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コラム

内定者・辞退者にインタビューを行う際のポイント:学生の声を自社の採用戦略に活かすために

コラム

株式会社ビジネスリサーチラボは、2021年4月28日にオンラインセミナー「内定者・辞退者にインタビューを行う際のポイント:学生の声を自社の採用戦略に活かすために」を開催しました。本稿ではセミナーの様子をレポート形式でお伝えします。

 

問題の解像度を高めるために調査を行う

神谷:

まずは、インタビューの準備段階でのポイントについてお話をしていきます。

採用活動には多くのフェーズがあります。ただ、企業の資源は限られていますから、採用チームの限られた時間や予算、人員をどこに投資するのかを考えなければいけません。その判断をするために、調査でデータをとることが必要になります。

何も行動データをとらず、毎年の採用結果だけを見て判断すると、候補者群を形成することや、流行の施策に予算を集めることになりがちです。ですが調査を行うことで、例えば「面接の方法やエントリーシートの設問のほうが重要ではないか」といった論点が見えます。このように問題の解像度を高めることが調査の役割です。

 

インタビュー調査の所要時間、実施時期、対象人数

所要時間については、1人の学生に対して1時間程度で実施をすることが多く、最初の5分でアイスブレイク、残りの55分で深掘りして、1時間以内に終えるという時間配分です。

実施時期に関しては、現在は多くの就職活動生が6月の上旬から中旬に内定をもらって意思決定するため、6月中旬から7月が多くなります。自社を受験した学生が、就職活動にピリオドを打ってから調査に入ります。活動途中で実施すると、「まだ決まってないので、分かりません」という回答が返ってくることがあります。

対象人数は、1つのセグメントに対して4~5名のサンプルがあると良いでしょう。セグメントとは、競合他社の内定を承諾した学生、早期に内定を出して承諾した学生などのグループを指します。何を聞きたいのかを踏まえてセグメントを設定し、対象者を募集していきます。インタビューを実施する際は、誰に何を聞きたいのかを、自社なりに決めておくことが重要です。

 

調査協力を依頼する際に学生に伝えること

どういう形でインタビュー調査の協力依頼をすれば良いのでしょうか。重要なのは、インタビューへの協力について許諾を得ること、いつ実施するかを決めることです。

そのために、調査対象者となる学生には、調査目的を説明しましょう。特に内定承諾者においては、インタビュー結果が配属や人事評価に使われるのではないかと不安になる場合もあります。調査結果を誰が見て、何に活用するのかを事前に説明する必要があります。

また謝礼について、Amazonギフトコードや楽天ポイントを用意するケースがあります。所要時間と実施場所なども明確にする必要があります。

それから安全性の担保について。インタビューはあくまで調査目的のもとで実施し、調査対象者を匿名にするなど、本人に一切の不利益が発生しないことを約束しましょう。

最後に調査対象者への事前準備の依頼です。準備せずにインタビューを受けた結果、「就職活動中のことは忘れてしまいました」となるかもしれません。就職活動中に使っていたスケジュール帳やメモ帳などを持参するようにアナウンスしておきましょう。

 

アイスブレイク~就職活動の全体像の把握

インタビューを始めるにあたって重要なのが、ラポール(信頼関係)構築です。あいさつや調査協力へのお礼、近況共有といったアイスブレイクから入ります。そして、調査の具体的な目的と内容、インタビュアーの自己紹介、安全性の担保について伝えます。「何か不安なことがあれば今のうちに教えてください」と尋ねて確認します。

学生へのインタビュー調査でのラポール構築のポイントですが、あまり和気あいあいとしてしまうと、その後のインタビューが掘り下げにくくなるケースもあります。ある程度、安心感を提供しつつも「今回は、このポイントについては深く伺いたいです」と、一定の緊張感のある場を作ると良いでしょう。

 

その後、実際のインタビューに入ってまず行うと良いのは、就職活動の全体像の把握です。インターンシップも含めて就職活動を開始した時期はいつですか、最終的に意思決定をしたのはいつですかと尋ねて、スタートとゴールの時期を確認します。

それから、どこの企業に決めたか、最後まで検討に残った企業はどこだったか、なぜそこに決めたのかなどを聞きます。このようにインタビューの序盤にゴールについて聞く理由は、エンディングが見えないまま、就職活動中のストーリー展開をインタビューで追っていくと、有効なお話が時間内に聞けなくなるからです。

