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コラム

テレワーク下での組織サーベイで調査すべき項目とは(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、2021年3月に「テレワーク下での組織サーベイで調査すべき項目とは:ビジネスリサーチラボ対談(後編)」を開催しました。

組織サーベイの開発・活用支援を多数実施してきた伊達洋駆(ビジネスリサーチラボ代表取締役)・神谷俊(同コンサルティングフェロー)が、昨今急速に普及したテレワーク環境において組織サーベイを実施する際に考慮すべき点について対談しました。

登壇者

伊達 洋駆

神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、ピープルアナリティクスやエンゲージメントサーベイのサービスを提供している。著書に『オンライン採用』(日本能率協会マネジメントセンター)、『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(共著:ソシム)など。

 

神谷 俊

法政大学大学院経営学研究科 修士課程修了。修士(経営学)。2016年9月に株式会社エスノグラファーを創業し、人事・組織領域やマーケティング領域において、エスノグラフィーを中心に据えた複眼的なリサーチ&コンサルティングサービスを展開している。2020年4月に新たにVirtual Workplace Lab.を発足。リモートワークに従事する従業員のリスク抽出や、バーチャルワークプレイスを展開する企業の組織課題抽出に特化したサービスを展開している。

 

 

「問題」「原因」「改善へのヒント」を明らかにするための変数を設定する

神谷:

最初に今回のテーマ「テレワーク下で何を調査すればいいのか」を設定した背景と、サーベイにおける目的や要点を共有します。

前提として、組織サーベイで重要なのは、「問題」「問題の原因」「改善へのヒント」を明らかにすることです。組織がビジョンやミッション、あるいは業績目標などを達成するために、何が問題なのかを明らかにする。その問題に影響している原因を明らかにする。さらに、何を変えていけばいいのかという示唆を得る。この3点を把握するために組織サーベイを実施していきます。

これを踏まえて、組織サーベイを実施するときに意識すべきポイントは「サーベイによって、どのようなデータを収集するか」という点です。統計学的には、目的変数説明変数と呼ばれるものがあります。離職率やエンゲージメントレベルといった、組織内の問題を解決するうえで重要なカギとなるものが目的変数で、それらの原因となるものが説明変数です。

説明変数の状況を詳細に把握していくことが組織サーベイには求められます。例えば、「エンゲージメントが低いと離職意思が高くなる」というレベルの解像度では、そこから何をしたらいいのかが見えてきません。もっと具体的な要素を収集して、データ分析を進めていく必要があります。

例えば、離職意識に対して、上司との関係性、人事評価のプロセスへの納得度などが影響していることが見えてくれば、上司部下関係を意識したマネジメント研修をやってみる、評価プロセスを調整してみる、といった打ち手が見えてきます。

特にテレワーク環境では、想定される問題の原因がこれまでのオフィス環境と異なるため、一層の配慮が必要でしょう。例えばオフィス環境では、エンゲージメントなどに対して、上司の支援、部下の主体的な行動が大事という結果が出ることがあります。ところがテレワーク環境では、上司の支援よりも自分の役割が明確かどうかのほうが、実は影響が大きいかもしれません。

オフィスとテレワークでは状況が変わり、目的変数に対する説明変数も変わるため、設問を見直す必要があります。

 

テレワーク下で組織サーベイが重視される理由

神谷:

では、対談に入りましょう。初めに、テレワーク下で組織サーベイが重要視される理由について、改めて議論を進めていきましょうか。

伊達:

人が組織全体を俯瞰するのは難しく、特に人の心理を理解するのは対面であっても難しいものです。そこに輪をかけて、テレワークによって物理的な距離が生まれたことにより、一層難しくなりました。こうした状況を背景に、組織サーベイが今まで以上に重要になってきています。

神谷:

企業の経営陣やマネジャーは、意思決定の質を高めていかなければいけません。そのために多くの情報を収集し、優先順位などを判断していく必要があります。しかし、テレワーク環境だと十分に情報を収集しにくい。そこで、サーベイを使って情報を集めることが重要になっているのかもしれません。

伊達:

テレワークにより情報が減少したことで、自分の意思決定に対して不安が生まれています。私は実のところ、この不安は健全なものと考えています。むしろ対面のときにも、健全な不安を持つべきでは、と思うほどです。たとえ対面の状況が戻ったとしても、確かな情報をもとに施策を打つのは重要ですね。

 

仕事環境の重要性が増している

神谷:

