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コラム

テレワーク下で人材育成はできるのか?オンラインマネジメントを科学する(セミナーレポート)

コラムセミナー・研修

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとして、多くの企業でテレワークの導入が進みました。テレワークが普及し、お互いに離れて働くことが一般化するにつれ、「人材育成が難しくなってきた」という声が挙げられるようになりました。テレワークで新入社員のOJTや細かい教育が難しくなったり、学ぶ側としても先輩社員に気軽に声をかけにくいといった悩みが発生しているようです。これまでの人材育成は、オフィスに集まって対面で行うことが前提となっていましたが、テレワークの普及によってこの前提が揺らいでいることが、人材育成に関する悩みが発生する一端となっています。

このような背景をもとに、テレワーク下で人材育成を機能させるために必要なことについて、ビジネスリサーチラボ代表の伊達洋駆とフェローの神谷俊がディスカッションしました。

※本セミナーは2021年7月に開催した「テレワーク下で人材育成はできるのか? オンラインマネジメントを科学する」をもとに編集・再構成しています。

登壇者

伊達洋駆
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(共著:ソシム)など。

 

神谷俊
法政大学大学院経営学研究科 修士課程修了。修士(経営学)。2016年9月に株式会社エスノグラファーを創業し、人事・組織領域やマーケティング領域において、エスノグラフィーを中心に据えた複眼的なリサーチ&コンサルティングサービスを展開している。2020年4月に新たにVirtual Workplace Lab.を発足。リモートワークに従事する従業員のリスク抽出や、バーチャルワークプレイスを展開する企業の組織課題抽出に特化したサービスを展開している。

 

 

 


コミュニケーションの質の劣化が学習の動機付けを阻害する

神谷 

対談の前段として、人材育成の3つの特徴を皆さんと共有しておきたいと思います。一つは「成果につながる」という点です。人材育成は、企業がパフォーマンスを高めるために戦略的に行うということです。その意味で、学校で行われる教育とは異なります。

二つ目は「学習支援の活動」である点です。人は何かを教えられて、それをひたすら飲み込むという存在ではなく、そこに意思があり、自律的に学習していく存在です。それを支援するのが人材育成ですね。

三つ目は、スポット的に教えるのではなく、中長期的な目線で継続的に進めていくものであるということです。

テレワークになったときに厳しくなってくるのが、二つ目の学習支援に関する点です。先ほど「自律」という表現をしましたが、人材育成の過程においては、自分自身で「それ面白そう」「あんな風になりたい」と思って学ぶプロセスが必要になります。しかし、テレワークではそのモチベーションがなかなか湧かない状況が起こりうるでしょう。なぜなら、これまで上司が部下のモチベーションを上げるために行ってきた動機付けや期待、承認などに関するコミュニケーションの質が劣化するからです。テレワークでは、コミュニケーションにおける熱量が伝わりにくいので、部下をやる気にさせたり、モチベーションを高めさせるところが難しくなってきています。

伊達 

特に非言語情報で部下を鼓舞するようなマネジメントスタイルを取っていた上司にとって、あるいはそのような上司についている部下にとっては、テレワークへの移行が大きな変化になるのかもしれないですね。

神谷

そうですね。悩んでいる部下、うまくいかない部下がいたら「飯食いに行くか」って誘い出して、一緒にご飯を食べながら気持ちを通わせて、「おまえならできるよ」と伝えるといった形の支援はもはや難しい。

このようなモチベーションを刺激する関わりの低下は、1対Nの関係でも起こることです。これまでの職場においては、目標を達成した社員が拍手されたり、受注の知らせを電話で受け取ったら、周りの人が「すごいね」って言ってくれたりなど、多方向から熱量あるメッセージをもらえる環境があったと思うんですが、それが今なくなっています。他の人が頑張って達成した姿を見て、動機付けられるという代理経験が起こりにくくなっていますね。