例えば、「最終的に検討したのは内定をもらえた4社でした」と明確になっていれば、就職活動の初期、中期、後期で各社の話が登場するたびに注目して、お話を深掘りしていくことができます。

就職活動の全体像を把握できたら、就職活動のスタートを切る前段階において、どのようなキャリア志向を持っていたか、すなわち、レディネス(準備性)を確認します。レディネスは就職活動の方向性や意思決定に影響を与えます。念入りに確認しましょう。

 

志望度の変化に注目した掘り下げ

先ほど就職活動の全体像をヒアリングしたので、それに基づいて、月ごとの活動を聞いていきます。その際、毎月の活動を全部聞いてしまうと時間が足りなくなります。ある程度、意欲レベルの高かった企業に注目して聞いていきましょう。

意欲レベルの判断は、図右下にあるような点数を使って表現すると良いかもしれません。例えば、「9月にA社のインターンシップに参加して、A社に関心を持った」という話があったとき、「志望度は何点ぐらいでしたか」と聞きます。

 

点数を聞いたら、その理由や、企業側のどのようなアクションが点数を高めたのかに注目して尋ねます。また、毎月点数を聞いていくと点数の上下があります。何が要因で点数が変化したのかを質問します。

特に深掘りするポイントは、就職活動のエンディングで挙がっていた企業です。最終的な検討段階に残っている企業が、就職活動中のそれぞれの月の中で登場したら掘り下げて、その企業に対する月々のイメージを追いかけます。

インタビューをしていると、たまに、学生の言葉に論理の矛盾が見られることがあります。最初は「のんびり働けるのがいい」と言っていたのに、途中から「自分はスキルアップしたいので、印象が上がった」という発言が出るケースなどがあります。その際に、「のんびり働きたいと話していたのに、急に成長意欲が上がったのはなぜですか」と聞いてみます。

「めっちゃ良くて」とか「すごい感動して」など、本人が強調した部分も深堀りするポイントです。なにが良かったのか、具体的にどこに感動したのか、人事担当者のコメントで心に残っているものは何か、といった形で深掘りしていきます。

逆に、ずっと点数が変わらない場合も掘り下げポイントです。ずっと60点のまま、上がりも下がりもしないのはきっと要因があるはずです。こんなに面接を重ねているのに、リクルーターと接触しているのに、なぜ点数が変わらないのかを聞きます。

 

オンラインのインタビューでは言語化が重要

神谷:

ここからは対談に移ります。伊達さんから、質問や論点提示をお願いします。

伊達:

神谷さんのお話に出てきた、対象者が語る内容に矛盾が生じたところに注目する点は大事ですね。なぜなら、候補者の中で価値観がせめぎ合う場面では、就職活動の進め方や考え方の変化がうかがえるからです。この変化というのがポイントで、候補者は就職活動の中で学習しているわけです。その意味で、内定者調査とは、候補者の学習プロセスを捉えようとするものだと改めて思いました。

さて前置きはこの辺りにして、1つ論点を挙げます。2020年から、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、採用のオンライン化が進んでいます。あわせて、内定者調査もオンライン化が進んでいます。オンライン化には長所もあれば短所もあります。そこで質問ですが、オンラインで内定者調査を実施する際、どのような点に注意するとよいでしょうか。

神谷:

インタビューでの内定者調査を10年ぐらい実施してきているんですが、対面と比べてオンラインの方が、学生インタビューは進めやすいと感じています。対面では、学生が就職活動モードに入りやすく、自分をよく見せようとする可能性が高まります。それがオンラインだと、ほどよく緊張した空気感が生み出せて、粛々と進めていけます。

ただ注意しなければいけないのは、その都度、言語化が重要になる点です。対面だと空気に頼るコミュニケーションが可能ですが、オンラインだと「ここについて教えてください」「もう少し、こういう観点からどうですか」など、こちらが聞きたい内容を言語化することが求められます。

また、インタビュアー側は自分の今の気持ちも効果的に伝えなければなりません。例えば、「今、すごくいいコメントをいただいていると思っていて、もっとその点を聞きたいと考えているんですが」というように言語化することも重要です。

伊達:

学術研究でも、対面よりオンラインのほうが緊張しにくいことを示すものがあります。そのように緊張感は解ける一方で、オンラインでは言葉で表現する能力に依存する部分もある。聞き方や掘り下げ方が一層、大事になってきそうです。

神谷:

