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コラム

出版記念対談:人材マネジメントを科学する(セミナーレポート)

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株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆と株式会社人材研究所 シニアコンサルタント安藤健氏との共著『人材マネジメント用語図鑑』(ソシム)の刊行を記念し、202110月に出版記念対談「人材マネジメントを科学する」を開催しました。

本書が世に出るこことなった背景や出版までのながれ、参加者の方からのご質問やご感想へ回答する形で、著者による対談を行いました。対談の様子をお伝えします。

登壇者

安藤 健 氏 株式会社人材研究所 シニアコンサルタント
青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。日本ビジネス心理学会 上級マスター。組織・人事に関わる人のためのオンラインコミュニティー『人事心理塾』代表。2016年に人事・採用支援などを手掛ける人材研究所へ入社し、2018年から現職。これまで数多くの組織・人事コンサルティングプロジェクトや大手企業での新卒・中途採用の外部面接業務に従事。『日経ビジネス電子版』にて人事・マネジメント系コラム「安藤健の人事解体論」を連載中。

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)など。


本書の説明・読み進め方 

伊達:

本書『人材マネジメント用語図鑑』は、研究知見を紹介した上で、関連する実務的な用語を紹介する構成になっています。私は、研究知見のパートを主に担当しました。

安藤:

私は、伊達さんが挙げた研究知見と関係するキーワードや人事施策・制度を、幅広く紹介しました。 

伊達:

そうした構成になっている本書ですが、二つの活用方法を提案することができます。

一つは、純粋に楽しむ使い方です。「こんな用語や考え方があるんだ」という具合に、図鑑という言葉本来の意味に近い活用方法です。知的好奇心を持ちながら、ペラペラと気になった言葉を見ていただければと思います。

もう一つは、理論と実務、研究と実務を衝突させるような用い方です。例えば、リーダーシップの項目を読む際、自分なりに「リーダーシップとは何か」や「リーダーシップを高めるには何が必要か」といったことを、頭の中に描いたりメモを取ったりしてから、研究知見を読んでいただきます。

読み進めると、自分の見解との共通点と相違点が見えてきます。相違点については「なぜ違っているのか」と検討すれば、「自分のリーダーシップに関する仮説を修正しよう」や「自社の文脈では自分の考え方のほうが合っていそうだ」などと考えられます。

このように、自分の仮説を見直すツールとして、図鑑を活用していただくのが、二つ目の活用方法です。

安藤:

実務を担当されている皆さんが、例えば机の端っこに置いて、必要に駆られた場面で、その必要な部分を見るという形で使っていただくのも良いですよね。

例えば、人事企画や採用担当の方が、社長や役員の方から「今後、自社でリーダーシップ開発を進める」などのミッションを与えられた際に計画を考えると思います。そのときに、図鑑を見ていただく。

「研究ではこういうことが言われているのか」などと基礎知識を得た上で、「自社ではこうしていこう」と施策を考えていきます。そのような形での活用もあると思います。

学術的な理論と社会的なニーズ

安藤:

伊達さん、全24キーワードのうち、特にお気に入りの部分はありますか。

伊達:

そうですね。考えさせられた項目があります。本書でいうと、キーワード10「モチベーション」です。

この項目では、モチベーションに関わるさまざまな理論をまとめています。例えば、マズローの欲求階層説は色々なところで引用されています。ハーズバークの動機付けと衛生要因の理論も、研修等でよく言及されています。

ところが、これらの理論は、実は研究上はうまく再現できていません。データをとって分析してみると、彼らが提唱している結果が得られていないのです。 

一方で、産業界においては、欲求階層説も二要因理論も今でもさまざまな場面で参照されますし、サービスの中に組み込まれているケースもあります。知識の淘汰や持続に関するメカニズムが、学術界と産業界ではおそらく異なっているのでしょうね。そうしたことを考えながら書いたので、印象に残っています。

安藤:

僕も感じました。マズローやハーズバーグは、色々な人事の方からもお話がありますし、それをベースに施策を考えたりします。しかし、マズロー自身も、欲求段階説がこんなに産業界で広がるとは思ってなかった、といったお話もありましたよね。

伊達:

はい、モチベーションの考え方を分かりやすく説明するための一つのモデルが、真実のように独り歩きしていることを、マズロー自身が危惧していたという記述もあります。 

安藤:

産業界において、モデルの「分かりやすさ」が、より受け入れられる要因になったのでしょうね。

伊達:

もう一つは社会的な要請でしょう。社会が求めているものと適合する研究知見は、広がりやすいと思います。

ただ、研究は公刊されるまでのスパンが長いのですよね。例えば、去年のデータが、今年ようやく論文に少しずつなり始めています。しかも、それは先駆的な研究であり、その研究に基づく次の研究の展開は、さらに数年かかります。

一方で、社会的な要請を気にせず、研究を進めるからこそ、後から新たに出てきた要請に合致して脚光を浴びることもあります。テレワークの研究などは、その典型例です。

本書と現場の接点 

1) リーダーシップとリーダーシップ開発 

安藤:

私がこの図鑑の中で印象深いところも少しお話しします。リーダーシップとリーダーシップ開発の内容です。

当初の研究は、例えば、マキャベリの『君主論』やプラトンの『国家』も参照しながら、人間には生来備わっているリーダーの特性があるのではないか、という仮説を検証するところからスタートしました。ところが、「これさえあればリーダーになれる」いう特性は見つかりませんでした。

その後、どんな行動をとるかが注目され、それすらも状況により異なるというコンティンジェンシー理論が出てきます。さらには、リーダーシップをどのように開発できるかという議論がやってくるわけです。