テレワークでは内発的動機付けに基づく自律を高めにくい

伊達 

テレワークに関する研究では、テレワークが導入されると、仕事の自律性や柔軟性が高まるといわれています。仕事を自己裁量で進めることができるようになる、あるいは、そうするしかない状況になる。かつ仕事が中断されることも減り、集中できてストレスが減るという研究もあります。

一見するとすごく良い環境のように思えますが、他方で、テレワークが導入されると、上司や周囲からフィードバックやサポートを得られにくくなってしまいます。1人で何かをやる分にはいい環境ですが、誰かと関わるということになると、やはり難しくなりますね。特に情緒的な面での関わり合いがさらに難しくなってしまう点が課題としてあるんですかね。

神谷 

テレワークでは、言われたことを自分できっちりこなすというような「セルフマネジメント型」の自律を達成しやすい。その一方で、言われていなくても大事なことを自分で発見してドライブをかけていくような、内発的動機付けに起因するような「セルフリーダーシップ型」の自律は醸成しにくくなります。

テレワークのマネジメントのセオリーは、セルフマネジメント型の自律を利かせることだといわれています。つまり、成果目標をきっちり定めて、役割もしっかりと設計して、「あなたはこれをやればいいんですよ」という“1人前の定食”を作ってあげて、それをしっかり食べられるかどうかをコントロールしていくということが、テレワークのパフォーマンスには必要だといわれてきたんです。

しかし、現場を見ていると、それでどんどんやる気を失ってしまっているケースもあります。本当は2人前、3人前の定食を食べたいのに、“1人前を食べればOK”というふうになっているので、取りあえず1人前しか食べませんよ、という状態ですね。自分自身のポテンシャル発揮を抑え込んでしまっているところがあります。

伊達 

セルフマネジメント型の自律を提供してパフォーマンスを高める、要は効率的に働けるようにしていくという方法と、成長・学習をしていくことは、必ずしも同じではありません。良いパフォーマンスを一時的に、効率的に出せる方法ばかりを追求していくと、中長期的に考えたときに、本人の成長や、成長意欲を損ねる可能性があるという、難しいバランスがあるわけですね。

神谷 

パフォーマンスを上げるために良かれと思ってやったことが、逆に組織のパフォーマンスを低下させるという帰結を生んでいます。

パフォーマンスを分解すると、与えられたタスクをきっちりこなすというような目標達成型のタスクパフォーマンスと、役割として与えられていなくても、自分の仕事やチームにおいて必要だからやるというコンテクストパフォーマンス(プロセスパフォーマンス)の両方があるわけですよね。

経営学の分野では、タスクパフォーマンスも大事ですが、コンテクストパフォーマンスのほうが組織パフォーマンスにインパクトを与えるといわれています。しかし、テレワークの環境ではコンテクストパフォーマンスがどんどん抜け落ちていって、タスクパフォーマンスしか発揮しないというスタンスになっていってしまっている。そうすると、組織パフォーマンス全体的に目減りしていきます。それが問題だと思います。

伊達 

例えば、オンラインでミーティングをするときに、よほど意識していない限り、予定より短い時間で終わりませんか。効率的にタスクの話だけをして終わってしまう。

放っておくとオンライン環境って、タスクや役割の話にコミュニケーションが焦点化されやすいんですよね。でも、仕事って、決められた範囲の役割に限りませんよね。困っている人がいたら助けたりとか、そういうことも会社を動かしていく上では大事です。そこがコンテクストパフォーマンスに当たりますね。タスクに焦点化しがちなオンライン環境では、かなり意識していかないと、コンテクストパフォーマンスは発生しにくいということですね。 

この、役割を超えた行動に、ストレッチや学びも含まれてくるんでしょうね。

神谷 

そうですね。「セルフマネジメント型」の自律の負の側面が出てきているんだと思うんですよ。権限を与えて、自分で仕事のスケジューリングや管理をシステムを経由してできるようになった。そうすると従業員は何をするかというと、自分の仕事だけを効率化するように、アジェンダを組んだり、スケジューリングをしたりする。

