワークで社員同士のコミュニケーションの質は変わるのか

 正木:

 私からは、コミュニケーションに関してお話しします。テレワークがコミュニケーションに与える影響については、すでに民間企業が調査を行っており、様々な議論があります。これらの議論を総括したうえで、コミュニケーションを少し細かく分けて、起こっていることを見ていきます。

 まずコミュニケーションの中でも、特に非公式な、脆弱なコミュニケーションにテレワークが影響したのかもしれないという仮説があります。また、業務や売上への影響よりも、心理的な問題への影響、孤独感や助け合いなどの対人的な面へのダメージがあるのではという仮説も成り立ちます。

 一つ目の仮説に出てきた「非公式」について説明します。経営組織論において、組織は、公式な部分と非公式な部分で成り立っているとされています。公式な部分とは、○○部、○○課など組織図で決まっているものです。非公式な部分とは、同期のつながり、同郷の集まりなどです。

 様々な民間企業の調査結果を踏まえると、テレワークによって公式なつながりが受けた影響は限られるものの、非公式な部分に何かが起きているのではないか。これが仮説の一つです。

 また「脆弱」なコミュニケーションについて。ソーシャルネットワーク研究において、人と人とのつながりを、強いつながりと弱いつながりに分類しています。強いつながりとは、親戚など、いつも一緒にいる人たちに関するネットワークです。逆に弱いつながりとは、ちょっとした知り合い、たまに連絡を取る程度のつながりのことです。これが脆弱なコミュニケーションです。

 ソーシャルネットワーク研究では、強いつながりよりも、弱いつながりの方が、重要な情報をもたらしてくれたり、手助けをしてくれたりすることも分かっています。

 非公式で脆弱なつながりは、偶発性に左右されやすいものです。仕事に関連した部署の集まりなどは、仕事が続く限り、自動的に・必ず続きます。一方、ちょっとした知り合いに関しては、自分が付き合いを止めると、そこで失われます。また、たまたま会社の廊下や駅ですれ違う、懇親会がある、などをきっかけとして、偶発的に続いていくものです。

 そこにテレワークが導入されたことで、出社自体が減り、様々にすれ違うことが減りました。結果として、そこで得られた情報やサポートが失われたのではないかという仮説です。

 この仮説について、私が実際にある企業のデータを分析してみました。この研究では、テレワーク下で社内で行われた感謝のコミュニケーションの変化を検証しています。

 感謝は、心理学の中でかなり注目されている強力な介入法であり、インフォーマルなコミュニケーションです。モチベーションや効力感、幸福感を高める、助け合いを促すといった成果が様々な方法で検証されています。

 分析対象の企業では、1年に1回、任意の相手にありがとうのメッセージを送るイベントを行っており、このデータを研究目的で分析しました。分析対象は700名程度で、コロナ前に行われた感謝のつながりと、コロナ後のつながりで何が変わっているのか、どのようなつながりが失われているのかを分析してみました。

 まず非公式なコミュニケーションの全体的な変化について、1人当たりの感謝の送信数の平均値を2019年と2020年で比較してみます。個人差が大きいのですが、おおよそ2件ほど減っていることがわかりました。つまり、全体で見ても、1人当たり2人ほどの知人が失われた可能性があります。

 次に、どのような人のコミュニケーションが減ったのかについて見ていきます。注目したのは「入社してから何年目か」という特徴です。たとえば、2019年に1年目だった方の感謝と、2020年に1年目で最初からテレワークしか経験していない方の感謝の量を比較しました。同じように、2年目同士、3年目同士でも比較しました。

 結果、3年目同士ではそこまで差が出ませんでした。一方、1年目同士では5人、2年目同士では6人ぐらい感謝のつながりが減っていました。本来対面であれば得られたはずの、何かしてもらったり、それに対して感謝したりするつながりが、入社間もない時期に特にダメージを与えていると読み解ける結果です。

 さらに、誰と交わすコミュニケーションが減るのかについて、2019年と2020年の新入社員に絞って詳細に分析しました。結果、自分より年上、同じチームで付き合う先輩とのコミュニケーションでは、大きな変化が有りませんでした。

 一方で劇的に減っていたのが、同期とのやりとりです。2019年入社の方は同期6人ほどに感謝を送っていたのが、テレワーク下に入社した2020年の方は23人ほどに減っていました。会社で顔を合わせる機会、対面研修、飲み会が無くなったなど、様々な事情がありますが、特に仕事上で必ず付き合う相手よりも、非公式に励まし合うような関係が特にダメージを受けています。