組織の中には様々なリーダー像があると思います。研究の中ではこういうふうに考えが巡らされ、観点が変わっていったという点は、身近に感じました。

2) マネジメントに求められる「個別対応」と「共通の対応」

伊達:

マネジメントの育成や振る舞いなどに関する問題意識が、セミナー参加者の申込時のアンケートから多く寄せられています。

マネジメントが難しくなっている背景の一つは、部下の多様化です。例えば、働き方や価値観、性別など、さまざまなものが多様化しています。一律的な管理ではマネジメントし切れなくなっています。

それに輪をかけて、プレイングマネージャー化も進んでいます。マネジメントだけに専念できるわけではなく、忙しい中でマネジメントをしていかないといけません。

これらの状況を、少しでも楽にしていくために必要なのは、個別対応と共通の対応の区別でしょう。どのような人にもある程度当てはまるような傾向をもとに、共通の対応をすると良いのですが、共通の対応を考える際に本書が示した研究知見は活用できるはずです。 

例えば、図鑑の中では「自己効力感」という研究知見を挙げています。自己効力感とは、自分がある特定の行動を取れる自信を指します。

何か行動を起こしてもらおうとすると自己効力感が大事になることが、さまざまな領域で明らかになっています。この知識があれば、部下をマネジメントする際も、「共通で自己効力感は高めたほうがいい」と考えることができます。さらに、共通の対応は仕組み化すると良いかもしれません。

3) 人事のコアスキルとしての「見立て力」

安藤:

共通の対応と個別対応という点から思ったことで、私も日々のコンサルティングを通して、人を見て法を説かないといけない状況が起きていると感じます。

そんな中、マネジメント層に求められるコアスキルは「見立て力」だと考えています。自分の部下が「こういう価値観・思考・性格を持っている」「何がどれぐらいできる」という点を正確に把握することが、個別対応のベースになるはずです。

自己効力感を高めるという話もありましたが、その高め方にも、言語的説得や成功体験を積ませることなど、4つほどありいます。その中から、彼・彼女にとって何がベストなのか、あるいは言語的説得でもどのような声掛けが一番良いかを見つけるには、見立てのスキルが必要です。

最近はマネジャーの方々を集めた、「見立て会」というものがトレンドになっています。例えば、営業1課から5課まであるとして、そのマネジャーが集まるわけです。特定の部下を1人選び、その人について、「彼は何がしたいのか」「何ができている・できないのか」「今後どうしていくべきか」を話します。

伊達:

個別対応について検討するための時間を捻出しているのですね。興味深いです。

4) 若手社員の課題

伊達:

ビジネスリサーチラボへの相談として増えているのが、若手社員の定着施策です。特に大手企業からの相談が増えています。

大手企業は採用では良い人材を確保できるのですが、一人前になった時分から離職者が出てきているようです。こうした現象を考える上で、一つの補助線となるのは「組織コミットメント」の研究知見です。

組織コミットメントは組織と個人の関係性を指している概念であり、三つの種類があります。

一つ目が、情緒的コミットメント。個人が会社に愛着を持っている状態です。二つ目が、存続的コミットメント。離職すると損だから残っているという関係性で、打算的ともいえます。三つ目が、規範的コミットメント。「残らなければならない」と考えている状態です。

例えば、これら3つのコミットメントをもとに、若手社員がなぜ離職するかを考えることができます。

入社して最初に下がり始めるのが、情緒的コミットメントです。情緒的コミットメントは入社時が最も高いものです。しかし、入社後に大小のリアリティーショックが起き、情緒的コミットメントは下がっていきます。次上がるのが78年目ですが、そこまでは低空飛行を続けます。 

愛着が低空飛行なのに何故会社を去らないのかが気になるところです。その理由に、存続的コミットメントと規範的コミットメントが関係しています。

会社に長く所属するほど、会社のルールや、その会社の言葉・人脈とかが形成されていきます。そうした学習は、他社に行くと使えなくなるため、他社に行くと損をするようになっていき、存続的コミットメントが高まります。

加えて、かつては「一社に勤め上げるもの」という規範的コミットメントが一部の世界では機能していました。こうした存続的コミットメントや規範的コミットメントが下支えして、情緒的コミットメントが下がっても離職しなかったのかもしれません。

ところが、近年、存続的コミットメントや規範的コミットメントを十分に高められなくなってきています。その結果、情緒的コミットメントが下がった時点で、「辞めよう」と思う。このように解釈できます。

組織コミットメントという概念を例にしましたが、研究知見を使うことで、目の前で起きている現象を考えるヒントが得られます。

安藤:

組織コミットメントに関して、本書において、私からは人事制度・施策を紹介していますが、例えば、退職金制度なども、長くいるほど金額が上がるため、「辞めたら損」という気持ちを喚起させるものだったのでしょう。しかし、最近はそうした制度が機能しにくくなっている可能性があります。

また、伊達さんが例示された、入社のタイミングで情緒的コミットメントが一番高いことを上手く活用しているのがリファラル採用ですね。知人を紹介してくれる良いタイミングの一つは、入社直後や入社直前の内定期間です。

終わりに

伊達:

本日は様々な話題と活用の仕方を紹介しましたが、本書には、ここで触れた内容以外にも、いろんな論点を提供しています。手に取っていただき、ページをめくっていただけるとありがたいです。

安藤;

伊達さんとお話をする中で、本書の使い方として、日常の話題にしていただくのがよいと感じました。例えば、「この本にはこう書いてあるが、実務的にはこうしたほうがいいのではないか」という具合です。

伊達:

「私の推しはこれです」といった「推しの概念」とか出てくると面白いですね。それぞれに琴線に触れる内容が異なるでしょうし、ディスカッションのテーマに使っていただけるといいなと思います。

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