そこに「刺激」がないわけです。経験の幅が広がらない。偶然、人と出会ったりとか、偶然、他の人が案件を拾ってきたみたいなところがなくなってくるので、どんどんタスクパフォーマンスに最適化されすぎている状況はありますね。

伊達 

経験の幅が広がらないというのは、まさにタスクパフォーマンスに焦点が当たり、自分の考えている範囲しか基本はやらなくなってしまう。偶発的に現れる仕事、押し付けられてしまう仕事(面倒くさいと思いつつも、実は自分の可能性を広げることのある仕事)、あるいは押し付けられなくても、周囲で困っている人を支援すること等、もともと自分が経験する予定ではなかった仕事を経験することで学んでいく。そのような可能性が閉ざされてしまうのが、テレワークで生み出される課題なんですかね。

テレワークにおけるマネジメントのバランスの難しさ

伊達

孤立には大きく二種類があります。一つは、「あの人、何の仕事やってるんだろう」といった、頑張っていてもなかなか目に付かないといった意味での仕事上の孤立。もう一つは、周囲とインフォーマルな交流が減っていってしまうという意味での社会的な孤立です。そうした孤立が、テレワークを巡って発生してきてしまうと、学習の可能性が閉ざされてしまいますね。

神谷 

テレワークに移行して間もないときは、企業も社会的孤立を恐れて、若手社員に毎週面談をしたり、毎日朝礼をしたりしてましたよね。ただそれをやり過ぎたがゆえに、「常時接続の罠」と言われますが、コミュニケーションを取り過ぎて生産性が下がるという状況になってしまって。ちゃんと集中できる空間を作らないといけないという指摘がされました。

ところが、集中できる空間を作ると、今度は職業的孤立が起こってきました。スキル開発がされなかったり、経験の幅が閉じてしまったりしています。まだバランスをどう取るか決めきれてない状況なのかなという感じはします。

伊達 

経験のレベルや慣れ・年齢・勤続年数・スキル等によっても最適なバランスは変わってきます。

神谷 

家庭環境でも結構変わってくるので、かなり難しいです。

伊達 

新人育成の場面で考えると、あまりに自律を求められてしまうと、本当にどうしたらいいのか分からなくなってしまうと思うんです。一方で、ある程度関係も構築できていて、仕事にも慣れている人に対して、「今日は何をやったか報告してください」といったことで毎日ミーティングなどをしてたら、それはちょっと縛り過ぎです。

神谷 

アプローチとしては、二つの方向性で進める必要があります。オーナーシップを発揮できるような社員に関しては、好きにやらせたほうがいいんですよ。彼らが孤立化しないように、定期的に刺激や新しい情報をフィードバックしていくような「セルフリーダーシップ型」の自律支援のアプローチ。まだオーナーシップが発揮しきれない若手社員などに関しては、定期的に対面で会って、これまで行ってきた動機付けを導入していく必要があると思いますね。この二刀流でやっていかないと、テレワークのマネジメントはうまくいかない気がします。

伊達 

テレワークの研究を見ていると、基本的に「テレワークっていいことがありますよ」という結果が多いんですよね。何故かというと、これまではテレワークに適した人たちがテレワークをしていたからなんです。

テレワークに適した仕事に就き、テレワークに適した能力を持っている人がテレワークを行ってきたので、そういう人はもちろんパフォーマンスも高いですし、エンゲージメントも高く働いてきたんです。コロナで起こったことは、そういう社員だけではなくて、さまざまな社員がテレワーカーになったということです。コロナ以前からテレワークでも大丈夫だった人については、孤立しない程度の支援にとどめるやり方がいいでしょうし、そうではない人には、対面を含んだ手厚い支援を行っていく必要があります。

