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コラム

期待されている役割が分からない部下への接し方: 役割曖昧性の研究知見をもとに

コラム

仕事の役割が分からない部下に悩む上司

部下を持つ管理職の方から、「部下とどのようにコミュニケーションをとれば、部下は自分の『役割』をきちんと認識してくれるだろうか」という相談を受けることがあります。

仕事を細かく伝えすぎると、指示通りに実行するだけの人材になりかねません。しかし、伝え方が大雑把すぎると、今度は何を期待されているのか分からなくなってしまいます。

このような悩みを持つマネージャー層に向け、研究知見をもとに組織サーベイや人事データ分析を実施している筆者から、ヒントを提供しようとするのが本コラムの目的です。

 

 

役割が分からないと様々な悪影響が出る

自分の与えられた仕事の内容や責任について、必要な情報が不足していること。これを学術的には「役割曖昧性」と呼びます(※1)。

仕事の目的・目標は明確になっているか。仕事上の自分の責任が何かを知っているか。あなたの部下が、これらの問い(※2)に「YES」と答えられないのなら、部下は役割曖昧性が高い状態にある可能性があります。

役割曖昧性の高さは、様々な悪影響を及ぼします。先行研究を総合的に分析した論文(※3)によれば、役割曖昧性が高いほど、

  • 仕事の満足度が低い
  • 組織への愛着が低い
  • パフォーマンスが低い
  • 不安感が高い
  • 離職したいという気持ちが高い
  • 欠勤しようという態度が増す

という結果が得られています。

あなたに、仕事上の役割が分からない部下がいるとすれば、部下はモチベーションやパフォーマンスが低下し、退職/転職するリスクを抱えているかもしれません。

 

仕事を任せてコミュニケーションをとろう

良からぬ影響を与える役割曖昧性。どのように防げば良いのでしょうか。先ほどの論文(※3)を再び参照しましょう。

役割曖昧性を下げるには、

  • 仕事の自律性
  • 仕事の完結性
  • 周囲からのフィードバック
  • 上司からの支援
  • 部下の参加を促す行動

などが有効です。

上司の立場としては、部下に仕事を思い切って最初から最後まで任せる。しっかりフィードバックすると同時に、部下から意見を求めることも忘れない。こうしたことが重要になりそうです。

弊社がある企業をクライアントに実施した組織サーベイの結果によれば、良質な上司部下関係があると、部下の役割曖昧性は低い傾向にありました。部下と密に連携することで、部下も自分の役割が認識しやすくなっていたのです。

要するに、部下に自分の役割を認識してもらうには、権限を移譲しながらも、コミュニケーションを交わしていく必要があります。ところが、後者のコミュニケーションについては昨今、とりわけ意識が必要です。

リモートワークが多いほど、周囲からのフィードバックやサポートが得られにくく、役割曖昧性が高まるからです(※4)。COVID-19の影響でリモートワークを導入している企業の上司は、これまで以上にコミュニケーションをしっかりとった方が良いでしょう。

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 本コラムで取り上げた「役割曖昧性」については、こちらのセミナーでも解説します。
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定員:150名(先着順)
参加費:無料
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※1:Kahn, R. L., Wolfe, D. M., Quinn, R. P., Snoek, J. D. and Rosenthal, R. A. (1964). Organizational Stress Studies in Role Conflict and Ambiguity. Wiley, New York.
※2:Rizzo, J. R. , House, R. , and Lirtzman, S. (1970). Role conflict and ambiguity in complex organizations. Administrative Science Quarterly, 15, 150-163.
※3:Jackson S. and Schuler R. (1985). A meta-analysis and conceptual critique of research on role ambiguity and role conflict in work settings. Organizational Behavior & Human Decision Processes, 36, 16-78.
※4:Sardeshmukh, S. R., Sharma, D., and Golden, T. D. (2012). Impact of telework on exhaustion and job engagement: A job demands and job resources model. New Technology, Work and Employment, 27(3), 193-207.

#伊達洋駆

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