続いてのテーマです。テレワークを有益に進めるためには、どのようなデータを分析すると良いでしょうか。

伊達:

テレワークで重要性が増した要素の一例として、通信、椅子、机などの仕事環境が挙げられます。仕事環境は、今までのオフィスではある程度統一されていましたが、テレワークではばらつきが出ます。

仕事環境が良くないと、生産性が落ちたり、満足度が低くなったり、コミュニケーションが取りにくくなったりします。例えば学術研究によれば、人の会話はほんの少し遅延が生まれるだけで衝突してしまいます。通信環境の悪い自宅で仕事をすると、コミュニケーションコストが増すんですね。

神谷:

仕事環境については、昨年サーベイしたときも、パフォーマンスに影響する影響として挙がっていましたね。例えば、自分の仕事を行う書斎を持っているかどうかによって、パフォーマンスのレベルが変化するといった結果です。

伊達:

今までは、ワークとライフが切り離されていました。オフィスに行ったらワークをする、家に帰ってきたらライフが待っているという形です。それが一つの家の中でワークとライフが共存することになった人も多い。そう考えると、書斎を持つ人は、家の中でもワークとライフの場を切り分けられているのかもしれませんね。

 

ワークとライフの関係性に注目する

神谷:

仕事と家庭の境界に関する研究によると、テレワークでパフォーマンスが高い人は境界の「スイッチ」をうまく作っているそうです。この部屋に入ったときは仕事モード、この部屋に入ったときは家庭モードなど。そういうスイッチに意識的かどうかは、今の話と関連すると感じました。

伊達:

更には、ワークとライフをどれほど分離したいと思っているかを意味する「セグメンテーション・プリファレンス」という考え方もあります。分離したいと考える人は、テレワークによって、仕事と家庭の葛藤が生じやすいことが分かっています。逆に、ワークとライフを区別しない志向性の人は、テレワーク下でも問題なく働いています。

神谷:

「スイッチ」を自分なりに作っているものの、それを自分でうまく切り替えることができない層が一定数いることも、企業は意識しなければいけません。具体的には、小学生未満のお子さんがいる家庭では、自分が仕事の時間だと割り切っていても、「おなかすいた」「遊んで」といった具合に介入があります。

特に緊急事態宣言下は、保育園・幼稚園・小学校が休校になっていたので、このような事態も起こりやすかったと言えます。お子さんが何人いるかといった家族構成など、仕事と家庭の「スイッチ」に影響を与えるような要因も、データとして取っておいていいかもしれません。

 

孤立感や信頼をめぐる状況も取り上げる

神谷:

労務管理の観点から言うと、労働時間、心身の健康レベルといったメンタルヘルス系の尺度。それから、孤独感などにも注目する必要があります。テレワーク下では他者との交流機会が少なくなりがちです。結果、周りと関われていないという不安を感じ、孤立感や孤独感が高まり、心身の健康リスクを抱えるケースが多く見られました。そういったところも取っておくべきと思います。

伊達:

孤独感をデータとして取るべき背景として、物理的孤立と社会的孤立は同じではない、という研究知見があります。物理的に孤立した環境でも社会的には交流している人がいる一方で、社会的孤立を感じている人もいます。

神谷:

主観的な要素で言うと、バーチャルチームの研究では、信頼が重視されていますね。

伊達:

はい、対面と比較すると、テレワーク環境においては信頼の重要度が増します。そのため、信頼の状況を組織サーベイで測定するのは有効です。一緒に働くメンバーが、テレワーク以前から同じなのか、テレワーク以降に入れ替わったのかといった、チーム構成も取り上げると良いでしょう。テレワークでは信頼構築が難しいことが指摘されているため、チーム構成によって信頼の状況は変わり得るからです。

神谷:

信頼とは何かについて補足しておきます。自分の能力や知識が不足しているという脆弱な状態を相手に積極的に見せても、相手も自分にとって良い対応をしてくれるだろうと期待を持てる状態を指します。チーム内の信頼レベルについて注目していくことが有用です。

 

出社状況も組み合わせ次第で有益に

神谷:

今、テレワークを続けるべきか、出社の頻度をどうすべきかを検討している企業もあるはずです。これに関連するサーベイの設問をつくっても良いと思います。例えば、テレワークの希望度、希望する出社の頻度などを取れば、プロファイル情報と関連させて、例えば小さいお子さんを持つ従業員ほどテレワークを望んでいる、1人暮らしほど出社を希望しているといった傾向も見えてきます。

伊達:

大企業を中心に、従業員の何割かはテレワーク、残りは出社しているケースがあります。そのような場合、両者の間でコミュニケーションがとれているかにも気を配るべきです。バーチャルチーム研究において、部下が複数の場所で働いている場合、両者の橋渡しをする行動が有効といわれています。

神谷:

ある企業の組織サーベイでは、上級管理職の出社頻度が多いことが分かり、同時に、その出社頻度に対して、テクノロジーの利用度、スキルが影響していることが分かりました。テレワーク環境に必要な機器を使うリテラシーがあるのかどうかも重要です。

 

Q&A:信頼を測定する方法とは?