神谷 

海外の研究を真に受けてはいけない部分として、日本には新卒採用という結構大きなハードルがあると思うんです。完全なるアマチュアの人材が入ってきて、オンラインでコミュニケーションを取って…というのはなかなか無理な問題なので。そこはやっぱり、Made in Japanのアプローチを作る必要がありますね。

伊達 

新卒一括採用は日本の雇用システムの強みでもありますからね。

神谷 

だからマネジメントの多様化がやはり重要ですよね。新人・若手向けの対面型のOJTって最も効率がいいと思うんですよ。知識にしろ、態度にしろ、技能にしろ、相手の表情を目の前で確認しながらしっかりと教えることができる。そう考えたときに、対面型OJTはやはり必須になってくる。一方で、そういったスキルを既に身に着けていて普段からテレワークで仕事をしている人にそれをやっても費用対効果は悪い。ある程度、成果目標を握って、あとは任せるようなパターンになってきます。

社員のタイプ別にマネジメントスタイルを使い分けることはできるか

伊達 

今までは、みんなオフィスにいて、対面で育成やコミュニケーションを行ってきたので、部下に応じて接し方を変えるような微調整をやっていたはずです。ところがそういう微調整のレベルではなく、タイプに応じて大きく関わり方を変えていく必要があるというのが、今の話だったと思います。では、どういうタイプの人たちがいるのか、先ほどの話を整理して教えてもらえればと思います。

神谷 

ざっくり3つに分けられます。仮にA・B・Cタイプとすると、Aタイプは、「セルフリーダーシップ型」の自律ができている人。自分自身で仕事をクラフティングして、自分に合った仕事をつくったり、勝手に隣の部署に声を掛けて情報共有の機会をつくったりとか、他の事業部に遊びに行って、そこで勉強会を開いちゃったりとか、そういう自律的な動きができるタイプ。これは結構少数ですね。

このタイプに対するマネジメントは、恐らくやり過ぎないということですね。いくらでもやってしまう人たちなので、テレワークだと非常に仕事がしやすく、働き過ぎが問題になります。ですので健康のマネジメントも必要ですし。あとは、飽きさせないようにすることですね。外部の人と会わせたり、パートナーを紹介したりといった感じで、定期的に刺激を送って、飽きさせないようにしていくことが必要ですね。

Bタイプは、「セルフマネジメント型」の自律タイプ。真面目に仕事をする意思はあるが、言われたこと以上のことはやらないというタイプです。ここに対するマネジメントは、どうやったらAタイプに持っていけるかというところです。仕事の面白さを意識させたり、本人の好きな仕事を提供したりなど、情緒的な側面を意識した関わりが必要になります。面白い人に会いに行くだけで、何だか自分も面白い仕事ができるんじゃないかって思うようになるし、1冊本を読むだけで、自分の仕事の捉え方が変わったり、アプローチの幅が広がったりするわけじゃないですか。そういうインプットや、新たな出会いをつくることによって、仕事の面白さを実感させる支援が必要になると思います。

このタイプが難しいのは、「私、Aタイプになりたくない」というBタイプもいるということなんですよね。ワーク・ライフ・バランスを保って、家庭のことをしっかりとやりながら、仕事のパフォーマンスもきっちり出すというタイプ。このタイプに関しては、やはりそこを尊重したマネジメントになってくるので、働きやすい環境や、働き方の自由度を持たせるような支援になってくるでしょう。

一番難しいのが最後のCタイプですね。そもそも自律できていない人。能力的にも内発的なモチベーション的にも、まだまだ未熟で、若手や新入社員に多いタイプです。ここは、対面型のOJTがポイントになります。仕事をしっかりと教えて、小さな成功でもあげたら「すごいね」と褒めてあげる。こういう古き良き上司部下関係を築き上げていくことが大前提になるかと思います。