 この会社の方にお話を伺ったところ、同期以外の相手で関わる相手は、業務で関わる相手が大半を占めるとのことでした。仕事上で話す相手とのコミュニケーションは影響を受けていないものの、弱いつながりが特に損なわれていることが、コロナ前とコロナ後を比較したデータから見て取れます。 

テレワークの導入が社員のマインドセットを変えるのか

 正木:

 本日の最後の問いに入ります。コロナ禍以前は、働き方改革が難航していました。それがコロナ禍で一気に変わり、テレワークを導入しなければならなくなり、実際にやろうと思えばできてしまった企業があります。そうした企業では、コロナ禍によって「組織は変わろうと思えば変われる」という感覚が生まれたかもしれません。

 逆に、製造現場などを抱えていて変えられなかった企業もあります。そのような企業では、「これだけのことがあっても変われない」と諦めの感情が広がった可能性もあります。

 これらの仮説について、202111月、ウェブで3000名ほどにアンケートを行い、分析しました。結果、テレワークの導入企業で働く人のほうが、導入していない企業の方よりも、組織は変えられるという信念がかなり強かったのです。さらに、考え方が変わることによって、主体的な提案や改善行動の頻度が増えていました。

 テレワークを導入できた会社では、組織が変われるという信念、組織文化が築かれ、それが主体性を促していく。テレワーク導入は、感染症対策や福利厚生が目的だったかもしれませんが、思いがけずそれ以外のプラスの効果が出ていました。

ただし、この結果を読み替えると、テレワーク導入ができなかった企業では、諦めの考えが広がってしまったかもしれないともいえます。この点は、懸念すべきポイントです。 

Q&A 

Q1.自己効力感とパフォーマンスの因果関係は実証されているのでしょうか。

 伊達:

 今回ビジネスリサーチラボが行った調査では、あくまで一時点のデータです。因果関係を検証できたとはいえません。

 ただし、自己効力感とパフォーマンスの因果関係については、先行研究の中でいくつか検証されています。なお、そもそも因果関係とは何かについて、正木さんがコラムを執筆しているので、読んでみてください。 

Q2.テレワークから、原則出社勤務に戻す企業もありますが、その場合も諦観を覚える社員が増える作用があるでしょうか。

 正木:

 あると思います。これからテレワークから原則出社勤務に戻す、かつ、それが働き手にとって不本意な状態だった場合に何が起きるのか。また、出社勤務に戻した際、働き手がより働きやすくなるような支援環境や制度も整えた企業では何が起きるのか。今まさに研究を進めたいと思っているポイントです。 

Q3.ビジネスリサーチラボの調査では主観的パフォーマンスを測定していましたが、主観的パフォーマンスと実際のパフォーマンスは強く相関するものでしょうか。

 伊達:

 主観的パフォーマンスと実際のパフォーマンスの間には、一定の相関があります。ただし、完全に実際のパフォーマンスそのものを測定できているわけではない点には注意する必要があります。 

Q4.コロナ前よりもコロナ後の方が、つながれる人とそうでない人との差が大きくなったのではないでしょうか。

 正木:

 恐らくそう思います。ただ、私が分析対象にしたのは、平均年齢が20代の若い企業であり、年齢問わず社員のITリテラシーが非常に高い傾向にありました。そのため、ばらつきの変化はそこまで見られませんでした。企業によっては、年代の幅が広くなると、変化への順応しやすさが変わると思われます。 

Q5.テレワーク下で失われたインフォーマルなコミュニケーション、無駄、遊びの部分の補い方について教えてください。

 正木:

 出社に回帰する際、オフィスを改装する企業があります。たとえば、ABWActivity Based Working)と呼ばれる、自分の活動する場所を仕事の内容によって選べるようにする改装です。

 集中したいときに使える個室、個々のデスク、感染症対策をしつつコミュニケーションを取れる場所など、活動の内容によって使い分けられるオフィス環境に改装する企業が増えています。

 非公式なコミュニケーションの無駄や遊びを、オンラインで補うには限界があるでしょう。出社するのであれば、コミュニケーションを促せるようなオフィスに行くなどの工夫が求められます。

 伊達:

 たとえば、会社の問題点を一緒に改善していくコミュニティを作るなど、共通の目的をデザインしている企業があります。業務とは違う目的を持つことは、非公式なコミュニケーションにつながります。

 もう一つは私が当社の能渡と一緒に出した論文で、仕事の話をしっかりすることが関係構築に貢献するとの結果が得られています。遊びも重要ですが、仕事の話も重要ということです。

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#正木郁太郎 #伊達洋駆

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