オンラインでは、インタビューを受けてもらう環境を、こちらから事前にアナウンスすることも大事ですね。例えば、「周りの音が入り込まないような場所などを用意してください」と伝えることがあります。

伊達:

更に言えば、オンラインでのインタビューでは、「沈黙」を恐れないことも重要ではないでしょうか。オンラインになると特に、沈黙がインタビュアーにとってのプレッシャーになります。沈黙が生まれると、焦って言葉を紡いでしまいがちです。沈黙の間、候補者が思考を巡らせている可能性があります。候補者の話を待てると良いですね。

 

インタビューデータの活用の仕方

伊達:

次の質問ですが、インタビューが終わった後、回答データをどのように分析し、採用の改善に役立てていきますか。

神谷:

まず、回答データをざっと見て、要点にマーカーを引きながら、共通点を見いだします。次に、何の施策がキーになっているか、どのような振る舞いが重視されているかを焦点化します。その焦点化されたものが例えばインターンシップであれば、自社のインターンシップの何が不足しているか、何を加えれば良いか、実践的な示唆を検討します。

伊達:

なるほど。具体的な語りには真に迫るものがあります。インタビューに基づいて改善を提案する際には、インタビューから回答データを引用すると有効ですね。

神谷:

候補者の声に耳を傾けると、採用に向き合う感度を研ぎ澄ませられます。例えば、「面接が終わってドアを閉めたあとに、面接官の笑い声が聞こえてきて嫌な気持ちになりました」という話があったとします。耳の痛いエピソードですが、改善しようという気持ちになれますよね。

 

インタビュアーのスキルを向上させる4つの方法

神谷:

では、参加者からいただいた質問に回答します。「インタビュー担当者のスキルを担保するために、どのようなトレーニングが有効ですか」というものです。私からは3つの観点を紹介します。

第1に、とにかく経験を重ねて、量をこなす方法です。そうすれば、例えば、「たくさん受験する候補者は、中盤で取捨選択を行う機会があり、取捨選択の軸としては大まかに3つある」といった具合に、候補者の活動パターンが見えてきます。

第2に、キャリア形成などの理論をインプットします。例えば、面接官ではない従業員とのやりとりが重要であるという理論を知っていれば、リクルーターとのコミュニケーションを掘り下げて聞くことができます。

第3に、インタビューでどこまで情報を引き出せるのか、事例を見せることです。非常に深掘りできたインタビュー内容を共有すると、「ここまで引き出せるのか」とイメージができますね。

伊達:

1つ追加しましょう。インタビューのテープ起こしを読むという方法です。「なぜ、自分はこういう質問をしなかったのか」「ここは掘り下げるべきだった」など、反省がわいてくるはずです。テープ起こしには自分の言葉の癖も反映されています。まさに学びの宝庫です。

おわりに

神谷:

時間となりました。締めのコメントを伊達さんからいただけますか。

伊達:

インタビュー調査の長所は、途中で変更できる点です。質問項目を取りやめる、変える、加えるなど逐次修正ができます。試行錯誤しながら実施してみてください。

また、インタビュー調査を外部の企業に依頼する企業もありますが、完全に丸投げし、候補者とのコミュニケーションを取らないのはもったいないことです。外部に依頼をした場合も、非公式な機会でも構わないので、学生に話を聞くようにしていただければと思います。その際には、今回お伝えした知識が使えるはずです。ぜひご活用ください。

神谷:

採用はこれからますます戦略的に進める必要が出てきます。データ収集の機能を人事チームが持っていれば、環境にフィットした戦略を立てられる可能性が高まります。それでは、本日はこれにて終了とさせていただきます。ありがとうございました。

(了)

登壇者

伊達 洋駆
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、ピープルアナリティクスやエンゲージメントサーベイのサービスを提供している。著書に『オンライン採用』(日本能率協会マネジメントセンター)、『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(共著:ソシム)など。

 

神谷 俊
法政大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、経営学修士。株式会社ビジネスリサーチラボにて調査・研究「アカデミックリサーチ」を推進する一方、多様な組織に在籍し、独自のキャリアを展開。自身では株式会社エスノグラファーを経営するほか、2020年4月からは、リモート環境における「職場」の在り方を研究する“Virtual Workplace Lab.(バーチャルワークプレイスラボ)”を設立。学術的な知見を基盤に「分断・分散」を前提に機能する組織社会の在り方を構想する。

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