伊達

なるほど。Aタイプがオーナーシップ型で、Bタイプが真面目に言われた範囲で仕事をしていくというタイプ。Cタイプはまだ能力的に成熟しているわけではないタイプですね。このBタイプとCタイプ、特にCタイプに当てはまると思うんですが、丁寧に見ていくことももちろんそうですが、仕組みを作ってあげることも1つあるのかもしれないです。仕組みやルーティンを用意することによって、能力が発揮しやすい状況をつくる。例えばですけど、提案書の作成を依頼するときに「取りあえず、なんでもいいので作ってください」だと厳しいでしょう。でも、「フォーマットと過去に作った提案書を見せますね。そちらを参考にして作ってみてください」と言われると、足場ができますよね。

神谷 

そうですね。Cタイプは「セルフマネジメント型」の自律でさえ「まだこれから」という状態なので、一つひとつタスクができたことを褒めていくことが大事になりますよね。だからタスクの範囲を明確に設定したり、評価基準を見える化したりして、きちんと達成できたことを評価する。この基本的なアプローチが大前提になってくるということです。

オンライン下で育成のネットワークを再構築する

伊達

ただ、今マネージャーを務めている方々が、この話を聞いたとして、できそうな感じがするでしょうか。明日からAタイプ、Bタイプ、Cタイプに分けてやっていくということでも、難しそうだなという気もするんですよ。

神谷 

難しいでしょうね。

伊達 

それは、マネージャーの方々の能力がないとか、そういう問題ではなくて。今までのマネジメントって、こういうことではなかったからですよね。今までマネージャーに求められていたスキルと、オンラインでマネジメントしていくスキルって、どこが一番違うところなんでしょうか。

神谷 

これまでは、職場という同じ空間・同じ時間軸に、複数人の登場人物が同時に存在している状況だったので、関わり方のネットワークは無限の網の目のようになるわけです。だから上司が支援しなくても、部下Aが困っていたら先輩社員Bが助けるということができていた。わざわざAタイプ・Bタイプ・Cタイプと分けて、それぞれ関わり方を変えたりしなくても、みんながそれぞれお互いを補うような形で動いていたから、意識しなくてよかったのかもしれないですね。

ところがテレワークになると、コミュニケーションが構造化されるので、誰に働き掛けるか意識しないと働き掛けることができなくなって、そこが浮き彫りになってきたということではないかと感じます。重要なのは、マネージャーが全てを一人でやろうと思わないことです。マネジメントの機能をシェアしたり、分散させて、マネジメントが機能していればいいんじゃないかなっていうのが僕の考えですね。

伊達 

そうですね。例えばCタイプの人たちに対するフォローが得意な人もいるでしょうし、Aタイプ・Bタイプのフォローが得意な人もいるでしょう。物理的に場を共有している職場だと、そういう人たち同士が自然と関わり合いながら育成のネットワークができていました。それが離れたことによって、上司に全部乗り掛かってしまうと大変過ぎます。この議論は働き方改革のときもありましたが、何でもかんでも上司が頑張らないと駄目な状況になってしまって、肩代わり残業の問題が発生して、社会的な問題にもなりました。そういう方向性ではなくて、さっきの3つのタイプっていうのは、あくまでクリアすべき機能なので、それをできるような育成のネットワークを形成していく方向性が大事になっていくんでしょうね。

ところが、ここで疑問が生じます。オンラインにおける育成のネットワークって、どうやってつくるのか。かつて職場にあったような育成のネットワークをテレワーク下で再構築するとなると、現状の環境の中ではどういう対策がありそうでしょうか。

神谷 

まずは、チーム内の人的ネットワークの質を高める必要があります。信頼関係の構築ですね。自分がコストを割いて相手に時間をかけても、誰かがそれを見ていて、何らかの形で自分は報われるだろうという確信が持てている状態。リスクを取っても大丈夫だという感覚を、メンバーが持てるようにする必要があります。そのときに重要なのは、このチームの「法律」は何なのか、「物差し」は何なのかという点です。チーム内で何を大事にするのか、どういうところを高めていくチームなのか、ある程度チームに落とし込んで、チーム内の価値判断軸をまず作り上げることが大事です。