Q. 職場内の信頼を確認する上で、お薦めの尺度はありますか。LMXなど聞いたことがあります。

神谷:

信頼の測定をおこなうときに、どのような設問構成で確認するべきかという質問ですね。LMXとは、Leader-Member Exchangeの略で、上司と部下の関係性の良さを問う尺度ですね。チームの関係性を確認するのであれば、この尺度を使うのも妥当だと思います。

伊達:

仮にLMXを尋ねるとすれば、TMX(Team-Member Exchange)という同僚との関係についても併せて尋ねると良いと思います。もう1つは心理的安全性も良いかもしれません。

神谷:

これは補足になりますが、信頼を尋ねたいときに「あなたは信頼していますか」など、単一の質問で、ダイレクトに聞くだけでは精度の高い測定は難しくなります。関連文献を参考に、複数の質問で尋ねるようにしましょう。

 

Q&A:生産性を測定するには?

Q. 個人の生産性はどのように測定すればよいでしょうか。

伊達:

まず大事なのが、生産性の定義です。これは会社によって違うはずです。例えば、組織に対して愛着を持って働くこと、仕事に打ち込んでいること、売上をあげること、効率的に仕事を行うこと、役割以上の成果を残すことなど、様々な観点があり得ます。社内で話し合って定義しましょう。

神谷:

最近だと業務管理システムなどでデータはダウンロードできます。それぞれの仕事のタスクを登録し、日々の進捗状況を毎日入力する。そうすると、労働時間とタスクの進捗レベルから、その人の生産性が逆算して排出される、といった方法もあります。

ただし、それだけを重視すると、大きなリスクを抱えます。今挙げたような生産性は、その個人がタスクをクリアするためにかかった時間という定義になります。では、タスク以外のことを何もやらなくていいのかというと、そうではありません。

パフォーマンスには、タスクができたかどうかというタスク・パフォーマンスに加えて、チームに対しての貢献、仕事のプロセスへの貢献といったコンテキスト・パフォーマンスもあります。タスク・パフォーマンスだけを見ていると、チームが機能しなくなったり、コミットメントが低下したりするなどの「副作用」が出てくる可能性があります。

 

Q&A:コミュニケーションの測定方法は?

Q. テレワークで組織間のコミュニケーションが取りにくいようです。コミュニケーションがうまくいっているかどうかについて測定できる、質問項目の例など教えてください。

伊達:

コミュニケーションは意味の広い概念です。分解して考えてみることが大事です。例えば、フィードバックや支援というようなコミュニケーションの種類があります。上司から部下、同僚から同僚、先輩から後輩といった、誰から誰へという観点もあります。どのぐらいの頻度で行われているのかという量的な側面もあります。

神谷:

コミュニケーション・リテラシーについて聞くのもありだと思います。コミュニケーションの目的が関係構築なのか情報共有なのか、目的によって使うメディアを変える、プレゼンテーション形式、対話、ダイアログなどを使い分ける。そうしたリテラシーが従業員に備わっているのかどうかを尋ねるということです。

 

状況に応じて組織サーベイの項目を選択しよう

神谷:

質問への回答は以上となります。最後、伊達さんからコメントがあればお願いします。

 

伊達:

対面の状況とテレワークの状況は異なります。そのため、組織サーベイもまた同じものを漫然と使っていてはならないということです。一方、組織サーベイをめぐっては「定点観測したい」というニーズもあります。もちろん定点観測を行うことには賛成です。しかし、それは一部の項目にとどめ、テレワークの環境下で重要となるデータを収集しましょう。

 

神谷:

テレワーク環境にフィットしない設問をそのまま利用している組織サーベイも散見されます。私たちも、色々な設問を取り入れながら試行錯誤しているのが現状です。現場を観察したり、現場の方に話を聞いたりしながら、取るべきものを特定していくという進め方も大事ですね。

 

(了)

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