ここを作り上げていないと、関わり方に統一性がなくなり、方向性がバラバラになっていく。まずはチームとしてどういうふうなところを目指していくのか、共通認識を持つことが大前提ですね。

伊達 

チームの価値観を設定し、そして信頼関係を構築していくのが、育成のネットワークを質の高いものにしていく一歩になるということですね。

神谷

そうですね。チームの方向性をある程度定めた上で、その方向性に向かってちゃんとチームが進んでいるということを、上司は意味付けていかなければいけません。「うちのチームはこういうビジョンに向かっているんだけど、ここまでの状況を振り返ってみると、こんなところまでいけている」といったことを、定期的に称賛(アワーディング)していく。称賛があることによって、自分たちは強いチームであるという感覚、チームエフィカシーといったりしますけれども、そういう感覚が共通認識として生まれてきて、チームに対する貢献やコンテクストパフォーマンスが生まれてくると考えてますね。

伊達 

例えば、8人からなる職場のチームがあるとして、8人が集うZoomのミーティングを定期的に行い、それぞれの人が1週間に1回報告するといったことをやっている企業ってよく聞くんですよ。そういう方法は、チームの価値観や信頼関係、ネットワークの質を高めることに寄与するものでしょうか。

神谷 

今みたいなルーティンのコミュニケーションは、信頼関係には大きな寄与はないといわれたりします。定期的に報告・共有の場があるので、安心感を高めるけれども、信頼はつくりにくいのかなと思っていますね。ある程度、熱みたいなものをどうやって出していくのかが1つ論点な気はしますね。

伊達

やはり部分的にでも、対面の機会をつくり出して補完していく必要があるんでしょうね。また先ほどの信頼と安心の議論でいうと、必要なことは、失敗しても大丈夫とか、チームの考え方に挑戦していっても大丈夫ということだと思うので、進捗報告よりむしろ失敗報告のほうが大事で、こういうことうまくいかなかったんですよね、といったことを言えるような関係性をつくっていくことが重要です。

Q&A:参加者からの質問とその回答

Q.人材育成において偶発性は、どこまで必要かつ有効なのか?

神谷 

僕はマストなのかなと思っています。質の良い継続的な学習を進めていくためには、質の良い情報が定期的に入ってきたり、質のいい経験にアクセスしやすいような状況に自分を置くことが大事です。これは企業内にかかわらず、私が例えば今、経営者としてやっている中でも、外部の人とのつながりは絶対に大事だし、偶発的な出会いも大事。だから、そこは特に重視しなければいけないのかなと思っています。ただ、新入社員がいきなりテレワークに入ると、このあたりのネットワークが全然つくられなくなってしまうので、そこをどうやって担保していくかが課題ですね。

伊達 

偶発性の発生の度合いを、さっきのタイプによって変えていく必要があると思います。例えば、仕事に慣れていない人が偶発性だらけの環境に置かれると、もう何が正しいのか、何をやればいいのか分からなくなって、育成の効果も低いですし、本人も困ってしまいます。ただ先ほどのAタイプ、オーナーシップを持っているような人にとっては、偶発性があふれた環境のほうが可能性が広がる。そしてその人たちにとってだけでなく、彼らの発見が、会社にとっても有益である場合も多いでしょう。どのくらい偶発性を残すのかというのは、先ほどの3つのタイプと組み合わせて考えると整理できそうです。

Q. 人材タイプをA~Cタイプに分けられていましたが、当事者意識と能力の2軸で分けられると思いました。そうすると、当事者意識が高いが能力が追いついていないタイプがBタイプになると思いますが、こうした熱はあるけど能力が追い付いていない、やきもきしたタイプはどうマネジメントすればいいでしょうか 。

神谷 

スキルを開発していくのであれば、どういうスキルが求められるのか、どういう能力が求められるのかによると思います。でも、手っ取り早いのは「面白さ」を見つけさせること。多様な情報や経験などを提供し、部下の琴線に触れるものがあれば、その興味や関心を大切にさせる。そうすれば、自ずと挑戦したり、学習したりしていくと思います。

伊達

この2軸で整理するというのは、事前に考えていたわけではなかったですし、むしろコメントをいただいて整理できました。当事者意識=オーナーシップと、スキルを含めた広い意味での能力に分けたときに、当事者意識=オーナーシップは高いけど、能力が追い付いてない人に対して、能力を定義した上でアプローチしていく必要があるというお話だったと思います。もう一つは両方、それとなくやるっていうやり方もあるのかなと。つまり、少し偶発性のある仕事、能力的に本人からするとそこまでアウトプットは出ないだろうけど、少しトライしてもらう仕事を片方でアサインする。もう片方で、きちんと助言しながら積み上げていく、OJT的な関わりが前提となっている仕事を行うというふうに。両面を使っていきながら、本人のモチベーションが切れないようにやっていく方法はありそうです。

それですごく能力が伸びるかもしれません。Aタイプになれる可能性もあるわけです。「一皮むける経験」ではありませんが、一つの経験で化ける可能性もあります。

Q.テレワーク継続の中長期的課題として、マネジメントの劣化、その先に組織の崩壊があるかもしれません、このディストピアをユートピアに変えるオンラインでの手法は?

神谷

現在は、マネジメントの機能が厳しいから構造化して管理しようということで、ジョブ型だったり、ある程度テクノロジーを入れてシステムで管理していくといった方向性が強くなっていますよね。おっしゃるように、これが進んでいくとディストピアとはいわないまでも、効率や生産性第一主義で、結果として人がどんどん辞めていくような状況も起きかねません。これを変えていくために、2つの方法があるかなと思っています。

一つは、成果至上主義から脱却することです。絶対に成果を出すんだ、生産性を高めるんだと力み過ぎると、どんどんシステムに人間が取り込まれてディストピアになってしまうので、成果至上主義的なところを抑制していくような機運をつくらなければならないとい。成果以外の価値軸が求められます。もう一つは、結局テレワークで人間味が失われていくというのは、テクノロジーによって熱がそぎ落とされてしまうというところにあるので、熱を高めるようなオンラインコミュニケーションのスキルを身に付けていく。新しい時代のコミュニケーションリテラシーみたいなものを、取得していく必要はあるかなとは思いますね。

伊達 

オンライン上でも感情を伝えるような方法を学ぶと、部下のモチベーションやエンゲージメントが高まるという研究もあります。

神谷

オンライン環境であなたが存在して僕の話を聞いてくれているっていう、その存在感をコミュニケーションに乗っけていく必要があるわけですよね。だからSlackとかコミュニケーションのチャットツールのスタンプみたいなものを、独自のものを作っていくとか、あるいは話し方として、「僕は」「私は」といった主語をきちんと一人称で使っていくとか、名前を呼び掛けるとか、あるいはボディーランゲージを交えたり、カメラを見たり、いろんなスキルがあると思いますが、そういうオンラインコミュニケーションリテラシーみたいなものを開発していく必要があるかなと。

伊達

そうですね。加えて、タスクで管理するのか、関係性で管理するのかということは、1個、軸になるのかなと思います。タスクで管理すると、どんどん生産性を高めていくという話になりやすいんでしょうけど、関係性で仕事を進める方向もあると思うんですね。従来はそういうやり方を取ってきたわけなので、まさに先ほどの「育成のネットワーク化」も関係性で育成を行うという話ですよね。今日はどちらかというと、関係性で人材育成を行う方向性が多かったと思います。これ多分、タスクで人材育成を行う方向性だと、何を教えるの?みたいな話ばっかりになったと思うんですけど、今日は何を教えるのかという話にはならず、教える環境をいかにつくるのかという話ができた1時間だったのかなと思います。

 

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